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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第三部 六年生編
47/58

自己嫌悪って・・・


 「石塔部長、これはどういったことでしょうか、目黒スタジオ20日からのスケジュールがキャンセルされていますが」


 慌ただしくヴィクセンレコード恵比寿本社ビル最上階の俺の部屋にやって来たのは、俺の後任で営業二部長に内定したばかりの宮城清志だった。


 「ああ、美坂ミオのレコーディングは、広島で行われるそうだ」


 最上階であっても西向きの窓から見下ろせるのは残念ながら優越感浸れる都心じゃない。


 「それを木島さんが了承したんですか、あの人が目黒以外のスタジオで仕事することを」


 「いいやぁ、五郎ちゃんのプロデュースまでもキャンセルされたんだ」


 俺は、立ち上がり不都合な会話の為に大窓の側に宮城に背を向けた。見下ろせるのは世田谷一帯だ。


 「だったら誰が美坂ミオのプロデュースをするんです。まさか後町(こうまち)ですか?」


 「いいや、あいつじゃない。後町は松永ミクルにかかりきりで赤坂にいる」


 この宮城、俺の片腕として営業二部ではよくやってくれた。

 

 おかげで俺は、9月からは、先の株主総会で取締役として営業部五つを取りまとめる営業本部長の職席につく事が決まりこの最上階の部屋があてがわれた。


 このヴィクセンレコードが、老舗企業でありながら後退する事なく毎年成長が出来るのは、実績さえあげれば年功序列に関係なく出世ができる人事システムがあるからだ。


 下剋上というやつだな。


 それと他社がジャンル別に営業部を分けているのに対して、五つの営業部がジャンルに関係なく売れる音楽を競い合って売るのも数字を伸ばす大きな要因になっていた。


 五人の優秀な営業部長が死に物狂いで数字を競い合うのだから伸びないはずがないという事だ。


 「だったら、いったい誰が美坂ミオのセカンドのプロデュースをするんです。まさかセルフプロデュースなんてふざけたことを考えているんじゃないでしょうね、一部の佐藤の二の舞はごめんですよ」


 宮城にしても、俺の後任で二部長になるからには、いずれ本部長の席もと思っているはずだ。


 そこにきて数字が望める美坂ミオの期待の新譜に赤信号が灯っている事に穏やかでいられるはずもないのが、この慌てた姿だ。


 営業一部では、少しばかり売れると、セルフプロデュースを許可する傾向があり、成功すれば安上がりだが、そのほとんどが失敗に終わっている現実を、レコーディングする側の希望だからという理由で直視していない。


 「心配するな。二部との契約書にはセルフプロデュースは禁止になっている。許可なき勝手なレコーディングでアルバムを仕上げでもしようものなら費用は全額アーティストサイド持ちだ」


 他の四人の部長を差し置いて一番若くして取締役に俺がなれたのは、人材発掘にかけていい目を持っていたからだ。


 どの営業部にも属さないプロデューサーを総括する技術部には多くの有能な人材がいる。


 後町のように才能溢れる新人を見つけ出しては、トップダウン扱いで重責を与えて数字を伸ばす事に俺は長けていた。


 後町は、新興の音楽事務所ケラウズランブラ所属の美坂ミオをプロデューサーとして昨年大ブレークさせた実績は大きい。


 これもそれも無名の作曲家、園田翔を見つけ出し美坂ミオとタイアップさせた事で起きたアメージング現象だ。


 「ですが、ケラウズランブラに確認したら、すでに園田先生も了解済みらしく広島に移動されたとか、美坂ミオの広島入に先立ってバンドメンバーらとセッションに入るそうです」


 「なんだって、園田先生がか・・・あの先生が認めるほどのプロデューサーが後町以外にいたということか」


 俺の再三の酒席への招待にも応じない、園田翔。


 ここ最近も、新人シンガー『野間秀介』や男女混合ダンスアイドルユニット『猫伯爵とメイドたち』の新曲をチャート一位にした作曲家だ。


 彼の書く歌詞も評判高くレコード会社の枠を超えて作曲依頼が殺到しているという。


 「だが、広島といってもどこでレコーディングするんだ。アフターズスクールスタジオのレンタルはうちを通してでないと許可は降りないはずだ、確認はしたか?」


 「ええ、もちろんです。スクール側では、別のレコーディングスケジュールを入れてしまい今さらレンタルできる状態ではないらしく、」


 「だったら、あいつらはどこでレコーディングするつもりなんだ?」


 「部長、これはもしかして石塔さんの取締役入への専務からの牽制じゃないですかね」


 「専務の?宮城、おまえはどうしてそう思うんだ」


 「広島にレコーディング可能なスタジオがないとなるとスクール側の言う予定がうちの上層部の口利きで抑えられている可能性ですよ」


 「それができるのが専務の児玉さんか・・・あり得るな。それで、宮城よ、それを確認する方法はあるんだろうな」


 「それは簡単です。本部長からスクールの長内校長に直に問い合わせればすむことですよ。あの人は義理堅い人です。あのスクールのうちでの枠を作ったのは本部長じゃないですか、ここは、」


 「そうだな、すぐに連絡しよう --- おい古賀、広島のアフターズスクールに電話して校長を呼び出してくれ、至急だ」


 俺の苛立たしさに応えるように、脇にいた秘書(古賀)に電話させたところ長内校長とすぐに連絡がつくが、やはりアフターズスクールスタジオでの予定は有望なスクール生の為に抑えられているとの確認が取れた。


 「まぁいいさ、美坂ミオといえども指定のプロデューサーを使わずに出来の悪い物を作ったら、うちからは新譜は出せないことを教えてやるさ。それと俺の好意を撥ねつけたケラウズランブラの・・・あれ誰だったけ・・・」


 「鳴門真司ですよ」


 「ああ、あの下手なギター屋に違約金を支払わせてやるさ」


 「そうですね、美坂ミオとの契約は確かアルバム二枚でしたね。当然、更新も言ってくるでしょうが、それもこのセカンドの出来いかんですよ」


 「デビューアルバムの実績だけで充分更新の価値はあるが、今が売り時のセカンドのタイミングを逸することは許されんよ。あいつらも契約金のことを考えているだろうが、好条件の更新を目指すならここは外せないはずなのに、どうやってレコーディングするんだ?」


 「やっぱりセルフプロデュースですかね」


 「それはないさ、あのメンツでプロデュースができるやつがいると思うか。それに契約上、当社指定のプロデューサーを選択せずにレコーディングしたらその費用は自己負担だぞ」


 「ええ、でも園田先生はすでに広島入りしているとこをみると、」


 「それなりのプロデューサーを用意したわけか・・・」


 「たぶん園田先生は騙されているんですよ、予定通り後町が来るとか言われて」


 「たぶんそんなところだろうな」


 「美坂ミオは、二部の大事な商品です。下手なことを指示した張本人は、大きなペナルティーを受けてもらわないとなりませんが」


 「鳴門の奴だな、この場合は」


 「ですね」


 「まぁあいつらがどういう手段で、誰のプロデュースでレコーディングするかは知らんが、ここはお手並み拝見といこうじゃないか」


 俺は、ここで高笑いを豪快に決めた。


 「当社の指示したスケジュールに従わずに勝手にレコーディングするんですから、レコーディング費用はもちろん自己負担してもらうとして、更にその出来が悪く予定売り上げに達しなかった場合の責任は当然発生します。この場合、前例に従うのであれば、」


 「売上予定値と実数値の差額の補填だな」


 「そうです。販売開始から三ヶ月の売り上げと予定値の差額が補填対象となります」


 「それを鳴門真司は払えるのか」


 「どうでしょう、美坂ミオの三ヵ月での販売予定枚数は、ミリオン設定です。前回ダブルミリオンの実績がありますが、やはり新作の出来次第ということになるのではないでしょうか。特にドラマ、『悪役令嬢の華麗なる食卓』の主題歌となる先行して発売されるトランプルド・アンダーフットで予想はつくと思いますが」


 「うん、そうだな。とにかくだ、おまえは、園田先生に、後町は来ないと真実が伝わるようにしろ。もし、先生を騙してまでもセルフプロデュースなんて実績のないやつがしゃしゃり出ているような状態なら、うちとの契約を盾に強引に五郎ちゃんを送りこんで目黒に引き戻してやる」


 「ええ、それしかないですよ。我々の把握外のよほどの設備スタジオが広島にあるのと、我々が納得できる、この場合は木島さんを差し置いてまでもプロデュースを任せられるビッグネームでない場合は強硬手段ですね」


 「それだけじゃないケラウズランブラの野間秀介や猫伯爵も含めて、うちの直属にしてケラウズランブラを潰してやる」


 「ケラウズランブラの筆頭株主が当社の後町であるのを思い知らしめてやるんですね」


 「そうだ、後町がいくらケラウズランブラ贔屓の筆頭でも、奴は当社のスタッフだ。資金だって社から借りてのものだし、何かしかけてきても、奴が打つ手など私なら易々と撥ね返せる。これは、もしかして最近偉そうな、あの後町の鼻っ柱を折ってやるいい機会かもな」


 「本部長、後町の奴、今は松永ミクルに掛かり切りですし、そのあともミヤケのボーイズシャンデリアの新譜が予定に入っています」


 「あいつの才能を見出したのはこの私だよ。ここは私の命として二部のおまえに従ってやってもらわんとな」


 「全くその通りです」


 「後町はなんといっても当社の売れっ子プロデューサー様だ。どこでも奴をプロデューサーにするといえば喜んでレコーディング負担金をケチらずに出してくる。奴は本当に財布の紐を緩めさすのに適した人材なんだ」


 「児玉さんは、もったいない使い方だと言って、石塔さんの方針にクレームを隠していませんが、それに他の営業部からも二部での後町の独占にかなりクレームが入っているようですね」


 「ああ、私のとこにも陳情がきてるよ、もう間もなく本部長に就任するんだから営業部全体のことを考えろとな」


 「ですよね、でも、」


 「ああ、わかってる。おまえのこれまでの貢献には私は、深く感謝しているんだ、蔑ろにはせんよ。おまえはとにかく園田先生を確保しろ。それと鳴門の奴を私の前に引きずり出してこい、聞きたいことが山ほどある」


 「わかりました。ですが8月の定例会議は四日の月曜日です。鳴門も来るはずですし、そこで問い詰めればいいのではありませんか」


 「そうだな、定例会議にあいつも招聘されていたんだったな、そこで話を聞かせてもらうとするか」


 ここで俺は、俺らしく豪快に笑ったが、この宮城に対して最後まで顔を向けることはできなかった。


 というのも、俺はミヤケエージェンシー所属の松永ミクルを二部長としての権限で、「売り出してやる」と三宅範義と特別な約束を交わしていたからだ。


 ミヤケエージェンシーの二代目社長、三宅範義は評判のやり手の男で、


 「石塔さん、ミクルのことを本当にお気に召していただいたようですね。今後とも可愛がってやってください」

 俺が、自己嫌悪に陥っていた過去を嘲笑うように、また宿泊先の箱根の宿に松永ミクルを寄こしてきたのだ。


 俺は、これまでも何度も松永ミクルを未成年であるにも関わらず閨奉公をさせていた事から、ついには美坂ミオのプロデューサーとして最適任者である後町のスケジュールに介入してまで、三宅範義の要請に応じて松永ミクルの担当にしてしまったのだ。


 再び自己嫌悪に陥る俺だった。

 

 その代わり、俺の一番信頼する木島五郎を美坂ミオに派遣したが、どうやら鳴門は、それが気に入らないようだ。


 だが、それはそれ、俺の指示に従わない鳴門の奴にはペナルティーを課してやるしかない。


 そんな、いくら呼び出してもやってこなかった鳴門の顔を見る事になったのは、やはり定例会議だった。


 この会議の冒頭で、いきなり五郎ちゃんが今さらの事で児玉専務から叱責を受けた。


 「美坂ミオは当社の看板になり得る逸材だぞ。どうして、きみがその大事なレコーディングスケジュールに介入したんだ。美坂側は、後町君で準備万端用意していたそうじゃないか」


 俺の指示だと言えるわけもない五郎ちゃんに対して、児玉は俺の代わりに彼を責めてきた。


 (なんて陰湿なんだ)


 俺の憤りは五郎ちゃんにも伝播する。


 「僕は、美坂ミオに良かれと思ってレコーディング指揮を買って出たんですがね。それのどこに問題がありますか?実績から考えても、この僕が担当するべきでしょう」


 立ち上がってまでの発言を鼻で笑うように、児玉は座ったまま、


 「良かれだって?ケラウズランブラは、木島君のプロデュースじゃ音が古くなるを理由にすぐに断ったそうじゃないか。それなのにきみは、それを聞き流し強引にレコーディングを勝手に進めようとしたそうじゃないか」


 眼光を鋭くして言い放ってきた。


 「古いですって!」


 「だそうだ、それできみがこのまま居座るならレコーディングは自分たちだけでやるとまで言ってきているよ」

 

 「ほぉ~自分たちだけで、費用面も含めてでしょうな」


 「ああ、自己負担するらしい」


 「それでキャンセルですか、大いに結構じゃないですか。ケラウズランブラは私の代わりに誰をプロデューサーにするんでしょうね〜まさか販売元のうちの承認もなしに外部からですか?それともセルフプロデュースなんてふざけたことでも言っているんですか」


 「木島君、きみはどうやら石塔君のことをよく知らないようだね。いい機会だ彼のことをここで教えておいてあげますよ。私は石塔君とはきみより付き合いが長くてねよく知っているんだが、彼はきみのことをここで助けたりはしないよ。この責任はきみだけが着ることになるが、それでもいいのかね」


 「専務の言ってらっしゃる意味がよくわかりません、何のことです?」


 「とぼけなくてもいいじゃないか。きみはこのままだとトリプルミリオンにもなろうかという美坂ミオと後町健司のコンビニ水を差した張本人になりかねんよ。木島君きみは、誰かの命を受けて美坂ミオのレコーディングスケジュールに介入したよね。それが石塔君だと私は知っているんだが、証拠がないからね、ここは当事者の証言がいるんだよ。さぁ聞かせてくださいよ木島君、きみは誰の命でうちのドル箱コンビの邪魔をしたのかを」


 この児玉の溢れんばかりの敵意にたまらず俺は立ち上がった。


 「なんですか専務、私に言いたいことがあれば、直接言って下さいよ。何も部下イジメを会議の席上ですることはないじゃないですか」


 ここはイジメを強調して、五郎ちゃんへの助け船というよりは児玉に対して牽制をしてやった。


 「ほぉ~珍しいこともあるもんだ、石塔君が助け舟とは、驚いたよ」


 人を小バカにしたような話ぶりに、怒りを抑えるのに苦労するもそこは取締役になろうかという俺だ、ググッと我慢してみせ冷静に反撃に出る。


 「忘れてもらっては困るんですが、プロデューサー木島の美坂サイドへの派遣は専務も承認してくださったことですよ。それを棚に上げてことさら騒ぎにするのはいかがなもんですかね」


 「うん、確かにそうだね。私は石塔君からの稟議書にサインをしたのは間違いない。だが、忘れてもらっては困るのは私の方でね、きみは、ケラウズランブラの鳴門社長の意向だと私に言ったからサインしたんだが、どうやらそうではないらしいじゃないか ――― そうだろう鳴門君」


 どこに隠れていやがったのか、俺の再三の呼び出しにも顔を出さなかった鳴門真司が会議室の遠く末席から立ち上がった。


 「児玉専務に申し上げます。当社としましては園田翔という未曽有の天才作曲家を当社に紹介してくれた後町健司氏を美坂ミオのプロデューサーにお願いしたのは、間もなくトリプルミリオンにもなろうかというミオファーストのプロデューサーであったからであり、セカンドは当然、前作よりも上回る作品になるように準備を後町健司氏と二人三脚で進めていたのに、急に梯子を外されるような処置に承服できるはずもありません。もし、専務の耳に私の意向として木島さんの派遣を願っていたなどと伝わっていたのなら当社に対する悪意以外の何物でもありませんが」


 (覚えてろよ、鳴門!)

 

 「悪意」などと俺にとって不都合な事をぬかしやがって最後の手段を俺は選択するしかなくなった。


 (ここは、とぼけるしかない!)


 「ということなんだが、石塔(せきとう)君、この状況をどう説明するんだ、きみは私にウソの報告をして稟議書にサインさせたことになるが、何か言い分はあるのかね」


 「もちろんです、児玉専務。私が専務の部屋でプロデューサー木島のことを承認してもらうのに、鳴門社長の意向などとは言っていませんよ。先ほど木島君からありましたように、美坂ミオに良かれと思い、私は後町を外して木島君の派遣を決めたのです。ですから、このことを問題視する理由がありません。いくら後町プロデュースでダブルミリオンになろうとも過去の実績を鑑みても木島君の方が最適だと私が判断したんですが」


 「それで後町君をミヤケエージェンシーの松永ミクルのところに派遣か・・・面白いな」


 児玉の不敵な笑いが会議室に響き渡った。


 「何が面白いんです。松永ミクルはグラビア部門ではダントツ人気NO1の将来有望なアイドル歌手ですよ、当社の有能なプロデューサー後町を送り込んで何が悪いんですか?先方からも強い要請があったのでそれに応えただけのことですし、レコーディング費用もミヤケ側の100%負担です。それに美坂ミオには園田先生がいればなんとでもなるはずですので、私の判断は間違っちゃぁいない」


 「面白いと言ったのはきみのウソ証言だよ。この私がきみからの申告を聞き逃すとでも思うのかい、石塔君。きみは間違いなく鳴門君の意向として木島君の派遣を私に打診してきたんだが覚えていないのかい」


 「そんなバカな、私は、私の判断だけで専務に許可をいただいんですが、そこに間違いはありませんよ。専務ももうお歳ですし、記憶違いをなさったのではありませんか」


 ここで俺の笑い声をかき消すように児玉の笑い声が覆いかぶさってきた。


 「おいおい石塔君、私をあんまり笑わせないでくれよ、本当にきみはいつも面白いな。さっきも言っただろう、私はきみとは付き合いが長いんだ、ぬかりがあるわけないだろう ――― 例のあれを」


 児玉は後ろに控える秘書に何かを耳打ちで命じた。


 会議室のモニターに映し出されたのは、この俺にとってなんとも不都合極まりない映像だった。即ち、俺と児玉の会談風景の録画映像だったのだ。


 (隠し撮りなんかしやがって)


 その内容は、俺が鳴門の意向とはっきり何回も言って児玉にサインを求めているところだ。


 (終わったな)


 俺は、就任するはずだった取締役話が流されるだけでなく、上司を騙して稟議書にサインさせた罪を問われ退職金もなく解雇される事になるだろう。


 だが、救い船が現れた。


 「石塔君、私は、きみをなにも責めているわけじゃないんだ。きみも忙しかったんだろう、記憶が曖昧になってもしかたがない。この件は不問にしてやろうじゃないか」


 なんと俺の失脚を目論んでいるかにみえた児玉自身が救い舟を出してきたのだ。そして俺を近くまで来るように手招いてくる。


 そこで俺の耳元に、救済する条件が小声で告げられた。


 「石塔君、今後の三宅範義氏との個人的な交際は謹んでくれたまえ。あんなことが明るみになれば、きみだけじゃなくうちにも傷がつくからな。あれはきみが私にウソを言ったことどころではない大きな罪になるぞ。くれぐれも自重するように頼んだよ。そして絶対に世間に漏れないように隠蔽に処理してくれたまえ」


 (こいつ俺とミクルのことを知ってやがる)


 俺は汗が吹き出し、頭を深く下げるしかなく、


 「今回のことは大きな貸しだよ石塔君。きみを今回不問にするのは、言うまでもなく当社の膿を穏便に当事者に処理させるためでもあるし、私はきみに大きく期待しているからだよ」


 念まで押された挙句、恩まで着せられて再度頭を下げるはめになったのだ。


 この児玉の耳打ち救済行為で社内上層部のパワーバランスが大ぴっらになり、著しく俺の営業本部長としての影響力が失墜してしまった。


 (クソ!これを狙ってやがったのか)


 俺がうなだれて自席に戻ると、このウソ証言が罪に問われなかった理由が児玉の口から皆に告げられた。


 「今後、ケラウズランブラ所属のシンガーのプロデュースは園田先生御自身が自らされることになった。これも石塔君の激務からの記憶障害のお陰だ、感謝するよ」


 俺以上に豪快に笑う児玉からの報告に誰もが驚いたが反論を口にする事はできなかった。


 作曲家として飛ぶ鳥を落とす勢いの園田翔が、自分の作品のプロデュースを自らするという話に誰しもがプロデューサーとしての実力を知らないにせよ、その実績から反論ができなかったのだ。


 なんせ、園田翔の作品がオリコン上位を独占している最中だったからだ。


 それでも、「古い」とまで言われたベテランプロデューサーの五郎ちゃんは、児玉のように笑う気になれない疑問を口にする。

 

 「専務、そもそも園田先生にプロデュースができるんですかね ――― どうなんだ鳴門社長、園田先生は作曲家であってプロデューサーではないよなぁ」


 この五郎ちゃんからの問いに、鳴門は自信ありげにスクッと立ち上がり即答した。


 「できますよ、というかすでにレコーディングは始まっていますが問題なく進行しています。そもそも後町さんを我々が指名したのは園田先生のサウンドを再現できるといった理由で、園田先生が後町さんを指定していたんです。その後町さんが無理であるのなら先生御自身がプロデュースをすることになっただけですよ」


 「鳴門君、ここは、百聞はなんとやらだ、美坂君の新曲をここで皆に聴かせてやってくれんか」


 児玉のこの発言に俺は驚いた。


 今日は8月4日の月曜日だ。美坂ミオのレコーディングが始まったのは1日の金曜日からだというのにもうできあがった曲があるという事にだ。


 「はい、わかりました。ミオの新曲のタイトルは、トランプルド・アンダーフットです。この曲が9月からのドラマ『悪役令嬢の華麗なる食卓』の主題となります。作詞はミオが担当して作曲とプロデュースは園田先生です。そしてバックバンドのキーボード奏者も先生がやって下さっています。それにジャケットもファースト同様にシンイチ・ミゴが担当です」


 ♪~


 事前に用意されていたのだろう、鳴門が頷くと会議室の視聴用の大スピーカーから曲が流れ出した。


 シングル曲トランプル・アンダーフットはインストの導入部から始まる珍しいスタイルで美坂ミオの声がまるで楽器の一要素として扱われている。


 そして彼女のハイトーンの声を軸に艶のある低音男性ヴォイスがからみつくようにミックスされていた。


 そこから繰り広げられる変幻自在の音色を奏でる凄腕キーボードに極太のベースが重なり、ギターまで加わると、よくデザインされた絢爛豪華なサウンドとなった。


 上質のダビングを重ねたトランプル・アンダーフットは、まるで音の万華鏡のようで、聴くもの誰にも強いインパクトを与えるものだった。


 (これは凄い作品だ)


 俺は、園田翔の実力を見せつけられ、鳴門の主張した、「古い」の意味がよく理解できた。五郎ちゃんも項垂れている、が、この俺様は、これぐらいではへこたれやしない。


 「凄いじゃないか、園田先生は、こんな良質な作品に自分の作品とはいえ仕上げるとは、恐れ入ったよ。美坂ミオもさることながらツインボイスも凄い肺活量に物をいわせた声に私は痺れたよ。これはアルバムの仕上がりが実に楽しみだ --- ねぇ専務」


 手を叩いて真っ先に立ち上がってまで大げさに賞賛してみせたのだ。


 ここで立場をなくしたのは、五郎ちゃんだったが、俺を恨み目で見ながらすごすごと会議室から出ていった。


 結局、この会議では広島の『マダム麟子スタジオ』なるレコーディング設備を整えたスタジオの存在が明らかになり、スタジオオーナーのマダム麟子こそが美坂ミオとツインをなしたヴォーカリストであることも併せて紹介された。


 広島でのレコーディングにこだわったのは、そのマダム麟子の都合によるものとされ、園田先生にはずいぶん御足労をかけている事なども報告された。


 ◆


 夏休みの恒例のリクを伴っての京都行は、今年はお盆明けになってしまった。


 一年前に始めた三世流の舞とフランス語の成長ぶりを見てもらういい機会であり、今年はスズも一緒に行くので楽しみにしている。


 お盆明けになった理由はいうまでもなく、ミオ姉の新譜のレコーディングが夏休み頭から入るためだ。

 

13時から18時までの五時間がスタジオに束縛されることになった。


 急ごしらえのスタジオは思った以上に上質で、いい結果を生む事になる。


 ここで出会ったマダム麟子の体格からくる肺活量にものをいわせたヴォイスは素晴らしく、バックコーラスだけじゃなくツインボーカルとしても機能した。


 (本当にいい出会いだ)


 マダムをこの俺が雇うに至るには、事前情報があった。


 生前ワールドではマダムはガス自殺を遂げていた。


 その死後に出されたペンネ―ム、イザベラで出版された『醜くも美しい人』と題されたエッセイが売れた事で俺の知るところとなったのだ。


 特に広島が舞台でありドラマ化に際してロケが近所であった事から地元では話題になり、俺も高校の時にドラマで泣いたくちだ。


 その事を思い出したのは、偶然だった。


 事務所から帰宅するために階下に降りた際にノッコが、


 U^ェ^U ナンダ?ナンダ?ナンダ?

 興味本位で地下へ降りていってしまい、


 「ノッコ勝手にどこに行くんだ」


 あとを追うと『マダム麟子』のまるで普通の会社を思わせるような黒に白字の看板を目にした事でだった。


 (あの店は、ここだったのか)


 エッセイには、子供に動物好きな心優しい一人の巨漢の姿が描かれていた。


 東京時代の華やかな日々のコントラストとして、人生の最初と最後の広島での苦難ばかりの話。人知れず自ら命を絶ったとこまでを丁寧に描いた作品は本当に心をうちよく売れた。


 偶然にもノッコのお陰で出会ってしまったエッセイでの主人公、マダム麟子は本にあるように本当に見た目は悪鬼の如しだが親しめば親しむほど心にしみる安らぎをくれる優しい人で、三五では失敗した延命だったが、マダムの運命変えに成功したのを俺は自画自賛した。


 《これが自然の摂理というやつなのか》


 俺は、この不可解な現象を、


 (リクへの復讐に役立つアイテムなら俺の思うまま)


 そう結論づける事で納得して(どうして三五は)なんて悩む事をしなかった。


 そしてエッセイの作者ジャン・アンティガには、イザベラと名乗る彼女に俺とリクのフランス語のレッスンを依頼する事になる。


 彼女もまた心優しく、その()()()喋り方にリクは当初戸惑いがあったようだが、すぐに親しんでくれた。


 レッスン場所も彼女は近所の女子大の講師という事もありこれまでの片道50分かけて橋本町に通うよりはずいぶんと近くなった。


 そこは、イザベラが男性であるにもかかわらず女服を着る自宅マンションで、リクには刺激が強かったようだ。


 でもリクの両親は、この時代にはまだ知られていない『トランスジェンダー』なる言葉をよく理解し問題にはしなかった。


 というよりかえって安心したようで、イザベラはリクの弟トオルが最初こそ驚いて逃げ惑うような事があったらしいがリク宅にも招かれるようにもなったのだ。


 そして面白い事にリクママとは特別仲良くなり俺ママとも親交を深めていくのだった。


 ◆


 夏休み前に響華は、三つ目と四つ目になる帽子をまた作って持ってきてくれた。


 ありがたい事に本当に俺は帽子コレクター入りしてオシャレにこだわれるようになった。


 ミオ姉さんにも褒められた帽子。


 「これ素敵じゃない、私も欲しい」

 勝手に被られてしまい、そのまま広島でのスタジオフォトセッションにも無断で使用されてしまった。


 これは、後日、響華に不思議がられる事になる。


 「この美坂ミオの帽子、私が作ったのに似ていると思わない?」

 雑誌を見ながらだ。


 華怜にも夏休み前に身内に動きがあった。なんと姉の美弥子が東京の芸能事務所の目にとまりグラビアアイドルとしてデビューする事になったのだ。


 事務所がかなりの大手らしく、ゆくゆくは女優に歌手なんて話もあって東京に引っ越すようだ。


 そして華怜自身も、俺からエッチをされてからというもの、大人の女に変貌しつつあり、仕草が妙に艶っぽくなってきていた。


 ▲ 心内会議 ▼


 《あれはまずかったな》


 (ああ、しくじりだ。理恵さんのことを思い出してしまい、つい、あんなエッチなことをしてしまった)


 《しかたがないさ、俺は本来32歳なんだ。こうまで女日照りが続くとあんなこともあるさ。とくにカレンにはリンリンに似た面差しと雰囲気があるからな、この先、気をつけようぜ》


 (ああ、わかってる)


 《それで俺ヨ、オレから提案があるんだが・・・》


 (オレからの提案だって?なんだなんだ)


 《いつまでもガキと思っていたオキョンにカレンだが、あいつらもう随分前から生理が始まってるぞ》


 (ああ、知ってる。特に華怜のは性質の悪い生理だな。思い出すよ、生理初日の理恵さんの機嫌の悪さ、そんなとこまで似てやがる)


 《リンリンは怖かったな》


 (ああ、あれは怖かった。で、よくEVEを買いにいかされていたのを思い出したよ)


 《と、いうことで提案なんだが、この先は子供付き合いじゃすまない。間違いが起こる可能性を考慮して俺からのカレンやオキョンに対してキスは完全に禁止にしないか、特にこの前のようなエッチプレーは厳禁にしようぜ》


 (間違いだって?ナイナイナイあるわけないだろう!)


 《そうかぁ~今はまだ精通なく我慢できるが、こうも女日照りが続くと俺だって男だ、わからんということだ》


 (そういうもんかなぁ・・・そうだな、これまでうやむやにしてきたけど、そろそろそちらへ舵を切るか、ちょうど俺は華怜にあんなエッチをしてしまって自己嫌悪に陥っている最中だしな)


 《おい俺ヨ、聞き捨てならんことを!スィラブマスターともあろうものが自己嫌悪だって、やめてくれよ、冗談じゃない!》


 (ああ確かにスィラブではイベント後の感情選択で【自己嫌悪】を選んだら大減点なのはよく覚えているが、だからといってウソ偽りない今の俺の気持は、自己嫌悪なんだよ、何か問題があるか?)


 《何か問題があるかだと、マジかよぉ~おい俺ヨ、なんでスィラブで【自己嫌悪】を選択すると減点が半端なく大きかったのか考えたことあるか?》


 (大減点の理由か・・・考えたことないな。俺があのゲームをプレーするにあたっての謎の一つだよ)


 《()がスィラブプレー中に自己嫌悪に陥ったのは、今回のカレンにエッチをしてしまったケースに似ているだろう》


 (ああ、あとから後悔するような行為をした後に自己嫌悪は発生するな)


 《具体的にどんなシュチエーションで発生したか覚えているか?》


 (具体的か・・・スィラブ中学生編では、清麻呂には交際相手の七瀬ちゃんがいたというのにクラスメイトの美幸ちゃんと【シークレットデート】をした後に発生したな・・・たしかウソをついたんだ、「何をしていたの」と七瀬ちゃんに問われて、「浩人と遊びに行っていた」とか言って)


 《だったな、七瀬のウソ話を疑わない眼差しに清麻呂は自分の行為を恥じて【自己嫌悪】に陥ったんだよな。そのくせ、》


 (そのくせ清麻呂はその後も、経験値欲しさに、何回も【シークレットデート】を繰り返しては【自己嫌悪】を選択していた)


 《そして最後にはばれてしまい大ペナルティーをくらったな。それにも懲りず俺は、高校生編でも、》


 (ああ、高校生編で、清麻呂が【自己嫌悪】を選択したイベントは、たしか・・・)


 《紀香ちゃんだ》


 (そうだった紀香ちゃんだ!あれは親友浩人のカノジョだった紀香ちゃんに恋心を持ってしまいアプローチまでしてしまったことで発生させてしまったな【自己嫌悪】》


 《そうだ》


 (あれは浩人にバレなかったのを幸いに恋心が膨らむのに任せて徐々にアプローチの頻度と質を高めていって、最後には親友を裏切るような【シークレットデート】をしてしまい【自己嫌悪】を発生させてしまった)


 《その通りだ。にも関わらず俺は、それからも【シークレットデート】を繰り返したよな》


 (そうか・・・【自己嫌悪】を選択したのに清麿は、何回も親友を裏切り紀香ちゃんをものにできた喜びに浸っていたんだった)


 《それで今回はカレンにあんなエッチをしてしまったあとに俺は自己嫌悪に陥ってしまっただろう》


 (ああ、その通りだ。カレンに濃厚キスをしながらスカートの中で太股をまさぐりブラウスのボタンを外しブラにまで手をかけた行為を俺は短い時間とはいえ楽しんでしまったんだ。そのせいで今現在も自己嫌悪中というわけだ)


 《ということは、俺はまた清麻呂のように同じ過ちを繰り返すということだぞ》


 (そうはならんよ!ゲームと現実は違うんだ。俺は邪心を払いリクプレーヤーになると決めたばかりだぞ)


 《おい俺ヨ、マジで覚えていないのか?スィラブの感情選択に【自己嫌悪】とは別に【反省】という項目があっただろう。あの時に【反省】を選択すると減点が少なく親友浩人との絶交イベントは発生しなかったのを》


 (そうだったな、だが俺にはそこがようわからん【自己嫌悪】と【反省】は別物なのか?同じことのように思えるんだがな・・・》


 《マジか・・・あのなぁ俺ヨ~自己嫌悪というからには、カレンにあんなエッチな行為をした俺を恥じている俺と、このオレに恥ずかしいと思われている()が二人いるということじゃないか、そこはわかるか?》


 (うん?わかるようなわからないような・・・)


 《いいか俺ヨ、カレンへのエロ行為は、現実に俺がしたことだよな、そこは、わかるよな》


 (ああわかるよ、理恵さんを思い出してしまった行為だが、それを嫌悪していると言っているんじゃないか。思い出しただけで胸が痛むぞ、あ~なんてことをしでかしたんだとな、リクへの裏切りとも考えると本当にこれは苦痛だぞ)


 《何が苦痛だぞ、だ。いいか、俺がカレンにしたあんなエッチな行為は、あいつ(リク)への裏切り以前に()の欲求を満足させようとした行為だったんだぞ》


 (ああ、その通りだ。短時間とはいえ理恵さんに浸り俺は自身のエロな欲求を華怜で満足させようとしたぞ。だから今も俺は、華怜に対して申し訳なく思い、恥ずべき行為だったと自己嫌悪が続いているんじゃないか)


 《なぁ俺ヨ、ここでよく考えてみろよ。カレンに対してあんなエッチなことをしてあいつ(リク)だけじゃなくカレン自身にも申し訳なく思い自己嫌悪が今もなお続いている俺と、あんなエッチな行為をしたことを恥ずかしく思っている俺がここにいるわけだ、わかるよな》

 

 (ああ、なるほど!たしかに俺自身を嫌悪している俺と、オレに嫌悪されてる俺の二人がいるな・・・ということは、どちらかの俺は偽物なのか?)


 《そうだ二人のうちどちらかは偽物だ。さて、どっちの俺が偽者かわかるか俺ヨ》


 (あーーーこれは簡単なことだな。恋愛対象でもない小学生の華怜にやらかしてしまった俺がまぎれもない本物であり、そんな俺を嫌悪しているオレが偽物だな)


 《ほ~う、なんでそう思うんだ俺ヨ》


 (モラル面もさることながらリクへの裏切り行為を阻止するために中止した華怜への行為だったが、喜びがあり楽しんでしまったのはどう考えても現実だろう。それに対して俺の恥行為を嫌悪するオレとは、しょせんはモラルという面をつけた作りもんさ)


 《なるほど》


 (まてよ、俺はこれまでも華怜に限らず響華やリクにも自己嫌悪行為を繰り返してるじゃないか!)


 《その通りだ!()は、自己嫌悪に陥っても、また恥ずかしくなるような行為を懲りずに何度も繰り返しているんだよ。その度に自己嫌悪に陥っているじゃないか、そこに気が付いたか》


 (ああ、しっかり気が付いたよ、なんてこった・・・)


 《自己嫌悪とは思い出すだけで恥ずかしくなって居たたまれなくなるという苦痛を伴うが、実は嫌悪した行為の再発防止に役立つどころか再発促進剤なんだよ。だからスィラブでは、大減点なんだ》


 (再発促進剤だって自己嫌悪がか?)


 《そうだ》


 (どうしてだ?俺にはわからんぞ。ということは、俺はこんなに自己嫌悪しているのに、あんなエッチな行為をまた華怜にしてしまうのか)


 《ああ、高い確率でな》


 (本当か?どうしてそうなるんだ)


 《そんなの簡単さ、いいかよく聞けよ俺ヨ、俺はカレンにあんなエッチなことをしてしまって居たたまれなくなり心に苦痛が生じてるだろう》


 (ああ、心が凄く痛いぞ)


 《そう、それだ、それ。そんなに苦痛を伴うものだから()は、てっきり罪が洗い流されたと勘違いしているんだ》


 (罪が洗い流されるだって???)


 《(みそぎ)のことだよ》


 (禊?・・・俺に生じた苦痛が禊だと勘違いしているというのか?)


 《そうだ、要するに恥行為を何回繰り返しても自己嫌悪することで心痛み、罪が清められたと勘違いして、反省をしなかったことから同じ過ちを繰り返してしまうんだ》


 (ということは、自己嫌悪とは俺自身へのペテン行為じゃないか)


 《やっとわかったか、そういうことだよ。やりたいことをやってしまって満たされた()が責任から逃れる為に便利に使っているのがウソの禊、自己嫌悪の正体なんだ》


 (ウソの禊・・・)


 《ああ、だから本心からあの行為を恥じているのなら、ここは【自己嫌悪】を選択するのではなくしっかり【反省】を選び完全に禁止行為にしてしまう必要があるんだよ》


 (なるほど、だからキス完全禁止令を発布するべきだというんだな)


 《そういうことだ。カレンにエッチな行為をして後悔して今みたいに自己嫌悪しても、またリンリンのことでも思い出しでもしたら、》


 (また同じようなことをしてしまうと)


 《だろうな、いくらオレが戒めても、同じようなシチュエーションになると、リンリンのせいにしてまた同じような行為を俺は繰り返すんだよ》


 (そういえば禁煙の誓いを破る度に自己嫌悪に陥ってた奴よくいたな。あれと同じだな、自己嫌悪してはすぐにまたタバコを吸う)


 《あれほど禁煙の誓いを破った自分を嫌悪したくせに、酒を飲むとまたタバコを吸ってしまうとか嫌なことがあるとそれを理由にタバコを吸ってしまうとか》


 (酒のせいにしたわけか、嫌なことがあったも言い訳ネタにしたわけだな)


 《()はリンリンを思い出してしまったを理由にしてカレンにあんなことをしてしまったんだよ》


 (そうか本当なら嫌悪というやつは、タバコを側に近づけないはずなのに、それができないとところをみると自己嫌悪での嫌悪というやつは、本当の嫌悪じゃないんだな)


 《よく気が付いたな、それが正解だよ。しょせん自己嫌悪する()は、自身を騙す為に生み出された想像のオレ()でしかなく、その想像のオレ()がいくら自己嫌悪しても現実の俺に影響力をもたないんだよ、わかるよな》


 (つまり、想像のオレが現実の俺を嫌悪しているということか)


 《そういうことだ。俺が自分を騙す為に都合よく想像した理想的なオレが現実の()を嫌悪していることを()()()()というんだよ》


 (だったらどうして、そんな想像の産物を俺は生み出したんだ、必要か?)


 《え~そんなこともわからんのか俺ヨ、絶対に必要だろう。想像から生み出されたオレとは復讐ゲームのプレーヤーとしてあいつ(リク)以外には、清く正しい道徳的な理想的な俺なんだよ。間違ってもあいつ以外の少女にエッチ行為なんかしない俺こそが理想的なオレ()なのさ》


 (なるほど第三者の目を意識して想像したオレだな。それとも、こうありたいと思う道徳的なオレか?)


 《何を言ってるんだ俺ヨ、違うだろう。あいつに幻滅されないオレこそが理想的な()なのさ》


 (ということは想像した理想的なオレとはリクの目と俺の自尊心によってできあがっているというのか?)


 《そういうことだな》


 (必要なのか?想像上のオレって・・・)


 《あんな小便臭いカレンに手を出したという自尊心が傷つくことを考慮したらいるんじゃねぇ》


 (なるほど、俺の自己嫌悪とは、リクから幻滅されてはならない俺と俺の自尊心がミックスされて作られているんだな・・・)


 《そこまでわかれば、今後は、あんなシチュエーションを呼び起こさないための手段として【自己嫌悪】するんじゃなくてしっかり【反省】してキスを完全禁止するというルールを作るのもわかるな。二人きりで部屋にいるのも禁止だ》


 (わかったキス完全禁止条例を承認するぞ、リク以外にはもうキスしない)


 《だな》


 ▽


 俺はこうして新たな方針を定めた。これまでガキ扱いしてきた俺のハーレムメンバーをこの先、大人扱いすると。


 要は、幻滅を避けるためにリクに対して清廉潔白でありたいという気持を優先させる選択をここでしたのだ。


 裏切り行為をした俺が、現実でやらかしてしまったこととのギャップを埋めるのが自己嫌悪の正体と気がつけばこそで、これまでの条約より堅いものになるはずだ。


 栄えある大人入りさせたのは、篠崎華怜と長谷部響華の二人に加え、下級生ながら俺好みの可愛さ振りまく姪っ子キャラNO1の徳重ナオも含めたものだった。


 もちろん「リクに対してだって必要以上に親密にはならない」そんな条項も加えている。



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