エピローグ
眼が覚めると、そこは処現城の自室だった。
「あ、そっか……」
狂花界珠を破壊した後、自分が気を失った事を思い出す。結構深かったはずの腕の傷は、跡も残さず治っていた。自己治癒……ではなく、一摩が治してくれたのだろう。
「あ、起きたんだね」
透子が起き上がる気配を感じたのだろう、ベッドに掛かっている天蓋の布をずらし、シギルが顔を覗かせた。
「うん。……ってか、私どれぐらい寝てた?」
「七時間ぐらいかな」
「うわー。健康的ー」
体はまだ疲れを訴えていたが、それは単純に疲労によるものだった。
落ち着いて周りを見回すと、ほぼ全員が揃っている。見た限りでは皆元気そう。その事に透子はほっとした。
それからただ一人この場にいない人物の安否を尋ねた。
「……ギウリウムは?」
「まだ寝てる。回復にはもうしばらく掛かるだろうね」
「そう、生きてるのね」
ほっとしたようにそう答えた透子に、リピリスは少し眼を見張った。
「怒っていないのか?」
「呆れてるけど、怒ってないわ。一ヶ月先まで状況が変わってなかったら、私が同じ立場でもそうしたと思うから」
けれど、もう少し待ってくれればきっともっと簡単に処理できたのだ。
「だから、責めるんだったらそこだけかな」
「お前、結構馬鹿だよな」
くく、という笑い声とともにそんな台詞を言われ、むっとして透子は黒帝を睨む。
「そこは『いい奴』とか言うべきところなのよ」
「いいじゃねえか。そーいう馬鹿、俺好きだし」
「それも褒め言葉じゃないから」
「……お前……」
脱力したように黒帝は息を吐く。その黒帝の肩を叩き、苦笑しながら一摩は首を振る。
「いや、今のは黒帝が悪いから。伝わらないから」
「そりゃそうだ。じゃ、言い直す。……透子」
「な、何よ」
思わず身構えた透子に黒帝は綺麗に微笑んで見せた。整った美貌に間近で好意的に微笑まれ、透子は焦って身を引いた。頬が熱い。
何故だろう。あれほど怖かったはずの黒帝の神気も、今はあまり怖くない。
「お前の事、結構好きだ」
「……はぁ?」
期待を裏切られた気分で透子は間の抜けた声を上げる。
「じゃ、またな。今度何かあったら俺を頼れよ」
「ちょっ、ちょっと待っ……!」
言うだけ言ってさっさと空間を渡り去ってしまった黒帝に、伸ばした行き場の無い手を透子は硬く握り締めて立ち上がった。
「『結構』って何よ! 『結構』ってーっ!」
「怒るのそこなんだ」
「……嫌じゃなかったみたいだな」
シギルと皇希に突っ込まれ、はたと透子は気が付いたように口を押さえる。
「やーめーなーよー。黒帝はぁー」
「やっ、違うしっ。私はただあの煮え切らない態度が良くないとっ!」
慌てて言ったその言葉は数日前とあまり変わらないものだったが、そこには説得力というものがやや薄くなっていた。
「へー。ふーん」
「だからぁっ、何でもないって」
(ほんとにホントに。何でもない……よね?)
身内に読んでもらったところ、まさかの黒帝だった! と言われた話ですが、いかがだったでしょうか。
私としてはわりと初めから全開なつもりだったのですが……。
何はともかく、ここまでお付き合い頂き有難うございました! 楽しんで頂けていれば幸いです。
もしご縁がありましたら、次回作も宜しくお願い致します。