絵の中の少女は4
「……悪いことを、してしまいました」
その気持ちは素直にアマリアの口から出てきた。
後悔がたっぷり詰まった響きになってしまった声に、フィオナは慌てた様子でフォローしてくれる。
「そんなふうに言わないでちょうだい。アマリアはなにも知らなかったんだから、悪くなんて……」
とても優しい言葉だったけれど、アマリアは小さく首を振る。
「いえ、話題にしてしまったのは事実……ですもの」
そう言ったアマリアに、フィオナはフォローする言葉を止めて、数秒黙った。
そのあとに言った。
「……アマリアは優しいのね」
少しやわらかくなった口調のそれ。
その言葉こそとても優しかったのに、アマリアの心に何故か突き刺さった。
私は優しくなんてない。
フレイディ様のことすら知ろうとしなかったくらいには、自分のことしか考えていなかったのに……。
そう思ってしまい、不意に目の前がぼやけた。
ぽたっとなにかが手の上に落ちて、なんだろう、と思う。
それがなにか知ったのは、自分自身ではなく、フィオナが席を立ったことでだった。
フィオナは椅子を立って、つかつかとこちらへ歩いてきた。
そしてあろうことか、アマリアの椅子のかたわらまできて、そっと腰を落としたのだ。
まるでひざまずくような体勢になられて、アマリアは零れたものすら一瞬、忘れた。
フィオナは手を伸ばしてきて、アマリアの手に触れる。
……涙で濡れてしまった手を。
「アマリア。あまり自分を責めないで。貴女のせいじゃない」
まっすぐに見つめて、静かに言うフィオナ。
その気持ちは包んでくれた手と、真剣な金色の瞳からはっきり伝わってきた。
アマリアの目から零れるものは、まだじわじわと湧いてきていたけれど、アマリアはぼやけた視界でそのフィオナを見つめ返した。
「それに、フレイディは貴女に出会って確かに変わったわ。明るい笑顔を浮かべることが増えた。貴女のことを話すときは楽しそうだった。そりゃあ、肖像画のために契約で結婚することになったなんて聞かされたときは驚いたけど」
ひとつずつ、アマリアに言い聞かせるように言ってくれるフィオナ。
アマリアはただそれを聞いた。
フレイディは変わったのだという。
アマリアの知っているフレイディはいつも明るくて、優しかったり紳士的だったりする笑顔を浮かべていて……。
でもそれは、私と出会って、そばにいるようになったからのもの……?
痛みを覚えていた胸が、じわじわと熱くなる。
喜んでいいのか、そうではないのかよくわからない。
ただ、それ自体はきっと良いこと、なのだろう。
ああ、そういえばだいぶ前にあずまやでジェシカも加えて三人でお茶を飲んだとき、そんな話が出た。
あのときも少し暗い雰囲気になって、なんだろう、と思ったのだった。
アマリアは思い出す。
あのときのことも、この理由からだったのだ。
思ってもう一度胸が痛んだけれど、アマリアはフィオナに握られていないほうの手を持ち上げた。
濡れてしまった目元を拭う。
「……ありがとうございます。お義姉さま」
急にお礼を言ったアマリアに、フィオナはちょっと首をかしげた。
涙をぬぐい、少し晴れた視界で、そのフィオナを見つめた。
「私、フレイディ様に与えてさしあげることができていたんですね」
まだ笑みは浮かべられなかったけれど、言った。




