四章:いずれ真実が僕たちを自由にしてくれる 3
北セクターの高層マンション、上層階の一室、ソファーに座るエガリゼは、頬杖をつきながら液晶テレビを眺めている。その表情は、いつもより感情が乗った微笑み。
液晶テレビに映るニュースキャスターが、昨日突然現れたルヴェインの巨大スキャンダルを何度も読み上げていた。
テーブル上のスマホが振動。画面上の名前は、昨夜から何度も何度も表示されている人物。エガリゼの笑みが一等深くなる。
スマホを取ってボタンを押し、優雅な動作で耳に添える。
飛び込んできたのは怒号だ。
「エガリゼ! どうなっている! 我が社の機密情報が漏れている!」
「ええ、そのようですね。私もいまニュースで見ています。どうやらお力になれなかったようですね」
「ふざけるな! このままだとお前らも道連れだぞ⁉」
「はて、道連れですか。わが社と御社に変な取引などあったでしょうか?」
「はっ、今更なにを言っている。検察の捜査が本格化すれば、貴様らとの取引記録はすべて明るみになる。貴様らの裏の商売が白日の下に晒されるぞ!」
「裏の商売? 人聞きの悪いことを。私はクリーンな人材派遣業を行っているだけですよ。どうやら、我々が派遣した大事な大事な人材も、今回の不祥事に巻き込まれているようです。これは我々も訴訟に参加しなければなりませんね」
「貴様、なにを言ってるのか分かっているのか?」
「ええ、いままでの我が社と御社の商取引は不均等のようです。ならば、均等化しなければなりません」
「均等化? なにを言っている?」
「天秤は常に釣り合いがとれていなければなりません。我々は優秀な人材をあなた方へ派遣し、あなたがたはその人材を有効に活用して富を生む。その富は我々の懐を潤す。価値の交換。等価のやりとり。これこそが均等化です」
「我が社は貴様らにちゃんと金は支払った!」
ノンノンノン、とエガリゼは立てた指を左右に振る。
「我々は価値ある人材を、価値のない人材に価値を付与し、派遣します。分かりますか? 帳簿など問題ではないのです。価値です。価値ある者が、価値のない者に価値を付与する。価値の均等化」
ルヴェインの男が沈黙する。エガリゼの気分はどんどん高揚していく。
「世の中には、麻薬密売、売春斡旋などの悪徳があります。まったくもって、邪悪で唾棄すべきものです。前者は人の価値を貶め、後者は人の価値を棄損する。私には理解できません」
「人の分際で裁定者気取りか……」
エガリゼが哄笑した。
「私が何者かご存じのはずでは? 私に一般的倫理、常識を求める方がおかしいのですよ」
「貴様と取引したのが運の尽きだったか」
「いいえ、あなた方は愚かだった。それ以上でもそれ以下でもありません。あなた方はユニオンに相応しくない。後任へ席を譲り、余生を牢獄で過ごしてください。きっと快適ですよ」
ではこれで、とエガリゼが電話を切った。
「さて、これで彼らもハルキさんへ危害を加える余裕もなくなったでしょう。まったく空恐ろしい。T3の情報室でもできなかったことをやってのけるのですから。まったく、敵には回したくありません」
エガリゼはグラスを手に取る。中身はブドウジュースだった。それを口に含み、ゆっくりと味わって嚥下する。彼の視線の先はガラス張りの真下。猥雑に入り組み、人々が蠢く美しき都市。
「ああ、でも食事はしてみたい。彼と話すのがあんなに楽しいとは。やはり、この街は素敵ですね。私の知らない価値がまだまだある」




