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ドラテン  作者: 夏目彩生
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38乙女達の会議(終)

「「英雄……」」


 私とトトはお互い顔を合わせて目をぱちくりさせた。

 つまり、どういうことかしら?


「その心は?」


 トトがリリカに話の続きを促す。


「えぇ……」


 リリカはまるでこれから演説でも始めるかのように腕を振り上げた。 


「英雄にする。とが言いましたがつまり私がしたいことは、学園の皆様の誤解を解くということですわ!つまりは、です。カルト様が僻まれたというのが事実ならば、学園の皆様はカルト様を誤解しているわけなのです。言うなればカルト様は女性にモテるのにふさわしい器ではないと!文不相応であると!であるならば、そうではないとカルト様ならばむしろ当然すぎる事態であると皆様に分かっていただけたならば、このような事態は収束するのではないかと私は思うのです!」


 トトは「おぉ……」と拍手をする。

 本当に演説のような熱量のこもりぷりで、私は少し気圧されてしまう。

 いやカルト君は素敵だとは当然私も思っているけれど、さすがに当然すぎる事態であるとまでは……。


「なるほどりっちゃんの言いたいことはわかった!して、具体的には?」


「はい。そして具体的には、私の魔法を使って仮装で気を作りそれをみんなの前でカルト様に倒してもらうのです!」


 私は座りながらもズデっとコケそうになった。

 それは誤解を解くんじゃなくて、ぶっちゃけ裏工作というやつじゃない!


「ほう……」


 トトがまんざらでもない声を上げているので、私はますますコケそうになった。


「ちょっと、トトってば、こんなの私のアイディアどころじゃなく乱暴じゃない……」


 怪我人が出たらどうするのよ。とさすがに私は突っ込んだ。


「しかしあなたのアイディアと違って理論上可能ですわ」


「そうではあるけれど……」


 とりあえずリリカは一度座って、私もずり落ちた床から座り直して、紅茶をすする。


「だけど私は反対よ。それでリリカが魔法で敵を出すとして、もしそれがクラスにばれてしまったらどうするの?今度はリリカがこの学校に居づらくなってしまうわよ。なんとか怪我人を出さないようにやれたとしても、怖がらせることには変わりないのだから……」


「まぁりっちゃんはそんなヘマはしないと思うけどねぇ。」


「ですわ」


「けど……」


「ま、問題はカルト君がその作戦をどう思うか、だけどさ」


「あ……」とつぶやいたのはリリカだった。そこはリリカにとって盲点だったらしい。


「確かにそれは困りますわ。生徒の皆様を怖がらせてしまってはカルト様に怒られます」


 しゅんとするリリカに私は「そうね」と頷いた。


 私としてはカルト君のこと抜きでもまずいと思うぐらいの倫理観は持って欲しいと思ったけれど、そのあたりのことを突っ込むと本筋から離れてしまいそうなのでグッと我慢した。

 だけど後でリリカには、小さい子向けの道徳の本を何冊か読ませまようって決めた。


「だけど敵を作るっていうアイデアを除いては、私としてはありだと思ったんだよなぁ。ほら彼、カルト君。あの人何だか、実力ありそうなのにあえて目立たないようにしてる感じがあるっていうか」


 トトは頬杖をつきながらそんなことを言った。 

 トトはカルト君とそんなに長い付き合いでもないけれど、それでも彼女なりにカルト君のことをよく見てくれているなと感心することがある。ほんの少し、ヒヤッとしちゃうぐらいに。


「そうね。私もカルトくんのいいところをみんなにもっと知ってもらいたいとは思うわ」


 私たち2人の言葉にリリカはこくりと頷いた。


「よし!じゃあその方向性だけは決定として、改めて作戦、考え直そうか!」

「うん!」「はい」


 こうして私たち3人の会議は深夜まで続いたのだ。




 次の日の朝、私とリリカは眠い目をこすりながら昨日の打ち合わせのおさらいをした。


「リリカ、良い?とりあえずトトが担任の先生に事情を話して、今日の授業で生徒を指すときは全部カルト君にしてもらったから」


「それをカルト様が全部華麗に解答するわけですね」


「その後学年1番の剣術使いの先輩に掛け合って、カルト君に決闘を申し込んでもらうことになってるから。かなり人気の先輩で、決闘に対してはノリノリだったわ」


「それをカルト様が華麗に倒すわけですね」


「放課後はカルト君を村一番の美容院に連れてってイメチェンしてもらうから」


「違う髪型のカルト様もみたいですわ」


 そんな話しをしながら私たちは教室のドアに手をかける。

 ごくりと唾を飲み込む私とリリカ。

 もう作戦は考えているとはいえもしカルト君はみんなにいじられているかもしれないと思うと……。


 実は昨日3人で遅くまで話し合いすぎていたせいで寝坊してしまって、昨日の夜も、朝も、カルト君とは顔を合わせられていないのだ。

 私とリリカは目を合わせながら頷き合って2人で教室のドアを開けた。


 教室の中のカルト君は……いつも通り、だった。拍子抜けするほど、いつも通り。


 誰もカルト君をバカにするようなことを言う人もいないし、何なら昨日あだ名をつけてた人との仲良く話してる。まるで、昨日のことがなかったみたい?


 あれ?もしかして魔法使ったの?とまたお互い顔を見合わせる私たちに、トトはニヤニヤしながら近づいてきた。


 トトってば、普段は寝坊助のくせに、こういう時は早起きだったりするんだから……。


「まぁつまりさ、昨日はあまりの衝撃でみんな騒然となったわけだけど、そもそもうちのクラス、そんないじめっ子体質なやつっていないじゃん」


「そ、そうなのかしら……?」


「そりゃそうよ、だってもしそんな生徒達だったらさ、そもそも魔法が使えず教室を破壊しまくってるあんたこそ、とっくにいじめられる対象だよね」


「うっ……」


「つまり、基本的にうちの学園のやつらはさぁ、いいやつらなんだよ」


 トトはそう言って、嬉しそうに笑った。


「確かに……」


 トトの言葉に心底納得したように両手を叩くリリカ。こちらとしても悔しいことに言い返す言葉も見つからず……。ショック状態。


 で、リリカは首をかしげて、当然の疑問を口にした。


「けれどもそれならば、どうしてトトは昨日の話し合いに参加したのです?」


「楽しそうだったから!」


「はぁ……」


 即答。今度はリリカがちょっとびっくりしてポカンとしていたから、私は肩をポンと叩く。リリカ。トトはこういう子なのよ、慣れなさい。


 こうして私たちの作戦会議は幕を下ろした。

 とはいえもう下準備を終えてしまったものについてはどうしようもないので、今日1日カルト君は、先生に指されまくり、みんなの前で先輩に決闘を挑まれることになるのだった。

 ……ごめんね、カルト君。


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