チャレンジ!
「翔介、おめでとう」
2002年4月21日(日)リクからの祝福のキスは、多くの仲のいい事になっている連中を前にしてのもので、俺とノッコの誕生日会は盛大なものだった。
昨日の20日に俺は11歳となり、3月生まれのノッコも1歳になり強引に俺と同じ日を誕生日に設定していた事から、こういうことになったのだ。
このイベントを開催するにあたっては、秘密を守るのを招待客には強く要請した。
秘密とは、「招待されたことを秘密にしろ」というもので、昨年までの俺とは違って出席を望むものが多かったせいだ。
天気に恵まれた我家の庭でのイベントはBBQだ。厳選した人数だったが、それでも20名を数えた。
場を仕切るのは、母さんとリクママ美奈さんだ。姉達も手伝いに駆り出されていたが、父さんは下準備に尽力するも仕事でいなかった。
こんな多くの客を迎えて一番喜んでいるのはノッコだ。
U^ェ^U 遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで遊んで
皆にかまわれてジャーキーなプレゼントまでもらって上機嫌だ。
姉、博子を口実に中学生になった宮郷愛莉までやってきた。
彼女は、見事にアフターズスクールのオーディションに合格して練習生として日々、歌とダンスに励んでいるという。なんだか、急に大人びた感じがいい。
俺はチートフォンを使って彼女の事を調べれば、この先、どうなるかなんてわかるかもしれないが、それをしなかった。
そこまで興味がなかったからだ。
「翔ちゃんはモテモテなのね」
長姉、寛美の感想は、招待客に女子が多い事を言っていた。
オキョンは言うまでもなく、クラスメイトの俺と言うよりはリクと仲のいいものを招いたせいもある。
ここは、リクのための社交場でもあり俺が個人的に招いたのは、肉一目散のハルカ先生だけで、リクに招待客の選定は任せたのだ。
開会を告げる祝福のキスにしても、リクはもう俺の恋人気取りで、首元のハートを誇らしげ揺らしている。
妬ましそうに見る女子数名を確認したが、無視する事に決めていた。気にしたら、それこそリクの【女の勘】を刺激してあらぬ疑いをかけられるからだ。
場違いを思わせる参加者が二人いた。三五進一と島波鈴だ。
この二人、オキョンの知人という事で、同班を望むものを差し置いて選出した班メイトだ。
リクの1/2を思わせるクラス一の小柄な島波も顔色いつも悪い三五も、こうやって友人の誕生会に招かれたのが初めてらしい。というより友人宅が初めてだそうだ。
喜ぶより前に、緊張していた。
「お二人さん、こっちにこいよ」
俺は率先してこの二人をもてなし、ノッコも紹介した。そして一緒に、肉を喰らい、大いに笑い打ち解けた。
「あ~ビール飲みてぇ・・・」
俺がおもわずこぼした台詞に島波は目をキョトンとして驚いている。
「冗談だよ。父さんの真似」
なんて言うまで、口を開けたままだった。
ここで初めて笑った顔を見せる島波と目が合うが、なんとも愛らしい小動物のような子の事は何も思い出せなかった。
(元々付き合いはなかったんだな)
三五にしても、何もかも初めての経験らしく、ここまで母親が付いてきていたが、
「僕に任せて、帰りは僕がおくっていくから」
俺の台詞に頭を下げて、母さんとしばらくは談笑するも参加せずに帰っていった。
「お友達だけで過ごす経験がなかったそうよ」
これは、母さん情報。
俺は、この間もなく死にゆく友との接し方を正直迷っていた。
▲ 心内会議 ▼
《どうも最近、あいつへの復讐と関係ない雑事が多くないか》
(だな)
《そもそもなんで誕生会なんだ。俺は、こんなことをしてもらって喜ぶたまか》
(全然嬉しくないけど、はりきる母さん相手に「誕生会なんてしなくていい」がどうしても言えなかったんだよ)
《それじゃあしかたがないな。で、ミゴッチとはどうするんだっけ》
(もう決めたよ。あいつがいつ死ぬかなんてもうどうでもいい。とにかくあいつとの日々をせ~いっぱい楽しませてやることにしたのさ)
《それで何が生まれるというんだ》
(あいつが死ぬことに折り合いをつけやすくしてやるのに協力するといったとこかな)
《バカな!それは後悔させない人生という意味じゃないか。無理だ。絶対に。やめとけ。ここは、当たり障りなくが妥当だぞ》
(そうは思ったが、ノッコや爺ちゃんと同じで、俺は後悔したくないんだ。ここは全力で三五に満足を与えて送り出してやると決めたんだ。それに、もしかして、)
《もしかして、なんだ?》
(いや、その話はまだ検証がいるな・・・)
《はは~ん俺よ、さてはミゴッチの母さんに惚れたな》
(見ただろう、あれ)
《ああ見た見た。あいつのママを抜いて三位か・・・いやオキョンママをしのいで二位か》
(うん、愛莉ママには若干及ばないが、二位、いいんじゃねぇ)
《そうか、そんなスケベ心が、息子と親睦を深めようという原因か、納得したぞ。いいだろう、付き合ってやれよ。でもあいつは巻き込むな、傷つけるからな》
(そうは思わんよ。リクの情操教育上大切なことさ、友人の死と直面するということは)
《なるほど、そこまでお考えとは、恐れ入りました。ならば好きにするといいさぁ》
▽
俺は、この三五と積極的に関わる事にした。
マンガのストーリーの先々展望は三五を惹き付けた。
(あいつは、今、見ているマンガの最終回を知らずに死んでしまうんだ)
連載中のマンガの先の展開をことごとく当てて見せた俺の言う事は、信憑生がある。
それを面白がり食いついてくる三五、俺は肉を食いながら色々な話をする中で、恋話にも再び介入した。
「ミゴッチよ、そろそろおまえの一推し女子を聞かせろよ。俺は、リクが一推しで大好きだぞ」
「翔介君は、宇津伏さんと本当に仲がいいよね。僕には無理だよ」
「無理もクソもないだろう。誰が一推しなのかわからないと」
「僕にはおらんよ、そんなもん」
「そなんもんってなんだよ。肇の一押しは、あそこにいるノンだし、エイタの一推しは、ほらあの二人もいい感じだろサヤカだし、勇なんか、うちの姉ちゃん狙いだぞ。おまえも腹をくくって言ってみろよ、誰が一推しなのか、もしかしてオキョンか、あいつならおまえのセンスは最高だ。リクがいなかったら俺がいきたいぐらいだぞ」
「翔介君の第二の恋人だもんね、長谷部さんは」
「バカをいえ、オキョンはなぁ、そんなちんけなもんじゃないぞ、もっと大切な宝物なんだよ。それでミゴッチよ、おまえはオキョン狙いなのか」
「ち、違うよ。僕の一推しはね、隣のクラスの篠崎さんなんよ」
顔色の悪い三五が顔を赤くすると同時に俺の顔色も変わったはずだ。
「篠崎華怜・・・なのかぁ・・・」
「うん、そうなんよ。センス悪い?」
「いいやぁ悪くはないがぁ・・・」
(あいつ性格に難ありだぞ)
は口にできなかった。
この会話を深め、三五から俺はさらに情報を引き出すと、篠崎は三五には優しく接していたようで、かなり前から想いを募らせていたようだ。
▲ 緊急心内会議 ▼
《どうするんだよ俺ヨ!ミゴッチから一推し聞き出して死ぬ前にデート経験でもさせるつもりなのか?》
(そのつもりだ。それでオレよ、どうしたら三五と篠崎をデートさせることができるんだ?)
《選択肢は三つだな》
(一つは、わかる。篠崎に謝罪して頼み込むんだろう。気が引けるよ)
《バカ、それは下の下の策だ。いいかカレンに謝罪するまでは正解だが、その後は頼むんじゃない。相談をもちかけるんだよ》
(相談?)
《ああ、そうだ。あのクズ女、話を聞くにミゴッチにはえらく親切だったらしいじゃないか。そこを利用させてもらうんだよ》
(ということは、三五の寿命のことを話すのか)
《バカだな~そんなことを話す必要はないだろう。許してやるかわりに、「男にしてやってくれ」ぐらいの台詞で収まりをつけろよ》
(なるほどな・・・スィラブでは危険因子を多く含んで使い難い台詞【男にしてやってくれ】だが、どうでもいい女には使えるわけか、でも、「許してやるかわり」になんて上から目線があの篠崎に通用するかな・・・それに俺はあの女を許す気にはならんよ)
《そう言うなって、カレンのやつ俺に謝るつもりだったと言ってたじゃないか。それに俺がカレンにあそこまで酷いことを言ったのは、まだ起きてもいない来年のことを思い出してだろう》
(ああ肇の自殺未遂事件を思い出したんだよ。あれはどう見ても篠崎が悪いだろう)
《どうだかな、新聞記者らしからぬなんとも酷い思い込みかもしれんぞ。本当の肇とカレンが別れてしまった経緯なんて俺は知らんだろうが》
(うん、言われてみればその通りだな・・・俺の勝手な思い込み記憶で怒ってしまった可能性は大だな。それでその二はなんだ)
《他の女子に目を向けさせることだな。たとえばオキョンとかに》
(響華かぁ・・・あいつにスライドさせるのはちょっとな考えてしまうよ)
《たしかにそうだが、ここでも使えるぞ、【男にしてやってくれ】は》
(バカな!響華に【男にしてやってくれ】は使えない。あれを使うと、俺にふられたと勘違いしてリバウンドがかなりあるぞ。そんなことぐらい知ってるだろうに、オレよ)
《何がリバウンドだ。いいか俺ヨ、よく聞けよ。俺はあいつだけを大事に思えばいいんだよ。オキョンの気持ちに配慮は必要ないんだよ。わかるだろう。もうあいつは【女の勘】を芽生えさせ始めているんだぞ。もし、オキョンに親切にしてあらぬ疑いをかけられでもしたら、【幻滅】につながるんだぞ。なぁ、俺ヨ知ってるよな、【幻滅】の発動条件は何も目に見えるだけのものじゃなくて、日々の些細な出来事の積み重ねからも発動するんだぞ》
(う~ん確かにそうだ。それでも長谷部は、俺にあんな心のこもったラブレターをくれたやつじゃないか【男にしてやってくれ】は使いたくないね。もっと大切にしたいよ)
《なんて甘ちゃんなんだ俺は!カレンに頭を下げるのが嫌で、オキョンに頼むのも嫌ならミゴッチにデートをさせるプラン自体をお蔵入りさせることだな、それがその三だ。俺がそこまで立ち入らなくてもいいということだ。たとえば今日みたいに一緒に遊べるプランを立てて思い出を多く残してやればいいじゃないか》
(それは却下だな。俺はもう決めたんだ三五に好きな女子とデートさせると。それがうまくいこうがいくまいが三五の運命を変えてしまう可能性を検証してみたいんだ)
《うん?運命を変えるだって・・・》
(ああ、生前ワールドでは、ミゴッチはただの一度だってデートなんかしていない。それどころか友達さえいなかった。それを、この走馬灯ワールドでは随分と変わった風景を、俺が演出してやっているじゃないか)
《それは、もしかして・・・そういえば、さっき何か言いかけてな、このことだな》
(気が付いたか、オレよ、その通りだ。これはチャレンジなんだよ)
《なるほど、チャレンジか、できるのか?俺ヨ、ミゴッチの運命を根本的に変えてしまうことが》
(よく、わかったな、さすがはオレだ。ミゴッチの運命を根本的に変えるのにチャレンジしてみる価値はあると思うぞ)
《俺ヨ、俺は、ミゴッチの寿命が延びるように運命そのものを変えてしまおうとしているんだよな》
(そういうことだ。三五が小五で死ぬ運命に抗ってみようと思っているんだよ。わかるだろう、もし、これがうまくいけば・・・)
《わかるぞ!なるほど、わかったよ。俺の30超えも夢でなくなるわけだな》
(そういうことだ!リクへの復讐を果たした後に俺は死ぬことなく30を超えて思惑通りスィラブの新作をプレーできる確率を上げておきたいんだよ。そして、あわよくば、)
《あわよくば、俺ヨ、そんなことを考えていやがったのか!いいじゃないか、たいしたもんだ。何も木村佐和子の待つ生前ワールドに戻らなくても今世で彼女との出会いをやり直せばいいわけだな・・・やろう、是非やろう、期待しようじゃないか俺自身の運命変えを》
(ああ、この走馬灯ワールドで成仏するんじゃなくて30越を目論もうぜ!そして生前ワールドじゃなくてこの走馬灯ワールドで木村佐和子に会うんだ)
▽
俺は、生前ワールドでは死んでしまった三五の運命変えを企み、本来なかった出来事をこの走馬灯ワールドでは成し遂げ、運命そのものを変えてしまう実験を始めた。
もちろん(そう簡単にいくはずがない)との思いもあったが、自分の運命もかかっているのもあって本気で挑む気だ。
俺には妙案があった。
「なぁリク、ミゴッチにさぁ僕とリクがいつもしてるデートをさぁ、あいつにもさせてやりたいんだけど、どうしたらいいと思う。あいつ一推しが篠崎さんなんだって」
そう、リクに相談をもちかけ、更にはオキョンに話を自然に持っていく策だ。この過程を飛ばしいきなりオキョンに話を持っていくと面倒になる。
そもそも俺の記憶にない三五や島波と友人になったのは、これ全てオキョンとの縁からだ。
オキョンともあのラブレターを丸めて投げつけた生前ワールドでは、友人ではなかった。
「三五君に華怜ちゃんとデートさせてあげたいの?」
「どう思う?」
「三五君のことと華怜ちゃんをよく知っているのはオキョンちゃんだよ。相談してみたらどうかな」
(ナイスゥ~リク、思惑どおりの可愛い奴)
ここで俺は、リクを連れてオキョンの前に立ち、さっそく相談を持ちかけた。
(このワンクッションが大事なんだよな)
「なぁオキョンちゃん、僕さぁミゴッチにデートさせてやりたいんだけど、何かいい方法ないかな。あいつ篠崎さんが好きらしいんだ」
「三五君と華怜ちゃんをデートさせるの・・・」
「無理な話か?」
「どうだろう・・・」
ここで俺は、担任の石井和美先生から班のメンツについて褒められた理由を知る。
「三五君は、昔から身体が弱くて学校を休みがちだったの。それでね、一年生の時の担任だった石井先生がね、私と華怜ちゃんが保健委員だったことで、三五君を授業中に保健室によく連れていくと、私と華怜ちゃんを誉めてくれたの。親切で優しい子って。それから、友達少ない三五君と島波さんのことを気にかけてあげってって言われたんだ」
聞けば、島波も内気がすぎて友人がいないらしい。確かにここでも俺が少し目を離すとすぐに孤立する二人だった。それをいつも気にしていたのが石井先生という事で俺はお褒めにあずかったらしい。
リクは気が利くようになった。足元のノッコを連れて島波の所に向かった。
「オキョンは今でも篠崎さんとは仲良しなの?」
この問いは、俺が露骨に篠崎を避け始めたので響華までもそれに倣ったように接触が減ったように見えたからだ。
「クラスが一緒じゃなくなったのもあるし、それになんだか避けられてるみたいで・・・」
(やっぱりオキョンにも近づくなの台詞が利いてるよな・・・)
リクは島波を連れてくるとノッコを彼女に預け、今度は三五へと向かった。
島波は、最初こそノッコを怖がり触れる事もできなかったけど、リクに教えてもらったとおり、体を撫でてやるとペロリと顔を嘗められて大はしゃぎ、ついには抱きしめている。
「避けられるか・・・」
「翔介君、華怜ちゃんと喧嘩したの?」
どうやらオキョンはそんな事を思っていたようだが、口には出せなかったようだ。
「ああ、少しばかりね。あいつの口から洩れた情報で僕は、上級生に襲われたんだよ。それを責めたんだ」
「やっぱりそうだったんだ。華怜ちゃんが豪林君に・・・許せないよ華怜ちゃん。それで翔介君がコンクールに出られなくなったんだもん」
「そこは、あんまり気にするな。手は完璧に治ったから」
「本当に!だったらあとからピアノの演奏を聞かせてくれる」
「ああいいよ。それよりミゴッチデートの件を少しばかり考えてくれないか」
リクがミゴッチを連れてきた事からこの話は終わり、散々肉を喰らったあとは、俺の部屋でピアノの演奏会をした。
ガラクタのない俺の部屋十畳に招待客を招き入れ、ベッドもソファ替わりにして詰め込んだのだ。
ピアノの下はノッコの専用場所。俺の横に立つのはリク。ここも専用場所。なぜか島波はリクの反対隣にいつの間にか来ていた。
二上山を背景に頬寄せあうリクと俺の写真が大きく引き伸ばされて部屋にはデカデカと飾ってある。
ピアノの上にも、クリスマス初デートの日に撮影した頬寄せあう二人の写真立て。どちらもリクの仕業だ。
♪~
ちょっとしたライブは大盛況で終わり、俺は三五をおくり、リクはノッコを連れてとオキョンと島波をおくっていった。
そして俺は三五を篠崎とデートさせる決意を固めた。
というのも俺を家にあげてもてなしてくれた三五ママの陽子さんがあまりに可憐で可愛らしかったからだ。
妹の三年生の彩音も兄とは違い健康的で可愛らしい。
「よかったわね、進一、お友達が来てくれるなんて」
涙ぐみ美人ママに俺は見惚れてしまう。
「お兄ちゃんのお友達が、加羅君なんて凄いね」
彩音は学校で有名な俺の登場に驚いているようで、お気軽に膝の上に乗ってくる。
「だってミゴッチと僕とは気があうんだ。だから友達になるのは当然だよ。なぁミゴッチ」
嬉しそうに頷く三五だった。
そして自分の運命変えをも企む俺は、篠崎華怜にどう再接触をしたものか帰りの道中にシミュレーションを開始するのだった。




