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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第二部 五年生編
38/58

挫折からの決意


 やられた!


 俺はどうやら、とんでもない事に手を出そうとしていたらしい。


 三五の運命変えにしくじったというのに、それに懲りずというか諦めが付かず、勇者の如く災害から人を救おうとスズテレを使ったあれやこれやと策を本気で練り始めたとたんに、腔内起点のれいの頭痛に襲われて気を失うというアクシデントにまた見舞われたのだ。


 俺はこの走馬灯ワールドで、人の命を救うとか悪を懲らしめるとかいう使命感に突き動かされた行動に関与できないのがこれで判明してしまった。


 言うなれば、明日起きる火事での被害者を救ったり、幼い自殺者を救う事もできないという事で、俺は純粋にこの走馬灯ワールドでは、ただのNPCもどきでしかなくリクの盛り立て役でしか活動ができないのを改めて思い知らされたのだ。


 (つまらんぞ、俺のチートな未来予測を活用してはダメということか)


 床にスマホが転げ落ちたまま、目覚めた俺は、あれほどの頭痛が収まっているのを確認すると起き上がった。時間にして五~六分俺は気を失っていたらしい。


 (あー死ぬかと思った)


 この激痛は、京都の河原依頼だった。


 俺は、三五ショックから立ち直るために挑んだのが、この先に起きる大震災情報を発信するために身近な災害案件で予行演習でもしようかと考えたんだ。


 (俺は、勇者でもなく魔術師でも魔法使いでもない。預言者じゃないか!)


 そんな事を、JUDAS PRIESTのノストラダムスを聴きながら思ってしまっていたのだ。

 

 大預言者気取りになり、この先の活躍に自身で気を昂らせていたのに、このざまで、三五を救えなかった事を改めて思い知らされた。


 ▲ 心内会議 ▼


 《正義感も禁止ということだ、俺ヨ、諦めろ。この走馬灯ワールドでは、俺は、あいつをいかにクイーンにさせるかという復讐ゲームのプレーヤーとしてしか生きられないということだ。覚えてないのか?俺ヨ、俺は、この世界に残って自身の復讐のために生きると約束したんだぞ》


 (約束?誰とだよ)


 《覚えてないのか・・・》


 (なんの話だよ。それより、金儲けの禁止ならモラルの観点からわかるが、人を救うことの禁止は納得できんぞ。再度チャレンジするべきじゃないか。チート作曲にしても頭痛が出てこない方法を編み出した結果が、金を生んでいるだ。頭痛に見舞われない方法を編み出しながらなんとかもう一度、)


 《おい俺ヨ、気が付けよ。作曲家は【幻滅】を避けるためのオレのスキル上げであり、あいつへの復讐ゲームに必要だから認められたにすぎんことを。もし正義感を前面に出して預言者を気取ってこの先の大災害に挑むというのなら、全ての予測可能な災害に対しても同じスタンスで関わらないとならないということだ。近所の交通事故から、遠く国外の災害にまでも関与しなければならなくなり、あいつへの復讐どころではなくなるということだぞ》


 (そんなことわかってるさ。リクへの復讐なんてやってられないだろう。もっと大事な使命があってここへ飛ばされたと考えろよ)


 《バカか!この走馬灯ワールドゲームから逸脱しそうになったから俺は、頭痛で気を失ったんだろうが。このままこの走馬灯ワールドから弾き飛ばされていたかもしれんのだぞ!》


 (うっ・・・)


 《頭痛の間隔だって以前に比べれば狭くなっている。警告ともいうべき頭痛現象は無制限ではない可能性だってあるんだぞ》


 (数に限りがある可能性か・・・)


 《考えてみろよ、俺が正義の預言者でこの広島に転生できるんであったなら転生すべき時代が違うだろう。大災害を救う正義の預言者としての使命が与えられたなら、この時代じゃなくて死者14万人も発生させたあの原爆が落とされる前だ》


 (あっ・・・)


 《わかったか14万人だ!》


 (だったら俺は、当初の目的のみにこの未来予測という大いなるスキルを使えということか・・・それは、あまりにもバカバカしいし、もったいない。なんとかすれば救える命は山ほどあるのに・・・)


 《その気になれば稼げる金は山ほどあるのにと、同じことなんだよ。この走馬灯ワールドにやってきたときに、最初にあいつへの復讐ではなく預言者の道を選んでいたら、まだ可能性があったかもしれんが、多分それも違って全てがあいつに標準があっているだろうと思うぞ。その証拠に俺がこの走馬灯ワールドに転生してきたのは、あいつと出会った日なのだからな。そこを忘れるな!》


 (俺はあくまでもリクをクイーンにするという復讐ゲームのプレーヤーでしかなく、もしそれがクリアできたとしても30を前に死んでしまうということか)


 《そうと決まったわけじゃないだろう。ゲームクリアの報償に期待すると決めたじゃないか。もしかして30を超えられてスィラブの新作と木村佐和子にありつける可能性だってあるかもしれんじゃないか》


 (そうなのか?)


 《そう考えた方がいいだろう。未来に希望が持てるというもんだ。要するに俺が正義感をかざすより、あいつがクイーンになる方が価値ある何かを生み出すということだ。それを信じて、復讐者としてゲームプレーヤーに徹しようじゃないか》


 (ということは、スズのスキルも爺ちゃんが言っていたような壮大な可能性ではなく、俺の身近にいることを考えると、)


 《そうだ、復讐ゲームプレーヤーの俺の重要アイテムでしかないんだよ》


 (アイテムだと。スズがただの俺のアイテムだって、バカな、ありえん。スズは人類の宝だ)


 《ウソでない証拠を見せてやるさ。今からスズと俺は会うんだろう。もうスズに何もかも話してみろよ。間違いなく彼女は怒りなく俺のウソを許し、俺のアイテム化を歓迎してくれるはずだ。それもスズなりの価値観でな。オレは、もう悟ったんだ。さっきの激痛でな。俺は、脇役、あいつが主役ってな》


 (もしそうなら、俺は、)


 《その通りだ。リクを帰らせたさっきの台詞は、ご法度台詞だ。あいつに向かって、あんな蔑ろ台詞はもう二度とするな。今回は、まだフォローの余地ありだ。スズに聴覚を奪ったことの謝罪を終えたらあいつの所に行って、彼女にスズの聴覚について話すんだ。その能力は秘めてな》


 (秘めるんだな、わかったよ。俺は、所詮リクの引き立て役だ。それに徹してクリア報酬を目指すさ。お気軽にやるしかないということだな)


 《俺が、この走馬灯ワールドでの主人公設定だったら、大予言者の選択もありだったかもしれないが、あいつが主人公設定のこのワールドでは、俺が知る由もない大事な使命を帯びたあいつをクイーンにする手助けこそが唯一できる選択ということさ》


 (ああ、わかったよ。よくな・・・もう俺は死んだ身だ。欲を出さずにNPCの立場を淡々とこなしていくさ。そしてゲームクリア報酬での30超え、を期待するさ、それでいいんだろう)


 《油断なくな。俺は、頭痛だけじゃなくてあいつの気持ちにも配慮がいるということを忘れるなよ。俺があいつから幻滅されたり嫌われても弾き出されてしまう可能性があるゲームなんだよ、ここは》


 (そういえば嵐山の河原の時も、俺が勝手にあいつのことが嫌になってしまって、最後通牒を渡そうとしたら頭痛が起きて弾き飛ばされそうになったんだったな)


 《そしてあいつからのキスで蘇った。もうこれだけでわかるだろう、俺は脇役なんだとな。あの時にあいつが俺のカムバックを望まなければ、俺はあのままゲームオーバーだったんだよ》


 (だな・・・)



 こうして俺は、なんともつまらん事に、自分が大予言者気取りで取り組もうとしていた事が、無謀な試み程度に位置付けられたのを頭痛というペナルティーをもって知らされたのだ。


 スズはスズで、


 (翔との世界のままがうちはいい)


 限りない可能性について何もかも話したせいなのか健常児としてではなく、そう選択を下し、俺のウソを少しも咎める事なく許してくれたのだ。


 あの笑顔“ニッッ”で頷く姿に俺は、ギューをしてしまった。


 そして、今日は舞の披露から何から何までよく頑張ったリクを労うためにと言って俺はリクの部屋に通された。


 そして、スズの耳の事を話したのだ。


 「スズちゃんは耳が聞こえてなかったの?」


 リクは、そこに驚き、これまでのスズとのコミュニケーションについては理解が及んでいないようだ。


 でも、俺の謝罪に涙して受け入れてくれた事に救われた俺は、その健気なリクの姿に、


 「おまえは本当に最高に可愛な」


 愛しい姪っ子モードを消して、謝罪というよりは心より欲してリクの腰を抱き、唇を重ねた。


 (このキスは、俺の覚悟のキスだよ)


 リクプレーヤー「俺」の誕生の瞬間だった。


 この先、脇目も振らずにリクゲームクリアを目指すと決めた俺の決意を何度も何度もリクの唇に示した。



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