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17おまけのディナー

ルルカ達との再会にご満悦のカーニャ。そろそろお腹が減ってきたよね?

「不要だ、僕が食事を作っておいた」


 それはキサラギが帰ってからの、マオの第一声だった。



「これから、夕食4人分作りますね」

 客人を見送ってすぐ、くるりとマオに向き直り『みんなで食べると食事っておいしくなるんだよね』と楽しい食卓を想像しながら、にこりっとカーニャは言った。勿論、カーニャは自分が作るものだと思っていたので、こう切り出したのだ。が、その質問のマオの答えは『不要だ』だった。


 マオは、まるでそれが当たり前かのような音調でそう言ったのだ。多少の驚きはあったのだが、それは 『気まぐれ』なマオのこと、『作った』と言ったのならば、本当に作ってくれたのだろう、とカーニャは満面の笑みで喜んだ。


「マオ様の料理って、豪華なんだよね!」

 と。





 ―――――さて、食堂。




「お肉かな? お魚かな?」

 うきうきしながら、真っ先に食堂に飛び込んできたのは腹ペコ大臣の金髪の少女。その後を、マオがゆっくりと歩く。


 マオは普段、食事など作らないのだが、作りこめばかなり豪華なものを作る。それこそ、どこぞの王宮のパーティーだろうかというほどの、きらびやかな見た目と、これまた食べたこともないような美味しさなのだ。が、それこそ本当に、マオの気が向いたときの話になるので、めったにお目にかかることはない。

 


「カーニャちゃんと同じ食卓を囲めるなんて、わたしくこの日をどんなに夢見たことか」

「はい。ねえさん。魔法院に不義の忠誠を誓い3年待ったかいがありました」

 次いで、ルルカ、フォードが入室した。




 カーニャは、きらきらと目を輝かせ、「デザートなんていっぱいあったら素敵だよね!」と、期待のままに、たったった、と上機嫌でテーブルに近寄り覆いかぶさるように『ディナー』を覗いた。



 ……覗いた、…………のだが、




「・・…・まめ??」




(あれれ?何かの見間違いかしら?)

 ごしごし。と、目をこすり、むむむむっ、とつま先立ちになる。もう一度、覆いかぶさるように食卓を凝視した。


 光沢のある濃い緑色、

 カーニャの小指の爪ほどの大きさ、

 豪華に飾られた 銀食器の上の ―――『豆』一粒。


 その他の皿たちに盛られているはずの、豆以外の『食材』が見当たらない。



「ふむ。では、食事を」

 まるで当たり前かのように空の食卓にマオは腰を下ろし、低音のビロードの美声で言い放つ。


 加え、

「やれやれ、カニャさん。いつまで立っているつもりなのだ、食事のマナーは僕が教えただろうに……」

 と、諭しだす始末。



「『食事』って!! これ『豆粒』ですから!!」

 と、よほど空腹に苛まれていたのだろう。椅子にも座らず、カーニャはがぅうと噛み付き、ぷりぷりと怒りだけを表す。


「ふむ、苦労したのだ。僕がその皿を並べ『食材』を絶妙なバランスで配置した」

 つまりこの場合、マオの指した『食材』とは、この濃緑の『豆粒』の事らしい。

 やれやれ肩がこったとでもいいたそうにしている。もちろんカーニャの怒りなどお構いなしの発言だ。



 しかも、豆の食事ディナーですら、カーニャ1人分しか盛られていない現状になるのだが、ルルカとフォードは気にする気配すらない。


「カーニャ、魔王じきじきの食事だ、あるじ自ら、しもべに与えられるとは、光栄なことだ」

 フォードは、マオと向かい側になる椅子に手を掛け、そして椅子を少し引く。


「まあ、魔王がカーニャちゃんの為だけに、食事をお作りに?」

 ルルカは、しゃなりと、その引かれた椅子に腰を掛けた。



「魔王、今度、わたくしが作ってもよろしくて?」

「ふむ。好きにするがいい」

「まあ、素敵ですわ。わたくしが作った食事をカーニャちゃんが食べる。うふふふふ。」

「では、段取りは俺が。安心しろカーニャ、命までは取りはしない」

「い、命??」

「カニャさん、あ~ん」


 フォードの『命までは』の言葉に怒りがそれたのか、カーニャは目を丸くしてフォードを見た。

 実はその短い言葉に、意味の全てが凝縮されているのだが、カーニャには理解できそうにない。ルルカは常に食事を作りたがるのだが、見た目からして、妖しい食事になってしまうのだ。


「スープを作っただけですのよ」

 と言っているのに、どう見ても魔術めいた食事が出来上がる。おそらく、本人は気にしていないのだろうが、『隠し味に』と言って、大量の呪いや得体の知れない呪術用の薬料を入れるためなのが、大きな原因であろうが…。

 つまり魔女ルルカの料理=隠し味(呪い)=毒となる。


 加え、フォードの料理の場合だが、この姉弟、どうやら料理は苦手らしく……。

「ポルシネア産のイモは、食べる所がないな。見た目はこぶしほどの大きさだが、剥くと石ころ程しか身がない」

 とフォードが、真面目に言っていた。

 ポルシネア産のイモは、お手ごろ価格で一般市民に人気の食材である。もちろん、皮を剥いても、こぶしの大きさのはずなのだが……。




「カニャさん。『あ~ん』だ『あ~ん』」

「あ~ん?」


 ぽいっ。


「ぽりり。…むぐむぐむぐ」

「ふむ」

「まぁ、フォード!! 今のを見て?なんて可愛らしいのかしら!」

「はい、姉さん」

 ルルカの心底浮かれた同意を求める言葉に、フォードはいつものように真面目な面持ちで答えた。

 だがそれは、たしなめる、でも あきれるでもない。フォードにとってみれば、ルルカの発言はすべて肯定なのだろう。おそらく善悪かまわず。



 ぽりり。


(あれ?何だろう?この豆、甘いよね。美味しい…?)


 きちんと咀嚼したカーニャにマオは目を細め、そして、自分の席にきちんと座るように再び促す。カーニャはマオに従い、よいしょっと、マオの隣の椅子に腰を掛けた。食堂の備品であろう大人仕様のその椅子は、やはりカーニャには大きいようだ。足がぶらぶら浮いてしまう。ぶらぶら足が揺れるたびに、真っ赤な靴についた小さなリボンもふらふら揺れた。



 さて、その『豆』の話に戻すが―――、

 実はその『豆』は『竜の涙』といわれる代物である。


 竜が人間とともに生活していた時代などで、王宮仕えの竜使いが王から授けられる貴重な魔力補給物質である。つまり竜用の栄養満天の食材であり、マオが丹精込めて作り上げた一品になるのだが、カーニャはそれを知らない。今、市場に出回ればプレミアム物で取引されであろう。

 しかし、火炎で無駄に魔力を放出したカーニャがきちんと食べたことによってマオの目標はなされたので、特にマオは何もいわない。




「姉さん、飲み物を用意します」


 フォードは、今までのやり取り中でも席には着かず、ルルカの後ろに付き従うように立っていた。

 コツコツコツ と、食堂の少し奥ばった一角にある、カウンターに歩みよった。どうやらそこは簡易ワインセラーになっているらしく、そのうちの一本をフォードは掴み、こちらに見せた。


 カーニャは「このワインを運ぶように」と言われているのかと思い、椅子から降りようとしたのだが、どうやら違うらしい。ルルカに「このワインにしますか?」との尋ねだったようだ。



 夕暮れ色の液体が注がれる。芳醇な果実の香りが立ち込める、贅沢な食卓だ。まあ、香りだけで言うならば、の話になるのが。本当はカーニャが給仕をしたかったのだが、他愛もなくフォードに遮られ。特にマオの指示もなかったので、おとなしく座っていた。

 もちろんカーニャのグラスにも同色の液体が注がれたのだが、内容はブドウジュースである。『お酒なんて不味いだけなのにね』と思いながらも、同じ色合いに、なんとなく嬉しさを覚えた。



(……でも「ご飯」がない……)



 なんだか体に力が湧き出てくるような感じがするのだが、『力』と『お腹』は別物らしい。

 

 ぐーぐー

 

 腹の虫が2度鳴った。



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狐の森
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