四章:間違うことは人間的だ 2
「まずは謝るよ。正直本気で焦っていてね。随分酷い言葉を投げかけた」
ハルキが軽く頭を下げる。ディアナは首を振った。
「うちらの責任や。巻き込んでしもうて、ほんまに……いや、話を進めよか」
「そのナーガとやらの情報を知りたい。なんでもいい、知っていることを教えてほしい」
「実はうちその名前初めて聞いてん。箱の責任者なら知らんはずがないのに」
ディアナの言葉が嫌な事実を浮かばせた。襲撃者の特徴と彼女がナーガを知らない事実が一致している。間違いなくそいつが犯人だ。
「ナンダ、ナーガの特徴は?」
「み、緑髪の長身の男だ。いつも背を丸めてる」
「ナーガが組織に入ったのは?」
「ちょうど箱を立ち上げたときだ。ふらりとやってきて、職を探してるっていうから雇ったんだ」
頭が痛くなる。クリスタルラインの用心棒である景久クラスの実力を持つナーガが、マフィアに潜入して麻薬をばら撒く。人材の使い方がおかしい。
少なくとも、背後にユニオン序列一位並の企業がいることが判明した。ウロボロス商会すら麻薬の通過点だ。そしてディアナに対して意図的に接触をせず、いや、あるいは魔法によって存在を隠した。更に、彼女の集客を利用して麻薬の入口を作った。ますます意味が分からない。
いや……ディアナ、そうか、ディアナか。
「ハルキ?」
隣に座るペルテテーの声で意識を浮上させる。
「まずは対処だ。まずは麻薬を止める」
「そうしたら確実にナーガが動くね。どうする?」
「参ったね、戦闘はできれば回避したい。でも交渉余地があるのかすら分からない」
ふむ、と入口に立ったままのフェンが会話に加わる。
「いっそ真正面から会ってみたらどうか? 不意打ちされるよりよかろうて」
「その真正面から対面できるかが怪しいんだけどなぁ。たぶん、相手はこっちを殺害対象として認識してるだろうからね」
あ、とディアナが声を上げた。
「うち使えへん?」
「どういうことだい?」
「ナーガってやつは麻薬を撒いてる。そのための集客装置がうちやろ? なら、うちがそのキャンディを食べちゃったことにすれば、普通に慌てて来るんちゃう?」
「可能性は五分、いや、もっとあり得るか……。推論通りなら、ナーガは可能な限りディアナを五体満足でいさせる必要がある」
「なら決まりやな」
「でも、僕の考えが外れていたら、死ぬよ?」
「恋人がやられたんや、うちだけ後ろでのうのうと待っとるなんてできん」
一瞬、思考が飛んだ。
「え、こい、え? いまなんて?」
「ああ、言っとらんかったな。うち、オライオンくんの彼女や!」
「えぇ……なにがどうなってそうなったの……」
こっちはまだペルテテーとちゃんとそういう仲になっているのか不安だというのに。オライオンが起きたらきつく尋問しなければならない。切実に。
こほん、とハルキは咳払い。
「うん、その方向で行こう」
考え込んでいたナンダが顔を上げた。
「場所は俺の自宅でどうだ? それなら内容に不思議はないだろう? 最悪暴れまわってもらっても構わんぞ」
「それは助かるね。でも、一応伝えとくけど、ナンダも危ないよ?」
「責任を取る。愚かな俺にできるのは、もうそれしかないんだ」
「うん、いいね。トップはそうあるべきだ」
膝を叩いてハルキは立ち上がる。道筋はできた。あとは伸るか反るか。また賭けなくてはならないが、残念ながらここはケイオス市だ。賭けをしないで生き残るほど、甘い場所ではない。
「さて、五人で戦いに行こうか」




