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3.愛しい人の娘の護衛騎士として帝国についていくためにになるためにまず一勝しました

「ラフィー、もう良くなったの?」

俺が王宮のアンジェの部屋を訪れるとアンジェが聞いてきた。


「はい、お陰さまで、姫様にはご心配をおかけしました」

俺はアンジェに頭を下げた。


「そうなんだ。ラフィーが体調が悪いなら、それを理由に帝国に行くのを止めようかと思ったんだけど……」

「何をおっしゃっているのですか? そのようなことが許されるわけはないでしょう」

俺は呆れてアンジェを見た。


「だって、ラフィーの事が心配なんだもの」

アンジェが青い瞳を曇らせて俺の顔を見つめてくれた。


「大丈夫です。俺も姫様と一緒に帝国に行きますから」

「えっ、本当に? それが、本当なら百人力だわ」

俺はアンジェの保護者の様な存在なので、保護者が付いてくるなとアンジェに嫌がられるかと危惧していたのだが、アンジェは手放しで喜んでくれた。


「だけど、そんなことが許されるの?」

逆に心配そうに俺を見つめてきた。


「大丈夫ですよ。もう俺はよぼよぼのジジイでさっさと引退しろとカスパルにも言われていますから」

俺は笑って言うと、

「あのボケナス、私のラフィーに何て事をいうのよ!」

「殿下、言葉が乱れております」

後ろから、いかめつい顔をした、アンジェの専任侍女のマイヤーが注意してきた。

礼儀作法に厳しいマイヤーはラフィーも少し苦手にしていた。

まあ、しかし、このマイヤーと二人で王妃達の行う数々の嫌がらせを乗り越えて来たのだ。


「まあ、良いじゃない。少しくらい見逃してよ。マイヤーもこれで最後なんだから」

そういうアンジェはどこか寂しそうだった。


「最後と言うと?」

俺は何も聞いていなかった。


「陛下からは帝国に留学される殿下には若手の侍女をつけるので私は王宮に残るように言われたのです」

「それは、本当なのか?」

俺はあわてて、マイヤーを見た。

今まで俺と二人三脚で王妃達の無理難題を弾き飛ばしてきた。口うるさいのが玉に瑕だが、マイヤーはアンジェを守るために懸命に王妃達と戦ってくれたのだ。それが付いてこないなんて初耳だった。


「はい。ラファエル様がついて行かれないのならば陛下の言葉に逆らってでもご一緒しようかと考えていましたが、ラファエル様がご一緒ならば姫様も大丈夫でしょう」

「そんな、マイヤー、マイヤーは私を見捨てるの?」

アンジェがマイヤーを恨むように見た。

「実は殿下には黙っていたのですが、母が年を取ってしまって家に帰って来るように連絡が来たのです。出来れば職を辞して、田舎に帰りたいのですが」

マイヤーが理由を説明してくれた。

「そうなんだ。お母様の頼みなら仕方が無いわね」

アンジェは残念そうにマイヤーを見た。


「申し訳ありません、殿下。ラファエル様、殿下をよろしくお願いします」

「残念だな。ここまで一緒にやってきたのに」

「アンジェリーナ様とラファエル様に幸多からんことを!」

マイヤーは祈ってくれた。

「マイヤーにも幸多からんことを」

「マイヤー殿に幸多からんことを」

俺達はそう言ってマイヤーを見送ることにした。

ここまで一緒にやってきた同僚がいなくなるのはてとても残念に思ったが、年老いた母が呼んでいるのならば仕方が無いと思ったのだ。



「なんじゃと、貴様がアンジェと一緒に行くというのか?」

俺がアンジェについて行く事に最初に難色を示したのが、国王のダニエルだった。


「何故、ヨボヨボの貴様が帝国に行くのだ? 聞くところによると、先日もカスパルにぼこぼこにされたと言うではないか!」

耳のいたいことをダニエルは言ってくれた。


「貴様はもう年だろう。だからさっさと引退しろと申しておるだろう!」

10も若いダニエルは最近は俺を年寄り扱いしてさっさと引退させたいみたいだった。

こいつはアンジェがアンヌの忘れ形見だという事を忘れたかのようだった。


というか、ベアトリスとシャルロッテに骨抜きにされて、最近は一緒にアンジェに辛く当たるようになっていた。

俺はそれが許せ無かった。


「だから王国の剣術指南役は辞めさせて頂きます」

俺言葉にダニエルの後ろの騎士達が何故かぎょっとした。


そう言えばこいつらも俺が教えた騎士だったか?

まあ、王国の騎士達はカスパルも含めて大半は俺が教えていたが……


「今後は姫様の一騎士として一生をかけるつもりです」

俺はダニエルに宣言した。


「なんじゃと、アンジェリーナには貴様よりももっときちんとした騎士をつけてやるつもりじゃ」

ダニエルは叫んでくれたが、俺は叫びたかった。

録な騎士をつけていないだろうが! と。


愛しのアンヌが、俺に最後に頼んできたのだ。

そのアンジェを修道院送りにして魔王にするわけにはいかなかった。


「ほおおおお、判りました。その者達と俺が勝負しましょう。それで俺が勝てれば良いですよね」

喜んで俺は提案した。


「ふん、耄碌した貴様など現役の騎士に勝てるわけはなかろう」

ダニエルは俺の案を認めた上で断言してくれた。でも、アンジェに付けた騎士どもなんて、俺から言わせれば赤子の手をひねるように簡単に勝負を付けられるはずだった。



そして、試合当日になった。


「ラフィー、今日は絶対に勝つのよ。この前みたいに、わざと負けるとか、許さないからね」

戦いの前に、俺は何故か来賓席ではなくて俺の控え席にいるアンジェから、激励というか、命令を受けていた。


「いや、姫様、この前はわざと負けた訳では無くて……」

俺は言い訳しようとした。

絶対にその時ラフィーは体調が悪かったのだ。


俺と同じで心筋梗塞になりかけていたんだと思う。


そして、カスパルにやられたショックで、心筋梗塞を発症して死にそうになった時に俺がラフィーに成り代わったんじゃないかと俺は思っていた。


「まあ、何でもいいわ。一撃で倒すのよ」

俺はそう命令するアンジェにアンジェリーナ命と書かれたハチマキまでつけさせられたのだが、この世界にこんな風習があるのか?

 

というか、帝国の王太子という婚約者がいるアンジェがこんなハチマキを俺につけさせて良いのか?

と思わないでもなかった。


俺がそう指摘すると、

「今日はマイヤーがいないから、別に良いのよ」

アンジェにあっさりと言われてしまった。

マイヤーは昨日、予定より早く荷物をまとめて王宮を去っていったらしい。


「なんだか、冷たくない?」

半分涙目でアンジェは俺に報告してくれた。


「まあ、マイヤー殿は故郷の母上が気になるからとのことでしたからな」

「でも、マイヤーは『殿下が結婚するまではお側を離れません』って、日頃から言っていたのよ。なのに学園について来てくれないって酷いじゃない!」

アンジェは納得いかないみたいだった。

その瞳から涙が流れそうになっていた。


それを見て俺は驚いた。

アンジェはマイヤーがいた頃は、マイヤーがいろいろ煩いから嫌だとか散々愚痴を言っていたのに、マイヤーがいなくなった途端に、寂しく思っているみたいだった。


「まあ、姫様、マイヤーの分まで俺が頑張りますから」

俺はそう言って励ますと訓練場に出た。


今回はよく言えば天覧試合だ。


見学席の真ん中の天幕には国王夫妻とアンジェの妹のシャルロットが席に座って見ていた。



「では、試合を始めます。青コーナー、ラファエル・サンティーニ、元剣聖です」

司会のトゥール軍務次官が俺を紹介してくれた。


「ちょっと、そこの司会! ラフィーはまだ剣聖よ。何をいい加減なアナウンスをしているのよ!」

その声にぷっつん切れたアンジェが指摘したが、

「対するは近衛騎士団期待のホープ、由緒正しいカーン侯爵家の嫡男アドルフ様です」

アンジェの言葉を無視して、軍務次官は相手を紹介してくれた。


「ふんっ、元剣聖か何か知らんが、カスパルに地面を拝まされたそうではないか。平民風情が剣聖を名乗るなんどおこがましい。ここで俺様が引導を渡してやるよ」

偉そうに青二才が宣言してくれた。


こいつは平民風情には習わんと俺に剣術を習わなかった奴だ。


「ふんっ、青二才が。一瞬で勝負をつけてやろう」

俺はアドルフに言い返していた。


よく言い返した、俺! 

侯爵令息と言えば前世で言うと専務の息子といった感じだ。前世の俺なら口が裂けてもこんな大口は叩けなかった。ラフィーの性格が乗り移ってきたんだと思う。


「小癪な、いくぞ、じじい!」

アドルフが模擬剣を抜いて俺に向かってきた。


俺は一抹の不安があった。

剣なんて前世では高校の授業で剣道をしたことがあるだけで、竹刀しか持った事が無かった。いくら剣聖ラファエルの体に転生したとは言え、果たして剣術が出来るかどうか試していなかったのだ。


まあ、なんとかなるだろう。


練習する時間も無かったので見切り発車だったのだ。


俺はまだ距離があるので、剣を握って素振りしてみた。


全然なじんでいないと俺が危惧したときだ。


スポンと剣が抜けてしまった。


「えっ?」

ガツン!

抜けた剣がもろにアドルフの頭に激突していた。


「ギャッ!」

アドルフはそのまま白目を剥いて後ろに倒れていた。


「アドルフ様、大丈夫ですか?」

慌てて審判が立ち寄るがアドルフは返事しなかった。


この国のルールでは剣術試合では参ったと自ら降伏するか、それとも意識を無くすかすれば負けだ。


「勝者、ラファエル・サンティーニ」

審判が俺の勝利を告げた。


「やったわ。ラフィー凄い!」

大喜びするアンジェの声がしたが、俺としては剣がすっぽ抜けて飛んでいって、当たり所がたまたま良かっただけだ。

狙った訳でも意図した訳でも無かった。


「おいおい、何だよ、あの試合は?」

「剣のすっぽ抜けで勝負が決まるっておかしくないか?」

「あんなので負ける侯爵令息は問題外だけど、剣聖も全然本調子じゃないんじゃないか?」

外野がざわめいた。


「トゥール、剣を投げつけるなんて卑怯じゃない! あれは反則負けよ!」

いつもアンジェや俺に突っかかってくるアンジェの妹のシャロットが審判にクレームを付けていた。


「殿下、ルールでは別に剣を投げてはいけないというルールはございません」

軍務次官はしかし、流されることは無く、はっきりと言いきってくれた。

シャロットはまだ納得していないみたいだが、あそこまで審判に言い切られるとそれ以上突っ込みようがなかった。


「しかし、ラファエルも余裕がないな。あんな卑怯なやり方で勝ちを拾うとは……まあ、これで直に奴も負けるだろう」

ダニエルの言葉に俺は少し切れかけたが……



俺としては勝利の実感が全くわかなかったが、取りあえず一人目を倒したのは理解した。

デカイ口を叩いた、侯爵令息はラフィーのすっぽ抜けた剣にあっさりと負けてしまいました。


全然勝った気のしないラフィーですが取りあえず一勝です。

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