13水の魔法2
マオが落書きのような魔法陣を書き始めて・・・
「おかしいな、
魔法陣って言うのは『完璧な形』ってわけなんだけどな・・・」
ゆらり、ゆらり。
白く発光する文字が、微かに弛みながら、無造作に書き散らかされ空中に浮いている。
キサラギはそれを見ながら、訝しげに顔をしかめた。
「完璧な形・・・?」
「ああ、えっと。・・・なんて言えばいいかな」
僕は専門じゃないんで正確には説明できないんだけど、っと付け加えてから、
「『完璧な形』っていうのは『正しく書かれた』という意味で、
・・・そうだな、ぱっとみて、図形としての『美しさ』があるって事なんだ」
それでもできるだけ、幼い少女にも分かり易いようにと、簡素な言葉で説明しようとする辺り、やはり部類で分けると親切な人間なのだろう。
まあ、どちらにしろ、マオの文字列はどうみてもその『美しさ』には程遠いに変わりはない。
「ほら、魔法を『発動させる』(使う)にはいくつか方法があるだろう?」
と、人当たりの良い笑顔を携えながらのキサラギの問いかけ、
―――というか、人間の一般常識に、
(ふーん)
と、人間の決めた方法論など余り興味が無いためか、気の抜けた感じで、それでも小首を傾げてみせた。
「―――大きく分けて発動方法は、
『イメージ』
『 呪 文 』
『魔 法 陣』
『 助 力 』
―――の4つ」
と懇切丁寧に、指を1.2.3.4と、一本一本立てながらの説明。
「うん、じゃあ、基本から始めるよ」
と、言って、マオと向き合っていた体制を、カーニャへ向き直した。
・・・なにやら、魔法の講義が始まるらしい。
「・・・・・・」
(方法なんて別にどうでもいいのにね・・・。魔法は魔法だし。人間はすぐ分類したがるよね・・・)
などど思いながらも、父様母様(ついでに私)はどれになるのかしら?と興味心が首をもたげた。
(でも、・・・ちょっとぐらいなら聞いてみようかしら)
と、思い抱えていた水差しをことんと床に置いた。
「―――まずは1つ目の、『イメージ』。
これはそのまんまだね。ひたすら魔力を炎や水、雷とか強く思い浮かべて発動させます。慣れれば、コレが一番実践向になるね。なんと言っても、発動までの時間が一番短いから、魔法使い系の勇者では一番人気の方法かな」
すらすらすらと、慣れた感じでキサラギの講義が続く。
(へ〜、何だか本当に、どこかの学校の魔法の授業を聞いてるみたいだよね)
(それに、父様と母様(と私)の魔法の使い方だよね。思い浮かべた炎や水を、口からボーーっとかゴーーとかって吐くから、きっとコレだね)
「2つ目は『呪文』。
これは初心者の『イメージ』の補佐的役割が大きいかな。逆に、強力な魔法の発動にも使用されたりするから、幅広く使われているよ。簡単に言っちゃうと、長ければ長いほど強力な魔法になります。あと、とりあえず魔法使うとき、呪文唱えたほうが格好いいとかそういう理由で使用することもありだね。
ああ、そうそう、ちなみに詠唱や旋律、言霊なんてのもこの部類に入るから」
と、『ここは重要だからメモを取るように』との雰囲気をかもし出す口調に、
ふんふんと小さく頷くカーニャ。
小鳥が無心でエサをついばむような、その頷き方は(本人はいたって真面目なのだろうが)見ている側としては微笑ましく映る。
それに、懸命に話を聞くカーニャの頭の中では、すっかり人間の学校の生徒になっているのだろう。
ソレを受けてか、キサラギの弁にも熱が入るあたり、
さしづめ、『熱心な教師』と、『実力は今一ですけどやる気は満々ありますから的な新入生』といった所だろうか。
「で、3つ目は、『魔法陣』。
図形を描くことで発動するタイプの方法です。魔法のなかでも強力な威力を発揮します。魔法院などの高等機関が多用し、聖獣の召還、キメラ(混合生物)とかの超高度魔法に使用されるものもあるぐらいです。ただ、描く場所と、描いている間の時間がかかります」
「最後の4つ目は『助力』。
自分以外の『助け』での発動です。精霊の加護とか魔具の装備なんかがこれに入ります。実は、状況によっては勝手に助けてくれたりするんで、『イメージ』の魔法よりも発動時間が短かったりします。ちなみに僕は精霊魔法(風)が使えるんだけど、・・・精霊はかなり気まぐれなんで、精霊に気に入られること自体が大変だったりな感じです」
「まあ、どれを使うかは、人それぞれだし、その場の状況でも変わるからね。うん、でも大丈夫、君にあったスタイルを僕はきっと見つけてみせるよ」
まるで、ここまでが一つの決まり文句のように、すらすらとキサラギは並び立てた。
(なんだか、あれかな、人間の学校に行けば、私の魔法もうまくなるかな?)
と カーニャに思わせる話術は、ある意味素晴らしいものがある。
しかし、コレは話術ではなく、実は「若い勇者を育て上げなくては」というキサラギの熱意なのだが、そんな人間側の熱意などカーニャは気付く由も無い。
「で、彼の使っている『魔法陣』は、この4つの中でも特に難しい発動法なんだ」
と、ここで魔法の発動方法の一通りの説明も終り、今度はマオの魔法陣について述べ始めた。
「えっ?難しいですか?」
「うん、かなりね」
「でも、マオ様は簡単に使ってますよ?」
「うん、それは僕も驚いてる。
光魔法といい、炎の圧縮といい、物質再変換といい・・・。見た限り、魔法陣でもかなり強力な、それこそ何重掛けの魔法陣を彼は使っている。・・・かなりの熟練度と魔力量の調節に長けているよ。まるで、『何百年も生きた賢者』のようだと、僕は驚いたのが正直な感想かな」
キサラギは、もう信じられない、お手上げだといわんばかりに、はははと笑ってみせた。
その『何百年も生きた賢者』と称された本人は、変わわる事無く落書きな文字をつづっているのだが。
1文字書いては、文字が空間に固定されるまで動きを止め、また1文字つづりを続け、下手をするとその途中で、優雅に紅茶に口をつけたりもしている。
そんな、動作の繰り返し。
・・・まさか、そのまったりとした様子からは誰も彼が『魔王』だと思うことすらあるまい。
「それで、本来、魔法陣って言うのは、
正しい順序、
正しい角度、
正しい厚み、
いや、下手をすると・・・、その線と線の間隔まで、数ミリ以下の単位でそれ等全てを暗記し、適切な魔力量を注ぎ込みながら描くんだ。・・・・本当に至難の業なんだ」
「昔、授業でやらされたけど、とりあえず僕は才能が無かったな・・・」
勇者見習い時の学園生活でも思い出しているのだろう、うんざり、と言いながらキサラギは話した。
つまり、その正確に描かなければならない魔法陣をこんなふうに書き散らかしている。
ということは・・・、
「・・・もしかしてケガのせいで?」
と、キサラギはマオの右手の心配をしている様子もあるのだが、
カーニャは知っていた、マオの性格を・・・。
(マオ様…、途中で面倒になっちゃったんだ…)
描き出した瞬間までは、ノリノリだったのに、描き始めた途端に、飽きちゃったパターンに違いないとカーニャは推測した。
それにどうせ、
「マオ様、これ魔法陣ですか?」
と質問したところで、
「やれやれだよ、カニャさん。『完璧な図形の魔法陣』があるのだ。ならば、『文字だけのグダグダな陣』があってもいいと僕は常々思っていたのだよ」
などと、飄々《ひょうひょう》と答えるに違いない。
カーニャは、やれやれといった感じで ため息をついた。
「・・・・・・・・・」
マオは2人の会話が聞こえているのか、聞こえていないのか分からないが(まあ、彼にとってはどちらでもいい話だろうが)、
丁度、12文字まで書いたところで、キサラギとの話を遮るように、かすかにカーニャへ顔を向けた。
その表情はいつものように無表情に近かったのだが、カーニャは、「こちらに、着なさい」と呼ばれていること気が付き、
一歩進む。
「ふう、手ぶらで来てどうするのだ」
「え? は、はい」
床に置いた水差しを再び抱え込み3歩、歩を進める。
「そこでいい」
ソファーとサイドテーブルの丁度真ん中あたりで、カーニャはちょこんと立たされ、きょとんとしている。
「ふむ、その空間面積があれば支障はないな」
マオは、カーニャを囲む十分な空間に、邪魔なものが無いことに満足した様子で、ポツリと呟いた。
そして、指先だけをくるりと回し、落書きの文字列に向けて小さく小さく円を描く。
「・・・・・・」
ばらばらに空中散らばっていたはずの文字が、
・・・・・・、
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・微動する。
微動し、ぶれ出し、まるで12の文字が別個に命を与えられた小さな虫のように、うにょうにょと移動を始めたのだ。
「さあ、輪に戻れ・・・、戻り戻り、意味を成すがいい・・・」
「・・・・・・・・・」
最終的に、文字達はマオの描いた円に吸い寄せられるように、その円上に辿り着き、
―――等間隔で並んだ。
それは、小さな小さな魔法陣。円と12文字の陣というには小さすぎる、―――魔法陣が完成した。
「一体何が始まるんだろう?」
ただマオのその不思議な動作を2人は見つめていた。
…実際、目の前で今まさに何かしらの魔法を発動させようとしているのは、『勇者』の敵である『魔王』本人である。
だが、この勇者はそれを知らない。
本来ならば、この無防備な状態の勇者を倒すにはもってこいの機会のはず、
・・・なのだが、
マオにその気が無いらしいのはカーニャには分かりきっていた。
だからこの状況で「一体何の魔法なのかしら?」と、カーニャは思ったのだ。
(まあいいや、とりあえずマオ様の魔法の邪魔にならないように・・・)
水差しをぎゅーっと抱えたまま、とりあえず、マオの指定した位置から動く事無く魔法の完成を待った。
こぽ・・・、
こぽこぽ・・・。
こぽこぽこぽぽ――!!
「―――っ!」
次の瞬間、その小さな魔法陣からあぶくのように無数の水の玉が弾け出た。
そして、あろう事か―――、そのあぶく達はカーニャに向かってきたのだ。
「え!?、マ、マオ様!?」
と一瞬、カーニャはマオを見たのだが、マオの表情はあぶくの層に阻まれ確認することができない。
「わっわっ!」
無数のあぶく達はくるくるとカーニャを取り囲むように回りだし、ついには、水の輪になってカーニャを囲んだ。
■気が楽になりました。
もっと、場面展開をしなくては、もっと登場人物を出さなくては
と今まで焦って、書いていましたが、
そろそろ苦痛になってきたので、
とりあえず、まったり書くことにしました。
ゲームも半分ぐらいつくり終えました、カーニャが主人公の勇者育成所の経営ゲームです(のほほん系)