第十一話 二人の親友
「では、いくぞ!」
「「「この世のすべての生命を弔い、今もなお生きようとする生命に対し感謝を。では、今回も……命を美味しくいただきます!」」」
「……えっ!? なになに!?」
「カイムくん、フレイルさん、いまのは……?」
「え? いただきますの挨拶」
「二人はしないんですか……じゃなくて、言わないの?」
「いや、そんなに長くは言わないよね?」
「は、はい」
「じゃあ、あとでデボンに教えてあげる!」
「はい! ぜひ!」
なんか、フレイルたちは仲良さそうだなぁ。
ぼくもライヒトくんと仲良くしたい!
そして親友になるんだ! ライヒトくんは師匠に少し似てるし、いけるはずだ!
「ライヒトくん!」
「な、何?」
「『勇者』志望ってほんとなの?」
「うん! だから、ライバルになりたかったんだ! 魔界の王子様と!」
「いや、普通にカイムでいいから……」
「オッケー! じゃあカイム!」
「はい? ……じゃなくて、何?」
「食事中は静かにしよ? そんで、あとで二人で部屋行こーぜ!」
「うん!」
なんだ、友達って簡単に作れるじゃないか!
ぼくの考えすぎだったかな。
「それにしてもデボンさん、ここのごはん超美味くね?」
「ですよね! 誰が作ったのでしょう?」
「おれちゃんが作ったぜ! ちなみに、今日の料理はケルベロスの丸焼きだぜ!」
「アイムさん、いつもお疲れさまです」
「アイムの兄ちゃん、今日も美味しいよ!」
「へい! 光栄っす!」
そういえば、アイムさんのごはんは久しぶりだなぁ。
「アイムさんマジ男前っすね!」
「というか、ここってハンサムな人多くないですか? さすが魔王軍……!」
「そういや、あんま意識したことなかったけど、顔面偏差値高いよね」
フレイルがそう言うので、ぼくも同意する。
「そうだね。フレイルもかわいいし」
「えっ……?」
「あ、いまのは、つい……」
隣の席に座ってるのに、顔を逸らすぼくたち。
「カイム! なにフレイルとイチャイチャしてんのさ! それより、ケルベロス激ウマっす!」
「へい! ありがとうございまっす!」
「フレイルさん! カイムくんって、素直でいい人ですね!」
「ま、まぁね? 一応あたしの許婚だし?」
そう発言すると、魔王軍のみんなが手を止める。
「あの、フレイルさんって、王子様の許婚なんすか?」
「うん! クソオヤジが決めたらしいよ。あたしは乗り気、カイムは……どっち?」
「えーと、あ! 目が合っちゃった! 恥ずかしい!! 目線逸らしてよ、フレイル!」
「えー? やだ」
「ぼくはこれが恋心なのか、それとも畏敬の念なのかがわかるまでは、交際しないって言ってるでしょ!」
「ほら、ドキドキしてんじゃん!」
「そりゃあ、異性なんだから当たり前でしょ!」
「ふっ……!」
「え?」
フレイルは中指でぼくにデコピンをする。
「痛い! 歴代のデコピンでも、チャンピオンクラスだ!」
「あはは、なにその言い方!」
「とにかく! ぼくは気持ちを曖昧なままにしたくないんだよ! わかった?」
「うん! ……とまあ、こんな感じかな!」
「まったく……」
「あのさ、二人とも、十分イチャついてるよね?」
「ですよね。なんか付き合ってるみたいな距離感ですし」
ライヒトくんとデボンさんがそう言うと、魔王軍のみんなも同意した。
「だよな! よく言ったぞ、金髪!」
「どもっす!」
「メガネの子も良いこと言うぜ!」
「はぁ、光栄です……」
「ねぇ、カイム……。なんか……」
「うるさくなってきたね、フレイル……。どうしよう、この空気……?」
そう悩んでいると、お父さんが叫んだ。
「静粛に! ライヒトとやらが言ったように、食事中は静かに食え!!」
「「「はい! 申し訳ございません!!」」」
「あのー、魔王さま。おれ『ライヒト』じゃなくて『ライト』っす!」
「そうか、失礼したな。ライトよ」
律儀に言い直すお父さん。こういうところは変わってないなぁ。
「カイム! お前の親父さんめっちゃいい人だな!」
「うん! お父さんはいい人だよ!」
「カイム! あたしたち先に行くね!」
「あっ、フレイルさん。待って……」
「ほら、手ぇ繋いで!」
「あ、はい!」
こうして、フレイルたちは部屋に行った。
「……おれたちも手ぇ繋ぐ?」
「いや繋がないよ!?」
「じゃ、カイムの部屋行こーぜ!」
「うん!」
そして、ぼくたちも自分の部屋へ行く。
「そういや、『ごちそうさまでした』はないのな!」
「最初のが、『いただきます』と『ごちそうさまでした』の融合版だからね!」
「なるへそ!」
「着いた! 開けるよ?」
「アイアイサー!」
ぼくが部屋の扉を開けると、そこは昔のままだった。
「うわー! カイムの部屋、子ども向けのおもちゃばっかだな!」
「八歳の頃に師匠に王宮に連れてこられて以来、一度も帰ってなかったからね」
「修行はどんな感じだった?」
「腕が上がらなくなるくらい毎日素振りしたかな! それを丸一年してからは、毎日稽古をつけてもらってた」
「へー。元勇者さんって、厳しかった?」
「うん。よく仕事をサボって、週一で仕事をするかしないかレベルのグータラ師匠だったよ」
「その言い方、尊敬してんのか微妙だな! はは!」
「うん。でも、一回も嘘をついたことはないし、修行中は真剣だった!」
「ふーん。めっちゃいい人だな!」
「うん! 師匠もいい人だった!」
……お父さんに負けないくらい。
「……よし! それじゃあ、女子の部屋行こうぜ! カイムの武勇伝、聞かせてやろう!」
「いや、武勇伝ってほどじゃないから!」
「いいから! 行こうぜ!」
「うん!」
フレイルの部屋へと向かうぼくたち。
「おっ、フレイルのネームプレートあんじゃん! ここじゃね?」
「お父さんの真面目さが出ていていいよね!」
「うん! 魔王さま、案外真面目だったりしてな! じゃ、開けるか!」
「うん! ライヒトくん開けて!」
「やだ」
「な、なんでさ?」
「男子禁制みたいな感じで、開けようとしたらドアノブから電撃流されそう。魔王の城だし!」
「いや、そんなのないから! ……たぶん」
「やっぱりカイムも疑ってるじゃん!」
「違うよ! 五年ぶりでそういうトラップがあるかもって思っただけで……」
そんな会話をしていると、ガチャッと扉が開いた。
「あのさ、丸聞こえだから。はやく入れば?」
「うん! お邪魔しまーす!」
「ライヒトくん、馴染むのはやっ!」
「だって、さっきも入ったし!」
「ほら、カイムも!」
「う、うん! ……お邪魔します」
こうして、フレイルの部屋に訪れた。
「で、なにしに来たの?」
「用がないといけないんですかー? おやつ美味っ!」
「ですよね! 魔界のおやつ、美味しいです!」
「即馴染んでるし……」
「ま、いいや。あたしもカイムに会いたかったし」
「な、なんで?」
「好きだから」
「あ、うん……」
なんだこの感じは……
「よし! それじゃあ、おれたち帰ろっか!」
「ですね! イチャイチャの邪魔したくないですし!」
「……って、なんで二人とも気を遣ってるの!? お願いだから行かないで!」
「はぁ? どういう意味だよマジパンダこら」
「久しぶりに聞いたなぁ、それ」
「マジパンダ? 何そのあだ名! ウケる!」
「なんですか? マジパンダって」
「真面目で、パンダ目っつーか、隈があるからマジパンダ」
「「なるほど……」」
よし、とりあえず二人をこの場から離れさせないようにしよう。
フレイルと一緒だと、何をされるかわからない……!
「じゃ!」
「わたしたちは邪魔しないようにしますね! お邪魔しました!」
「うん! また学校でね。ライヒト、デボンも!」
「おう」
「また学校で! ……って、どうやって帰るんですか?」
「さぁ? おれに聞かれても……カイムは知ってる?」
「フレイルが『ワープの魔法』を使えるから、それでしか帰れないよ!」
「チッ……めんどくさ」
「ふぅ……」
これでぼくがフレイルと二人っきりになるのは阻止できたかな。
「あ、そういえば、二人はなに魔法を使えるの? ぼくは『暗闇魔法』!」
ここは、フレイルの気を逸らすためにも、話題をあげないと!
「あたしは『聖光魔法』!」
「おれ、『操炎魔法』! 炎を操るの!」
「わたしは『影魔法』です。ですが、戦闘は好きじゃないです」
「へー。それで、あんたらってどっちが強いの?」
「そりゃあもちろん……」
「決まってますよね……」
「デボンさんだよー!」
「ライヒトさんに決まってます!」
「「「え?」」」
ぼく以外の全員が口を揃えた。
どうやらみんな、いまの返答に疑問を持ったようだ。
「わたしは戦闘向きの魔法ですが、性格は戦闘向きじゃないので!」
「おれだって炎を発生させないと雑魚だから! はい、おれの負け!」
「なんですかそれ!?」
「いやさ、そもそも、戦えばわかるでしょ?」
「えー? おれ痛いの嫌いなんだよなー」
「『勇者』志望なのにか! 『勇者』なめんなよ金髪!」
「なんでフレイルはおれにだけ当たりキツいの!?」
「クソオヤジに似てんのがムカつくんだよ!」
「なにその理不尽!?」
フレイルらしいなぁ……。
「わたしも、戦闘はちょっと……」
「でもフレイルの言うとおり、戦えばわかるんじゃないの?」
「おい親友! そんなに友を痛めつけたいか?」
「いや、言ってることがチグハグ! それに、ぼくのライバルになりたいなら、実力見せてよ! ぼくだって、応援したいし……」
「わかった! 見てろカイム! おれの負け様を!!」
「うん!」
負ける前提なんだ……。
「デボンも、勝ったらいつでも帰らせてあげるね。負けたら宿題を全員分やらせるから!」
「いや、それ筆跡でバレますよね!? でもまあ、やる気なのはわたしも同じです!」
こうして、広間に移動してライヒトくんとデボンさんの戦いが始まる。
「がんばれ! ライヒトくーん!!」
「いけいけデボン!」
「あんなに応援されたら、漢を見せなきゃ男がすたるぜ!」
「わたしもいきます! 『影伸ばし』!」
デボンさんの影が、前方に向かって一直線に伸びる。
「なるほど、ああやって影を操作して戦うのか!」
「やるじゃんデボン!」
「なら、燭台の炎をお借りします! 『操炎』!!」
炎を操作して、手元に浮かせるライヒトくん。
「からの、巨大な炎!!」
「すごい! ライヒトくん、炎の大きさも操作できるとは!」
「さらに! 蒼い炎にしちゃったりして!?」
ライヒトくんの操る炎が蒼く輝いた。
「おおっ! 蒼い炎まで!?」
「ライヒトすごくね?」
そんな解説をしていると、ライヒトくんが口を開く。
「あちいいいぃぃぃ!!」
「「え?」」
「『操炎魔法』は、炎は操作できても、使用者の温度感覚は変わらないんだよ!」
「あ、だから負けるって連呼してたのか」
「でも、これじゃあデボンも近づけないよね? どうするんだろ?」
「いえ、影がライヒトさんに重なった時点で、勝負は決まりました!」
「「「は?」」」
「秘技! 『影移り』!」
そう叫ぶと、デボンさんは影に潜ってから、影を伝ってライヒトくんの影に潜り込む。
「なるほど。影が重なれば、ああやって影を支配できると!」
「しかも炎のおかげで、影も伸ばしやすくなってたんじゃね!? 押せ押せデボン!」
デボンさんはライヒトくんの影を操作して背後に回り、影から飛び出して背後から首に組み付く。
「ちょっ! ギブギブ!」
「これでわかりましたか? わたしは戦闘は嫌いなんです! 勝ててもつらいだけなので!」
「……それよりデボン、ライヒトがヤバいよ」
「うー……」
「ライヒトくーん!」
「あっ、ごめんなさい!」
ライヒトくんを離すデボンさん。
「……ゆ、許すよ! でもここで一言。……胸当たってた!」
「きゃあ!」
ライヒトくんはデボンさんにビンタされる。
「ぐふっ!」
「いいスナップだよ、デボン! ヘーイ!」
「はい、やりました!」
「「イエーイ!」」
ハイタッチするフレイルとデボンさん。
「なんかおれ、扱い悪くねー?」
「お疲れさま、ライヒトくん。でも、まずは温度に慣れないとね」
「おれ、炎こわい! 戦い嫌い! でも、『勇者』にはなりたいっす!」
「なら、戦いにも慣れないとね」
「うす……」
そう言って、ライヒトくんは大の字で気絶した。
デボンさんもかなり強かったし、「魔力解放」しなくても強い人はいるんだなーと思った。
そして、二人のことが友達から親友に変わったことを内心喜びながら、ぼくは久しぶりの実家を堪能するのだった。




