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2.抱きついてきた女の子が乙女ゲームの悪役令嬢だと知りました

 倒れた後の記憶がないんだが、気付いたら女の子に抱きつかれていた。


一体どうなっているんだ?


「どうしたの? ラフィー、固まっちゃって?」

 女の子が心配そうに俺を見てくれるんだが……ラフィーって誰だ?


「すみません。ラフィーって、誰ですか?」

「な、何を言っているのよ。ラフィーはあなたの事でしょう。頭を打って記憶喪失にでもなったの?」

 女の子はとても慌てだした。


「俺がラフィー?」

 俺はオウム返しに尋ねていた。

 そんな名前は聞いたこともない。


「えっ! 正式な名前はラファエル・サンティーニ。剣聖で、私の専任騎士よ。60になったからぼけだしたの?」

「誰、それ?」

 俺は頭を抑えた。ラファエル・サンティーニなんて、名前は聞いたことがない。俺とあっているのは60という年齢くらいだ。それと剣聖って何だ? ここは現代日本とは違うのか?

 一体どうなってしまったんだろう?

 俺はとても混乱していた。


「そんなんじゃ、私の名前も覚えていないんでしょ」

 その子に間近で言われて、俺は思わず頷いていた。


「ど、どうしたの、ラフィー! 本当に記憶喪失なの? 私の名前はアンジェリーナ・フランクよ」

 アンジェリーナ・フランク、こちらはどこかで聞いたことがある名前だ。それとこの金髪で、青い瞳をしたこの顔もどこか見覚えがあった。

 まあ、俺に金髪美人の知り合いなんかいる訳はないから、ゲームか何かで見たのか? 俺は女の子の気持ちを理解するとか言う名目で人気の乙女ゲームも何本かやったことがあって、その中で見たような記憶がある。


 ひょっとしてこれがラノベの世界とかで良くある異世界転生という奴か?

 剣聖とか言っていたし……どうやら俺は異世界に転生したらしい。

 俺はぼんやり判ってきた。


 でも、異世界に転生したら、普通はチート能力を得るとか、自分よりも若い者に転生するとかが当たり前だと思っていた。


 でも、俺は前世の60歳と何ら変わらない同い年の60の男に転生したようだ。


 神様は残酷だ。


 せっかく異世界転生したのなら攻めて若い勇者にでもならせてくれれば良いじゃないか!


 何で還暦のおっさんに転生させるんだ!


 それに現代ならいざ知らず、この世界の60なんて本当に死ぬ一歩手前だ。

 こんなよぼよぼのじじに転生して、何が嬉しい?


 若い勇者にでも転生してハーレムを築きたかった!

 いや、現実世界で一度も女にもてたことの無い俺にはハーレムなんてもったいないかもしれない。

 でも、せっかく異世界転生できたのだから、少しくらい良い思いをさせてくれても良いじゃ無いか!


 俺は神様に文句が言えたら言いたかった。


 しかし、まあ、記憶のある限り若い女の子に抱きつかれたのは、生まれて初めてだったので、それはそれで嬉しかったが……


「ラフィーが記憶喪失になるなんて大変よ。こんな事ならバイエルン帝国に行くのをやめようかしら?」

「バイエルン帝国?」

 俺はアンジェの言葉に対してオウム返しに聞いていた。

「そうよ。私はこの四月からバイエルン帝国の学園に留学することになっているのよ」

 その瞬間だ。俺は思いだしていた。


 アンジェリーナ・フランクが乙女ゲーム『バイエルンに咲くピンクの妖精』の悪役令嬢アンジェリーナ・フランクだということに!


 そして、同時に俺は俺の新しい宿主というか転生した相手の今までの記憶が一気に蘇ったのだ。

 それは凄まじい量の記憶で到底俺のキャパを超えていた。


「ちょっと、ラフィー! 大丈夫なの!」

 俺はアンジェの目の前で高熱を発してその場に倒れてしまった。



俺は丸2日間寝込んだままだった。でも、その2日間で記憶の整理が出来た。


 俺が転生したのはラファエル・サンティーニ、このフランク王国の剣聖だった。

 そう、一応引退間近と言うことを除けば世界最強の剣士に転生できていたのだ。

 その点は神に感謝したくなった。その点だけは……


 しかし、ラファエルは結婚できておらず、独り身だったのは俺と同じだった。それも60歳ってもう引退していても全然おかしくない年だった。


 ラファエル、通称ラフィーは40の時に魔王を討伐するために、バイエルン帝国の当時の皇太子バルトロメウス・バイエルンとフランク王国最強の魔術師と名高かった当時30代の王子ダニエル、それと聖女アンヌの4人でパーティーを作り魔王退治の旅に出た。

 いろいろあったが、四人は協力し合い、最後はなんとか魔王を退治したのだ。


 その後、ラフィーは自分の生まれ故郷のフランク王国に聖女らと一緒に帰ってきた。魔王退治の旅の間に、ラフィーは聖女を愛してしまっていた。しかし、運命は残酷で、結局聖女は王子のダニエルと結ばれて結婚した。一介の剣士ではたとえ剣聖といえども次期国王と争って勝てるものではなかった。

 

 その結果生まれたのがアンジェリーナだった。しかし、聖女アンヌは、そのアンジェが一歳の時に亡くなった。その死の間際に、ラファエルはアンヌからアンジェのことを託されたのだ。

 ラファエルは自分の愛したアンヌの忘れ形見のアンジェの護衛騎士となり、アンジェを慈しみ育てた。


 その王宮には側室だった侯爵家の出のベアトリスが正妃となっていた。

 そして、ベアトリスの生んだ一つ下の妹のシャルロットと更に一つ下の弟のセドリックがいた。

 平民出の母親が亡くなり、誰も後ろ盾がなくなったアンジェは何かとないがしろにされたが、それをラフィーは懸命に守ってきたのだ。


 アンジェは自分の面倒をよく見てくれるラフィーになついていた。だから16になった今もあんな感じで抱きついてきたのだ。アンジェにとってラフィーは親代わりみたいなものなんだろう。少なくともラフィーはそのつもりだったらしい。

 でも、アンジェが16になり、婚約者のいる帝国の学園に行くというので、後の事はその婚約者の皇太子の第一皇子エーベルハルトに任せて、ラフィーは自分も年だからと王国の剣術指南の役やアンジェの守役からも離れようとしていたらしい。


 しかし、俺の知っている乙女ゲーム『バイエルンに咲くピンクの妖精』では、アンジェは16歳の時に二つ上の年の婚約者のいる帝国に留学して親交を深めようとするが、婚約者の傍に平民出の聖女ミーナが現れてから二人の関係はおかしくなる。

 二人の間が近すぎるとアンジェがミーナに注意するが聞かないので、それに頭にきたアンジェはミーナに辛く当たった。そうすることによって却ってエーベルハルトの反発を買って、更に二人の仲が離れていった。全くエーベルハルトに相手にされなくなったアンジェは、ミーナに対する嫌がらせをドンドンエスカレートしていった。最後は破落戸にミーナを襲わせようとしたのだが、それをエーベルハルトに阻止されて、アンジェは修道院に幽閉されることになるのだ。

 普通のゲームはここでめでたしめでたしで終わるのだが、このゲームには続きがあって、怒り狂ったアンジェに魔物達が接触。最終的にアンジェが魔王になって世界を滅ぼそうとするというものだった。

 それに対してエーベルハルトとミーナらが討伐チームを作って最後は魔王となったアンジェを倒すというのがゲームの流れだ。


 俺はこんな可愛いアンジェを悪役令嬢なんかにするつもりはなかった。更にはアンジェを魔王にするつもりなんか毛頭なかった。


 引退なんてとんでもない。


 俺はアンジェについて帝国に行くことにしたのだ。

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