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転生しても居候  作者: ソワル
第一章
17/17

17話 白黒エンカウント

春、桜もどきが花を咲かせて、白い街並みに彩りを添えている。春一番が、桃色に色づいて見えるのが印象的だ。この暖かさなら、冬眠で眠りこけていた熊もやっとこさ目を覚ますだろう。


 シルファは五歳になった。なので、俺もこちらに来てから五年を過ごしたことになる。


 いやぁ、長かった。時間的にもだが、主観的にもかなり長く感じる。まだシルファに話しかけていないからな。要するに、この五年間誰とも一言も言葉を交わしていないことになる。


 案外なんとかなるもんだ。最初は、どうしようもなく不安になることもあったが、それでも時間が経てば、何故そんな気持ちになってしまったのか理由もわからなくなる。意識しか持たない以上、他人とコミュニケーションをとる必要もない。傍目から見れば、俺は存在してないからな。


 なんだかんだ言ったが、結局の所俺がヘタレなのが原因だ。


 だって考えてみてほしい。


 頭の中から急におっさんが喋りかけてきたら、人は普通どういうリアクションをとるだろうか?


 俺ならパニックになる。


 加えて、異世界から転生してきた、とか意味不明のことを言い出す。


 パニックじゃ済まない。

 そもそも誰か他人が頭の中にいるなんて、恐怖でしかない。


 こういう考えに陥ると、どうにも声がかけづらくなる。拒絶されることが、どうしようもなく怖いのだ。

 はぁ…。



 暗い気持ちだと気が滅入る。切り替えよう。せっかく暖かい春になったんだからな。


 夜の秘密の特訓は順調だ。

 別にいかがわしい意味じゃなく、ただただ何百回も魔法の発動を繰り返すってだけだ。魔力の消費も極端に抑えているから、魔法の効果もかなり小さい。


 月に照らされた部屋で時折、カーテンがそよぐ程度の風が巻き起こる。なんとも地味な絵だ。バレないようにしているから、地味でなんの支障もないけどな。


 そのおかげか、魔法の腕はかなり上達したのではないかと思う。イリスの魔法を例に挙げよう。彼女が詠唱を終えてから魔法の発動まで一、二秒のタイムラグがある。


 それに対し、俺は魔法を使うと考えた瞬間に発動できる。タイムラグなしだ。まぁ、詠唱と魔法陣を直接描くという違いはあるけども、それでも俺の方が圧倒的に早い。


 ここまでの腕になるのに4年かかっている。この世界でこれがどれだけ速い上達なのかは判断材料がないので分からないが、ただライグスに器用だと言わしめたイリスより魔法の発動が早いのは結構良い線行ってるんじゃないかと思う。


 数え切れないほど意識を失いかけたのも伊達じゃない。どれだけ無茶しない、と自分を戒めても、ギリギリまでやってしまうのだ。


 性分だな。


 シルファもすくすくと成長している。身長の伸びこそ緩やかになったものの、内面の成長は著しい。特に読書だな。


 シルファの屋敷には基本的に絵本というものがあまり多くない。まぁ、完全にイリスの好みの問題なんだろうが、挿絵入りの本自体が少ない。こういう環境に囲まれていれば、否が応でも本を読み始める。何が影響したか、基本冒険譚や伝説ばっかりだが、時にはイリスに手伝ってもらい、時には自力で読んだりして充実した読書ライフを送っている。


 俺もそれに便乗して知識を増やしているので、一石二鳥だ。


 さて、そんなシルファだが最近やっと外出許可が出た。こちらの世界は前世よりも治安が悪いのかもしれないと納得している俺と、五歳で外出って流石に遅すぎるだろうと思っている俺がいる。


 一応貴族ってこともあるのかもな。元王国軍団長のライグスは、今や伯爵という高い地位についている。


 友達100人できるかなとまでは行かないが、これまで同年代で遊べる人が居なかった反動か、シルファは友達作りにかなりの意気込みを感じていた。ただここで彼女は大きな壁にぶち当たった。


 そう、彼女が世間では「邪神の申し子」なんて呼ばれているのが問題だった。教会での神官達の反応はこの世界では普通だったようで。近づいても逃げられる、話しかけても無視される、相手の親が聞こえるように悪い噂を流す。


 まるでシルファの存在が間違いであるかのように。


 そんな筈絶対にないのになぁ。


 ただ立場が違えば、もしかしたら自分があちら側にいた可能性があるかもしれないことに嫌悪感を抱く。


 小さな少女相手に石を投げるなんて輩がいなくて本当に良かった。恐らく魔法をぶっ放していただろう。魔力が切れる限界まで。


 いや、俺が手を出さなくてもアリエル辺りがキレたか。


 シルファ自身周りに相談することもないからか、屋敷の人間達もあまり口を挟まない。でも気付いてはいるのかもしれない。イリスだって同じ道を歩んだ筈だからな。


 へこたれるようなことはなかったが、これは小さなシルファにとってかなりのショックだった。何の理由もなしに自分が世界に嫌われていたのだ。寝込むなんてことはなかったが、四日連続で夜の読書タイムを取らずにそのままベッドに入った。


 大したことないように感じるかもしれないが、本が大好きなシルファにしてみればこれは異常だ。屋敷に住む全員が物凄く動揺した。


 そんな挫折を抱えながらも、シルファはめげずに今日も友達を作ろうと外出する。目的地は桜もどきがそびえ立つ小さな公園だ。


 ここは子供達に人気の遊び場らしく、いつ来ても大量の子供達で溢れかえっている。もっと大きな公園を作ればいいのにといつも思う。


 ただ今日はいつもと違う様子だ。一人の少女が公園の真ん中で佇んでいる。年齢はシルファと同じくらいだろう。シルファに比べて、少しだけ身長が高い。シルファと対照的で、白髪金眼のまるで異世界に存在する為に生まれてきたかのような少女だ。


 どこか幻想的な雰囲気を纏った彼女に恐る恐る近づく。声をかけようとした矢先に、相手が口を開いた。


「あ、邪神の申し子」


 ただそれだけの言葉だったが、最近の鬱憤が溜まっているのか珍しくシルファから大きな声が出る。


「そんなんじゃない!」


 その叫び声に碌に声を傾けず、少女はこちらを観察する様に、見ていた。


「でもお父さんはいつも貴方には近づくなって言ってる。他の大人もそう、みんな貴方は邪神に力を授けられて、人を傷つけるために使うって言ってたの!」


 その言葉は大きくシルファの心を揺さぶった。これまで遠回しにや陰口で散々言われてきたが、面と向かって言われるのは今回が初めてだ。しかも年の近い相手からの直接的な攻撃は、大きなダメージを残した。


「でもね…」

「うるさい!うるさい!うるさい!!!」


 もう一度口を開こうとした相手の言葉を遮り、シルファはその場から逃げ出した。遂に耐え切れなくなった涙を流しながら。


 _______________



 その夜、泣きはらした顔を見たイリスはシルファに優しく声をかけた。これまで一度もシルファから相談することがなかったからか、口を挟んでこなかったが、流石に今回は見かねた様子だ。


「何かあったの?」


 今日の、そして今日に繋がるこれまでの日々の全てをシルファはぶちまけた。壊れた蛇口の様に、言葉があふれ出てくる。


 陰口を言われること、みんなに避けられること、そして何よりも今日直接悪口を言われたこと。


「今日会った子とは、ちゃんと話をしたの?」


 シルファの激しい感情の吐露がようやく底をついた時、イリスは一つだけ疑問を投げかけた。


「ううん、何か言おうとしてたけど怒ってたから…」

「なら、きちんと話し合わないと」

「でも…」


 その言葉にバツの悪そうな顔をしながら抗議する。あちら側にも非があるとはいえ、大声で怒鳴った上で逃げてきたからな。相当気まずいだろう。


「でもじゃないわ。喋りかけてくれたんでしょう?それは対話する気があったからじゃない?」


 そう諭されて、シルファは渋々頷いた。


「…分かった。明日ちょっと喋ってみる」



 ――――――――――――――――



 翌日。シルファは同じ公園に一人で立っていた。珍しいことにいつも遊んでいる子供達の姿が、また見えない。


 シルファの表情は硬く、どうやって喋ればいいか悩んでいることが分かる。俺ならどういう言葉をかけるだろうか。正直分からないな。とりあえず、昨日はごめんと、言うくらいまでなら思いつくけど…。


 当事者でもない俺が悩み続けていると、白髪の少女が近づいてきた。昨日とは、真逆の構図だ。桜もどきの木の下で待つシルファと段々と迫ってくる少女。


 二人の距離が、腕一本分まで接近した時、少女は睨む様にこちらを見てきた。謝罪の言葉を考えていた筈のシルファも、何故か対抗する様に見つめ返した。


 素直に負けを認める様な性格をしてないのは知っていたが、こんな所でまだ意地を張るとは…。一度泣かされた相手だから仕方ないのか?


 睨み合って約1分。なにやら思案顔になっていた相手側が遂に口を開いた。


「ごめんなさい!本当は昨日みたいな酷いことを言う気は無かったの」


 唐突の謝罪に困惑した表情になるシルファ。そもそも自分から謝ろうと考えていたので、完全に出鼻をくじかれた形だ。


 動揺で反応できないシルファに、相手は畳み掛けるが如く、多量の情報を投げかけてきた。


 曰く、彼女の名前はルミカである。曰く、十二神教の大神官の娘である。曰く、それが故に邪神が悪であると教え込まれてきた、且つ「邪神の申し子」と呼ばれるシルファのことが気になってしまったこと。

 曰く…


「ま、待って、私にも謝らせて!!」


 なんとか相手の口を止める為に、シルファの叫び声が公園内に響いた。


 ¬¬¬¬¬¬¬―――――――――――――――――



 話し合うと、シルファの心配に反して二人は簡単に打ち解けた。二人共友達がいなくて、寂しかっただけだったからだ。


 さっき言っていた通り、少女は大神官の娘だった。以前、神殿に行った時に「女神の加護」を二つ受けた例として、話に出てきた子だ。光の精霊に好かれているという噂の。


 そんな彼女は、当然邪神は悪だと小さい頃から教え込まれてきた。当然それに連なる邪神の申し子も。


 問題はその教育の効果が、些か強すぎたことだ。言われ続けた影響で、いつの間にかシルファに対して興味を持ってしまっていた。

 …ダメって言われるとやりたくなるよな。それと似たようなものだろう。


「それで、私の中にいる光の精霊さんに聞いたら、あなたから邪気は全く感じられないって。それはいつもお父さんが言ってたことと矛盾してて。それでどうすればいいか、分からなくなって。つい、酷いことを言っちゃった。…ごめんなさい」


 彼女自身、自らに非があることを理解した上で、謝罪してくれた。


「ううん、いいよ。でも私こそ…ごめん。急に叫んだり、逃げたりして」


 シルファも同様に謝る。


 その瞬間ルミカと名乗った少女が急にモジモジし始める。シルファが不思議そうな表情で見ていると、


「じゃあ、それじゃあ私と友達になって!」


 と、少し恥ずかしそうに言った。

 突然だったが、またとない申し出にシルファも喜色に彩られた表情を返す。


「うん、私はシルファ。これからよろしく」

「そして、私はルミカ!こちらこそよろしく!」


 二人ははにかみあいながら、名前を名乗りあった。


 シルファにとって、初めての友達ができた。


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