表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元奴隷ですが、英雄になりました  作者: Komiko Noir


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

第2話:ジョーク

第2話:ジョーク


世界はただ止まったわけではない。壊れたコードの万華鏡のように砕け散ったのだ。


カイが【ザ・ワイルドカード】を握り潰した時、彼は力の奔流を期待していた。剣か、盾か、あるいは飛びかかってくる化け物を打ち倒す雷の直撃を。


しかし、彼が得たものは「ノイズ」だった。


黒板を千本の爪で引っ掻くような金切り声が、頭蓋骨の中で爆発した。目の前の空間が引き裂かれる。ネオンバイオレットと金色のピクセルが現実世界に滲み出し、彼の手の周りで激しく渦を巻いた。


--------------------------------------------------

【システム警告:ワイルドカード起動!】

【確率ロール実行中……】

【グリッチ(バグ)を検知。リロールを開始します。】

【結果が確定しました。】

--------------------------------------------------


渦巻く光が瞬時に凝縮され、カイの握る手の中に固い物体として実体化した。


カイは身構え、新たな武器を振り下ろす準備をした。筋肉が張り詰め、血管をアドレナリンが駆け巡る。彼は屍肉ネズミ(スカベンジャー・ラット)の爪を迎え撃つべく、手を前に突き出した。


「死ねえっ!」カイは絶叫した。


だが、鋼が激突する音は鳴らなかった。ただ、鈍い、木を叩くような「ポカッ」という音がしただけだった。


カイは瞬きをした。ネズミも瞬きをした。


カイの手の中で、人を小馬鹿にしたような淡いオーラを放っていたのは――スプーンだった。


魔法の杖ではない。銀の短剣でもない。


スプーン。木製の、スープ用スプーンだ。


--------------------------------------------------

【生成されたカード:おばあちゃんのスープスプーン】

【レアリティ:ゴミ】

【ダメージ:0.5】

【効果:スープの味が少しだけ美味しくなる。】

--------------------------------------------------


「冗談だろ……」カイは裏返った声で呟いた。


脅威のなさに一瞬困惑していたネズミが、シャーッと威嚇音を上げた。獲物が持っているのは武器ではなく食器だと気づいたのだ。それは再び跳びかかり、カイの頭蓋骨を砕くほど大きく顎を開いた。


冷たく鋭いパニックが、カイの胸を突き刺した。


「おい、待て待て待て! 戻れ! 別のになれ!」


カイは半狂乱でスプーンを振り回し、ネズミの鼻面を叩いた。ポカッ。


まったく効果はない。ネズミは怯みすらしない。怪物はカイに激突し、彼を硬い石の床に押さえつけた。重く腐った息がカイの顔を撫でる。よだれが彼の頬に垂れ落ちた。


鋭い爪が彼の両肩に食い込む。


--------------------------------------------------

【HP:8/50】

【警告:出血効果が付与されました。】

--------------------------------------------------


カイは蹴り、もがいて抵抗したが、怪物は重すぎた。ネズミは頭を下げ、彼の喉元に狙いを定めた。


(これで終わりか?)天井を見つめながら、カイは思った。(落盤を生き延びて、スプーンを握りしめたまま死ぬのか?)


彼は指の関節が白くなるほど、スプーンの柄を強く握りしめた。自分の恐怖、怒り、そして残された意志のすべてを、そのバグった物体に注ぎ込む。


「なんとかしろおぉっ!」彼は咆哮した。


ネズミの牙が彼の首筋をかすめた瞬間、スプーンが振動し始めた。


ただ揺れただけではない。暴力的で不安定なエネルギーを伴って唸りを上げたのだ。木製の質感がピクセル化し、砂嵐のようなノイズへと溶けていく。


--------------------------------------------------

【システム警告:不安定な実体化!】

【極度のストレスによりRNG(乱数生成)がトリガーされました。】

【リロール中……】

【クリティカル・サクセス(大成功)!】

--------------------------------------------------


スプーンが消滅した。


ネズミが噛みつくほんの数分の一秒の間に、カイの手の中にある物体が膨張した。空気が焼け付くように熱くなる。下水のような悪臭が、オゾンと硫黄の匂いにかき消された。


カイの手が握っているのは、もはや木材ではなかった。冷たく黒い鉄の柄を握っていたのだ。


その鉄の柄から、純粋な炎を凝縮した巨大な刃が噴き出した。


--------------------------------------------------

【カードの入れ替え完了:マグマの大剣(一時的)】

【レアリティ:レア】

【ダメージ:150(火属性)】

--------------------------------------------------


カイは剣を振らなかった。振る必要がなかったのだ。その刃は、ネズミの胴体を貫通する形で「ただ実体化」した。


ゴウゥゥゥッ!


悲鳴すらなかった。あまりにも激しい熱が、一瞬にして傷口を焼き焦がした。屍肉ネズミは噛みつく動作を終える前に、灰と輝く残り火へと分解された。


突如発生した熱風の爆発力に吹き飛ばされ、カイは後ろに倒れ込んだ。煙が充満する狭い洞窟の床を滑りながら、激しく咳き込む。


彼の手にある炎の剣は、一度、二度と瞬き、紫色の光の粒となって砕け散った。


洞窟に再び静寂が戻った。


カイは荒い息をつきながら倒れ伏し、かつて怪物だった灰の山を見つめていた。彼の手は制御不能なほど震えていた。


心地よいチャイムの音が耳に響く。


--------------------------------------------------

【敵を討伐しました:屍肉ネズミ(Lv 3)】

【獲得経験値:+30】

【レベルアップ!】

【レベル1 → レベル2】

--------------------------------------------------

【ステータスポイントを獲得:+3】

【新機能解放:デッキエディター】

--------------------------------------------------


カイは震える声で笑い声を漏らした。それは小さな含み笑いから始まり、やがて狂ったような喘鳴へと変わっていった。


彼は自分の空っぽの手を見つめた。


「スプーン……」肩の血を拭いながら、彼は呟いた。「あいつ、最初にクソみたいなスプーンを寄越したんだぞ」


彼は肋骨の痛みに顔をしかめながら身を起こし、宙に浮かぶ通知ウィンドウを見た。【ザ・ワイルドカード】のプロンプトが、まだ視界の隅に浮かんでいる。


今は大人しく、無害そうに見えた。しかし、カイは思い知っていた。


「お前……」カイは震える指をインターフェースに突きつけた。「いつか絶対、俺を殺す気だろ」


インターフェースがチカッと点滅した。まるで彼に向かってウインクをするかのように。


カイは冷たい壁に背を預けた。生き残った。しかし、彼は自分の新たな力に関する「恐ろしい真実」を悟ってしまった。


彼は技術を競うゲームをしているのではない。ロシアンルーレットをしているのだ。


次に引き金を引いた時、出てくるのは剣ではないかもしれない。フォークが出てくる可能性だってあるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ