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相棒はカンフー童女  作者: ユーカリの木
きわめて人工的で人間的なあなた
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二章:神はサイコロを振る 6

 妖精種のメルダーにとって、この仕事は面倒だった。ルミナス工房の用心棒である彼女に下された命令は、エーテル研究所の副所長であるアイラのプロジェクトを頓挫させることだ。クリスタルラインから出資を受けての行動が気に食わない、という俗な理由だ。


 与えられた情報は、かつて共同研究をしていたクリスタルライン筋からの資金提供。北セクターのマフィアT3から孤児の売買。それでさあ潰せと言われても、ひとりでできると考えている方がどうかしている。


 メルダーは、一般的な妖精種的な価値観を持っていると自認している。だから、ルミナス工房の考えも一定は理解する。要は、劣等種から補助を受け、あまつさえその技術が連中に流れるなどというのは妖精種の矜持が許さない。これは分かる。ならば、もう少し人材を投下してくれというのが本心だ。


 だから仕方なく、メルダーは周辺マフィアの情報筋から辿り、東セクターで人攫いが活発化しだしたことに気づき、その動きを張っていた。


 集めた孤児を収容する場所がどこかにあるはずだから、いっそそこを潰してしまえばいい。T3と全面戦争になるだろうが、その前に身を隠してしまえばいいだけだ。頃合いを見てルミナス工房に戻ればそれでいい。


 そんな風に、頭に適当な図面を引きながら孤児たちの回収現場を見ていれば、人族と妖精種が突っかかりだすではないか。人族がうまいこと交渉しているようにも見えるが、結局は銃撃を受けている。


 メルダーはめんどくさがり屋だ。それでも、危機に陥りそうな同胞を放置するほど落ちぶれてはいない。


 メルダーはビルの屋上から旅行トランクを抱え、一気に飛び降りた。


 トランクから取り出した拳銃を右に持ち、ろくに構えもせずに児童福祉を名乗っていた男二人を銃弾で黙らせた。


 さて、敵の応援が来るまであと何分か。あるいは、下っ端ごときに増援は出さないのか。


「我が同胞よ。なぜ殺したのです!」


 メルダーに噛みつく勢いで叫ぶ妖精種の少女がいた。肩口で切られた水色髪の少女だ。その顔に見覚えがあった。すぐには思い出せない。


「劣等種がクズやってたら殺すしかないだろ? 一応あんたの身も守ったつもりだ。怒られる筋はないんだがね」


「すべての人は尊いのです! 神はみだりな殺生は禁じております!」


「ああ、あたしは信仰心ないんだよ。そういうのは自分ができる範囲でやっておくれ」


 同胞の姿を真正面から見て記憶が蘇る。この少女、アイラの娘だ。


 これは運が回ってきたということだろう。


「あんた、名前は?」


「……ノアです」


「そう、ノアか。プロフィールと一致する。さてノア、母親に会いたくはないか?」


「なにを言って……?」


「おや? もしかして喧嘩中かい? いまなら仲介もやむなしさ」


「ふざけないでください! あんな非人道的な行いをしている人を母などと思っていません!」


 背後で気配が動く。メルダーはノアを見つつ背後へ拳銃を撃った。牽制だ。


「後ろの劣等種。動くんじゃないよ。次は殺す」


「なにをやっているのです! その方は私の恩人です!」


「ええ? そうなの? 面倒くさいねぇ」


 メルダーは頭をぽりぽりと掻く。


「ひとついいかな。僕とノアはもう帰らないといけないんだ。もういいかな?」


「劣等種が許可なく喋るな。口を開いていいのはあたしが聞いたことに答えるときだけだ」


 ノアの表情が怒りに染まる。


「その言葉を取り消しなさい! 妖精種が一体なんだというのです! 人はみな平等なのです! 恥を知りなさい!」


「あー、そういう信仰に至ったわけか。あの親を反面教師にした結果があんたってことかい? まあいいや、ちょっとあたしについてきて欲しいんだけど?」


「断ります! あなたのような考えを持つ妖精種の協力など絶対にしません!」


「そうかい、じゃあちょっと乱暴しようか」


 そのとき、ふっと風が凪いだ。左で抜いた魔杖短銃で斬撃を受ける。いつの間に現れたのか、長身の緑髪の男が曲剣を振り抜いたところだった。


「あきまへんなぁ、メルダーはん。この子らぁ、わいの仲間なんよぉ。下手なことされたらわい、怒ってまうわぁ」


「助かったよナーガ」


「ハルキはんが連絡してくれたお陰やぁ。まさかルミナス工房の用心棒がおるとは思わなかったけどなぁ」


 はっ、とメルダーは鼻で笑う。


「火薬庫って呼ばれてるあたしに、たかが気配消すしか能のないあんたごときで相手になると思ってんの?」


「戦う必要あるん? わいら、別にルミナス工房に喧嘩売ってへんでぇ?」


「あんたの仲間っていうそこのノアに用事ができたんだ。身柄を貸してもらえるならあたしも素直に引くさ」


「それはできへんなぁ。うちの可愛い新人さんやぁ。手ぇ出すなら、おどれ殺すでぇ?」


 優男の印象が一変するほどの怒気がナーガから放たれる。


「ハッ! 蛇男がよく吠える。区画ごと破壊してやるよ!」


 圧倒的な殺意が膨れ上がる。




 ◇◆◇




 本物の実力者たちの戦闘をノアは初めて見た。


 肌が粟立つ。殺意が目の前でぶつかっている。金属音が平穏を終わらせる鐘の音となって響く。


 ナーガが紫髪のメルダーの首筋を狙う。女は左の魔杖短銃でそれを受け、連動して動かした右の銃を撃つ。


 半身でそれをかわしたナーガの姿が見えなくなる。文字通り消えたのだ。


「はっ! 相変わらず暗殺しか能がないな!」


 メルダーが肩越しに背後へ魔杖短銃を撃った。目を疑った。無数の紫電が発射された。しかも一発が一メートルほどの巨大プラズマだ。向かう先はハルキ、そして孤児院のバス。


 絶望の瞬間。


「ナーガ、こっちは無視していい!」


 ハルキが魔杖短剣の引き金を絞り、薬莢が排出される。あの白い壁が再び現れた。あの、明らかに魔法ではないなにかが。


 プラズマ全弾が着弾して破裂。壁は無傷だった。恐ろしいほどの強度だ。


「ノア、こっちに来るんだ! 足止め頼んだナーガ!」


「なんとかしますわぁ! ノアはん全力疾走頼んだでぇ!」


 ノアは即座に走った。現状は、ナーガとメルダーを挟んで奥にハルキがいる。この戦域を走り抜けるには、敵を押さえているこの瞬間しかない。


「アホ、それじゃ二点だ。あんたら、戦争屋と戦ったことがないね」


 不可視のナーガの攻撃を右の拳銃で受け、メルダーが足元のトランクを蹴り上げる。即座に拳銃を仕舞いトランクを持つと、思い切り振りまわした。中から飛び出してきたのは球形状の鉄の塊――手榴弾。ピンは外れている。


 ぎょっとしたノアの動きが固まる。メルダーが地面を蹴って宙を舞った。


「ハロー、エクスプロージョン」


 斬閃が無数に走る。手榴弾がすべて斬られていた。


「そっちが阿呆や。元用心棒舐めんじゃないでぇ!」


「残念、それ目くらまし」


 宙高く飛んでいたメルダーが魔杖短銃を撃つ。直後、頭上が光る。頭から足に掛けて身体に衝撃が走った。視界が真っ白になる。意識が消える。



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