思案の黒星
金が無い
金が無くては帰れない、謝れない
そんな世知辛い現状
結局、怒鳴りあいの末、お互い資金集めに努めることとなった
ジルベール君は家計のために、オレは帰るために。
この決定事項にオレは頭を抱えることになる
ジルベール君は良いのだ
元から資金集めの手段がある
小遣い稼ぎに論文を研究者に売り払っていたところをスカウトされて学園に入学したとのこと
所謂ゴーストライターという奴だ
これは今でも行われていて、多額の報酬がある
少なくとも、没落への道をマッハで突き進んでいた家計を、現状維持に持ち込めるほどの報酬がある
今は奨学生だが2,3年経てば卒業してもっと安定した給料を得ることが出来る
そう副学長から断言されるほどの能力を持った人間だ
しかしオレはどうだ
召喚されたオレに身元を保証するものはない
職に就くことも出来ない
そもそもこの風貌だ
怪しすぎて誰も雇わないだろう
雇う奴がいたら尊敬する
痛む頭を抱える
だが、そんなオレに手が差し伸べられた
副学長がオレをスカウトしたのだ
異界学の特別講師兼研究対象として
異界学とは何かとジルベール君に尋ねたところ、突如出現する謎の物体、生命体について研究・解析を主とした学問らしい
副学長自ら教鞭をとっているらしく、開講予定の講座に講師として参加して欲しいらしい
渡されたパンフレットには、「異界学講座 異界生物の一例とその思考」という授業に大きく印がついていた
恐らくこれに参加しろということだろう
何故思考がいるのかと尋ねると、会話が可能か、意思の疎通は可能なのか不安に思う受講生も存在するためだそうだ
それもそうだな
納得してパンフレットを読み直す
「後期・・・開講・・・?」
今も傍らで論文を書き連ねるジルベール君を凝視する
こちらの視線に気付いたのか、顔も上げずぼそりと呟かれた
「今は前期が始まってまだ一週間目だからな」
・・・別に講師は構わない
快く承諾しよう
問題はこの開講時期だ
後期にあるということは、後期に入るまでの約半年間をどうするのか、だ
「とりあえず月一で副学長と会ってもらう
研究だから1日束縛されることになるからな」
ちゃんと金も入る
超スピードで羽ペンが動くさまは見事と言っていいだろう
思わず見惚れてしまう
月一で研究、後期からは週一で講師
時間を確保するためには長期の仕事は向いていないだろう
なるべく日雇い労働のほうが良い
「オレの世界じゃ、物語で冒険者として金稼ぎってのが王道なんだが・・・」
「そんな危険なことして壊れたり殺されたりしたらどうする!?
いや、幽霊だから死なないだろうが、媒体を破壊されたら危ない
研究対象にもならんだろう、却下だ」
「悲しいなぁ」
冒険者ギルドに加入して最強☆チートとか少し憧れてたんだけど
オレにチート能力あるかどうか疑わしいけどな
「冒険者がいるってことは、ギルドとかもあるのかい?」
「あぁあるぞ
学園内だと五つある
まず、魔術及びそれに関連する研究を主とする魔術ギルド
マッドな魔術師や研究者が多いのが特徴だ
2つめに騎士や傭兵などといった戦士が集う戦士ギルド
このギルドの訓練場で鍛錬し、名を上げるのが目的だな
3つめは貴族ギルド
その名の通り、貴族が集まる、言わば社交界だな
貴族とのコネを作るのに加入するものが多い
4つめは学園内の生活必需品及び嗜好品を扱う商人ギルド
より良い学園生活を送るために数多くの生徒が加入している大手だ
そして最後、これら四つのギルドを統括している学園ギルドだ
ギルドに加入及び依頼するためには、まずこの学園ギルドに話をつけなければならない
言わばギルドの総合窓口といえる存在だ」
一番安全に金を稼げそうなのは商人ギルドだろうか
大手ならそれなりに雑用があるだろうし、人でも必要だろう
戦士、貴族ギルドは論外だな
マッドが多くて研究のあげく実験死させられそうな魔術ギルドはご免だ
やはり商人ギルドしかないだろう
ジルベール君が論文を書き上げ大きな封筒に仕舞いこんでいる
「明日の朝、学園へ戻るために出発する
到着は恐らく明日の深夜になるだろう
学園についたらまた呼び出すから、それまで大人しく狭間でいろ」
「あぁ解ったよ
明後日から本格的な学園生活か、青春だね」
「・・・そんな良いものではないがな
あぁ、忘れるところだった
固定化のマジックアイテムの値段を調べておいた
金貨7千枚だ」
「・・・ちなみにこの家の生活費は一年でどれぐらい?」
「抑えに抑えて金貨2枚だな
一般市民だと金貨1枚、中流階級の貴族で10~50枚、大貴族や王族は100枚ほどかな」
「日雇いで稼げますか?」
「無理だな」
本当、世知辛い