第15章ー最悪の再会ー
九識邸へ戻ってから、数日。
久しぶりの屋敷は相変わらず騒がしかった。
朝食の席では、
「それ俺のだろ!」
「名前書いてない方が悪い」
「りゅーいち兄ちゃん子供じゃないんだから」
「うるせぇ!」
そんなやり取りが飛び交っている。
以前なら圧倒されていた空気にも、京慈は少しずつ慣れ始めていた。
そんな中。
朝食後、端末が鳴る。
表示された名前を見て、京慈は少しだけ目を細めた。
『アヤ』
嫌な予感しかしない。
数時間後。
京慈は再び、セブンスター財団へ来ていた。
受付を抜け。
案内された部屋へ入る。
そこにいたのは。
「悪いな。呼び出して」
りすずだった。
相変わらず、椅子に沈み込むように座っている。
モニターの光が顔を照らしていた。
そして。
奥ではアヤがコーヒーを飲んでいる。
「……また修行ですか?」
「今回は仕事寄り」
アヤが言う。
京慈は少しだけ安心した。
修行ではないらしい。
「最近ねー」
りすずが画面を操作する。
大量の地図と反応データが表示された。
「王国内で紋章発現反応が増えてる」
京慈の表情が変わる。
「増えてる?」
「うん」
りすずが頷く。
「九識家だけじゃない」
さらに別の資料。
「セブンスター財団」
「一般冒険者」
「ギルド未確認案件」
次々に並ぶ。
「発現した本人が制御できてないケースも多い」
アヤが静かに言う。
「このままだと、普通に社会問題になりえるんだよね」
京慈は画面を見る。
暴走。
破壊。
失踪。
死傷者。
紋章は便利な力じゃない。
使い方を誤れば、簡単に人を壊せる。
「で、京慈」
アヤが視線を向ける。
「確認行ってきて」
「俺ですか?」
「今のお前なら、暴走相手でもある程度止められるだろ」
りすずが即答だった。
京慈は小さく息を吐く。
「……分かりました」
その瞬間。
ピコン、と音が鳴る。
りすずの視線がモニターへ向いた。
「あ」
「どうした?」
「今、新規反応」
部屋の空気が変わる。
地図上で一箇所が赤く点滅していた。
りすずが場所を拡大する。
「王都外れ」
「反応強め」
アヤが立ち上がる。
「タイミングいいね」
「悪いの間違いでは……」
「行っといで」
完全に押し切られた。
現場へ到着した時。
既に周囲は騒然としていた。
破壊音と悲鳴、逃げ惑う人々。
そして。
「うおおおおお!!」
男が暴れていた。
身体の一部が異常に膨張している。
紋章の力なのだろう。
だが制御できていない。
腕を振るうたび、壁が砕ける。
「っ……!」
京慈は踏み込む。
男がこちらを見る。
「邪魔すんなァ!!」
突進してくる速度は想像よりも速い。
だが。
(見える)
京慈は呼吸を整える。
タイミング、流れ、重心。
修行で叩き込まれた感覚。
男の拳が来る瞬間。
右腕を一点硬化。
ガギィッ!!
衝撃を止める。
「なっ……!?」
男が動揺する。
京慈はそのまま身体を捻る。
腕を取り、バランスを崩す。そして足を払う。
地面へ叩きつける。
「ぐあっ!?」
さらに。
硬化した腕で男の関節を押さえ込む。
「落ち着いてください!」
男は暴れる。
だが以前より、京慈の硬化は安定していた。
必要な場所だけ。
必要な瞬間だけ。
制御できる。
「っ……!」
やがて。
男の抵抗が弱まる。
京慈は静かに息を吐いた。
「……終わった」
だが。
周囲を見る。
妙だった。
静かすぎる。
破壊された一軒家。
嫌な予感がした。
京慈はゆっくり近づく。
扉は壊れている。
恐る恐る中へ入る。
その瞬間。
京慈の表情が凍った。
「……っ」
血。
倒れた家具。
そして。
人が数人倒れている。
男性が女性と子供を守るようにしていた。
家族だったのだろう。
無惨に倒れている。
京慈は言葉を失う。
男の暴走に巻き込まれたのか。
それとも。
「……」
京慈は静かに目を閉じる。
その場で手を合わせた。
せめて少しだけでも。
そう思った時。
奥から小さな声が聞こえる。
「……っ、ひっく……」
泣き声。
京慈が顔を上げる。
まだ生存者がいる。
急いで奥へ向かう。
倒れた棚を避け、壊れた部屋に入る。
その隅に小さく身体を丸めて泣いている人物がいた。
「……大丈夫ですか」
恐る恐る近づく。
その人物が、ゆっくり顔を上げる。
京慈の動きが止まった。
「……え」
見間違えるはずがなかった。
「……めい?」
震える声。
すると。
相手も目を見開く。
「……京慈?」
信じられないものを見るような声だった。
次の瞬間。
めいが立ち上がる。
そして勢いよく京慈へ抱きついた。
「……っ!」
小さな身体が震えている。
京慈は咄嗟に受け止めた。
その瞬間理解してしまった。
倒れていた家族。
ここはめいの里親の家だ。
つまり、さっき死んだのは、…めいの里親。
「……っ、うぅ……っ」
めいが、京慈の胸へ顔を埋める。
泣いていた。
ずっと一人で。
怖かったのだろう。
苦しかったのだろう。
京慈は何も言えなかった。
ただ。
震えるめいの背中へ、静かに手を添える。
「……もう、大丈夫」
その言葉だけが。
ようやく、口から出た。




