夜明けの襲撃
今日の野営予定地に着いたのは日が暮れる前だった。
そもそもこういった行商などの馬車の旅は日が暮れるまで移動することはない。
視界が通らない中で馬車を操車するのは危険だし、夜行性の魔物の方が比較的厄介なので防御を固めるためにも早めに野営地に入るのである。
これも冒険者からの知識である。というか、街の外に出る仕事をする人たちの常識である。
俺も前世でキャンプくらいならやったことがあったので、そこまで考えなしに暗くなるまで移動はしなかったと思いたい。
各々の簡易なテントを張り、早々に薪と火の準備が済んだ我々一行は、堅焼きの薄味パンと炙った干し肉、白湯で早々に夕食を終えていた。
味気ないものだが、携行に便利な食料となると、選択肢が限られてくる。
一晩くらいなら軽食を持ち歩いてもいいかもしれないが、今後のために今から慣れておこう。
器を片付けようとして革袋に手を入れるとネリアさんから声がかかった。
「さっきテントも袋から出していたけど、それってやっぱり『聖人の腰袋』かしら」
「はい、父から頂きました」
「普通10年は苦労してお金を集めるものよ、大切にしなさいね」
『聖人の腰袋』とはいわゆる魔法のカバンである。
見た目以上に物が入り、重さを感じない。
10歳の誕生日に父がシルトの魔石と一緒にくれたものだ。
ダンジョンの宝箱産で、実は結構出回っているらしいが、使うのに条件がある。
名前の由来でもあるが、善良であることだ。
清廉潔白である必要はないが、いわゆる悪徳商人は使えない。
その判断が誰になされているかは分からないが、悪行に手を染めた途端に、中に入れていたものは吐き出され、新しく入れることも出来なくなる。
もちろん盗賊は論外である。
そのためちょっとした信用の指標にもなる。
使えなくならないように誠実に生きていこう。
今夜は交代で寝ずの番である。
人数が少ない場合、御者である兄さんも寝ずの番に加わるが、今回は俺を含めて護衛が3人いるので寝てもらった。
カイルさんの夜の講義が始まった。
「よし、野営についても教えてやろう。まず火は凝視するな、暗闇に目を慣らせ」
「わかりました」
「今回は街道そばの野営地だ。ここが選ばれる理由は判るか?」
「回りに遮蔽物がなにもないからでしょうか?視界が開けていて接近に気付きやすい」
「そうだ、ここには背の高い草もあまり生えていない、死角は馬車の影くらいなものだな」
「はい、そちらも注意しておきます」
こうやって実地で先輩冒険者に、講義を受ける機会は貴重だ。
命が懸かっている以上、よっぽどの実力者でもない限り、見ず知らずの足手まといを連れてきて教えてくれる冒険者はいない。お金を払えば別だけど。
「後は、長時間座っていると体が固まってしまうから、定期的に動け」
「分かりました」
順番は俺とカイルさん、ネリアさんとカイルさんに決まった。
カイルさんは明日の馬車の上で眠るようだ。
街道沿いなら、昼は滅多に襲撃もない。
体調を心配したが、幌付きの馬車で寝れるなんて贅沢だと笑っていた。
見張りは何事もなく終わり、俺は眠りについた。
始めての野営で緊張したが、なんとも我ながら図太いというか、疲労には勝てずにすとんと眠りに落ちた。
「敵襲だ!起きろグラァァム!」
そんな声で叩き起こされたのは、朝日が白む明け方のことだった。
聖人の腰袋を買える値段があまりにも安すぎたので、高給取りの冒険者の収入でも10年かかる設定に変更しました。
なお、主人公も魔法使いのネリアさんも良いとこの出なので、いまいち金銭感覚がずれています。




