一章:いのち短し恋せよ人よ 7
翌日、ウォッシングミュージックのレコーディングスタジオ。そのコントロールルームに、大柄のクマのベスティアがいた。右目には縦の切り傷が走っており、一見すれば強面だ。だが、ブースで歌うディアナを見る表情は温和だ。でっぱったお腹をなでなでしながら、感動で打ち震えている。
「おお、すごい! 歌詞は何言ってんのかまったく分からんが耳が幸せ! さすが俺の娘! レコーディングしてる姿もキマってるぞ!」
「あのー、ナンダさん? レコーディング中ですからお静かに」
ナンダの隣、小柄の男性が困ったように宥める。彼はディアナのマネージャーだ。
「おう! 分かってる! すまんすまん!」
「いや、だから静かに……」
「おう! いま黙る!」
ナンダがクマの両手で口元を押さえる。だが、ディアナの歌のパートが変化するたび、表情が崩れて身体がリズムを刻んでいる。
「間近で聴くレコーディングは格別だな!」
「あの、なぜナンダさんがここに……?」
「なんだなんだ、つれないこと言うなよルカ! 一応俺だってスポンサーだぞ!」
「あなた一応マフィアのボスでしょう……。それ世間じゃマネーロンダリングっていうんじゃ……」
「つまらん! つまらんことを気にするな! それはよりいまはディアナだ!」
「えぇー……」
べしべしと背中を叩かれたマネージャーのルカは、疲れたようにため息する。その間も、ナンダの表情は百面相のごとくころころと変わる。これがマフィアのボスであるとは、普通の人ならば分からないだろう。
「いかん、泣けてきた。ディアナの努力の結晶が俺の目の前で炸裂しているッ!」
「まあ、ナンダさんの事業って飲食業中心ですからね。マフィアなのに普通に事業してるってなんなんですか……」
「なんだなんだ、俺はちゃんとマフィアしてるぞ。みかじめ料をもらって、ここいらの平和を守っているんだ!」
「あの、噂で聞きましたけど、みかじめ料が安いんですよ。しかも払えなきゃ相談にも乗ってくれるし翌月にまわしてくれるしって、ここら辺じゃ警察より頼りにされてますよ?」
「細かいことは気にするな!」
べちん、と再びルカの背が叩かれる。
ディアナのレコーディングは続く。ナンダは表情をころころ変えて感情をあらわにし、ルカはひたすら困惑する。
音響エンジニアが鋭い目つきでルカを睨む。マネージャーである彼はぺこぺこと頭を下げる。彼の胃はいつだってごりごりに削られていた。
――SNSまとめサイト
「ディアナのライブヤバすぎる! 心臓撃ち抜かれた!」
「えっぐいかっこいいいい!」
「めっちゃ盛り上がった! 次のチケットあたらないかな~」
「ディアナのなにが良いってフロウなんだよ。歌詞を理解しなくても音で聴かせてくるんだ」
「みんなキャンディーもらった? あれ舐めながらディアナの歌聴くとトぶぞ!」
「ミラースクリーンでも配られてた! あのキャンディ食べると妙にハイになる! やっぱディアナの歌のせいだよな」
「ディアナってラッパーだろ? ラップのなにがいいんだよ」
「ビジュよビジュ」
「ライブおつかれさまー衣装かっこよかった」
――このコメントは削除されました。
「今回行けなかったああああああ!」
「なんか最後尾にいたカンフーっ子が可愛すぎたw ディアナに求婚してたぞw」




