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今夜はひとつ、床の中4

「いや、わかっているものか」


 その通りのことをフレイディは指摘してくる。


 わかっていると言ったのに。


 アマリアは不思議と少しの不満を覚えて、少し顔を上げた。


 けれど、見えた先のフレイディにどきっとしてしまった。


 フレイディの手はアマリアの肩から頬へ移動してきて、そっと包んできた。


 その手は今、手袋がなくて、直接皮膚と皮膚が触れ合って……。


 あたたかさも馬車の中で手を握ってくれていたときとは比べ物にならないほど、はっきりと感じられた。


 そんなふうに触れられて、おまけに困ったような顔だったが、間近で見つめられて。


 アマリアの心臓はばくばくしてしまう。


 これはやはり大胆すぎたかしら。


 でも私は寄り添うまでは考えていなかったのだけど。


 呑気すぎることが頭によぎったけれど、実際、だいぶ呑気だっただろう。


「きみを想う男がこうして床の中にいるのだ。なにも起こらないと思ったのかい」


 静かに、小さな声で言われて、アマリアは目を丸くしてしまう。


 なにも……起こらないと……?


 言われたことを頭の中で繰り返してしまったくらいだ。


 つまり、フレイディはなにか起こすと考えていたということだろうか。


 アマリアはやっとそのことに気付いたのである。


 それは呑気である以外にも、楽観的すぎたといえるだろう。


 丸くなった目でフレイディを見つめ返すしかなかったアマリア。


 その頬を優しく撫でて、フレイディは吐息すら感じられる距離で続ける。


「本当はこのままきみが欲しいくらいなのだよ。それはわかっていてくれねば困るな」


 奇妙なほどに落ち着いた声と様子で言われて、アマリアの意識は一瞬、無になった。


 頭の中で情報が処理しきれなくなったといっていい。


 言われた言葉は少々婉曲的だったので、アマリアにとってはよくわからなかったというのもある。


 だがやはり子供ではない。


 本などでそういった話は読んだことがある。


 それに大人の、そう、もっと大人の会話を見聞きして知った知識もある。


 つまり、フレイディは自分に『夫婦のすべきこと』をしたいと思……。


 やっとそこまで思考が至った。


 アマリアの頭の中では、先ほどのものとは比にならないほど熱いものが爆発した。


「え、……え!?」


 かぁぁっと顔が熱くなる。


 まさかそこまで望まれているなんて思わなかった。


 顔は真っ赤になっただろう。


 心臓の鼓動もやはり比ではないほどばくばくしてくる。


 まさか、そんな、と頭の中で繰り返してしまう。


 アマリアの慌てようを見て、本当になにも意識されていなかったと知ったのだろう。


 フレイディはもはや苦笑いになった。


 アマリアの頬を、宥めるように撫でながら口を開く。


「俺の奥様は大胆なのに、少々鈍感で困ったものだ」


 少々からかうようなものだったが、アマリアがそれに「失礼です!」なんて怒る余裕はない。


 そもそも怒る資格もない。


 まるでわかっていなかったのが本当なのだから。


 ばくばくする心臓と、燃えるように熱くなった頬でただフレイディを見つめ返すしかできない。


 大胆で奔放と称されることが多いアマリアにとっては、大変珍しいことであった。

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