労務奴隷
ぞろぞろと部屋に入ってきた奴隷達は、簡素ながら小綺麗な服を着ており異常に痩せてもおらず、この奴隷商館がいわゆる教育が常態化した組織でないことが窺える。
数組に分かれていると感じたのは、各々のパーソナルスペースの取り方だ。
それぞれ青年2人組、年若い男女のペア、中年に差し掛かった恐らく夫婦とその子供2人が1組なのだと距離の取り方で分かる。
「さぁ、それぞれ横1列に並びなさい」
ハイデさんが号令をかけると、それぞれがグループごとに並ぶ。
前世ではそれこそ幼子の頃から執拗に繰り返しているから意識しにくいが、並ぶと言う行為は実は簡単ではない。
軍隊の練習項目に隊列を組み行進するものがあるくらいには、行動を合わせるというのは難しいのだ。
号令1つで等間隔に並べるのは普段から練習しているのかもしれない。集団生活には必要な技能なのだろう。
「こちらは上級冒険者のロベルト様だ。今回は複数人の奴隷を購入いただけるそうなので、くれぐれも失礼のないように」
やはり、纏めて奴隷を買い上げる個人は珍しいらしく、恋人や家族と引き離されたくない奴隷達は、必死にアピールするようだ。
ハイデさんは、1組づつ経歴や技能を説明してくれるようで、それほど広くない部屋いっぱいに広がった奴隷達を1組づつ呼びつけると、テーブルの前に立たせる。
こうなると並ばせた意味があまりないが、整列は視覚的に『ちゃんと教育している』というのが分かりやすいので、その狙いもあったのだろう。
1組目は青年2人組の兄弟で、木工業が盛んな都市で家具工房の丁稚をしていたが、流行り病で親方一族が悉く儚くなり工房が続けられなくなったので親元に戻ったが、暫くして身一つで放り出されてしまったようだ。
それからは、僅かな蓄えを出し合い糊口を凌ぎながら職を探したが見つからず、このままでは飢えから罪を犯してしまうと感じ、家族にも頼れずやむなく奴隷として自身を売ることにしたようだ。
若いので体力はあるだろうとのこと、木工の技能も多少は身に付いていて見習いレベルだが、質素な家具や道具の柄くらいなら自作できるらしい。
本人達からは「精一杯頑張ります。どうか2人纏めてご購入を」という内容の発言があったがどこか緊張というか、腹を括ったような顔つきが気になった。
買われる立場というのはやはり不安が強いだろうとは思うが、なんか覚悟の方向が違うというか、戦場にでも連れていかれるような悲壮感を押し殺した顔に見えた。
ふと次の2組を見ると、男女の恐らくカップルであろう2人組は男の方が歯を食いしばり気合いを込めているし、女の方はそれを不安げに横目で見ている。
3組目に至っては父親とおぼしき男が、顔面蒼白になりながら震えている。妻や子供はただ不安が強く前に出ているだけだが、父の顔色を伺ってより戦いている。
ふと思い付くことがあったので、ハイデさんに話を振る。
「ハイデさん、商談中にすいません。ちょっとご質問よろしいでしょうか」
「勿論でございます。いかがいたしましたか?」
ロベルトさんに視線を送り、了解を得たのか話を区切ったハイデさんはこちらに向き直った。
「奴隷候補の皆さんは、どういった仕事に着くか聞いてるのでしょうか? どうも態度や顔色を見ていると、ロベルトさんが上級冒険者という情報しか伝わっていないように感じるのですが」
「いえ、伝えておりません。仕事の内容で仕える先を選り好みしないように事前情報はなるべく伝えないようにしております。もちろん適性を考慮してご紹介する奴隷を選んでおりますが、今回はお客様方が武装しておられるので冒険者だと悟ったのだと思われます」
「なるほど‥‥」
「彼らの態度が気になりましたか?」
そういうと、奴隷達を一瞥する。視線を向けられた方は各々ビクついているが、特にそれ以降の言葉が紡がれる事はなかった。
「今回の場合は仕事の内容を伝えた方がいいのではないでしょうか? 正直彼らは自身のことを、ダンジョンの奥まで引き摺り込まれる生贄の山羊にされると思い込んでいるように見えてしまって‥‥」
「そうだなぁ、あんまり勘違いさせたまま怯えさせんのも悪りぃし、仕事内容を教えてもいいと思うぜ? そこまで目の色変えて飛びかかるような仕事でもないし」
買う本人であるロベルトさんからの同意もあり、奴隷候補達には買われてからの仕事内容が伝えられた。それを聞いた途端、皆どこか安堵した表情を浮かべ売り込みにも力が入るようになった。
特に干ばつで開拓村が離散してしまった元農家の、家族連れの父親は腰が折れるほど深々と頭を下げて、家族を丸ごと買い上げてくれるよう懇願している。
ここで子供と引き離されてしまうと、2度と再会は叶わないと思うし、10歳くらいに見える子供を守ってやることが出来なくなるのは、親として辛いのだろう。
ロベルトさんは多少悩んだようだが、結局家族連れの4人を買い取ることにしたようだ。
将来性や経験がとか言っていたが、照れたようなその表情から善意が含まれているのは感じ取れた。
これが偽善なのかは若輩者には分かりかねるが、どこかで聞いたやらない善よりやる偽善という言葉が思い起こされた。




