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運動会 二 リレーと打ち上げ

 私は早めの昼食を、小さめのおにぎり一つと、豚汁を軽く一杯に留めた。もうすぐ町対抗リレーだ。


 リレーは、十代・二十代・三十代・四十代の各世代から一人と、世代を問わない一人の五人でチームを作る。ただし、女性が必ず入ることになっている。二百メートルトラックを半周ずつ回り、アンカーだけは一周の二百メートルだ。百メートル全力疾走が結構堪えるので、やはり不人気な競技だ。


 私は二十代枠で出場するが、身体は自称永遠の十七歳。余裕で完走できるだろう。二百の経験は無いが、百メートルなら十三秒を切ったこともある。インターハイ選手には負けるが『神子』の中で私より速かったのは知子ちゃんだけだ。

 いや、胸にウェイトを付けていてこれだ。Bぐらいだったら、もっといけたに違いない。




 出走順に並ぶ。

 第一走者は男子高校生だ。次いで二十代、四十代、三十代の順で走り、最後に私がアンカーとして走る。

 奇数番目が本部席側、偶数番目が反対側に整列する。私は軽くアップをしながら、お団子にまとめた髪を確認した。




 第一走者はさすがの十代。コーナーに入る前にトップに躍り出て、そのまま引き離しつつ第二走者へバトンを渡した。

 第二走者は、二位に詰められたものの、なんとか順位を保ったままバトンを第三走者に。いいぞ!

 ところが第三走者がコーナーの途中でたたらを踏んで、一気にスピードダウン。足がつったみたいだ。

 よたよたと惰性で進みながら第四走者にバトンを渡す頃には最下位に転落してしまった。

 私はノースリーブを脱ぐ。本気モードだ。さすがに短パンは脱がない。

 第四走者は、齢の割に見事な走りで追いつくが、最下位のまま。


 ここで私がごぼう抜きすればドラマだ!


 バトンを受け取るやダッシュ。受け渡しに手間取ったランナーを一人抜く。コーナーを抜けるところでもう一人、更に直線のトップスピードでもう一人!

 しかし、そこまでだった。

 最終コーナーで捕まえたものの、抜くには到らなかった。あと百メートルあれば絶対抜けたのに!


 ゴールラインを通過するや、私は校庭にひっくり返って息を整える。地面に背中を温められたせいだろうか、今頃になって全身から汗が噴き出した。

 表彰のために何とか立ち上がるが、走っていたときが何だったのかと思うほど全身が重い。きっと、あと百メートルは無理だったろう。それより、ガバッと空いた背中が砂だらけだ。着替えも無いのにどうしよう。




 表彰台から降りると、優乃と咲耶が走ってくる。

 二人は「お母さんすごーい!」「速かったー!」と大喜びだ。

 それに、「えっ?」という視線を向ける人も。確かに私の走りは、二人の子持ちには見えないだろう。

 慶一さんは苦笑いしながら、シャツとタオルを持ってきた。


「こっちに替える?」


「替えたいのはやまやまだけど、下着の替えが無いから。こんなの着たらぽっちりが透けちゃうよ。慶一さん、ヤキモチ妬かない?」


「妬く」




 私はまたも児童玄関脇の流しに向かい、濡らしたタオルで背中を拭いた。途中から慶一さんが拭いてくれる。それはいいんですけど、屈んだ上体を支える左手が、えっちじゃないですか? 家でならともかく、こんな処ではちょっと困る。


 ついでに顔を洗ってからシャツを被るように着た。テントに戻り、改めて化粧水を顔になじませる。

 敷物に腰を降ろして足を伸ばす。少し柔軟をすると、鈍い疲れを感じて、このまま横になりたくなる。二百メートルは、予想外に堪えた。




 鍋の豚汁はほぼ無くなっていた。底の方に残った汁を一掬いして、慶一さんと半分こ。そしてオードブルの残りを口に運ぶ。どっちも冷めている。

 慶一さんの視線はドリンククーラーに向かうが、多分ビールはもう残っていない。

 残っていたとしても、機材を軽トラで運ぶからダメだよ。


 少し腹ごしらえしたところで、片付けを始める。

 鍋の残りを、ザルを乗せたバケツに注ぐ。ザルの中身は袋に入れて生ゴミだ。

 鍋を一旦軽トラに載せ、児童玄関に横付けした。足洗い用の流しで鍋を洗う。洗剤と亀の子たわしでゴシゴシ洗っていると、町内の男性がガスボンベを傾けて転がしてきた。

 そんなことしなくても、軽トラは戻るつもりだったんですけど。

 軽トラにガスボンベを載せ、ラッシングベルトで固定する。改めてテントの裏まで戻り、残りのボンベやホース、コンロを載せた。


 閉会式はもう少し。あとはテントの中のゴミを積めばOKだ。




 我が町内の総合成績は、リレー順位と同じく準優勝。最近に無い好成績だ。きっと、初参加の私たち夫婦の活躍に違いない。思うだけならタダだ。


 男性陣がテントに群がる。柱を内側に折り、幕を外す。設営時とは違って、あっという間に作業が終わると、三々五々で引き上げて行く。他の町でもそれぞれの公民館で打ち上げがあるに違いない。




 夕刻、私を含め着替えを終えた婦人会メンバーが公民館に行くと、既にテーブルが並べられていた。

 テーブルを布巾で拭いている間に、食べ物が届く。更にビールやチューハイの缶、ソフトドリンクのペットボトル。




 始まりの挨拶もそこそこに、大人たちはビールを呑み始めた。既に、日中のアルコール燃料でポンコツになっている大人もちらほら。

 小学生は揚げ物に群がる。あ、ローストビーフを一人でガメてる男子がいる。よっぽど好きなんだろうけど、ちゃんとみんなで分けなきゃ。私は少し指導を入れる。

 運動会に参加した子どもは主に小学生。部活などが優先になる中高生は……、隅のテーブルに集まっている。食べているのはお菓子ばかり。


「ほら、これも食べようよ」


 私はオードブルのトレーと助六寿司を運んだ。




 慶一さんの隣に戻り、チューハイをコップでちびちび。おっさんたちの視線は私に集まる。例によって、いろいろと品評が始まる。


 私は「中高生に混ざってる方が自然」と言われるだけだが、慶一さんは「やっぱり犯罪だ」と言われている。うん。確かに絵面はそうかも。未だに旅行先では繁華街で職質されることがある。




 日中の疲れか、会は早めのお開きに。後片付けをして公民館を施錠しても、未だ九時過ぎ。子どもたちの手を引いて家路に向かった。

 今夜はどうしようかな? 私は専業主婦だからいいけど、慶一さんは明日も仕事だ。


 帰宅するや、慶一さんは再び風呂へ。私は大急ぎで優乃と咲耶に歯磨きをさせる。二人とも、こんな時間まで起きていることは滅多に無いからフラフラだ。

 歯磨きを終え、お風呂を慶一さんに入れて貰うと、二人は立っているのも辛そう。咲耶にパジャマを着せてから優乃を見遣ると、パジャマを後ろ前に履いている。

 何とか履き直させて寝室に連れて行くと、二人はすぐに布団に潜り込んだ。きっと、一分後は夢の中だ。




 再び脱衣所に戻ると案の定、慶一さんは未だ浴室。疲れていても、アレは別腹だよね。

 ここはそれに応えるのが、私の役目! 縄跳びはナシだけど。


 町内会とかは面倒くさいけど、悪いことばかりでもない。

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