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魔王が勇者〜勇者育成所始めました〜 作者:早坂器乃
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16紫色の来訪者2

魔女に捕らわれたカーニャの運命は?!
「このぷにぷにの触り心地、正しく本物のカーニャちゃんですわ!!」

 むぎゅー!
 むぎゅ、ぎゅー!!

「(はわ、はわわ・・・、く、苦しい・・・もがもがもが・・・っ)」
「うふふふ。わたくしのカーニャちゃん・・・!!」

 魔女は膝を折り床にパタンと付け、カーニャをその豊満な胸に押し付けるように抱きしめた。

「わたくし、この日を指折り数えていましたわ!!」
(も、もがもが・・・!!)
 ・・・しかも、かなりきつく抱き込んだらしく、息が吸えずに苦しむカーニャ。

「姉さん、カーニャが窒息します」
「あら、まあ!」

 少し離れた距離から、凛とした騎士の生真面目な声が響き、魔女の白い腕の呪縛が少しだけ緩められた。
 その騎士の足元には仰向けになり左手でかろうじて上体だけを少し浮かせた体勢のキサラギが転がっていた。もちろん喉元の矛先は変わる事無く鋭く光っていたが、カーニャはそれどころではなかった。

「ぱふわっ!」

 何とかカーニャは身をよじり、顔を空気の当たる場所に出すことに成功した。

(・・・ああ、よかった、空気が吸えたよ。びっくりした、息ができないって、苦しいものなんだね・・・)
 などと、空気のありがたさに何気に感謝しながら、できればこの玄関ロービーの酸素を全て吸い込んでしまおうかしら?と、思う勢いで大きく酸素を取り込んだ。

(もう、どうせなら、口ととエラだけじゃなくって、もっと他にも、息の吸える場所があればいいのに!ほら、背中とかさ、ふくらはぎ辺りとかにさ)
 などと、人体(と竜体)構造に言及までしてみたりしている。

「カーニャちゃん。大丈夫でしたかしら・・・」

 と、カーニャの少しばかりの無意味な沈黙の後、なんとも心配気な声がカーニャの頭上からそそがれた。

「やっぱり!! ルルカさん!!」
「会いたかったですわ。カーニャちゃん。勇者のお仕事はもう終わりなのですわね?」

 カーニャはその人物を確認するや否や、満面の笑みで答えた。

「もうぅっ!可愛いですわ! わたくしたまりませんわ。もう食べてしまってよろしくて?」

 と、一度身を離されたが再び ぱふっ と抱きしめられた。再度の抱擁にカーニャも無邪気に喜び、そして少しばかり顔を横に向けた。
 すると騎士の細く束ねられた紫の髪と背中を確認することができた。

「あ、やっぱり!騎士さんは、フォードさんだ!!」
「ああ、久しぶりになるなカーニャ」

 フォードと名を呼ばれた騎士も、体勢を大きくずらす事無くその生真面目な横顔を再会の笑みで崩し対応する。

 ギラリッ。
 勇者の喉元のどもと矛先ほこさきが限りなく物騒ではあるが・・・。 



 ―――さて、この場合の構図はこうだ。
 再会を喜ぶ「魔女と騎士と子竜」の3人。
 そして、おそらく「瀕死決定の勇者」が1匹。いや1人。


 と、そんな状況下で話に割って入ったのは、意外にも、勇者キサラギだった。


「やあ、こんにちは、ルルカさん。こんな所で会えるなんて、奇遇ですね」

 しかも、喉元のどもとやいばなどそっちのけで、まるで『街中でばったり知人に会いました』感の何とも のんびり したものであったので、カーニャは小首をかしげた。

(あれ?普通ここは『喉元の武器をどかせ!』的言葉が出てもいい展開だよね?)
 先ほどの魔蜂には、あれほど冷たい風を吹かせていたはずなのだが、今に至ってはいつもの春風のような穏かさを含んでいるのだ。

(あれ?もしかして、知り合いなのかしら??)


 やはり、3人の間には知った顔といった雰囲気が漂う。
 その証拠に、こんな会話付き。


「それで、チカの実の美味しいレストランを見つけたんだけど」
「まあ、チカの実ですの?」
「うん、それで今度一緒にどうですか?王都の大通りからかなり外れた場所だけどですね、こうこじんまりとしたイイ雰囲気、」
「拒否する」
「うん、君は相変わらず、即答だね・・・」


 キサラギは、床に倒れながらもそれでもお構いなく話しかける。その根性は素晴らしい。どうやら、この状況でさえも『いつもの事』のように話は流れる。

 加え不要な情報にはなるが、キサラギはルルカが登場してから、実はそわそわしている。先ほどの『石化』の原因もここら辺にあるらしい。・・・おそらく、ルルカはキサラギの「意中の人」になるのだが、カーニャにはどうでもいい事実だった。


(やっぱり。ルルカさん人間の勇者と知り合いみたいだよね。
 まあルルカさん達―――『人間』、なんだから人間の勇者と知り合いでも不思議じゃなかったよね)


 ―――実は、
 『魔女』といっても魔族にはそういった種族は無く、『魔女』の名は女性体の魔族(や人間の女性)に対して使われる表現になる。
 本来、人間で魔力の高い女性に対しては、『聖女』や『医女』などと称される事の方が一般的であるのだが、極稀ごくまれに『魔女』とあざが通る事があるのだ。

 ちなみに、『魔女』の社会的イメージを簡単に説明するとこんな感じになる。
 聖女や医女は 市民から、聖女様、医女様 と『様』付けで呼ばれることが多いのに比べ、『魔女』はあくまで『魔女』呼ばわりが多い。この感覚的に『様』の付かない様子から見ても、『魔女』のイメージは、やはりダークな部分が多いことが分かる。

(また、補足として語れば―――、
 ●聖女・医女とも、「癒し」系統の魔法に長けた魔法使いを指す。
 ●通常魔力のみの高い者は普通に「魔法使い様」「魔術師様」と呼ばれる)


 この魔法使ルルカいも(実は、昔の経緯から、『正式な』魔法使いの認定こそ受けてはいないのだが、その魔力センスを買われ、特別に魔法院での研究許可を受けているらしい)、いかにも魔女らしく妖しげな雰囲気をかもし出している。特にルルカは、「魔法生物」の生成や「呪い」の魔術を好んで使う、それが彼女を『魔女』と言わしめる要因の1つかもしれない。


「人間で魔女なんて変なの」
 と、出会った当初カーニャは他意無く口に出してみた事がある。

「わたくしは、『魔女』と呼ばれていなくてはなりませんのよ」
 ルルカは、いとおしそうにフォードを見つめ、その白い人差し指を厚みのある紫色の魅惑的な唇に軽く押し当て答えた。
 まるで「今の会話は、秘密ですわよ?」と見て取れる仕草をされたのを、なんとなくカーニャは覚えていた。余りにも、妖めかしく微笑まれたので、カーニャはそこで思考をストップさせてしまったのだが、本当は、その微笑の裏には、彼女の『確固たる信念』が隠されていたのだ。が、カーニャには気付くはずも無かった。


「それで、フォード君さ」
「軽々しく名を呼ぶな、『魔法院』の犬に呼ばれる名など無い」
「う、うん・・・。何度も反論するけど、僕は『魔法院』の勇者じゃないし、どちらかといえば、君の方が『魔法院直属』の騎士じゃないか・・・。それよりも、フォード君。そろそろコレを・・・この体勢もきつくなってきて・・・」
「・・・・・・」
「フォード君、フォード君・・・」
「・・・・・・」
「・・・(む、無視なのかい・・・)」
「くすくす。ほら、風様が困っていてよ?フォード、そろそろ」
「はっ」
「ふぅ・・・。いつも、すみませんルルカさん」
「では、我が魔女のめいを受け、ここで風の勇者の息の根を!」
「――!! 僕は違うと願いたいです!!」


「ぐー」


 さて、ようやく床から身を起こしたキサラギが ぽんぽん っと白いマントを軽くはたくと同時に、カーニャの腹の虫が時間を告げた。
 外は夕食の煙が家々から立ちのぼる、そろそろそんな時間帯。さんさんと降り注がれた太陽の光に代わり、黄昏たそがれの気配が増してきたようだ。黄金色こがねいろの夕日が王都を包み込み始めていた。

 ここは切り立つ山々に囲まれた地形に建国された勇者の国。有限の領地に家々は折り重なるように建てられ、その白塗りの壁に夕日が反射し王都全土が黄金色に染まる。それは、「勇者育成」と「観光産業」で成り立つこの国の、一番美しいとされる景色。




「ふう、やれやれ。客人の見送りにいつまで時間をかけているのだ」
「あっ!マオ様」
 いつの間にだろう、マオがだらりと両手を下げ客室の扉に寄りかかる様に立っていた。

「・・・まあ、そこにいらしたのですね」

 ルルカはマオの登場に合わせ、名残惜しそうにカーニャをその腕から解き放ち、立ち上がる。

 しゃらん、しゃらん。

 布のこすれる音を従えながらゆっくりとマオに歩み寄り、マオの横に着く。
 ―――そして、少し背を伸ばしルルカはマオの耳元に顔を寄せ更に妖しく微笑んだ。

『(魔王・・・、お帰りなさいませ)』

 いつの間にか、フォードもルルカの斜め前に陣を取っていた。それはさながら敵(キサラギ?)から魔女と黒衣こくいの城主を守るが如くの鉄壁の盾のようだ。
 その3名のまとう雰囲気は、独特の空気感を放っていた。それは正しく魔界めいた、異界そのものに思えた。

 ―――思えたのだが・・・、
 その異質感が、みごとに中和されているのは何故だろうか?

(あ〜。何だろう、凄く嬉しい感じがする!)
 と、その空気感に任せ、祖国の父と母をルルカとフォードに投影でもしているのだろう。
 ぱたぱたぱた。
 いつにも増して締りの無い顔で3人のもとに向かい、キサラギの目の前を通り過ぎていったのだ。
 ・・・要するに、異質感の中和は ほえほえ と満面の笑みでマオに駆け寄るカーニャのせい。

 そのカーニャのほえほえ顔(強力無意味な中和の作用)によって、空間は『異界』から『優雅な貴族の肖像』へと変化した。
 気品あふれる父と、
 美しい妻と、
 愛くるしい子。
 そして、礼儀正しい兄。

 余りにも理想的な家族構図に、
(・・・ああ、できれば彼女の隣は僕がいいかな・・・)
 などど、キサラギは考えていたかも知れないが、

 ギンッ! 

 礼儀正しいはずの兄から、殺気がみなぎる・・・。

 そんな事よりも、何とか密着は回避されたが、それでもマオとルルカが気になるらしく、キサラギはそわそわと口を開いた。

「・・・あ、あの、ルルカさん。『黒の勇者』君、とは、ど、どういう関係で・・・?」

 マオとルルカに視線を交互に移し変えながらの質問であったので、かなり焦っている感が見て取れた。 

「『黒の勇者』?」

 カーニャは「はて?それは誰の事だっただろうか?」と、きょとんとしたが、
(あっ、マオ様の事!)
 と、ぽんっ と小さくうなずいた。小さくといっても、小鳥がエサを1つついばむように、本当に ちょいなっ と頭が沈むのだから、なんとも愛らしい。

(そういえば、勇者の仕事をしている時とか、人間から『黒の勇者様』とか『こくい(黒衣)様』とか、言われていたっけ。マオ様は、何だか『黒』って呼ばれるたびに ぶーたれていたけど・・・)
 などと、どうでもいい近況を思い出しながら、何気なくマオを見上げた。

 さて、見上げた先のマオだが、マオはいつものように興味なさ気にしていた。こうだらりと両腕をさげ、つまり「黒の勇者とルルカの関係」の会話には興味は無いらしい。
 しかし、カーニャが自分を見上げたことに気が付いたらしく、ふむ と頷きながら、口を開いた。


「―――魔女ルルカは、僕の『妻』」



「「―――!!!!」」


「ル、ルルカさん!!いつ―――、結婚なさったんですか!!!!!(キ」
「ま、マオ様、け、結婚したんですか!?(カ」
「うふふ。妻、いい響きですわ・・・(ル」
「・・・・・・(フォ」

 キサラギは、青い顔でルルカに詰め寄り(そしてフォードがガード)、カーニャはルビー色の瞳を更に大きく見開きマオを(ほぼ真上)に見上げ、ぱくぱく している。 ルルカに至っては何やらカーニャを見つめ、うっとりとしている。

 さて、
 4名ともどもの反応を楽しんだ節のあるマオは(正確には、おそらくカーニャの反応に重点が置かれているだろうが。と言うかぶっちゃけカーニャの反応以外はカーニャの慌て様を楽しむためのスパイスに程度の感覚だろうが)
 カーニャの視界を自分で占領し尽くしたことにマオは満足した様子。

「ふう、やれやれ。僕が何故、魔女を妻にめとるのだ・・・。
 魔女は―――
 【僕の妻(未来確定)の『カニャさん』が、どうしても助けろと言ったので(仕方なく)助けた魔女。】だと言ったのだよ」
「言ってませんから!」

 と、事実の方を付け加え程度で語るあたり、たちが悪い。(まあ、真実を告げるだけまだ、まし。との見方もあるが・・・)


 さて、この話の流れで、ルルカとフォードがこの城に一緒に住んでいることが発覚し、それを聞いたキサラギが頻繁にやってくるようになるのだが、それはまた後日。

 加え、『妻』発言のさい、
(『カーニャちゃん』が『わたくしのお嫁さん』に・・・。うふふ)
 と、ルルカはルルカで、カーニャを見つめうっとりしていたりしたのだが・・・、これもまた後日。

*黒衣こくい
 黒い服のことです。本当は、特に、僧侶の着る黒い僧服のことらしいですが、この場合、マオの着ている「黒い服」のダイレクトの意味で使用です。ついでに、「黒」にはマオの髪と瞳の色の意味も含めて書いています。
 「こくい」とも「こくえ」とも読みますね。

 マオは他に 「黒の」「黒髪の」「ラウの血族(人間歴上で、極稀に存在が確認される。黒髪黒い瞳の流浪の民?)」とも呼ばれていますが、「黒」の色は今後の展開で微妙に重要だったりな感じです(予定)。

狐の森
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