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あいつは俺の仇!  作者: 方結奈矢
第二部 五年生編
31/58

女形


 チントンシャン


 ♪~


 優雅に流れる三弦(三味線)の音。


 京都は祇園の一角、古門前通に面した京町家の一階奥で、俺とリクは()の稽古をしていた。


 ここは、由緒ある古美術商が立ち並ぶ一帯で、三世流の舞の師範、伯耆(ほうき)園子の自宅を兼ねた稽古場だ。


 園子師匠、甲部(こうぶ)歌舞練場の近くで営む、帆掛船の紋で有名な老舗料理屋名和屋の“翔園(しょうえん)”として一世風靡した事もある有名芸妓だ。


 「ハイ翔介はん、もっと腰を落として、ゆっくり、ゆっくりね。リクさんは、足運び気を付けてや」


 俺とリクと同い年の娘持ちだが、俺のハートをわしづかみ中の翔園さんの門を叩いたのは、もちろん翔園びいきの爺ちゃん園田邦光の紹介があればこそ。


 夏休み京都に来て、毎日、俺とリクは午前中、新人舞妓たちに交じり三世流舞の厳しい稽古に通っていたのだ。


 その帰り道、烏丸にあるフランス語の教室にも通っていた。


 俺が、リクをクイーンにするために施しておきたい、教育の最後が舞いであり、フランス語だったのだ。


 ◆


 「ここ一年で効果はあがったと思うんだ」


 昨年の夏、爺ちゃんの勧めで茶道を始めたリク。俺は、その成果を見てもらいたく爺ちゃんちの茶室でリクの点前を直に見てもらったところ、


 「リクちゃんは、正座もお点前の間は我慢できるようになって、本当に素敵なお嬢さんになりはった」


 お褒めにあずかり思わず顔をほころばせていた。


 「これでさらに踊りなんかしはったら、翔介はそれこそリクちゃんに首ったけやなぁ」


 なんて京都訛りで、俺の意図を汲んだ調子のいい事まで言ってくれる。


 当初、俺は舞もフランス語も一緒にやる気は全くなかった。爺ちゃんに、いい先生を手配するには、「俺も一緒」が条件にされたのだ。


 「どうしてリクだけじゃダメなの」

 俺まで稽古をする予定はなかった件について爺ちゃんは、電話でありながら俺を納得させた。


 「ええか、翔介、おまえがリクちゃんをスーパーモデルにするために先達として、茶道に続き舞やフランス語まで仕込むつもりやったら、おまえも一緒に取り組まなリクちゃんは、短期間では()にはでけへん」


 「僕は僕で取り組むべきものが他にあるんだ。舞とフランス語はリクに必要な物であって僕には必要ないんだけど」


 「前にも話したけど翔介、リクちゃんが一生懸命に茶道やピアノなど様々なことに取り組んでのは、おまえの関心事項やからや。そこを忘れたらあかん。もし、おまえの関心事項でないもんをなんぼ教えこもうとしても、物にはならへんわ。その()()()()、わからへんか?」


 「リクは僕のことを想ってくれているから、僕と同じ価値観を共有したい。そう言いたいんだね」


 「その通りや翔介、おまえは先達であることを忘れたらあかんぞ。どうしてもおまえが目論むように短期間で、舞とフランス語に興味をもたせて広島でも続けさせたいなら、おまえから誘うんや、「一緒に始めないか」とか言ってな」


 爺ちゃんとのこの電話会談で俺は納得して、リクに相談をもちかけたのは、京都に向かう前日の晩だった。


 俺はノッコの散歩の最中に、今日の出来事、三五からの嬉しさ満開の海辺の報告についてや、華怜に過剰にキスの礼をした事などを正直に話した。


 【女の勘】を侮るなかれの教訓だ。


 俺の中に少しでも(やま)しさがあれば、俺の事を想う女なら、その疚しい気持ちを、魔女の残り香のごとく嗅ぎ分ける事ができるのだ。


それが例え小学生女子であっても勘のいいリクならばできる事を俺はよく知っている。


スィラブプレー上でもそれに苦しめられたし、リアルでもさんざんやられた【女の勘】だったからわかるのだ。


 リクは、「三五君のためなんでしょう」と理解を示してくれて、俺の行動のショックを緩和してくれたが、その苦悩する様までは隠せなかった。


 それでも、俺はスィラブマスターであり、ガキ相手に手こずるなんてありえない。


 「リクも協力してくれないか、華怜とミゴッチのことを、今でこそ華怜は俺のことが好きだけど、俺は、その気持ちをミゴッチにスライドさせる気、満々なんだ。そのためには、ミゴッチを成長させなければならないんだ。少なくとも俺並みにはな」

 

 なんて、俺が本気で考えている三五の改造論を語り、華怜への関心は所詮その程度であるのを印象付けた。


 (まぁ実際そうなんだが・・・)


 濃厚キスにしても、お礼で通用するから便宜上で使用したに過ぎない事を悟らせたのだ。


 「翔介が、華怜ちゃんと三五君をくっつけようとしているのを私も協力するね」


 聞き分けのいい台詞を引き出したあと、思考能力をまったく別分野に向けさせるために、俺が持ち出したのが本題だ。


 「なぁリク、僕さぁ、舞とフランス語をこの夏から始めるんだけどさぁ、二人で一緒に始めないか」


 「二人で一緒に」を強調した台詞で、リクはすぐに頷いてくれた。爺ちゃんの勝利だ。


 俺はその理由に、


 「リク、おまえが将来モデルとしてパリに渡った時に武器になるからだ」

 なんて本当の事を言いはしない。


 「将来さぁ、リクと旅行でパリに行ってさぁ、そこで茶道や舞とか生け花とか、日本の文化を伝えることをしてみたいんだ」


 将来展望の一つとして語るだけで、コロリのリク。さっきまでの華怜ショックを瞬時に消し去り、可愛く笑顔で頷くのを見て、俺は、(可愛い奴)ギューして、


 「これが本当の心ある、愛情いっぱいのキスだぞ」


 そう言って、リクに眩暈度高いキスを手加減を加えしてやったのだ。


 リクはふらつく足をしっかりさせて、


 「ありがとう」


 そう言って、今度はリクが俺を真似て(眩暈しない)キスをしてくれた。



 俺は京都に到着した晩に、リクとノッコが寝たのを確認すると、爺ちゃんと茶室で向き合った。


 もちろん、「ぷはっ~」と一番搾りは、奇跡の自販機で買って冷蔵庫のキャベツの後ろに隠してある。


 見つかっても問題はない。「ジュースボタンと間違って押しちゃった~お爺ちゃん飲んで」ぐらいの台詞は用意している。


 「ねぇ爺ちゃん、僕の選択は間違ってないだろうか、リクに日本人としてのアイデンティティを植え付けるためにとった選択なんだけど」


 「おまえが舞をリクちゃんに勧めたことやったら間違うてへん、ええ先達ぶりや。必ずモデルとなったときにその立ち振る舞いにおいて役立つやろう。にしても、こないにも次から次へと可哀そうやな、リクちゃん。しっかりおまえがサポートしてやらな」


 「わかってるよ、僕も楽しんで取り組まないとリクも楽しめないし、なんといっても物にならないからね」


 「その通りや翔介、おまえもしっかり励むんやで。無駄なことにはならんさかいにな」


 「でも爺ちゃん、爺ちゃんもすみにおけないね、あの翔園さん、凄い美人だね。さぞ祇園じゃ人気者なんだろうね」


 俺とリクは京都に到着すると、すぐに母さんも一緒に祇園の稽古場に挨拶に出向いていたのだ。


 その母さん、父さんと車を置いて、新幹線でもう広島に戻っていったあとだ。


 「おまえは覚えとらんかぁ・・・おまが小さい頃はよくめんどう見てくれてはったんやでぇ、あん子は」


 「そうなん?ぜんぜん覚えててないよ」


 「おまえの名前の翔かてあのお家からもろうたもんやぞ」


 「え~~~そうなん?」


 「まぁその話はええ、そやな、おまえもそのうちに機会があるやろうけど、彼女の舞を一度見てみ、間違いのう虜になるさかいに。聡子なんぞ初めてん時には感激のあまり涙、流しおったぞ」


 「なんだ、さすが爺ちゃんだ。婆ちゃんには隠しごとなしか」


 「当たり前や、贔屓の芸妓のことを隠したりするかいな。そげなことをしたら幻滅されて大事な物が失われるやろう」


 「尊敬の念だね、幻滅を避けるには常に、パートナーの女性に尊敬されていなければならない。昨年の爺ちゃんからの教え、僕もずいぶん頑張ってきたよ」


 「ああ、リクちゃんのおまえを見る目を見とったらようわかる」


 「なんでも正直に話すようにもしてるし、心に疚しいことがないのが勝因さ」


 「それでええんや」


 俺は、自分の歩んだ道、そして今後の展望において爺ちゃんからのお墨付きをもらったところで、爺ちゃんに相談をもちかけたのは、リクのことじゃなかった。スズのことだ。


 「それはほんまか、テレパシーやなんて・・・凄いな」


 やっぱりだ。俺はここまでのスズとの実験データを爺ちゃんに余す事なく公開したところ凄く関心をもってくれた。


 「うん、本当に凄いだろう。だから爺ちゃんにも会ってほしくて・・・」


 「ああ、私も是非にも会ってみたいもんや。それで、おまえの悩みいうんは、耳の治療のことやな」


 「そうなんだ、僕がしゃしゃり出てもいいけど、どう動けばいいかわからないんだ。だってスズの家族は耳のことを知らないんだよ。だから、スズの爺ちゃんに相談して家族間で処理してもらうのがいいのか、それとも母さんからスズの母さんにもちかけてもらうのがいいのかとか」


 「それで、おまえは私を選んだわけやな」


 どうやら爺ちゃんには俺の考えなどお見通しのようだ。


 「うん、それでさぁ・・・」


 「その前に、おまえはそのスズちゃんが幼のうても家族に耳のことを隠してまでも特殊な能力を向上させてしもうた理由、わかるんか?」


 「わかるような気がする。スズは見捨てられるのが怖ったんだよ、尚子さんに」


 「その通りやな。自分を暴力の嵐から救ってくれたのに、耳のことで尚更面倒をかけとうなかった幼いながらもけなげな思いこそが、この特殊能力をより伸ばさせた原因なんや」


 「うん、そうだね」


 「わかった、翔介、そのスズちゃんをここへ連れてくるんや。夏休みの間に。理由は私に任せたらええ。そして、うちの大学の医局で耳を検査してもらえるように手配しとくさかいに。まずは、治療できるか、でけへんかをな、それでええやろう」


 「うん、爺ちゃんありがとう」


 「それで、翔介、おまえの思惑、もしくは懸念はなんや」


 (さすが爺ちゃんお見破りかぁ・・・)


 「僕の懸念は、スズが持つ力が損なわれないかということだよ、耳を治療して治ったとして・・・」


 「なるほど・・・翔介、おまえは、スズちゃんの悲しい体験によって生み出された能力を、才能と考えとるんやな」


 「うん」


 「おまえがそう思ったことを、他のもんも同じように考えるのが、おまえの本当の懸念事項とちがうんか?」


 「さすが爺ちゃん、実はそうなんだ」


 俺がイメージしているのはスズがモルモットのように実験材料にされないかだ。


 あの、お目めパッチリ、ラストオーダーに似ているところからもそう思ってしまうのだ。


 「たしかに得難い能力なんやろうけど・・・この先、おまえのように媒介するものが人であろうが機械的なものであろうが、出てくる可能性があるんやったら、スズちゃんは、ほんまに人類の宝いうことになるかもな」


 俺とスズの実験の一端で解き明かされたのは、スズテレの恐るべき力だ。


 最初こそノッコの可愛いイメージ比べで遊んでいた事だが、よくよく考えると、俺の聴く音楽、奏でるピアノ、友人たちとの会話、見た物のイメージ、どれもこれもダイレクトにスズの脳内に流れ込ませる事ができるのだ。

 

 それを俺は、会話なく瞬時にコミュニケーションが取れる恐るべき力と考えた。


 「垂れ流しではないんやな」


 爺ちゃんの懸念は俺の思考まで読み取られる事だった。

 

 もし、それが可能なら危険人物となり近づく事はできなくなる。

 

 それはそうだ、俺の木村佐和子とのエッチな妄想劇や実は母さんの視線を少々疎ましいとさえ思っている事まで知られてしまうのは、まずい!


 「違うよ、スイッチONはアイコンタクトで、距離や時間は、無制限じゃないし、どちらかが、意識を別に向けてしまえば自然にOFFになるんだ」


 「なぁ翔介、そのスズちゃんが発動したとおまえが言った能力な、リクちゃんと同じ部類かもしれへんで」


 「同じ部類?」


 「リクちゃんはおまえのことが好きやし尊敬しとるさかいに、おまえを先達と認め、言うことを聞くんや。それと同じでスズちゃんも、おまえのことが好きやから心開いてその能力を発動させたんとちゃうんか」


 「それはどうだろう、僕にはわからないよ。きっかけは、僕の弾くピアノだったんだ」


 「そうやったな、おまえは楽譜を見て弾くのやなしにオリジナル曲を心で奏でながら弾いとったのをスズちゃんが聴いとったのが縁の始まりやったな。そうや、私にもそのオリジナル曲とやらを聴かしてくれへんか」


 「うん、いいけど、スズが僕だけに心開いた結果の能力だというのなら・・・」


 「そうやな、このことは秘めておいたほうがええな。このことは他言したらあかんな」


 どうやら爺ちゃんは、俺までもスズと並んでのモルモットを想像したようだ。


 「うん、わかった。だったらお盆まで、世話になるけど、一度広島に戻ったら、スズを連れてくるよ」


 俺は爺ちゃんと約束して、その方法を爺ちゃんに任せた。


 そして俺とリクは、途中、小浜海岸一泊休暇はあったが、それ以外は、8月頭からお盆まで毎日舞とフランス語のレッスンに通ったのだ。


 広島に戻ってからもRCC文化センターにフランス語教室を見つけてあるし、翔園さんのお弟子が広島の西区庚午で教室を開いているのも手配してもらっていた。


 (遠いなぁ・・・)


 と思うも、俺には通う覚悟があった。


 ◆


 何に腹がたったかといえば、翔園師匠、俺に、


 「女形(おやま)がとてもよろしいやないの、京都に引っ越してきなはれ、このまま舞妓デビューや」

 なんて言って、本物の舞妓衣装を身に付けさせ白塗りまでさせて写真を撮りまくり、手放すのを惜しんだ事だ。


 リクは笑うどころか、


 「翔介、きれい・・・」

 

 感動しているところにも腹がたった。


 翔園師匠、俺だけじゃなく、リクに至っては、爺ちゃんに、

 

 「あの子をうちに預けておくれやす」

 

 などとまじめに相談をもちかけてきたのだ。


 俺は、この京都での日々、リクへのケアも忘れなかった。


 舞の稽古が昼前に終わると、ランチにスイーツ色々こだわり食べ歩いたのだ。


 それを可能にしたのも爺ちゃんから行きつけの店に、「孫のことを頼む」と電話があればこそだ。


 それに祇園からフランス語教室に行くまでの道中も、四条通沿いを手を繋いで歩くのもリクは喜んだし、遠回りして寺町通や新京極通のアーケード街も、ウッディーグッズを見つけて喜んでくれた。


 錦通りは迷子になる恐れもあったが、携帯持つ我々には無敵で、店を楽しむより人混みを体験的に楽しむリクだった。


 だが、俺の身になれよ・・・正直、つまらない日々でしかない。


 舞は女形扱いで、女舞ばかり。

 

 フランス語は、俺は第二外国語選択は中国語でズブの素人だし・・・


 それでも十日以上も通えば、それぞれに要領を得て楽しくはなかったといえばウソになるが、広島に戻ってまでも続けるとなると俺のスケジュールの事を考えると苦しくなってきた。


 (土・日のハルカ先生の授業時間に影響がでるかも)


 あーーーーーーーーーー


 と雄叫び上げる相手は、もちろん自販機クローズ23時前の一番搾りをのみながらのノッコだ。


 昨年は、まだ成犬でなかった事もありアテのジャーキーはやらなかったが、今年はしっかりお裾分けしてやりながらの、


 「ぷっはぁ〜うまい!」


 は京都にあって最高のひとときだった。


 ▲ 心内会議 ▼


 《さてさて俺ヨ、この際だ、ごまかさずにめんどくさい事項について向き合おうじゃないか》


 (めんどくさい事項だって、どれのことだ。俺にとってどれもこれもめんどくさいことばかりだぞ、フランス語に舞、スズのことにしたって干渉しすぎだろう。それともリクのことか)


 《何をごまかしてるんだ。俺の存在によってズレてしまったのは、何もタイムパラドックックス的なことばかりじゃないだろう》


 (うん?作曲作業は順調に進んでるぞ、それともジャケットのイラストレーターシンイチ・ミゴの事か、あれもあいつの運命変えを考えて咄嗟的に思いついたことだけど、鳴門さんに任せたぞ)


 《なら聞くが俺ヨ、小学五年生のオレがあいつだけならまだしもオキョンやカレンにまでも、あんなキスをしているのはいかがなものかという話だ》


 (えっ~そこ、そこかよ、問題視は)


 《そうだぞ、ちょっと待て、ここは参考意見をしっかり聞かせてやるよ。おい、小五の俺ヨ、おまえ、キスしたことあるか?》


 [キス?それなんね]


 《今の俺は、おまえの大好きな華怜ちゃんともブチューとキスしてるんだぞ、他にオキョンとかリクともな》


 [え~そうなん、ウソじゃろう華怜ちゃんとも・・・ありえなぃんじゃ、オキョンと宇津伏はオエッ~じゃ]


 《羨ましいか、それとも、なんか他の思いがあるか?》


 [わりゃぁバカか、恥ずかしいに決まっとるじゃろうがぁ]


 《そうだな、小五の俺ヨありがとさん、もう引っ込んでいいぞ ーーー ほら、みろよ俺ヨ、恥ずかしいときたぞ、恥ずかしいと、それが小五の本音だ。それを俺は、ブチュブチュしまくりじゃないか。そのことを言ってるんだよオレは》


 (俺が大人であることから引き起こしたモラル感のズレを問題視しているんだな)


 《そういうことだ。普通の小五でいくらませたガキでもあんなキスはしない。このままだと俺は、武器としてキスを頻発化してしうま可能性ありだぞ》


 (だな、今でこそ三人だけの秘匿情報だが、他に漏れるのもまずいな)


 《そうだぞ。そもそもあいつが俺の誕生会の時に皆に知らしめるために公然キスをしたのがきっかけなんだが・・・》


 (そうだ、あれでオキョンに競争心を芽生えさせたんだ。だが、あのリクのチュ程度のキスなら、世間では可愛いぐらいで通り問題視はされんが、あのブチューはマジでまずいかもな)


 《だな、それでどう対策をうちだすんだ?》


 (そうだな、キス封印が一番いいんじゃないか、俺はしたくてしてるわけじゃないからな)


 《おい俺ヨ、オレにもウソをつくのか。俺は可愛さ余って感情的にキスしただろうあいつには、あれは自発的であり成り行きではなかったな》


 (ああ、そうだな。オキョンは裸を見られた現実飛ばしの衝撃キス。華怜は感謝の気持ちがさせた、ありがとうキスだった。でもリクには情があった、可愛いとな)


 《そうだろう、そこを気をつけて今後は、キスの仕方もタイミングも考えろよということだ。そして絶対にスズにもだが、もう四人目はなしだ。いいなぁ。そして三人には、必殺技で対応しろ》


 (ああ、【秘密の共有】の始動か、それしかないのか・・・だとしたらやっかいだな、あれはスィラブでもうまく稼働させれば高ポイントだが、)


 《そうだ、俺の場合、四人で共有なんてスィラブでもハイテクニックなシチュエーションを選ぶしかないんだ》


 (そうだな、俺の影響力が及ぶ三人だから、口止めはできるが、問題はその方法だな・・・)


 ▽


 俺は実感していなかった、本来の小五の姿を。確かにキスなんてしないし、手を繋いでも歩かない。中学生、いや高校生レベルを俺は小五に持ち込んでしまったのだ。

 

 その事から波及するモラル感のズレで起こる事件を恐れる俺だった。


 ◆


 「社長、翔さんのことなんですが」


 ケラウズランブラ創業時から俺の片腕として働いてくれているメガネ姿がイケメンの福田君からの問いかけの内容は想像できた。


 「ああ、わかっている、デビューさせたいだろう、あいつ本人を」


 「ええ、どうでしょう、翔さんの魅力はあの女性としても通る容姿です。もっと言うなら美坂さんや貴家さんよりも女性的であり、もしシンガーとしてデビューでもしたなら、」


 「男からも女からも支持があって人気爆発だろうな、あのピアノの腕からしても、それで福田、おまえは何が言いたいんだ。翔は目立つのを嫌うのを知っているだろう。芸能人体質とは真逆なんだよ、あいつは」


 「そこをなんとかするのが社長の腕の見せ所じゃないですか」


 こいつが俺の事を率先して、「社長」と呼んでくれる事から態を成しているのがケラウズランブラで本来の俺はただのギター弾きでしかない。


 そんな奴の意見は深く考慮しないとならいが、無理なのもよく知っている。


 「福田、だったらこの件をおまえに任せるから翔を説得してみてくれよ」


 そう丸投げ作戦にでてみた。


 「わかりました、僕に任せてもらいます」


 自信満々で部屋を出て行ったが、


 (わかるよ、おまえの気持ち・・・)


 共感はするが翔の抵抗ぶりも想像ができて可哀そうになってきた。


 (あいつも俺と同じ運命をたどるんだな)


 気の毒に思いつつも笑いが出てくる俺だった。


 だってさぁ、俺は仮録りでの翔の歌声を聴いて土下座までして翔本人のデビューを懇願したのに断わられたんだからな・・・


 ミオのファーストアルバムは発売と同時にチャート一位で、シングルIn The Eveningは三週連続一位で、衰える気配はない。


 TVにも連日出演してそのバラエティーな才能にも人気が集まっていて、こんな現状を作りだしたのは翔その人で、早くもそこに注目するマスメディアもあって俺は関心はしたが、取材申し込みはオールお断りだった。

 


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