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2クール目に突入した異世界冒険  作者: 歩き目です
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03「ピンクな幼女」その2

町を歩く2人と1体。…面倒臭いから『3人』で良いか。

行き交う人達がこっちを見てる。うーむ、やっぱりエメスが目立ってるのかなぁ?


「決して悪目立ちでは無いのです。むしろその逆だと思われるのです。」

「逆?」

「エメスは理想的な造形美をしているので、美術品の様な美しさがあるのです。まぁ実際『作られた』ワケですが。」


確かにエメスは大理石の像みたいな、黄金比率とでもいう様な均整の取れた美を感じさせる。

それがメイド服を着て、慎ましやかではあるが凛とした乱れぬ歩調で歩いてるのだ。

一歩引いて客観的に見ると、目も奪われる気持ちも分からんでも無いか。


「そして、やはりケイン殿に注目が行ってるカンジなのです。」

「え?何で俺に!?」


ちゃんと服も着せてるじゃん!?何が悪いんだよ!?


「あ、ですから悪目立ちでは無いのです。多分『メイドを雇えるだけの裕福な御仁』と思われているのです。

それに手前味噌ではありますが、出来の良いオーダーメイドの義手も与えているワケでありますから。」

「出来の良い義手だと、何がどうなんだ?」

「知らない人が見れば、エメスは『育ち盛りの幼女』にしか見えないのです。

そんな『数年も経てば、育ってすぐにサイズが合わなくなる』子供に、高価な義手をポンと与えているワケです。

皆の目には、さぞかし富と慈愛に溢れたご主人なのだろうと、そう映っているのです。」


あー、そう見えるのか。

俺はメイド好きの大富豪に思われてるってワケか。

それなのに成金趣味の服では無くて鎧着てるんだから、ミスマッチで余計に目立つわな。


まぁ今は、エメスがゴーレムだってバレなきゃ何でも良いや。勘違いも利用させてもらおう。

それよりも、問題は、だ。


―実は、俺はさっきから迷ってるのだ。

エメスに『アシモフのロボット三原則』を教え込むべきか否か、を。


『アシモフのロボット三原則』は、SF作家のアイザック・アシモフが考案した、ロボットが従うべき原則で、


第一条:ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。


第二条:ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。但し、与えられた命令が第一条に反する場合は、この限りでない。


第三条:ロボットは、前掲第一条及び第二条に反するおそれの無い限り、自己を守らなければならない。


―というヤツだ。

これは以降のSF作品や、実際のロボット工学にも影響を与えている程で、古典であり基礎となる概念だ。


ロボットを平和な世界で平和目的に使うのであれば、この三原則は大いに役立つ。

でも、ここは色々と物騒だし、地球と勝手も違うから…どうしたモンかねぇ…。


「何をするです!!」


アスミスの声でハッと我に返った。

いつの間にか、ちょっとした広場に出ていた様で、

見ればエメスの肩を2人の男が掴んで、ニヤニヤ嫌らしい笑みを浮かべている。


「ウヘヘヘヘヘ~。可愛い子じゃねーかよぉ~。俺達と良いコトして遊ぼうじぇ~。」


―二人とも顔が真っ赤で呂律ろれつも怪しい。昼間っから酔ってるな、コイツ等。


「オーナー。この方達の妨害によリ、歩行に支障が生じましタ。ご指示ヲ。」


俺、この手の酔っぱらいは大っっっっっ嫌いなんだよな。

しかも幼女メイドに手を掛けるとか、コイツ等、ロリコンの風上にも置けねぇ。


「ぶっ飛ばせ。」

「畏まりましタ。」


ドゴォ!!!


返答と同時に放たれたエメスの裏拳で、酔っぱらい達は一瞬にして後方にぶっ飛んで行った。

今、きっと、俺とアスミスは口をあんぐりと開けた凄い顔してると思う。(汗)


―これ、やり過ぎだろ!?死んだんじゃないか!?

ちょっとカンに障ったんで『ぶっ飛ばせ』とか言っちゃったけど、下手したら事件になるよコレ!!


遥か後方に飛ばされ、もんどり打って転がった男達が、モゾモゾと動くのが見える。

良かった。死んではいなかった。俺とアスミスは揃ってホッと胸を撫で下ろす。


「ケイン殿。…これは、少々…。」

「うん。パワーあり過ぎだな…。」


これ、うっかり『排除しろ』とか言ってたら、どうなっていたコトか。(汗)


「アスミス!お茶っ葉買う前にやるコトが出来たわ!」

「奇遇なのです!私もなのです!」


エメスのパワーを確かめておかないと、今後ヤバイ。マジで。




俺達は町を出て、外れの荒野にやって来た。

アスミスが自分のハンマーを地面に降ろす。ズシン!という音がして、ハンマーが地面にめり込む。


「アスミス、このハンマー、どの位の重さだ?」

「私は技術系ドワーフなので軽目なのです。多分、成人男子1人分未満…、ケイン殿より少し軽い程度なのです。」


十分重いわ!!(汗)

アスミス云わく、戦闘系ドワーフだと、優にこの倍以上の重さのハンマーを軽々と振るうそうだ。

獣人族のパトルもパワーファイターだったけど、ドワーフはそれを凌駕しているな…。


「じゃあエメス。このハンマーを持って、振ってみてくれ。」

「畏まりましタ。」


無造作にハンマーを握り、事も無げにスッと持ち上げるエメス。

それを見た俺とアスミスの顔は、呆れて苦笑いになる。


いや、あの酔っぱらい共をぶっ飛ばした時点で、この位は持ち上げられるだろうとは予想していた。

俺達が呆れてるのは、そのエメスのハンマーの持ち方だ。


エメスはハンマーのグリップの一番端っこ、石突の部分を持っているのだ。

ヘッドから一番遠くの持ちにくい部分、テコの原理でわざわざ最も重くなる持ち方をしているのにも関わらず、

木の棒を振るかの様に軽々と振り回している。


「よ、よし、ハンマーを降ろしてくれ。」

「畏まりましタ。」


再びズシン!という音と共にハンマーが地面にめり込む。

これは予想以上かも知れない。…ちょっとハードル上げてみるか。

俺達はエメスから距離を取り、命令する。


「エメス、そこの岩を攻撃。粉砕出来るのなら粉砕しろ。」

「畏まりましタ。」


大型冷蔵庫ほどもある岩。おもむろに振り上げられた右腕。―そして、


ドゴォオオオオオーーーーーン!!!!


まるで砕石場で発破を掛けたみたいな衝撃と破砕音!!

煙が収まると、果たしてそこにあの岩の姿は無かった。


「木っ端微塵なのです…。」

「エメス、右腕を見せてくれ。」

「どうゾ。」


―何ともなっていない。ひしゃげるどころか、傷も付いていない。

思わず俺は息を呑む。


「ケイン殿。これは、私達はとんだ思い違いをしていたかも知れないのです。」

「そう…だな。」

「華奢な幼女体型と美しいデザインのために、てっきりこのメイド姿の似合う様な、家事・雑用目的の

生活補助ゴーレムだと思っていたのですが、違ったのです。―今、ハッキリ断言出来るのです。」


アスミスは真剣な目で俺を見て、そのひと言を発する。


「―これは、戦闘用ゴーレムなのです。」




―戦闘用ゴーレム。

一体誰が、いつ、どこで、何のために『戦闘用』として作ったのか。全て謎だ。


その驚愕のパワーを知った俺は、素直に恐怖した。と同時に放ってはおけないとも感じた。

そこで、取り敢えず暫定的ではあるものの、俺がエメスに与えた『エメス三原則』はコレだ。


第一条:俺の許可が無い限り、人間と同程度の力に抑えるコト。


第二条:俺の許可が無い限り、第三者の命令は聞かないコト。


第三条:俺の許可が無い限り、有効視野内から離れないコト。


要するに『暴れるな』『知らない人には気を付けろ』『迷子になるな』という、子供への言い付けそのまんまだ。

エメスの判断能力自体がまだ赤ん坊レベルだから、こうでもしないと危なくて仕方無い。


アシモフの三原則にあった『自分を守れ』は、この頑丈さなら必要無い気がするしな。(苦笑)

兎に角一番怖いのが、悪人の手に落ちて命令のままに暴れられるコトだからなぁ。

エメスが全力を出してしまったら、一体どんな被害が出るのか想像したくも無い。




町に戻り、最初の目的だったお茶っ葉を買う。

エメスの学習能力は優秀で、その場で軽く教えただけで、お釣りの概念と店の人との応対まで覚えてくれた。

これなら次からは1体…いや、1人でお使いに出せるだろう。


ここに来てようやく俺はアスミスに奴隷船のコトを話す。

もっと早く話そうと思ってはいたのだが、エメスの起動から色々あり過ぎて、結果としてすっかり後回しになってしまった。


「おぉ!あの偽造硬貨撲滅もケイン殿の功績だったのです!?もう、どれだけ尊敬してもし足りないのです!!」


アスミスは興奮して、飛び跳ねながら目を輝かせて驚く。―だが、すぐに表情を変え、


「しかし、奴隷船とは少々厄介なコトなのです。」

「厄介とは?」

「奴隷船には奴隷を連れていなければ乗れないのです。更に奴隷は戸籍の様に、1人1人管理登録がされているのです。

ですから、私やエメスに奴隷のフリをさせて船に乗り込もうとしても、すぐにバレてしまうのです。」


うーむ、意外にキッチリしてるんだな。

―て言うか、2人に奴隷の役を演らせるなんて、出来るワケ無いだろ。

そうなると、残る方法はたった1つ。


「本物の奴隷を買う…、しか無いのか。」

「気乗りしないその心中はお察しするのです。」

「せめて、北の大陸に着いたら…すぐに開放してあげるか。」

「それは正邪曲直せいじゃきょくちょくなのです。身を守る術が無い者は、またすぐに奴隷になるだけなのです。

むしろ自活が出来ないからこそ、奴隷の道を選んだ者もいるのです。開放が必ずしも解決になるとは限らないのです。」


あぁ、そうか。力も身よりも無い者にとっては、奴隷は個人が手っ取り早く選択出来る生存方法であり職業だってコトか。

これは俺の考えが甘かった。


悩んでも埒は開かず、俺達は意を決して奴隷商人の店に向かうコトにした。


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