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勘違い行進曲  作者: 野山日夏
恋心に纏わる或る少年の決意
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 「隼人君」

 隼人が帰宅のための身支度をしていると、いつの間にかすぐ傍に柳玲子が立っていた。にこにことした顔で隼人を見つめてくる玲子に異性の家に行く緊張など微塵も見られない。隼人は嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになった。

 柳玲子からすればただ単に己の趣味を追求させてくれる人を見つけただけなのだろうが、隼人の気持ちも少しは慮ってほしいものだ。

 それでも柳玲子に控えめながらも微笑みかけて歩き出す隼人に、柳玲子がすぐそばをちょろちょろとしながらついて来る。荷物が重いのか足取りはよろけがちだ。

 ふと、隼人はその中身が気になった。柳玲子の持つトートバッグがそんなに膨らむほど、玲子は何を入れているのだろう。

 じ、と隼人がその鞄を見れば、柳玲子は隼人の視線に気がついたようだった。

「なあに? 隼人君」

「ん? ああ、その鞄の中身は何かと思って」

 首を傾げて隼人に問い掛けてくる柳玲子に、隼人がそう尋ねると柳玲子は目を輝かせた。

「えっ、 なになに興味あるの? これは私のオススメの漫画でバトル物なんだけど主人公がもうほんとに総受けで次から次へと他のキャラに迫られて普段からもう誰彼構 わず男誘ってるんじゃないかってくらいもう誰からも愛されてボロボロになったりとかしてるところなんてもうヤら」

「ああうん分かったありがとう」

 柳玲子の口の回りが余りに早過ぎるのと分からない言葉があったのとで、隼人にはその語る内容の半分も理解出来なかった。だが間違いなく隼人には知る必要のないことだったので、興奮気味の柳玲子の言葉を遮り隼人は口早に礼を言った。

 隼人の言葉に一応隼人の意図は伝わったらしく、柳玲子はかなりがっかりした様子を見せながらも語りをやめた。

 そして拗ねたように隼人から視線を逸らしたところで、あっ、と声をあげ指を一点に向け指した。その指の先は興奮からか微かに震えている。

「いたっ!」

 何かを見つけた様子の柳玲子のその言葉に隼人は顔をあげ、そして視界に入ったその人物に目を丸くした。

「へ?」

 間抜けな声をあげてしまったのも仕方があるまい。何しろそこにいたのは遠目ながらでもよく分かる、

「ね、あの人隼人君にそっくりだから家族でしょ? やっぱり手繋いでる!」

「あの人は俺の姉貴」

 隼人の兄ではなく、姉であったからだ。

  なるほど、と隼人は思った。隼人の姉はボーイッシュと形容されるタイプの女性で、時々女性に告白されたりするくらいには男に間違われるらしい。余り意識し たことがなかったのだが、柳玲子の言葉からすると姉と隼人とは顔立ちが似ているらしい。そして例に漏れず隼人の姉を男だと思った、と。

 それにし ても、と隼人は姉を見た。今まで隼人らの食事の準備だけで手一杯だと言い張っていたくせ、最近急にバイトをし始めたものだからどうしたかと思っていたのだ が、どうやら男が出来ていたかららしい。隣にいる姉の彼氏はどちらかといえば姉よりも余程中性的な容姿だったが、本人達が幸せなら何も言うまい。

「ええっ、男の人じゃないの!?」

「うん、あれでもあの人は女。実際よく男に間違えられるらしいけどね」

 隼人の言葉に柳玲子はあからさまにがっかりした様子を見せた。余程ゲイカップルと知り合うことを楽しみにしていたらしい。

 そのままこちらに気付くことなく歩いていく二人を見送り、それから柳玲子が大きな溜め息をついた。

「あーあ、残念。折角ゲイカップルに巡り会えたと思ったのに! じゃあね、隼人く」

 そのまま帰ろうとする柳玲子の言葉は、しかし途中で途切れることとなった。隼人が柳玲子の腕を掴んだからだ。

 隼人は柳玲子に対して、非常に紳士的だった。柳玲子の言葉尻を掴まえて家に連れ込んで良からぬことを、などということだって考えないようにしていた。だが。

 男として全く意識されていないからといって、気持ちを伝えたら迷惑かと遠慮する必要もないのではなかろうか。用は済んだとばかり帰ろうとする柳玲子に、隼人はそう思い始めていた。

「あのさ、」

 隼人は口を開いた。

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