第四話 お話と試し合い
明日は2話投稿します。
あたしのパパは勇者だったらしい。
だけど、あたしは勇者なんて野蛮なやつらより、魔王さまのように心が広くて優しい人みたいになりたい。
これは、そんな勇者の娘、フレイルが、「魔王」という職業に憧れたところから始まる物語。
でも、魔王さまたちって、普段はどんな生活してるんだろう?
そう思ったから、あたしはパパと一緒に魔界ってところにやってきた。
「お空真っ暗ー!」
「ああ、いまは昼だからな。明るくなったら、こわーい人たちが帰ってくるぞ」
「ふーん」
あたしの冷たい反応に、何も言わなくなるパパ。
それより、はやく魔王さまに会いたいなぁ。
そう思って、てくてくと歩くあたし。
「あっ、待てよフレイル! オレも行くっての!」
「パパおそい」
「ご、ごめん……」
ま、あんまり期待はしてないけど。
そんなことを考えていると、ワニを連れたおじいちゃんが出てくる。
「わー、おじいちゃんだー! このワニはペット?」
「久しぶり、ヴァッサゴ」
「お待ちしておりました、勇者どの。娘さんも連れてきたのですね」
「うん。だって、たまには社会見学させたいし」
「社会見学? ……って何? それより、急げー!」
走って突き進むあたし。
なんか真っ暗で、窓もたくさんあるけど夜で、出た感想といえば、
「へー! 退屈しなさそうね!」
の一言くらいだった。
「こらこら。フレイル、勝手に行かないの」
「はーい」
あんな王宮とかいう無駄に広くてやることも退屈な場所よりも、あたしは人と関わりたかった。
だから……
「あーもう、サイコー!」
そうやってのびのびとしていると、パパに持ち上げられて、奥に進んでいく。
「ねぇじいや! 魔王さまは?」
「こら。じいやじゃなくて、ヴァッサゴと……」
「じいや! ほら、はやく教えてよ!」
「魔王さまになら、もうすぐ会えますよ。おてんばですな」
「だよなぁ……自由にさせすぎたかな?」
パパがじいやと話しながら歩く。
しばらく進むと、仮面と鎧をつけた怪しい人がいた。
優雅に飲み物まで飲んでるし……。
ていうか、仮面つけてるのにどうやって飲んでるんだろう?
「おっす、魔王ー!」
「遅いぞキサマ! もう昼だ!」
「だって、時間感覚狂うし、あんまり娘を来させたくないんだよ」
「ワープすればよいだろう。というか、キサマの娘を招待した覚えはない!」
「ワープ装置つけて? オレの『ワープ魔法』は敵地には入れないから」
「予算がないのだ!」
「そいつは失礼」
紫色の仮面に、動きにくそうな鎧……!
そして、パパを許す広い心!
「パパ! この人が魔王さま?」
「ああ、魔王本人だ。魔王ウァレフォル」
「ふーん……」
「……というか、なぜ娘を連れてきた?」
「暇そうだったから」
「嫁さんからはなんとも言われんのか?」
「大丈夫大丈夫、無断でここ来たから」
「何が大丈夫なのだ!? はやく帰って嫁さんを大切にしろ!」
「いやしてるわ! ちょっと離れてるだけだし!」
それにしてもパパと魔王さまって……
なんか仲がいいわね!
「魔王さまー、仮面とって?」
「断る」
「え? 魔王のそれって仮面だったの? 他の魔族と同じ感じかと思ってたわ」
「いや、中にはファッションでメイクしてるやつもいるぞ?」
「ふーん、新事実。それで、仮面取ったらイケメンなの?」
「うむ。いや、取らぬぞ!? ……寝るとき以外は」
「それより……ん?」
パパが何かに気付く。
ん? なんか男の子がいる。
あ、陰に隠れた。
「魔王、あの子は?」
「われの息子で、カイムっていうのだが……じつは、キサマに憧れていてな……」
「ふーん。弟子もいないし、後釜にも困ってたんだけど、連れてってもいいか?」
「うーむ……本人の気持ち次第だな。われはあまり過酷な目に遭わせたくないし……」
「大丈夫だ。オレの修行は厳しいが、オレの受けた修行ほどにするつもりはないから!」
「それは本当に大丈夫なのか!? ……まあよい。それより、もうじき幹部たちが帰ってくるぞ」
「マジで? じゃあ、そろそろ帰るわ。てか、いい加減ワープ装置つけろよな」
「予算がな……。魔王業も結構カツカツなのだ……」
「お互い苦労するな……。じゃあな!」
「うむ」
パパがワープしようとすると、パパは男の子に呼び止められた。
なので、あたしは魔王さまの膝の上に座る。
「……なんだ?」
「いや、暇だから」
「……そうか。それより勇者よ。キサマ、そんなキャラじゃないだろうに」
「いいんだって! 素のオレだと怖がられるだろ!」
パパがなんか演技してる。ちょっと面白いかもな。
そして、男の子に対して話しかけるパパ。
「おう……じゃなくて、うん! さぁ、共に行こう!」
「はい!」
「おい勇者。キサマ、娘を忘れ……」
「『ワープの呪文』!」
「あっ……!」
あーあ、行っちゃった。
「行っちゃったね」
「まったく、ちょっと文句を言ってやる!」
「ねーねー魔王さまー、仮面取ってー?」
「取らん! われはいま忙しいのだ!」
携帯用魔道具でパパに連絡する魔王さま。
「おい勇者。キサマ、娘を忘れているぞ」
『えっ!? あ、そういやいなかったな……!』
「いや気づけ。はぁ……仕方がない。不本意だが、われが預かってやろう。次に来るのはいつだ?」
『オレ一応王様だから、これから忙しくなりそうなんだよね。とりあえず五年くらい頼むわ』
「そんなにか!?」
『互いに子ども預かるんだし、別にいいだろ。あ! でも、愛娘を悪に染めるのだけはやめろよ?』
「そっちこそ、魔王を目指さなくするのだけはやめろよ?」
『それは保証できな……』
と、ここで、男の子が代わったみたい。
だけど、あたしはどうでもよかったので、そこからは聞き流した。
「う、うむ」
そして、ようやく魔道具の通信を切ったようだ。
「……はぁ、心配だ」
「魔王さまー、ここ、なんかないの?」
「キサマ、泣かないんだな」
「だって、女の子が泣くのは男の人を困らせたいときだけだってママが……」
「キサマの親とんでもないな!?」
「うん。でも、優しいんだよね! 魔王さまのお嫁さんは?」
「可憐で儚げで、良い人物だった。が、もういない」
「あ……そっか……」
「別居された」
「……って、死んだんじゃないの!? いや生きててよかったけど!」
「うむ。息子のカイムが一人前になったら、また一緒に暮らしてくれるらしい」
「そ、そうなんだ……」
思わずツッコミを入れてしまった。
魔王さまって、案外パパと似たタイプかも。
「じゃあ、キサマの部屋を作ろう。ネームプレートも用意せねばな」
「魔王さまって、変なところで真面目なんだね」
「うむ。それより小娘、キサマの名は?」
「フレイル! ねぇ魔王さま、魔界には街とかないの? パパってば過保護で行かせてくれなかったから」
「あるにはあるが、人間は少ないぞ?」
「わーい! なら、一緒に行こうよ!」
「でも、われには仕事が……」
「そんなのサボって部下に押し付ければ? パパはいつも大臣に任せてるよ?」
「ろくでもないなあいつ!?」
うーん、それは否定しないけど……
「でも、優しいんだよ!」
「キサマはそればかりだな……」
「逆に言えば、優しいところ以外はダメダメ!」
「キサマ、上げて落とすタイプなのか!? さすがに他にもいいところはあるだろう」
「いやないよ。魔王さまを許した心意気はいいけど、悪の根?はちゃんと消さないと。それが勇者の仕事なんだから」
「フレイル。キサマ、意外としっかりしておるな」
「でもね! だからこそ、『魔王』っていいよねって話! 魔王さまはパパを許したでしょ?」
「うむ。和解を選んだ」
「だから、『勇者』よりも『魔王』側に選択権はあるんだよ? わかる?」
「というと?」
うーん、わからないかな?
あたしは勇者の娘だから、価値観ってやつが違うのかも。
まあ、理解されないのは嫌だから話すけどね。
「そうだなぁ……。『勇者』って、『魔王』を倒すのが目的でしょ?」
「まあ、一般的にはな」
「でもね、『魔王』たちは別に『勇者』なんて相手にしなくてもいいわけ。だから、あたしは『魔王』って職業が好き!」
「そうか……。フレイル、キサマは『魔王』になりたいか?」
「んー……やだ。だって、窮屈だし、上の者は下の者の気持ちを理解しないとダメだし、めんどくさいもん!」
「ふっ……はっはっは! たしかにな。だが、悪いことばかりではないぞ」
「でもなぁ……」
魔王さまと話をしていると、たくさんある窓がすべて開いた音がした。
そして、何か黒い影が通り過ぎる。
「えっ?」
見上げていた顔を下ろすと、目の前に何十人もの人たちが集まっていた。
「いつの間に……!? 着地の音も聞こえなかったのに……!」
「「「魔王さま、号令を!!!」」」
「うむ」
そして、魔王さまは話し始める。
「よくやってくれた、皆のもの。今日からわれら魔王軍で、勇者の娘『フレイル』を預かることになった。皆で育てていこうと思うので、異議がある者は挙手を」
魔王さまがそう言うと、じいや以外の全員が手を挙げた。
「魔王さま! その女、殺すべきでは?」
「「「そうだー!」」」
「むぅ……」
魔王さまが困った顔をする。
……と言っても、仮面のせいでわかんないけど。
仕方ない。あたしってば、たまにパパと組み手してるし、実力ってやつを見せてやりますか!
「ふふん、じゃあ見ててね! 魔王さま!」
「ふむ?」
あたしは魔王さまの膝から下りると、「殺すべき」とか言ったやつの目の前へ歩いて移動する。
「おーい、いま言った顔色の悪いお兄ちゃん。あたしは優しいから、殺さないであげるね」
「なんだと?」
「試し合いをして、勝った方がルール! それでいいでしょ? 勝った方の条件を『ここにいる全員』が守ること」
「いいぞ? ワタシは頭の回転が速いんだ」
「「「いけー! アンドレアルフス!!」」」
「では、皆のもの、二人から離れろ」
「「「はい!」」」
こうして、魔王さまの目の前で戦闘が始まろうとしていた。
アンドレアルフス? 変な名前だなぁ!
「来い。クソガキ」
「先手もらうよ? いいの?」
あたしは光を身にまとわせ、「高速移動」する。
「ああ。子どもには優しくするのが……ワタ……」
アンドレアル……アンドレなんとかのセリフもゆっくりに聞こえるほどの速度が出てる。
うーん、パパよりも遅いのに、これで魔王さまの部下なのか。
「シだか……」
あたしは一瞬でアンドレ……なんとかの背後に回る。
そして、光の剣をアンドレ……なんとかの首に当てて、
光の剣で灼いた。
「らな……って、あっつ!?」
飛び上がるアンドレなんとか。
「遅いんだよなぁ。アンドレなんとかさんって。もしあたしと仲良くしないなら、高密度?な光の剣で、もっと灼いてあげる!」
「勘弁してください! 降参します!」
「ぬはははは! 組み手はパパとよくやるし、負けないもんね!」
そう言うと、「ヤバくね?」とか、「すげぇ!」とかそういう声も混ざってきて、にぎやかになってきた。
だけど、
「静粛に!!」
魔王さまがそう叫ぶと、全員が黙り込む。
「これでわかったであろう? フレイルの実力は本物だ。われはフレイルを魔王候補とする! 異議がある者は、挙手を!」
今度はみんなだんまり。
ていうか、勝手に決めないでほしいなぁ……。
別にいいけど。あとで話せばいいし。
「では、解散! それと、フレイルと戦いたい者はわれに断りを入れてからやること!」
「「「はい!」」」
「ねえ、アンドレ! おんぶして!」
「な、なんでっすか?」
「……条件を守らないなら、光の剣で灼くからね」
「勘弁してください! で、フレイルさん、どこへ行きたいですか?」
「実はいま、高速移動の反動で臓器が気持ち悪くて寝たいから、ちょっとあたしの部屋に連れてって?」
「は、はぁ……。で、そこってどこですか?」
「なら、ベッドのある適当な部屋でいいから……」
「はいっす!」
こうして、新しい家と舎弟?ってやつを手に入れたあたし。
これからどんな生活になるのか、ワクワクするあたしがいた。




