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相棒はカンフー童女  作者: ユーカリの木
Fake False Factory
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四章:いずれ真実が僕たちを自由にしてくれる 5

「さあさあ、よろしいですか? よろしいですね? では彼氏さんへごかいちょ~う」


 ハイテンションの女性店員が、試着室のカーテンを開ける。これっぽっちもペルテテーの意見を聞いていないところがすごい。やはり販売のプロはすごい。


 ペルテテーが姿を現す。深い藍色の上着の中に、肌色との落差が悩ましい清純の白のワンピース。膝下丈くらいなのだろうが、当人が恥ずかしそうに両手で太ももの辺りの生地を掴んでいるせいで、ほのかに赤い膝が出ている。


 ほぉ、とハルキも口の中で感嘆。


 緋色髪なのに藍色が悪くないとは、これはまた不思議だ。


「どうですか彼氏さん? これは、キますよね?」


「うん、なかなかに心に来るものがある」


「写真、撮りたくありません?」


「これは残しておきたいね。永久保存は必須だ」


「ですよねー! スマホをお借りしても?」


「もちろん。一番いい画質でよろしく」


「かしこまり~」


 ハルキのスマホを受け取った店員が、立ったりしゃがんだり、近づいたり離れたりしながら、パシャパシャとシャッターを切りまくる。


 ふぅ、と一仕事終えた店員がハルキにスマホを返す。


「会心の出来です。どうですか彼氏さん?」


「いいね。ペルテテーの魅力を余すことなく映しているよ。恥じらいと色気が両立しているこの写真は驚嘆に値するね」


 うんうん、と店員も満足げだ。


「どうだろう、ペルテテー。とても似合うと思うんだ」


「……なら、これにする」


 言った瞬間、店員が即座に動き出す。


「まずは全部値札取っちゃいますね。着物は袋に入れておきますね~」


 値札を取り、着物を大事そうに抱えて店員がレジへ向かう。試着室でもじもじしているペルテテーを促す。


 店員が素早くレジを操作し、値段が表示される。さすが安価な店、素敵な価格である。即座にカードで支払い、店員から紙袋に入れられた着物を受け取る。


「お買い上げありがとうございます~。うちではこれが限界ですので、まだまだ必要であれば、二階の人族用店がおすすめですよ~」


「うん、ありがとう。いい買い物ができたよ」


「こちらこそ~。またお越しくださいね~!」


 素晴らしい店員である。ハルキが店を出ようとしたところで、店員がペルテテーの耳元で何かを囁く。んぐっ、と変な声が聞こえたが、いまは無かったことにしておこう。


「その……お金……」


「うん? ああ、バッグも必要だね。二階で一緒に探そうか」


「え、あ、うん……」


 手の行き場がないのか、ペルテテーは胸の前に向かわせて、やっぱり太ももの辺りを摘む。


「ごめん、少し派手すぎたかな?」


 ハルキの言葉にペルテテーがふるふると首を振る。


「ん、これがよかった」


「そっか。ならよかった。じゃあ次に行こうか」


 エスカレーターに乗って二階へ。店員が教えてくれた店に入る。黒を基調とした店内は大人の雰囲気を出している。ここでもマネキンを確認、脳内マッチングパターンに照合を掛けようとするが、やめる。


 センスがないことはもう判明した。ここは店員が来る前に一緒に回った方がペルテテーの精神的負荷が低いだろう。


 ペルテテーがほわーとした表情でポスターを見上げている。さっきの店ではこの瞬間に敵と遭遇したのだろう。ハルキから見ても隙だらけだ。


 ハルキは、瞬時に戦況が変わる奈落を潜る探索者だ。二度も同じ間違いを犯さない。


 ペルテテーの目が隣のポスターへ移る。表情はどこか抜けたように緩んでいる。楽しんでくれているようであれば問題はない。


 ふいに、視線を感じた。即座に察知したハルキが視線をたどる。店員がこちらをロックオンしたのか、足早に近づいてくる。それを片手を上げて制した。はっとした表情になった店員が軽く頭を下げて巡回に戻る。


「ねえねえ、どうしよう。なにがいいかな?」


 ペルテテーがハルキの袖を掴んで何度も引っ張る。


 己のセンスの壊滅さは判明した。雑誌の情報はこれ以上出てこない。一瞬の逡巡。いつも通りにすることにした。


「そうだね、どんな服を着てみたい?」


 うーん、うーん、とペルテテーが店内を見回しながら悩む。あ、となにかを見つけたか、マネキンを指差して何度も小さく跳んだ。


「あれ、あれ着てみたい!」


 振り返ってハルキも確認。やや大きめの黒のレザージャケットに腕だけを通し、グレーの丈の短いノースリーブのタートルネック。黒のショートパンツ。


 かなり、というかだいぶ攻めている気がする。脳内はNGを出しているが、ここはペルテテーの欲求を信じる。


「うん、じゃあ試してみよう。一緒に店員さんを呼びに行こうか」


「うん、行く!」


 どうやら恥じらいはなくなって来たようだ。良い傾向である。買い物は楽しむことが一番だから。


 ペルテテーと一緒に店員に話しかける。許可をもらって試着室へ。新しい服を両手で持った彼女が試着室の中に消える。鼻歌が聞こえる。機嫌がよさそうだ。


「着た!」


 ペルテテーの元気な声。


「うん、じゃあ見せてくれるとうれしいかな」


 すん、とカーテンから顔だけを出したペルテテーが、にへへ、と笑った。


「見たい?」


「もちろん。焦らしてくれるね」


「さっきは玩具にされたからね。仕返し」


「困ったな。謝罪するよ。新しいペルテテーを見てみたいな」


 仕方ないなぁ、と返したペルテテーがカーテンの奥に隠れ、一気に開いた。


「どう? かっこいい?」


 すぅ、とハルキは目を見開いた。


 腕だけを通したレザージャケットの袖を握ったペルテテーが、試着室でくるりと回る。隙があるようで隙がない。ヘソがあらわになり、さらに足はほとんど出ているから、健康的な肌色が眩しくて、なのに変な色気を感じさせない。


 一階で買った衣装は可愛さと色気が両立していた。だが今回は違う。妙にハマっている。いや、自然体に見える。


「強い女性って感じがするよ」


「でしょー。双剣挿したらこのまま潜れそう」


「うん、とてもいい。あとこのキャップなんかどうだい? 浅く被ればもっとかっこよくなるはずだ」


 ハルキからキャップを受け取ったペルテテーが、角がうまく出るように被る。


 ハルキはすっとスマホを取り出す。


「かっこよく撮ってね」


「もちろんだ。いまの僕はプロ写真家だ」


 一階のプロを真似して色んな態勢で写真を取る。画角に入るモデルはどこから切り取っても勇敢な戦士そのもの。たっぷり二十枚は撮って、ペルテテーに見せる。


「んふふー、いいね。気に入った」


「買うかい?」


「うん、買う! でも着替えるから待ってて」


 カーテンが閉じられた試着室から、再び鼻歌が届く。てっきりこちらを着て行くかと思ったのだが、どうやら違うようだ。


 しばらくしてペルテテーが新しい服を抱えて部屋から出てくる。表情はにこやかだ。


 ペルテテーがひとりでレジへ進む。おっと、ひとりで敵へ向かってしまった。ハルキは慌てて追う。既に敵の攻撃が開始している。


 が、ペルテテーは笑顔で応対。なんと、ひとりで買い物を完了してしまった。なんという成長であろうか。


 会計を終え紙袋を持ったペルテテーが自慢げに胸を逸らした。


「ハルキ、勝ったよ私」


 ハルキは思わず涙ぐみそうになる。


「うん、君は勝負に勝った。勝ったんだ」


「ふふ、少し大げさ。次行こう? まだまだ付き合ってくれるよね?」


「もちろんだとも」


 両手を背中に回して紙袋を持ったペルテテーが歩き出す。ハルキはその姿を追いかけながら、最後の懸念が頭に浮かんだ。


 これは体力がもたないな……。

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