07「その男、ハリボテにつき」その1
※前回のあらすじ
『防人の塔』に住んでいた賢者の末裔(幼女)に、俺のイカれたパーティーを紹介した。
精霊王に会って究極神聖魔法を使えるプリス。『最強装備シリーズ』をコンプして装備しているパトル。
究極攻撃魔法を無尽蔵に放てる魔族の王女デヴィルラ。エルフなのに魔法が使えず、格闘家のマーシャ。
9歳でマイスターになったドワーフの天才、アスミス。ロストテクノロジーとなっていたゴーレムのエメス。
余りに濃過ぎるメンバーに、そのロリ賢者は現実逃避する程のショックを受けていたが、
その子だって神聖魔法と攻撃魔法を同時に扱える、十分にとんでもない能力の持ち主だった。
そして色々あったが、その賢者の末裔である完全半魔の幼女も仲間になってくれた。彼女の名はワイズィ。
あ、おっぱい担当のスレイもいたな。忘れてたワケじゃ無いぞ。 多分。
ワイズィは一着のローブを衣装箱から取り出す。
フード、胸、胴、肩、袖、裾、各部分が互い違いに黒と白のツートンに色分けされている。
厨二病的にグッと来るデザインだ。
そこに白手袋と白のニーソ。黒のブーツ。ローブを羽織ると、顔意外は肌が露出しなくなる。
その顔さえ、フードを起こして被ると、外から見えるのは目元だけになる。
更に、フードの上にある2つの三角型をした布の一方を垂らせば、青い肌の右側が隠され、露出が左側の人族の顔だけになる。
成る程、これなら外に出ても平気というワケか。
―しかし、黒と白のモノトーンとは言え、かなり服としては派手だな。
俺の心配な顔を見て察してか、アスミスが説明する。
「ケイン殿、心配は要らないのです。魔導師は大抵が魔法の付与されたワケありな法衣を着ているので、
かなり傾いた格好をしていても、一般大衆からしてみればそんなモンだと思われるのです。」
「そんなモンか。」
「仮面を着けたり、敢えて穴の開いたボロボロの装備品とか好んで付けている者も少なく無いのです。」
そう言えば、俺が前に装備していたカイザーアーマーも、全身に幼女のレリーフが彫られた鎧だったな。(汗)
あれも凄く恥ずかしかったが、何故か周りの評判は良かったんだよね。
この世界じゃ、そういうのも冒険者としての個性を出すための工夫の1つなのかも知れないな。
ローブを着込んだワイズィは、本棚から1冊の本を取る。
「それは何の本だい?」
「束見本よ。」
そう言って、ワイズィはページをパラパラとめくって見せる。中身は全部白紙だ。
「これからアンタと一緒にいて、起きたコトを書いておくための本よ。」
「日記帳…か?」
「ケイン殿、束見本は本来、製本前に本の厚みを確かめるために作られる見本なのです。
しかし一旦、賢者の末裔が筆を執れば、それは新たなる歴史の記録書となるのです。」
「はぁ、記録書ねぇ。―え?それって、俺の行動を歴史に残すツモリか!?」
「当然でしょ!アンタみたいな特異点のするコト、見逃せるハズ無いじゃないの!言わなきゃ分からないの?馬鹿なの?」
「いや、でも、そんな、俺のコトなんか書いたって…、」
「安心しなさい。トイレに行った回数とかは書かないでおいてあげるから。」
それはありがとうございます。(泣)
アスミスも1冊の本を持っている。ここに来たと同時に飛び付いた、ゴーレムに関する記録書だ。
「良いのか?ここの本を持ち出しちゃっても?禁止だったハズだろ?」
「と、特例よ。管理してるアタシが同行するんだから、別に構わないでしょ。
それに、この旅で新事実が見付かったら、すぐその場で編集出来るしね。」
「貸与を感謝するのです。決して粗末には扱わないとお約束するのです。」
『防人の塔』と岬の港、そして南下する道は、逆『くの字』みたいなルートになっていて、
どうしても一旦、港に戻る道順になっている。
アスミスが船の舵を直した報酬も入ったし、港町で中央都市までの工程に入用なモノを買い足しておくか。
港に着くと、あの奴隷船に荷物が積まれているトコロだった。
積み荷をチェックしていた船長が、こちらに気付いて話し掛けて来る。
「おぉ、君達か。イカクラーケンのコトといい、舵の修理のコトといい、本当に世話になった。
こうして無事に港に着き、また荷を積んで出航が出来るのも全て君達のお陰だ。改めて礼を言わせてもらおう。」
そうしてこれからも奴隷船が運行し続けるっていうのは、俺としてはちょっと複雑な気分だけどな。
でも以前、アスミスに言われた様に、奴隷になった人達にはそれを選ばざるを得なかった事情もある。
それは、俺個人がいくら張り切ったトコロで決して解決するハズも無い大きな問題であり、
現状、この世界をそれなりに上手く回しているシステムの1つでもある。
日本という安全安心過ぎる国からやって来た俺に取っては、なかなかに厳しいこの世界の現実たる一面だ。
「―船長、あの壺は何なのです?」
アスミスが指差したのは、船に積まれるのを待っている大量の壺。
「あれか?あれは火薬だよ。」
「火薬?何でそんな物騒なモノを?」
「イカクラーケン対策さ。鉱山で使うためのモノを、無理を言って譲ってもらった。
今まで現れなかった海域にも出現したとなると、またどこでヤツに出食わさないとも限らん。」
それを聞いてワイズィがボソッと呟く。
「あんなモノでイカクラーケンが倒せるワケ無いでしょ。まぁ、逃げる時間稼ぎにはなるかも知れないけれど。
それだって、上手く行って生き残れる可能性は半々と言ったトコロよ。」
「魔導師のお嬢ちゃん、辛辣だな。」
そう言ってワイズィをギロッと睨む船長に、俺は慌てて前に出て頭を下げる。
「あ、すんません。メンバーが不吉なコト言っちゃって…。」
「フフッ、構わんさ。本当のコトだ。だからと言って無策は最低の愚策だ。出来る限りのコトはしないとな。
―帰りはもう、君達が乗ってくれんのだしな。」
そう言って船長は苦笑する。
本当、この人は奴隷船の船長にしとくには惜しい位に人間が出来ているなぁ。
「♥大丈夫だと思いますよぉ―。」
「お、お前はまた何を根拠に!!―あ、すんません!すんません!」
スレイが余りにも楽観的な発言をするので、また俺は船長に頭を下げる。
船長は「まあまあ、」と手を振り、スレイに質問する。
「一応、根拠を聞いておくか。お前さんは以前、凪で船を動かせずに困ってた時も『大丈夫』と言ってたし、
実際、その通りに風が吹いたからな。あれで助かったのも事実だ。」
あぁ、確かにあれはタイミング良過ぎると感じた程だったな。
スレイはまた『誰か』の様に、唇と顎の間に人差し指を当てて「♥んー、」と考えた風にすると、
「♥あの時とぉー、今回はちょっと違うんですよねぇー。今回はぁー、ケイン様が乗らないから大丈夫、みたいなぁー?」
「何だよそりゃ!?それじゃ俺が貧乏神みたいじゃないか!?」
「♥そんな神はいませんからぁー、安心して下さいよぉー。」
何が安心なんだよ、全く…。
スレイはエロトーク以外だと、こんな不思議ちゃん系の台詞しか出て来んのか。
だが、こんな曖昧なスレイの言葉にも、船長は笑って言った。
「はははは…。本当に面白いパーティーだな、君達は。
―そうだな、こんな別嬪さんの言うコトだ。幸運を呼ぶ言葉として受け取っておくコトにしよう。」
幸運を呼ぶ、か。確かにスレイの運の良さは信じられない程だけどねぇ…。
そうして俺達が談笑している時だった。
「おい!テメェ!!」
突然、怒鳴り声が響く。
声のした方を見ると、そこには隻眼のマッチョハゲ男がいた。ヒョロガリ君も一緒だ。
まーたコイツらかよ…。
「え?もしかして俺に用か?」
「そうだ!テメェだ!」
「―誰よ?あのハゲゴリラは?」
「本当に辛辣だな、魔導師の嬢ちゃん…。」
船長はワイズィの悪態に乾いた笑いを浮かべる。
アスミスがワイズィに説明する。
「あの連中には、バザーの町で何度か遭った因縁があるのです。」
「やだ、ストーカー?ちょっとアンタ、こんなハゲホモゴリラに狙われてたの?ひょっとしてそっち系?」
「いや、俺そんなんじゃねーし!腐ってねーし!」
「コラァ!!そこの魔導師!!誰がホモだぁ!!」
「♥ハゲとゴリラは否定しないんですねぇー。」
あー、もうメチャクチャだよ。パーティーに天然のスレイと毒舌のワイズィが加わって、もう収拾付かん!
「と、兎に角!テメェ!またまたまたパーティーに幼女を増やしやがったな!!
今度はその魔導師幼女か!?可愛い幼女を4人も囲いやがって!!何でそうテメェばっかりモテんだよ!!」
「えぇ?要件ってソレ!?イチャモンかよ!?」
「それだけじゃ無ぇ!!腕相撲の賭けといい、船場でのクジといい、イカクラーケンが出た時といい、
どれも全部、テメェに良いトコ持って行かれちまった!!俺様のガラスのハートはボロボロだ!!」
「意外にメルヘンメンタルだな!!」
「嫉妬とは醜いのです。」
「キモっ…。」
「♥お顔に合ってないですねぇー。」
「オーナー、排除しますカ?」
俺はちょっと引き気味になる。アスミス達も同様みたいだ。
そんなコトにお構い無しの隻眼のハゲ男は、俺にビシッ!!と指を差すと、
「決闘だ!!この場でテメェをブチのめしてやる!!」
―と、言って来た。
「決闘!?」
「言っとくがな!これは嫉妬じゃ無ぇ…。熟女と付き合ってたら別に荒らさねぇ。
可愛い幼女と付き合ってたから荒らしたんだ。嫉妬じゃ無ぇ。これだけはハッキリしてる !」
「見苦しい自己弁護なのです。貴方は誰にケンカを売っているのか、分かっていない様なのです。」
「あぁ?」
アスミスは一歩俺の前に進み出ると、バッ!と右手を広げ、高らかに言い放つ。
ちょっと待て、これって、まさか!?
「ここにおわすケイン殿をどなたと心得るのです!?
畏れ多くも、先の魔導巨人討伐でこの世界を救った英雄『ロリ・カイザー』その人にあらせられるのです!!」
「な、何ぃいいっっ!?」
驚きの声を上げるハゲ男。同時に、辺りに集まっていた野次馬も「おおおおおお!!!」とざわめき出す。
アチャー(ノ∀`) こりゃまた派手に紹介してくれちゃったなぁー。(汗)
騒ぎになるから自重しようよ、って言ったじゃん…。
「申し訳無いのです。しかし、ケイン殿が蔑視されるコトだけは我慢がならないのです。」
「良いじゃない。あんなハゲホモメンヘラゴリラ、ちゃっちゃと片付けなさいよ。」
君達、気軽にそうおっしゃいますけどねぇ、あんなガチムチマッチョとやり合ったら、こっちが大怪我するわ。
正直、力も無いし魔法も使えない俺なんかよりも、アスミスやワイズィの方が強いと思うんだよね。
「こんなサエない野郎が、あのロリ・カイザーだとぉ!? いや、誰であろうと容赦はしねぇ!!」
うーむ、水戸のご老公みたいに、威光にひれ伏してくれるかも?って期待したんだけど、駄目かぁ。
適当に一発殴らせたら満足してくれるかねぇ?でも、こんな難癖で殴られるってのも釈然としないしなぁ…。
悪いコトに、俺がロリ・カイザーだと知って、野次馬達は大盛り上がりだ。
コレで無様な負け方したら、そりゃあとんでも無いイメージダウンになるだろうなぁ。
何よりも、俺を信じてくれているアスミス達や、この二つ名をくれた神様に合わせる顔が無い。
「♥だいじょーぶですよぉー。」
またスレイが、いつの間にか俺の背後で呑気な声を出す。
「うわっ、お前か!―あのなぁ、そんな楽観的なコメントを無責任に言うなよ…。」
「♥ケイン様にはぁー、ケイン様の戦い方があるじゃないですかぁー。」
「俺の戦い方…?」
「♥はいー。『ロリ・カイザー』としての戦い方ですよぉー。」
『ロリ・カイザー』として…?
そうだった。さっきも思った通り、これは俺個人のメンツの問題じゃ無い。
みんなが信頼してくれる『ロリ・カイザー』のメンツが掛かってるんだ。
「♥ですからぁー、カッコ良いケイン様を見せ付けてやりましょーよぉー。」
「―そう…だな。うん、そうだ!カッコ良くか。そうしよう!ありがとうな、スレイ。」
「♥スレイはぁー、いつまでもケイン様の味方ですよぉー。」
『ロリ・カイザー』の戦い方。
それは、モンスターとの戦いでも、関所の番人相手でも、魔導巨人との戦いでも、『防人の塔』の難関でも、
どんな些細なコトも見逃さずに情報として捉え、考えて考えて打開策をひねり出す。
俺は、俺達は、いつもそうやって戦ってきたじゃないか。
今までの強敵に比べれば、たかがハゲゴリラ1匹。…おっと、ワイズィの毒舌が伝染った。(苦笑)