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第六話 領都

 あれから急いで体制を立て直して、一行は領都へと急いだ。

 俺も侯爵令嬢のアラセリス姫に請われて同道した。「力を貸してください」と請われて、「嫌です」などと言おうものなら、その後どうなることか……。彼女はあのイカレた侯爵の血筋なのだ。

 そうでなくても、楚々として可憐で儚げな美少女に「守ってください」といわれれば、わかっていても、グラッとくるのが、男の悲しき性というやつである。


 領都が見えてくる頃になると、領都から煙が上がっているのが見えた。

「やはり、領都を襲っていますわ」

 アラセリス姫が秀麗な美貌に愁眉を浮べた。

 馬車を一旦、領都周辺の高台に止めて様子を見る。

 馬車の中には俺とアラセリス姫、女騎士バルバラ、令嬢付きのメイドさんが乗っている。

 護衛の残り二人は御者台だ。

 部外者の俺を姫様と一緒に馬車に乗せるなんて、なかなか剛毅だ。いや、侯爵領に住んでいる者が、侯爵家の人間に手を出すなんて、万が一ぐらいしかありえないか。現に、俺ほど縮こまっている人間は、今この瞬間、世界でもいないだろう。


 領都の城門に魔族軍が襲い掛かっていた。しかし城門の守りも厚く善戦しており、まだ門が破られる様子はない。

 領都は平地の上に正方形の城壁で囲まれた形をしている。軍事的な知識はないがとても攻めやすい形ではないだろうか。確か五芒星か六芒星の形に城壁を作ったほうが強いと聞いたことがある。


「思った通り、襲撃部隊は多くありません。南と東門は攻められていますが、北と西は大丈夫です」

 色っぽい女騎士バルバラが言う。

「でしょうね。ここは魔族領から遠いもの。一日あれば、援軍が来て、門の前と後から挟撃できるわ。あれは眩惑で、本当の狙いはわたくしとお父様でしょう」

「はっ」

「内通者がいるのね」

「はい。でなければ、遠出している姫様にフェンリルライダーを襲わせることはできないでしょう」

 ああ、そうか。すぐにそこまでわかるなんて、見た目に寄らず聡明というか、政治とかわかってるんだ。一見、深窓の令嬢、浮世離れした雰囲気なのに。


「そう。悲しいわ……。わたくし達はこんなにも皆さんのことを愛しているのに。裏切るなんて……。愛しているのに……」

 可憐なまぶたを伏せるとはらはらと真珠のような涙が零れる。

 ホントに領民のことを思って――

「八つ裂きにしたほうがよいかしら。鋸引きがいいかしら。燃えるこの想いを炎に託せばよいのかしら。腹を引き裂き、腸を引きずり出して、市中を引きずり回してさしあげれば、わたくし達の愛も届くかしら。ああ、この想いを、どうしたらその方にわかってもらえるのかしら」


 ……逃げたい。


「全部やればよろしいかと。姫様にこのような苦しい思いをさせるものなど、地獄の官吏が許しても、このニルダは許せません。わたくし達の愛と憎しみが欲するままに、彼の者に、この世のありとあらゆる処刑方法で想いを伝えましょう」

 アラセリス姫の涙を拭きながら、メイドさんも凄いこというよ。


「す・て・き☆」


 うっとりとしている令嬢を見て、俺はとにかく空気になることに必死だった。

 ヤバイ。噂どおりイカレてる。

「まあ、何事もほどほどがよろしいかと」

 バルバラさんが疲れたような溜息とともに言った。結構苦労人かも、この人。




 馬車は敵が攻めてきていない西門から入ることにした。

 俺はホルスターからAK47を取り出し、馬車の窓から外を警戒する。

 少し大回りしたので、時間は掛かったが、敵に襲われずに西門に到着し、領都内に入ることができた。


 領都内は混乱の真っ只中にあった。

 領都上空をガーゴイルのような飛行モンスターが飛び交い、飛行モンスターに乗ってゴブリンやレッドキャップのような小型モンスターが内部に内部に入り込んでいる。

 人々はそれぞれ街角や店の軒先に一塊に集まって、男が前に出て手に板と棒を持ち、抵抗していた。

 領兵が市中を走り回って、入り込んだモンスターを討伐しているが、飛行モンスターから次から次へと送り込まれている。


「あまりいい状況ではないようですね」

「援軍までは凌げそうだけど、被害は大きくなりそう。あと、疲労が心配だなぁです」

 俺はアラセリス姫と馬車の窓から市中の状況を見ていた。

「ええ、でも、これは陽動です。本命は城を直接狙ってくるでしょう」

「でも、この馬車で城に行っても、この少人数で意味あるの? でしょうか?」

 恐ろしいカルレオンの令嬢だから、つい緊張のあまり敬語が滅茶苦茶に。どうか手打にだけはしないで!

「城への攻撃は本当にごく少数での攻撃でしょう。こちらにはバルバラがいます。領では随一の剣士ですので、上手く意表を付けば形勢を覆すことは可能ですわ」

「なるほどです。それにしても、あのハエが邪魔だな、ですね」

 城に急ぐにしても、この馬車が狙われては元も子もない。

「ええ、急ぎたいのですけれど、今は目立ちたくありません」

 俺はAK47を見つめた。なんとか、するか。

「ハエを落としてきます」

「クロード殿?」

 バルバラさんが少し驚いた顔をした。

 俺は馬車のドアを開ける。ゆっくり走っているので、さして問題はない。

「城の前で落ち合いましょう」


 俺は逆上がりの要領でドアから馬車の屋根へと乗り、そこから民家の屋根へと飛び移った。フリーランニングLv10を舐めんなよ。

 AK47を肩に構えると、ゴブリンを足で掴んだまま飛んでいる間抜けなガーゴイルに銃弾を打ち込んだ。

 連続で瞬くマズルフラッシュの中、すぐに襤褸切れのようになったガーゴイルがゴブリンごと堕ちる。

 俺はすぐに走りだし、隣の民家の屋根に飛び移った。

「どうした、カトンボ! これじゃあ、いい的過ぎて、面白くねーぞぉ!」

 次々に民家の屋根を飛び移り、AK47を撃ちまくる。

 飛び散る薬莢とマズルフラッシュの余韻を残して、屋根伝いに城を目指す。

 フリーランニングLv10ともなれば、某アサシン以上の身のこなしとなる。

 ようやく仲間を打ち落としまくっている俺に気付いたのか。ガーゴイルどもが、こちらに向ってきた。

 しかし、こちらも狙いやすくなる。AK47が絶え間ない銃撃のシャワーを浴びせ続けると、ぽとぽとと落ちていく。

 領都の空を我が物顔で飛んでいたガーゴイルたちの数が見る見ると減っていく。


 屋根から屋根へ、街路樹から街路樹へ。路地を飛び越え、壁を飛び越え。

 中世の町並みをフリーランニングで駆け抜けながら、AK47アサルトライフルを撃ち続ける。幻想的でシュールな気分になってくる。

 急降下で襲い掛かってきたガーゴイルをステップで躱し、銃弾で穴だらけにする。

「どうした、ファンタジー? 近代兵器の前じゃ、テメーらも鴨か!」

 2階の屋根に上って、城の方向を確認する。

 あと、もうちょいか。

 隣の屋根に飛び移ったとき、大きな影が覆いかぶさってきた。

「おわあ!」

 俺は慌ててローリング回避。ステップ&ローリングLv10舐めんな!

 俺が立っていた位置を鱗に覆われた鷹のような猛禽類の爪が襲い掛かる。爪が瓦ごと屋根を引き裂く。

 上を見上げると、全長6~7メートルほどのドラゴンが旋回していた。


「確か、ワイバーンだったか?」

 ワイバーンは高度を落とすと屋根すれすれの低空飛行で滑空し、凄まじい勢いで俺に噛み付いてきた。それを横にローリングで回避する。

 ワイバーンが飛び去る風圧に煽られながら、AKをワイバーンに向けて連射する。

 キンキンッと硬質な音と共に銃弾が弾かれる。まじかよ……。

 城はもうちょっとだが、コイツを引き連れて城の門まで行けないな。

 落すしかないか。

 ワイバーンの急降下からの攻撃を躱し、AK47をホルスターに収めて、代わりに重火器装備の91式ロケットランチャー取り出す。

 ワイバーンが上空を旋回している。普通なら当てるのは至難の業だ。

 スコープを覗き込み、トリガーを1段階引く。

 ピピピピ、という音と共にロックオンカーソルがワイバーンを追いかける。

 ピーッ。ロック完了。トリガーを更に引く。

 ドシュッ!!

 発射されたロケット弾がワイバーンを追いかける。

 もう一発! 装填弾数Lv10舐めんなぁ! 弾数無限、リロードなしじゃあ!!

 91式ロケットランチャーからもう一発発射される。

 自動追尾のロケット弾が逃げるワイバーン追い詰める。急旋回して交わそうとしたワイバーンにありえないほど鋭角に曲がったロケット弾が命中した。

 爆発と爆炎がワイバーンを包み、ワイバーンの半身を吹き飛ばした。

 錐揉みして墜落するワイバーンにさらに追い討ちのロケット弾が命中。

 死体撃ちに相当する一撃はワイバーンを木っ端微塵に吹き飛ばした。


 ボスであるワイバーンが倒されたことで、ガーゴイルたちは引き上げ始めた。

 俺はそのまま屋根を伝って城の前まで走った。城の前にはすでに馬車が到着しているようだ。

 屋根から飛び降り、馬車のところへ駆け寄る。


 すでに、アラセリス姫とその一行は馬車を降りていた。

「お見事でしたわ。見慣れぬスキルでしたが、どのようなスキルなのでしょうか?」

「えーと、それは、ロイヤルポートほうのスキルですよ……」

「ロイヤルポートにそのようなスキルがあったか……?」

 バルバラさんが顎に手を当てながら呟いた。

 げっ、この世界にも『ロイヤルポート』って地名あんのかよ。

「この国のロイヤルポートではなく、もっと遠くの、ずっとずっと遠くの」

「そう。あなたは、そのような遠くの地から参られたのですね」

「そう、なりますね」

 アラセリス姫の蒼いウォーターオパールの瞳がゆらゆらと煌く。見透かされているようで、その瞳を直視できなかった。

「さて、そろそろ参りましょうか」

 アラセリス姫はフワリと優雅に踵を返し、城内へ向っていく。


 さて、もう一仕事しますかね。


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