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『長野の鷹匠、愛鷹と異世界転移したらグリフォンになっていた ~スキル《猛禽寵愛》でロック鳥もヒポグリフも俺に懐く~』  作者: あちゅ和尚


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第44話 石の地図に浮かぶ、七つの島

 浮く石を見せると、石工はしばらく黙って、その下へ手を差し入れた。


 東の町から持ち帰った手紙と図を、部品を作った職人へ渡した帰りだった。湖の石室へ一緒に入った石工を訪ね、浮き島で拾った欠片を見てもらったのだ。


 作業台の上を漂う青白い石へ、太い指が横から触れる。


 押された欠片は少し動き、台の縁へ寄った。俺が手で受け止めて戻すと、石工はようやく息を吐いた。


「こんなものまで持ち帰ったのか。これが入っているから、島ごと浮いていると思うのかね」


「関係はありそうですけど、確かめたわけじゃありません。島の岩にも、同じ色の筋がありました」


「青白い筋なら、北の湖の石室にもあった」


 俺は欠片を持ったまま顔を上げた。


 石工は机の端から紙を引き寄せ、以前描いた壁の図を広げた。四枚翼のグリフォンを刻んだ石室の、その下の方へ指を置く。


「最初は水に濡れて、光っているのだと思っていた。床に近い石の継ぎ目だ。この色だったかまでは言い切れんが、もう一度見れば分かる」


 俺が見ていたのは、壁の浮き彫りと、白い顔の梟だった。


 足元の岩肌にまで、目を向けていなかった。


「明日は岳を休ませます。明後日の朝からなら、見に行けますよ」


「行こう。似た色というだけで、同じ石だとは決められん。まずは、あの壁を確かめたい」


 石工が図を巻く横で、俺は浮く欠片を布へ包んだ。


 棚へしまう前に、もう一度その重さを手で確かめる。


 あの石室には、空を飛ぶ生き物の姿が刻まれていた。


 浮き島で見つけた石と、本当に同じものが使われているのなら、描かれていた空を、少し違う目で見られるかもしれない。


     ◇


 二日後、俺たちは北の湖へ向かった。


 石工を乗せる補助座席を付け、道具は必要な分だけに絞る。岳に二人分の体重と荷を確かめてもらってから、安全帯を留めた。


 瑠璃が先に森の上へ出る。


 北の崖へは近づかず、西寄りの山腹に沿って飛び、上流の湖へ回り込んだ。


 水の引いた湖底には、以前より草の色が増えていた。泥の中から顔を出した岩や木の根の間を細い流れが走り、その先で、崩れた岸の切れ目へ集まっている。


 岳はいつもの西側の岩場へ降りた。


 俺が荷を下ろしていると、石室の上の穴から、灰褐色の影が滑り出てきた。


 白い顔がこちらを向く。


『隼人。また上へ行くのか』


「今日は下の壁を見に来た。少し道具を使うかもしれないが、巣の近くは触らないよ」


 梟は俺の前へ降り、背負った袋へ顔を寄せた。嘴で袋の端を軽くつついてから、頬をこちらへ向ける。


 指を伸ばすと、ふわりとした羽の下で頭が傾いた。


 横で道具を降ろしていた石工が、目を細める。


「お前さんの顔を覚えていたようだな」


「はい。今日はどこを見るのか聞かれました。下の壁を調べると伝えてあります」


「上の住人に断ってもらえるなら、こちらも仕事がしやすい」


 梟はしばらく撫でられてから、岩壁へ戻った。


 俺たちが石室へ入ると、瑠璃が低い梁へ移る。岳は入口の外へ伏せ、湖の方を見ていた。


 石工が示した筋は、床から膝ほどの高さにあった。


 壁の一部を横切る、指二本分ほどの青白い線だ。周囲の石とは色も質感も違い、布で水気を拭うと、薄く磨いたような面が現れた。


 俺は持ってきた欠片を近づけた。


 よく似ている。


 だが、壁へ埋まったものは動かない。そっと触れても浮き上がらず、冷たい感触が指へ返ってくるだけだった。


「色は近いです。これを含んだ石を、壁に使ったんでしょうか」


「その可能性はある。ただ、この線の上と下で、石の継ぎ方が違う」


 石工はしゃがみ込み、壁の端を指でたどった。


 下側の石には、小さな四角い窪みがある。長年たまった土で浅く見えていたが、木のへらで少し払うと、穴の奥へ続く縁が出てきた。


 その時、外から梟の声が届いた。


『そこから、水が出ていた。湖がなくなったあと、しばらく』


 俺は入口を振り返った。


「この窪みから、水が流れ出ていたそうです。湖の水が引いたあとに」


 伝えると、石工はへらを置き、壁全体を見直した。


「奥に空間があるのかもしれんな。開く部分なら、無理に石を割らずに済む」


 俺も膝をつき、床に落ちている砂を手で払った。


 四角い窪みは、壁の左右に一つずつある。どちらも奥まで指を入れられる深さで、ただの水抜きにしては、手を掛けやすい形だった。


     ◇


 最初に動かしたのは、石工だった。


 窪みへ木の棒を差し、少しだけ上へ力を掛ける。板のように組まれた壁の下端が、床からわずかに離れた。


 重そうな見た目に対して、動きは妙に軽い。


「止めましょう。先に、隙間へ木を入れます」


 俺は道具袋からくさびを取り出し、上がった縁の下へ差し込んだ。


 石工が棒から力を抜くと、壁はくさびへ静かに乗った。落ちてくる衝撃はなく、奥から冷たい空気が流れ出す。


 瑠璃が梁を離れ、俺の肩へ降りた。


『向こうから、風が来る』


「ああ。塞がった部屋じゃなさそうだ」


 俺は壁の縁へ目を寄せた。


 横には、上へ続く細い溝があった。石工に指で示すと、向こうも頷く。


「この板を、溝に沿って持ち上げる作りだろう。横の壁を崩すよりは、ずっと筋が通る」


 二人で窪みへ手を掛けた。


 持ち上げると、壁はゆっくり上がった。人の胸ほどの大きさがある石板なのに、二人掛かりなら動かせる。青白い筋が目の前を通り、上の石組みへ収まっていく。


 それでも、手を離して下へ入る気にはなれなかった。


 俺たちは左右に丈夫な棒を立て、板を支えた。石工が溝と枠に割れがないか確かめてから、俺も身を低くして奥をのぞく。


 幅の狭い通路が続いていた。


 壁と天井は石で組まれ、床には薄い泥が残っている。足跡はなく、奥へ続く水の跡だけが光っていた。


「先に俺が見ます。入口から声が届くところまでにしておきましょう」


 灯りを用意し、長い棒で床の先を確かめながら進んだ。


 数歩で通路は右へ曲がり、その先が明るくなっている。


 天井近くに細長い穴があり、そこから昼の光が差し込んでいた。風もそこを通っているらしい。


 部屋の中へ足を入れたところで、俺は立ち止まった。


 床の中央に、大きな円形の石台があった。


 その上へ、山と川のような線が刻まれている。


 入口へ戻って石工を呼ぶと、彼は支えの棒をもう一度確かめ、それから道具を持って入ってきた。


 瑠璃も通路を抜け、明かりの入る穴の下へ止まる。


 石工が石台の縁を指で撫でた。


「地図だな。少なくとも、この辺りは水の流れと岸の形を刻んでいる」


 彼が指したのは、円の中央から少し下だった。


 広い水面らしい平らな部分があり、その一方から太い川が伸びている。周囲には山を示すらしい盛り上がりが並び、岸には幾つもの入江が刻まれていた。


 俺は背負い袋を下ろし、漁師からもらった地図を出した。


     ◇


 紙を石台の横へ広げ、向きを変えた。


 大きな川が出ていく側を合わせると、三つに分かれた入江と、長く突き出した岬の位置が近づいた。


 紙の方は岸に沿う航行のために描かれ、石の方は山まで含めている。細部は違う。それでも、二つの形が似ていることは、見比べるほどはっきりしてきた。


「南の湖です。舟に乗って、空の島を見つけた場所の地図です」


 石工が紙へ顔を近づけた。


「こちらの岬が、これか。川の曲がりも似ているな」


「空から見た形とも合います。全部が正しいかは、まだ分かりませんけど」


 俺は石の湖を囲む山へ目を移した。


 その一つへ細い線が延び、端に翼の形が彫られている。そこからまた別の線が伸び、湖の上に浮いたような、小さな彫刻へつながっていた。


 根のように尖った下半分と、平らな上半分。


 上には木があり、縁から細い筋が垂れている。


 浮き島の形だった。


 俺は思わず石台へ手をついた。


 それと同じ形が、ほかにもある。


 湖の上に二つ、山の向こうに三つ、円の縁に寄ったところに二つ。大きさは揃っていないが、どれにも、下へ尖る岩と、上に生える木が刻まれていた。


 七つあった。


「この形の島を、俺は一つ見ました。下が尖っていて、上には森がある。縁から水も落ちています」


「なら、これは空にある島を示したものか」


 石工が手元の紙へ目を落とす。


「ただ、七つとも今もあるかは分からんぞ。地図がいつ作られたものかも分からん」


「はい。でも、一つだけじゃなかったかもしれない。それを確かめる場所ができました」


 俺たちの知っている島が、この七つのどれなのかさえ、まだ決められない。


 それでも、知らない空を描いたものが、こうして目の前にあった。


 瑠璃が石台の端へ降りた。


 湖の形をのぞき込んでから、嘴を石の縁へ近づける。


『ここにも、翼がある。上からは、泥で隠れてる』


「縁の下か。ちょっと退いてくれ、拭いてみる」


 瑠璃が横へ移るのを待ち、濡らした布を当てた。


 泥が落ちると、細い溝で彫られた鳥の姿が現れる。翼を広げているが、その下には、横向きの人間らしい形もあった。


 石工が俺の手元を見て、灯りを近づけた。


 鳥ではなかった。


 鷲に似た頭から、獅子のような身体へつながっている。その背に、人が座っていた。


 前へ身体を傾け、鞍らしいものへ脚を添えている。後ろには荷が積まれ、背中を横切る帯まで、小さな溝で刻まれていた。


 俺はしばらく、その線から目を離せなかった。


 岳と同じように、人を背へ乗せて飛んだグリフォンがいたのかもしれない。


 これは人間が眺めた空の地図なのか。


 それとも、実際に飛んだ者が残した道なのか。


 石工は、彫刻へ触れないよう紙を近づけた。


「これは、細かく写した方がいいな。外で待っている岳の鞍とも、見比べられる」


「俺は湖と島の位置を写します。文字のところは、形だけ残しておきたいです」


 石台の縁には、小さな文字らしいものも並んでいた。


 見覚えのある言葉には読めない。意味を当てようとはせず、向きも含めて紙へ移していく。


 瑠璃は光の差す穴へ戻り、俺たちの手元を見下ろしていた。


     ◇


 外へ出ると、岳がすぐに立ち上がった。


 俺はその首へ手を置き、背負い袋を下ろす。


「奥に、地図があった。南の湖によく似た形と、浮き島が七つ。それから、お前みたいに人を乗せたグリフォンも彫ってあった」


 岳の目が、俺の持っている紙へ向いた。


 岩の上へ広げると、鼻先が近づいてくる。


『そいつも、背に人間を乗せていたのか』


「ああ。荷物も積んでた。昔の誰かも、お前たちと山を越えてたのかもしれない」


 岳は写した絵を見つめ、それから石室の方へ顔を向けた。


 奥の部屋へ入るには、通路が狭すぎる。俺がもう少し紙を押さえていると、岳は身体を低くし、鞍の描かれたところへ目を寄せた。


『荷の位置は、俺と似ているな』


「そこは、今度ちゃんと比べよう。描いた人が、どこまで本物を見ていたのかも分かるかもしれない」


 石工は俺たちの横で、写しへ書き込みを加えていた。岳の鞍と見比べ、帯が通る位置を別の紙へ描いている。


 やがて顔を上げ、奥の通路を振り返った。


「石の板は、元の位置へ戻していこう。開けっ放しでは、梟が奥へ入り込むかもしれん」


「そうしましょう。写しは取れましたし、次に調べる時も同じように開けられます」


 二人で支えを外し、石板をゆっくり下ろした。


 青白い筋が元の高さへ戻る。


 俺はその色を、持ってきた欠片と見比べた。似てはいるが、削り取って確かめることはしなかった。板を軽くしている石なのだとしたら、欠けさせることで動きが変わる可能性もある。


 石工もそこは触らず、位置と幅だけを記録した。


 最後に入口の外へ出ると、白い顔の梟が岩の上で待っていた。


「今日はもう帰る。騒がせたな」


『下が開いても、上は私の場所だ』


「ああ。そこは変わらないよ」


 頬を一度掻いてから手を離すと、梟は翼を開いて、自分の穴へ戻っていった。


     ◇


 帰りの空で、俺は岳の背から南を見た。


 ここから湖は見えない。


 幾重にも重なる山の向こうに、あの大きな水面と、森を載せた島がある。俺たちはそこへ行き、ロック鳥に迎えられ、若いグリフォンの初飛行を見た。


 だが、石の地図には、その先まで線が続いていた。


 木の生えた尖った岩が、七つ。


 背に人を乗せたグリフォンの姿まで添えられている。


『次に行く場所を、もう考えているな』


 岳の声で、俺は前へ顔を戻した。


「まずは、あの湖から見える範囲を確かめたい。今まで、知ってる島ばかり見てたからな」


『上へ出れば、山の向こうも見える』


「天気のいい日にやろう。写した地図を持って、同じ形の岬からたどってみたい」


 岳は南へ向きを変えず、リーベルへ飛び続けた。


 今日は石工も乗っているし、紙に残す仕事もある。


 俺は背中の袋へ手を添えた。布に包んだ石の隣に、乾いた紙が重なっている。


 小屋へ戻ったら、南の湖の地図を机いっぱいに広げよう。


 岳の背で飛ぶための荷に、また一枚、新しい地図が加わった。




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YouTubeでショート動画作ってみました


https://youtube.com/shorts/spSkAdkT0sE?si=_5PpM7nCYZM6czxo


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