面談
「まあとにかくそこに座って。話は聞いてあげるから」
と言いながら、宿角蓮華は事務所の応対用のソファに腰かけた。すると守縫恵人も横柄な態度ではあったが、向かいのソファにドカッと腰を下ろした。
腕を組み足を組み、ふんぞり返るその姿に、蓮華はただ苦笑いを浮かべる。
『子供ね……』
と、そう思っただけだった。大した後ろ盾もなく人間としての厚みもなく矮小な己を少しでも大きく見せようとする、どうしようもない人間の幼稚な振る舞いだったからだ。
事務所の中でそんな騒ぎになっているにも拘らず、恵人が大きな声を上げて恫喝しようとした時にビクッとした様子を見せただけで、園児達はすぐに何事もなかったかのように遊び始めた。こういうのは割とあることだったからだ。保護された子供を取り返そうとして親などが怒鳴り込んでくることは。その所為で慣れてしまっているというのもある。
そしてそれは、取りも直さず大人達に任せておけば大丈夫だという安心感でもあっただろう。
ただその中で、一人、青い顔をして事務所の方を見ていた者がいた。守縫久人である。
無理もない。彼が最も恐れている人間の一人が現れたのだから。
そんな彼に、そっと近付いて、職員の女性が囁くように言った。
「大丈夫よ。園長と私達に任せておいて。あなたは何も心配しなくていい。私達はあなたを保護したの。私達にはそれができるからあなたを受け入れた。
急迫不正の侵害に対処するのは大人の役目。いずれあなたが大人になった時にはその役目が回ってくることもあるでしょうから、見ておくといいわ。<大人>のやり方を」
そこまで言ってその女性職員は彼に向かってウインクして、
「大人ってズルいんだから」
と微笑んで見せた。
その久人が不安そうに見詰める先で、蓮華は恵人を相手にただ悠然と構えていた。体は小さいのに、不思議な圧を感じる姿だった。
だが恵人はそれに咬み付かんばかりに吼える。
「とにかく、弟を返せ! 他人様の家庭の問題に首を突っ込んでんじゃねーよ!」
それでも蓮華は彼の言葉をまるでそよ風のように受け流していた。
「これは、あなたの弟さんご本人からの正式な保護要請を受けて、行政の許可も取っての対処なの。本人からの要請である以上、既に<家庭の問題>じゃないのよ」
などと、淡々と応える。それでも恵人も引き下がらない。
「はあ!? あいつはバカで頭おかしいんだよ。そんな奴の言うこと真に受けるとか、お前らも相当バカだな!」
「バカで頭おかしいかどうかはこちらで判断します。少なくともあなたの言うような問題はないわね」
「だからそれがバカだってんだよ!!」




