蜥蜴人
新たにフロイトさんの奴隷となった4人組の家族はこの部屋に残り、買われなかった2組は入ってきた部屋から退室していった。
特に青年2人組の兄弟は露骨に肩を落とし、とぼとぼと部屋から去っていった。やはり、ロベルトさんの雇用条件は触りだけを聞いても魅力的だったのだろう。
少しして、場が落ち着いたところを見計らってハイデさんが話を切り出した。
「この度は当館でのお買い上げありがとうございます。どうか末永くお引き立てのほどを」
「いや、なかなか手入れの行き届いた商館だと思うぜ? 見せてもらった奴隷も目が死んでなかったしな」
「我々の仕事は神々に胸を張れる仕事では決してないですが、最低限の仁義がありますから」
「いや、立派なもんだと思うぜ」
ハイデさんははにかみながら笑うと、此方に話を振ってきた。
「それで、グラム様も当商館にご用があるとか」
「あ、はい。自分はテイマー志望の冒険者でして、此方の商館でテイムモンスターを手に入れられると教えてもらいまして」
「確かに当方で扱っているモンスターはおります。現在、私どもの商会では3体の人型モンスターしかおりませんが、ご覧になられますか?」
「あの、ちなみに種族って教えて貰えますか」
「それぞれゴブリン、コボルト、リザードマンが1体ずつとなっております」
「良ければ見てみたいです」
「かしこまりました。では、着いてきていただけますか」
そう言うと、ハイデさんは先ほど奴隷たちが出ていった扉から出て待っている。どうやらモンスターはこの部屋に連れてくる方式ではないようだ。
ロベルトさんを振り返ると、俺とソフィアさんの2人で行ってくるよう促された。ロベルトさんはこれから一緒に働く一家と話すことがあるらしい。恐縮しきりの一家の父親に気さくにするよう語りかけていた。
案内されるがままに廊下を奥へと進んでいく。
装飾も少ない簡素な作りは入ってきた廊下とはまた違い、あまり客を通す事は想定していなかったことが窺える。同じような壁とドアが両側に続く作りは、もし火事で煙に巻かれたら出口が分からなくなりそうだと感じた。
素直に先導に従って付いていっていたが、沈黙が気まずかったのかソフィアさんが話を切り出した。
「ねぇ、ハイデさん。大体予想はつくけど、どうしてモンスターは別の部屋に移動して見ることになったの?」
「この廊下は奴隷達の居住区にも繋がっておりまして、その区画の廊下の掃除や本館の雑務を任せている人達もいますから、もしすれ違ったりするとあらぬ噂が立ってしまうのです」
「あらぬ噂?」
「ええ、まぁ根拠もない妄言の類いなのですが、殺されてモンスターの餌にされるとか、見世物として闘させられる、などの不安からくる噂が駆け巡るのです」
「この商売も大変なのね」
「まぁ、ある程度は仕方ない部分ではあります。と、そうこうしているうちに着きました。こちらです」
ハイデさんが長い廊下の突き当たりの扉を引き開ける。
その扉はこの簡素な廊下には似つかわしくないほど重厚な作りをしていた。開いた扉は分厚く、筋交いのように斜めに走った補強の鉄材には飾りの一つもなく、どこまでも実用一辺倒の誂えだ。
廊下側に閂を掛けられる作りといい、逃げださないようにという意思を感じる構成である。
中に入ってもその方向性は一貫しており、更に檻で部屋が区切られていた。
「こちらが人型モンスターの収容室になります。ここに入れられているモンスターは、どれも使役術のスキルから切り離されている状態です。コボルトとゴブリンに関してはかなり荒れていますので、檻にはあまり近付きませんようにお願いします」
そう言うハイデさんもこの部屋は苦手なのか、入ってきたドアの側から離れようとしない。
檻に入れられているコボルトとゴブリンは、四畳半ほどの空間にベットと水瓶、壺のような物しかないまるで牢獄のような空間にいてストレスが貯まっているらしく、此方を睨み付けていた。
「ダセ! ダセ!」
「クイモン! クイモン!」
先ほどの奴隷達と比べるまでもないほど薄汚れた貫頭衣を身に纏った2体は、檻にしがみつきながら此方に怒声を浴びせている。
かなり劣悪な環境には同情するが、怒鳴られたところで此方ではどうしようもないなと困っていると、部屋の中にピシャリと重くて乾いた音がなった。
その音を聞き、騒いでいた2体は水を打ったように静まりかえると、端の檻をチラ見してそこからなるべく離れた位置で蹲った。存在感を消そうと試みているようだが、さっきまであれだけ騒いでいたのだから無理な話だ。
「申し訳ない、お客さマ。彼らは此処に来てまだ1月も経っていないのでス。現実を受け入れるのには、もう少し掛かるでしょウ。どうか許してやってくださイ」
そう流暢な言葉で話しかけてきたのは、端の檻に入れられた立派な体躯のリザードマンだった。




