↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダンジョンで勝つたび三択報酬 ~弱小マスターの俺、希少種族の問題児ばかり引き当てて最強勢力になっていた~』  作者: 0JOY0
第一部 終章 勝った先で、迷宮は動き出す

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/48

「第44話 戦争が終わったと思ったら、後ろ盾が動きました」


ガルガン商会との戦いに勝ってから数日。


ようやく落ち着いて確認する時間ができた俺は、広間の中央で管理画面を開いていた。


目的は一つ。


あの戦いの最後に手に入れた《迷宮戦権》。


名前からして物騒なので後回しにしたかったが、そういうわけにもいかない。


ガルガン商会の背後には、ダンジョン絡みの何かがいる可能性がある。


それは以前からボルドに聞いていた。


この周辺で地上の人間に存在を把握されているダンジョンは一つ。


ガルガンはそこへ人や物資を動かしていた形跡があり、何らかの繋がりがあるらしい。


だから、ガルガンをあれだけ派手に返り討ちにした以上、そいつが出てくる可能性くらいは俺だって考えている。


問題は。


そいつが何者で。


俺たちをどう見ていて。


そして、どれくらい強いのか。


「できれば話の分かる奴でお願いします」


誰にともなく祈りながら、《迷宮戦権》を起動した。


目の前に光が広がる。


いつもの管理画面とは違う。


俺たちのダンジョンを中心として、周辺の地下世界が大きな地図となって表示された。


探索済みの地下道。


まだ踏み込んでいない場所。


そして、俺たちの支配区画。


その端から少し離れた場所に、もう一つ。


大きな光が存在していた。


「……いた」


予想はしていた。


それでも実際に見ると嫌なものがある。


現在確認できる範囲では、他に光はない。


俺たち以外に一つだけ。


しかも。


「でかくない?」


俺たちのダンジョンより、明らかに支配区画が広い。


《迷宮主:不明》


《迷宮規模:不明》


《接触履歴:なし》


詳しいことは分からない。


ただ位置は、以前ボルドから聞いたダンジョンとかなり近い。


偶然じゃなければ、こいつがガルガンの後ろにいた奴だ。


「マスター?」


背後からリュネリアが覗き込んできた。


「何を見ているんですか?」


「たぶん、ガルガンの後ろにいた奴」


「この方ですか!」


「可能性が高いってだけね」


リュネリアは画面を見つめ、拳を握った。


「大きいですね」


「そうなんだよ」


「強いのでしょうか?」


「何でちょっと嬉しそうなの?」


「嬉しそうではありません!」


「じゃあ何で目が輝いてるの?」


「気になります!」


それを嬉しそうって言うんだよ。


そこへ、ノアが地図を覗き込んだ。


「ほう」


「何か分かる?」


ノアはしばらく地図を見つめたあと、光の周囲を指差した。


「この辺りは向こうの支配区画じゃろうな」


「それは分かる?」


「うむ。迷宮同士で領域を奪い合うこともあった……気がする」


「最後で急に弱くなったな」


「記憶がないのじゃから仕方なかろう!」


ノアは不満そうに頬を膨らませながら、二つの支配区画を見比べる。


「しかし、向こうの方が随分と広いのう」


「やっぱり?」


「倍以上はあるじゃろうな」


「…………」


聞きたくなかった。


ただでさえガルガンへ人や物資を動かせる奴だ。


俺より先にこの世界へ来たのか。


単純に強いのか。


それとも、俺の知らない方法で勢力を広げているのか。


どれにしても面倒くさい。


「ところで、ぬし」


「何?」


「先ほどから言っておる《簒奪》とは何じゃ?」


「ガルガンとの戦いで手に入れた特殊権限」


「どうやってじゃ?」


「《勝者特権》」


「……何じゃ、それは」


俺はノアを見る。


「俺の固有能力。戦闘に勝った時に報酬が出るんだよ」


ノアが黙った。


「何その顔」


「いや」


ノアは俺の顔をじっと見た。


「ぬし、それを今まで普通に使っておったのか?」


「普通にっていうか、俺の能力なんだから使うだろ」


「勝てば、必ず何かを得られるのか?」


「まあ。いくつか候補が出て、その中から選ぶ感じ」


「ほう……」


ノアが興味深そうに俺を見る。


「変わった固有能力じゃな」


「変?」


「普通、戦いに関する固有能力なら、戦っている最中に役立つものではないのか?」


「…………」


言われてみれば。


俺の《勝者特権》は、戦っている最中には何もしてくれない。


攻撃力が上がるわけでもない。


敵の弱点が分かるわけでもない。


危なくなったら助けてくれるわけでもない。


俺が負ければ、それで終わり。


「勝たねば何の意味もない能力ということじゃな」


「急にハズレ能力みたいに言うなよ。結構気に入ってるんだから」


「ハズレとは言っておらん」


ノアは地図を眺めながら、小さく笑った。


「むしろ面白い」


「何が?」


「勝てば勝つほど、次に使えるものが増える。じゃが、その次も自分で勝たねばならぬ」


「まあ、そうだな」


報酬がどれだけ良くても、次の勝利までは保証してくれない。


実際、ガルガンとの戦いだって《勝者特権》が倒してくれたわけじゃない。


罠を作った。


水を流した。


地形を使った。


リュネリアたちにも死ぬほど働いてもらった。


それでようやく勝ったから、報酬を選べた。


順番はずっと同じだ。


俺が勝つ。


その後で、《勝者特権》が働く。


「随分と、ぬし向きの能力じゃな」


「どこが?」


「欲深いところじゃ」


「そこ!?」


もっとこう、知恵とか工夫とかあるだろ。


ノアは満足そうに笑っている。


「勝った後の褒美が大きければ、ぬしは必死で考えるじゃろ?」


「……否定できないのが腹立つな」


「珍しい素材も手に入る」


「それはお前が欲しいだけだろ」


「わしも得をする。ぬしも得をする。素晴らしい能力ではないか」


「俺の報酬を勝手に共有財産にするな」


ノアが「けちじゃのう」と頬を膨らませたところで、背後から声がした。


「敵?」


いつの間にかネイラまで来ていた。


「まだ分からない」


「ガルガンの仲間なら敵」


「可能性は高いけど、いきなり殺しに行かないでね?」


「分かった」


返事が早い。


「本当に分かった?」


「見つからないように行く」


「行くなって意味!」


ネイラは不思議そうに首を傾げた。


「敵は、近づく前に倒すもの」


「それはお前の中だけの常識だから!」


俺は慌てて地図へ視線を戻した。


ガルガンを潰された以上、向こうが俺たちを警戒する。


そこまでは分かる。


俺だって逆の立場なら警戒する。


だから最初から、何も起こらないとは思っていない。


できることなら話し合う。


無理なら戦う。


それだけだ。


その時。


管理画面に新しい文字が浮かび上がった。


《関連勢力情報を照合》


「ん?」


《ガルガン商会》


まあ、そうなるよな。


《敵対行為履歴を確認》


それも分かる。


《関連迷宮との関係を更新》


うん。


《警戒状態》


「まあ……そうなるよな」


想定内だ。


ガルガンをあれだけ派手にやったのだから、むしろ警戒されない方がおかしい。


問題はここからだ。


相手がこちらを警戒しているなら、こっちも情報を集める必要がある。


ガルガン本部地下の帳簿。


印のない手紙。


ハイセンやボルドが持っている情報。


そこを調べれば、相手の正体に近づけるかもしれない。


そう考えていると。


《対象迷宮の支配領域に変動を検出》


「……ん?」


地図を見る。


向こうの支配区画の端。


そこから何かが伸びていた。


俺たちの方向へ。


《新規支配領域を確認》


一つ。


二つ。


三つ。


「……三?」


ちょっと待って。


さっきまでなかったよね?


《地上側接続勢力の活動を確認》


《複数勢力が行動を開始》


「複数?」


待って。


話が大きくなってない?


ガルガンの後ろ盾が動く。


そこまでは分かる。


何で知らない奴まで一緒に動いてるの?


「マスター?」


「ちょっと待って。今整理してる」


さらに表示が増える。


《対象迷宮より侵攻個体を検出》


「待って」


《侵攻個体数を算出》


「ちょっと待って!」


表示された数字を見た。


「多くない!?」


俺の声が広間に響いた。


リュネリアが画面を覗き込む。


「たくさん来るんですか?」


「そうみたい!」


「では、迎撃準備を!」


「何で指揮官みたいに張り切ってるの!?」


「前回は守り切りました!」


「その前にダンジョン半壊させただろ!」


「今回は壊さずに勝ちます!」


「勝つ前に、壊さない約束をしてくれ!」


リュネリアは胸を張った。


「努力します!」


「努力目標にするな!」


その横で、ネイラが静かに立ち上がった。


「先に減らす」


「待って。どこへ?」


「狩り」


「駄目!」


「数を減らす」


「何人いるかも何者かも分からないから駄目!」


「分かればいい?」


「分かっても単独行動は禁止!」


「じゃあ、マスターも来る?」


「何で俺を狩りに誘うの!?」


ノアは地図を眺めながら、顎に手を当てた。


「ならば、相手の迷宮を奪えばよいのではないか?」


「どうしてそうなる!?」


「ぬしには《簒奪》があるのじゃろ?」


「あるけど、いきなり迷宮を奪う話にするな!」


「勝てば珍しい素材も手に入るぞ」


「結局それが目的か!」


「違う。素材は副産物じゃ」


「目が完全に主目的なんだよ!」


そこへ、広間の入口からボルドが入ってきた。


「何の騒ぎだ?」


「ちょうどいい!」


「その言い方をする時は、だいたい面倒事だな」


「俺もそう思ってる!」


俺は今起きていることを簡単に説明した。


ガルガンの後ろ盾らしきダンジョンが《迷宮戦権》で確認できた。


警戒状態になった。


ここまではいい。


問題はその後。


相手の支配領域がこちらへ伸び始め、地上側でも複数の勢力が動いている。


さらに、こちらへ何かを送り込んでいるらしい。


話を聞き終えたボルドは腕を組んだ。


「なるほどな」


「何か分かる?」


「ガルガン本部の帳簿を、ハイセンと調べ始めてる」


「もう?」


「仕事だからな」


仕事が早い。


「まだ全部じゃない。ただ、ガルガンが定期的に大量の物資を流していた記録がある」


「例の後ろ盾?」


「たぶんな。それと、取引相手は一つじゃない」


「……何?」


ボルドが俺を見る。


「ガルガンを中心に、いくつかの商会や組織が繋がってた形跡がある」


俺は管理画面を見る。


《複数勢力が行動を開始》


嫌な文字が光っている。


「一個潰したら、何で関係者全員出てくるんだよ!?」


「繋がってたからだろ」


「知らないよそんなの!」


「だから帳簿を調べてる」


「調べなければ――いや、それも駄目だ!」


知らないままの方が怖い!


リュネリアが勢いよく手を挙げた。


「マスター、全員倒せば解決します!」


「解決方法を一つに絞るな!」


「ですが、敵がいなくなれば安全です!」


「その考え方で話を大きくするな!」


「では、一人ずつ倒します!」


「人数の問題じゃない!」


ネイラが淡々と続けた。


「来るなら、先に行く」


「お前も乗らない!」


ノアまで地図を指差す。


「向こうの迷宮なら素材も――」


「お前はもう素材から離れろ!」


ボルドが笑っている。


腹立つ。


でも。


全部必要だった。


ガルガンと戦わなければ俺たちが死んでいた。


だから後悔はしていない。


していないけど。


もう少し小さく返ってきてほしかった。


俺は地図を見る。


向こうから伸びてくる支配領域。


動き始めた地上の勢力。


そして。


《特殊権限:簒奪》


俺の視線がそこで止まった。


相手のダンジョンは俺より大きい。


ということは。


持っている特殊要素も――。


「マスター」


ネイラが俺を見ていた。


「何?」


「笑ってる」


「笑ってない」


「口」


俺は慌てて口元を押さえた。


「お前、さっきまで困ってなかったか?」


ボルドまで呆れている。


「今も困ってるよ!」


ただ。


敵が来るなら仕方ない。


仕方なく戦うだけだ。


その結果、何か珍しいものが手に入ったとしても。


それはもう。


本当に仕方ない。


《警告》


再び管理画面が切り替わる。


《侵攻個体が支配境界へ接近》


俺は表示を見た。


リュネリアが立ち上がる。


ネイラの耳が動く。


ノアまで俺の横から顔を出した。


どうやら、考えている時間はあまりないらしい。


第一部では。


敵が俺のダンジョンまで来るのを待った。


でも今回は。


俺は地図上で近づいてくる表示を見る。


このまま待っていたら。


また家で戦争になる。


消し飛んだ柱。


割れた床。


剥き出しになった《星泪泉》。


先日の惨状が頭をよぎった。


「絶対ここまで来させない」


「マスター、出撃ですか?」


「今度は外で止める!」


「了解しました!」


「待って、壊すなよ!」


「努力します!」


「だから努力目標にするな!」


ネイラが出口へ向かう。


「先導する」


「単独で行くなよ!」


ノアも手を挙げた。


「わしも行くぞ!」


「お前は留守番!」


「何故じゃ!」


「弱いから!」


「ぐっ……!」


こうして。


俺たちは初めて。


自分のダンジョンで敵を待つのではなく。


こちらから地下世界の奥へ、踏み出すことになった。


《勝者特権》は、俺を勝たせてくれない。


勝つまでは何もしてくれない。


だから今回も。


欲しいものがあるなら――まずは自分たちで勝たなきゃならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。