香を薫きしめた匂いが、たまらなく嫌だった。
帝があたしを見る目が変わったことに気がついたのはいつだったか。
それまではあまり興味も無いような目だったきがするけど、ある時から舐めるように観察されるようになり。そして現在ではまるで微笑ましいものでも見るかのような目で見られてる。
梅壺の女御が親しげに話しかけてくるようになったのもその頃からか。
その目が決して好色な、人を恋情で見る様子であったわけではなく、兎にも角にも不思議なもの興味深いものを見るかのような観察眼であったことも気にはなっていた。
もしやバレたのか?
そうも思っては見たものの、その後なんの音沙汰もなく中将へ昇進しても変わらぬ様子であることに、不思議に思いつつ考えるのをやめていた。
「どうかしましたか? 顔色が冴えないようですね」
御前で帝からそうお声をかけられた際も、そこまで自分のことを観察していたのだとは思わず、只々社交辞令であると思って疑っていなかったのだが。
そんなにも顔に出ていたのか?
あたしはそこまで宰相の中将の事で動揺していたのか。
一瞬そうも思ったが思い直し。
「いえ。主上の御心を煩わせるような事は特に何も」
そう強がって見せた。
しかしすかさず直球で、
「宰相の中将と何かありましたか?」
と聞かれてしまい。
動揺を隠す様に顔を強張らせ、あたしはなんとか言葉を紡ぎ、
「何故、そう思われるのでしょうか。わたくしは特に何も……」
と、とぼけて見せたが帝はお見通しとでも言わんばかりの笑みを浮かべる。
「ああ。中将がわたしを見る目がキツくてね。まるであなたを取られでもしたかの様に見ているよ。ほら、今もあの柱の向こうから」
まさか、と振り返りそちらを見渡すと、確かに柱の影に人の気配がする。
ああ、もう、どうしたらいいのだろう。
あのあと。
あたしは極めて冷静にと心がけ、宰相の中将に接していた。
内裏で声をかけられても差し支えない言葉を選び。
話がしたいと誘われても、用事があるのでと断って。
とにかく、だめだ。その都度悲しそうな顔をする中将に絆されそうになる自分を諌め、関わってはダメだ負けちゃダメだと言い聞かせていた。
ようやく帝の御前から退くと、そこにはやはり宰相の中将が待ち受けていた。
「何故そうわたしを遠ざけて他人行儀にするのでしょう。こうしていてももし主上がわたしと同じようにあなたの正体に気がついたらと思うと気が気ではありません」
そう耳元で囁く声に、ゾクっと身震いし、とにかく逃げようと周りを見渡すが助けになる様な人が見当たらず。
「何を勘違いしているのかは知りませんが。わたしはあなたと四の君の経緯に気がついたのでその事で尋常では無い思いを感じています。わたしのことをあわれと思うなら、そっとしておいては頂けませんか」
と、それだけを答え中将の脇をすり抜け逃げ出した。
香を薫きしめた匂いが、たまらなく嫌だった。




