大きな買い物
店員曰く、解体場の職員としても毎日毎日ホーンボアのモツを取りに来られても金にならないし邪魔なので、あまりいい印象は受けないだろうと予想できるし、鮮度の問題で毎日解体場に足を運んでモツを確保するのは時間の無駄だと主張した。
確かに高価な魔道具を買う買わないは別としても、毎日解体場に通うのは手間である。ダンジョン帰りのついでに寄れればいいが、完全な休息日でもいちいち解体場
に足を運んでいては気が休まらない。
「その点、このフリーザーを使えば回収自体が1週間に1度程度で済みますし、他にも冷蔵しておきたい物の保管にも役立ちます」
「うーん、それでも値段によりますね」
「こちらのフリーザーは金貨11枚、110万ゴルディンでお売りしますよ。かなりお買い得だと思いますが」
「やはり結構しますねぇ」
冷静に対応できたつもりだが、あまりの価格に動揺を隠せた自信がない。想定した値段よりも乖離があったからだ。それも安い方に。
「でも、それはいくらなんでも‥‥いや、魔石式か」
「よくお分かりで」
「流れの品であろうと魔道具ですから。値段で考えたら予想がつきますよ。この手の保冷の魔道具は吸魔式ならば、どんなに安くても金貨25枚は固いですよね」
魔道具は、過去数度の歴史的転換期を向かえている。
そのひとつが吸魔式魔道具の登場である。
詳しい原理は明かされていないが、このタイプの魔道具は従来型のように燃料たる魔石を使わずとも効果を発揮する。
周囲の物から魔力を得ているとは言われているが、出力の問題に目をつぶれば完全な魔石式の上位互換となる。
翻って、このフリーザーは魔石式である。転換期の後には冷蔵や加熱等の、爆発的な出力ではなく継続的な稼働が必要な魔道具は殆どが吸魔式で作られるようになったのでこれは結構古いものだろう。それにしてはキレイなのでどこかに仕舞いこまれていたのか。
継続的な出力が必要なものでも、消音等の空間に作用を及ぼすものは能力不足で使えないが、それでも吸魔式の利便性は市場から魔石式の冷蔵庫を駆逐するほどであった。
言うならばこれは前世代の遺物、取り残された骨董品の部類だろう。
「こちらは、さるお貴族家の別邸に置かれていたものです。殆ど使われておりませんでしたが、この度改築をなさるとの事で古い魔道具が放出されました」
「なるほど。ちなみに魔力効率はどれほどで?」
「7等級の魔石で1週間ほどの連続稼働が可能です。魔石式世代の最終期に作られたようで、なかなかの効率ですよ。今の吸魔式にはないハイパワーで、入れたものはあっという間に凍りつきます」
「うーん、どうしようかなぁ」
腕を組んで悩むふりをしながら、内心ではほぼ買うことは確定していた。
というのも魔石式には、吸魔式にはない決定的な利点があるのだ。
聖人の腰袋に入れても効力を失わないのである。
吸魔という性質上、周囲の魔力に左右される吸魔式魔道具は聖人の腰袋の中では稼動せず、使用するタイミングで取り出す必要がある。
「どうでしょう。払い下げ品ということで中古にはなりますが、正直冒険者用の保冷魔道具を入手しようとすればこの額では絶対に手に入らないと思われますが」
「正直、いつかは手に入れたいとは思っていましたが、うーん」
中級以上の冒険者、つまりはダンジョン内で泊まり込みで探索をする者達にとって、荷物の大きさはあまり苦にならない。それは聖者の腰袋のお陰であり、それによって莫大な量の獲物を持ち帰れるのだ。
しかし、問題もある。聖人の腰袋はあくまでも大量の物を入れられる袋であって、時間の経過を遅らせたり止めたりする能力はないのだ。
そのため、魔物の保存方法の研究はダンジョンが生まれてこれより300年、延々と続けられてきた。
深い層の魔物、つまり高位の魔物は腐敗や劣化と縁が遠く、放置しても早々は悪くならないが、一般的なダンジョンの中層以上の階層から獲られる魔物達は普通に腐るからだ。
内臓を落とすことで肉の腐敗を遅らせられること、皮は多少腐敗していても完成品に大きな差は生まれづらいことなどは判っていたが、やはり効果的な保存方法は冷やすことだった。




