03「ピンクな幼女」その3
「いらっしゃいませ。どのような品をお探しですか?」
奴隷商人の営業スマイルがどうにも不愉快だ。こんなスマイル、0エンでも欲しく無い。
だが、ここはグッと堪えて、だ。
「手頃な値段のがいれば。」
「そうですなぁ。最近入った魔族の幼女がおりますが、どうでしょうか?」
!!!! 奴隷で魔族の幼女!?
それを聞いた瞬間、俺の脳裏にデヴィルラの顔が浮かぶ。まさか、あの子がここに!?
「そ、その子を見せてくれるか?」
「はい、少々お待ちを。」
気もそぞろで待つコト数分。だが、ヤケに長く感じた。
デヴィルラだったら助けてやらないと。
他の子達はどうなった?何故こんな場所に?まさか記憶を無くして? 色々聞きたいコトが沢山ある。
―そして奴隷商人が連れてきた『その子』は、デヴィルラでは無かった。
安堵の様な、落胆の様な、何とも言えない感情が胸をざわつかせては消えて行く。
「ケイン殿。どうしたのです?」
「あ、いや、もしかしたら知ってる子かも知れないと思ってね…。」
そうアスミスに言った時、俺は理解した。何故『ここ』に来るのが気乗りしなかったのか。
―俺は『怖い』のだ。
プリス達が、羽を折られた小鳥の様に奴隷となっている可能性が。そして『それ』に出逢ってしまう可能性が。
そんな可哀想な姿を見たくないという気持ちと、見付けて助けてやりたいという背反する気持ち。
さっきから胸をざわつかせる感情は、それなのだと。
いたたまれない思いで俺は伏せた目を開けられなくなった。
―と、そこに
「♥どーしたんですかぁー?カッコイイお顔が台無しですよぉー?」
とんでも無く柔らかで、気持ちの良い声がした。思わず俺は目を開ける。
「―!!君は!?」
「♥はぁーい!ひと目会ったその日から、恋の花咲くこともあるぅー!」
俺の目の前にいたのは、ピンクの髪で超絶な美少女。
町の雑踏の中で何度か会って、俺に手招きをしていた子…!!
え!?何でこの子がココに!?
俺が何が何だか分からないという顔をしていると、慌てて奴隷商人がやって来て言う。
「あぁ、コラ!!またお前は勝手に牢屋から出やがって!!」
牢屋から出る!?じゃあ、この子はココで売られている奴隷…なのか!?
俺は奴隷商人に聞く。
「この子は?」
「あぁ、すみませんねぇ。どーもコイツは妙なヤツでして。数日前にフラリと自分から売られに来たんですが、
何をどうやったのか、チョクチョクこうして牢抜けをするんですよ。」
「♥牢抜けは、私の2000の技の中の1つでぇーす!」
「五月蝿い!」
その脱獄犯のピンク髪の子は、奴隷商人に怒鳴られても意に介さずニコニコしている。
2000の技って…、まさかこの子、107番目の技が空中回転だったり、1808番目の技がストンピングだったり、
挙句の果ては超変身とかするんじゃなかろうな?(汗)
「まぁ、逃亡するでも無しで、必ず戻っては来るんですけどね。本当に変なヤツなんです。」
奴隷商人は半ば呆れた様に説明する。
うーむ、俺に会った時って牢を抜け出して町を徘徊してた、っていうコトか?
俺が腕組みをして考えていると、購入を検討していたとでも思ったのか、奴隷商人が意外なコトを言い出した。
「そうだ!お安くしておきますので、コイツを引き取ってはいただけませんか?」
「♥はぁーい!只今からタイムセール開催でぇーす!ドンドンドンパフパフー!」
「黙ってろ!」
何だ、この漫才…。
俺はその言葉が意外だったので、質問する。
「でもこの子、凄い美人じゃないか。安く売って良いのか?」
いや、美人なんてモンじゃ無い。顔立ちは可愛くも美しく整い、目は星の様に煌めき、
髪は綿飴のごとくフワッとしていて、唇は1つのシワも無く桃色に透き通り、肌は象牙よりも滑らかで。
そして、胸は……凄い。凄過ぎる。何カップあるんだ、このおっぱい。
前に町で見掛けた時は人混みで顔しか見えなかったから、滅茶苦茶に衝撃的だ。
「この胸は格差社会の闇を垣間見た気分なのです…。鬱にターニングしそうなポイントなのです…。」
アスミスは自分の胸を撫でながら、呪いの言葉の様にそうつぶやく。
この奴隷の子の乳は、完全にスイカ2つ抱えているフォルムだもんなぁ。
前にも感じたが、こんな、およそ男が好きそうな要素を全部集めて濃縮した様な女の子、奇跡としか言い様が無い。
奴隷どころか、貴族でも王族でも通用する程の美しさじゃないか?
それを格安で売っちゃうのか?
「いやぁ、コイツが来てすぐに何名か購入したいという方がいたんですがね、これまたどうしたワケか
その日になって財布を無くしたり、公安に捕まったり、急用が出来たりと…、キャンセル続きでして。
流石にここまで不思議なコトが連発すると、私も気味が悪くなって来ましてねぇ…。」
―つまり、俺に厄介払いで押し付けたいってワケかい!!
「♥どーですかぁー?お買い得ですよぉー?」
「オマエが言うんじゃねぇ!!」
「♥今なら何と!店頭価格よりさらに2割引ですぅー!このチャンスをお見逃し無くぅー!」
「勝手に仕切るな!!ハアハア…全く…どうなってんだコイツ…。」
奴隷とは思えぬポジティブなテンションに、奴隷商人も調子が狂いっ放しだ。
「お願いです!コイツを引き取って下さい!!」
遂に最敬礼でお願いかよ。涙声になってるし。(汗)
うん、まぁ、ここまで屈託が無く明るい子なら、奴隷を連れていても暗い気分にはならないかもな。
俺とアスミスは見合って頷き、このピンク髪の子を超格安で買うコトにしたのだっった。
―本当に、更に2割引の価格で。
そして宿屋に戻って来た俺達。俺はベッドに腰を下ろして、ピンク髪の子に聞く。
「―で、君の名前は?」
「♥ふっふっふ~!奴隷に名前は無いのですぅー!」
胸を張って言うコトか! つーか、巨大な胸がたわんたわんと、さらに主張してるじゃねーか!
「人は、劣等感と嫉妬感を経て敗北感を知り、最終的に虚無感を覚えるのだと初めて解ったのです…。」
アスミスがもはや悟りの境地、達観状態で、上下に揺れる2つの膨らみを見ている。
いやいやアスミス、小さいのもそれはそれでステータスなんだぞ。
それは兎も角、この子も名無しなのか。また名前を考えないとならん。
「♥カワイイ名前が良いですぅー。」
「うーん、ちょっと待ってくれ…。」
「♥パイ子、パイ美、パイ恵、おっパイアール二乗…、」
「ちょ、ちょっと静かにしてくれる?」
「♥揉んでパイの実、さよならパイパイまた明日、( ゜∀゜)o彡゜おっぱい!おっぱい!!」
「えぇい!!だまらっしゃい!!」
あの奴隷商人の気持が分かって来たぞ。(汗)
何だ、このノンストップ・ハイテンションは。しかもスケベネタばっかだし!!
あぁあああ、もう真面目に考えるのイヤになって来た。
「『スレイ』!!お前の名前は『スレイ』だ!!」
奴隷(slave)スレイヴで、スレイだ。もうコレで良いや。
「♥いえっさー! ♥…それでぇ、スレイはそちらを何とお呼びすれば良いですかぁー?」
「あぁ、まだ名乗って無かったな。俺はケインだよ。」
「♥それでは『ケインさん』で!」
「あ、それ、間に合ってる。」
「♥ホワッ!?」
『ケインさん』はプリスのために取っておいてあげたいからな。
「♥では、ちょっとカッコ付けて『マスター』では!?」
「あ、それも埋まってる。」
「♥何とぉおおーーっ!?」
『マスター』はマーシャのために取っておく。
そう思うと、エメスにマスター呼びされなかったのは、ある意味良かったのかもな。
「♥ではでは!毛色を変えて『ボス』とか『主』ではどーですかぁー?」
「お前、狙ってんのか!?どっちも却下だ!!」
「♥くぅううう~~~~!!こうなったら、ちょっと固めに『ケイン殿』っ!!」
「それは私の専売特許なのです!!」
「♥ふぇええーーーん!!新人イジメですぅー!!みんながスレイのコトをイジメますぅーーーーー!!」
「―つ、疲れるのです。」
「―これは想像以上だな。」
「♥もうこーなったら、原点に立ち返って『ケイン様』とかはぁー!?」
「だーかーらー、間に合ってるって…あ、いや、待てよ…。『様』付けは…そう言えば無かったか?」
ギルドやコンビニ店員から『ロリ・カイザー様』呼びされたコトはあるが、名前に『様』はまだ無い。
おぉ、意外にも残ってたモンだな。
「♥それでは『ケイン様』ぁ!ヨロシクですぅー!!」
と言って、スレイはお辞儀の代わりに、ピョン!と俺に抱き付いて来た。
うわっ!柔らかい!大きい!良い匂い!何だコレ!!埋もれる!顔が巨大なマシュマロに埋もれる!!
「は、破廉恥なのです!!離れるのです!!」
「♥いやぁーーーん!」
ドワーフのアスミスが引っ張ってるのに、スレイの腕は俺の首に巻き付いたまま微動だにしない。
どうなってるんだ。この子、色々と謎が多過ぎる…。
あぁ、おっぱい柔らけぇえええええーーーー!!(泣)
すると、その極上の触感をぶった切る様な無機質な声がする。
「オーナー、お茶をお持ちしましタ。」
エメスだ。―ん?お茶?
―あ!!そうか、お茶っ葉を買って戻って来たから、俺の最初の命令が実行可能になって、
今、ようやくお茶が淹れ終わったってワケか!!
あれこれドタバタしてて、こっちはもうすっかり忘れてたよ。(汗)
「おぉう!あ、ありがと。」
命令にどこまでも忠実。悪く言えば融通が利かない。機械の長所であり欠点だ。
でも、使い方次第で化けると思うんだよね。こういう『キャラ』は、さ。
出て来たお茶も、命令した俺の分だけだし。
アスミスが仲間にいるコトも、スレイが加わって人数が増えたコトも、エメスのデータとしては活かされていない。
礼儀作法とまでは行かなくても、思いやり…みたいなモノを教えられたら良いなぁ。
―まぁ、取り敢えず次の命令は、
「エメス、アスミスとスレイにもお茶を淹れてあげてくれ。」
「畏まりましタ。」




