セデュのルーの日常編 vol.1
ウンディーネシリーズ番外編1に投稿していた話です。あらすじが文字数オーバーのためこちらに移動しました。
「今週末、何か予定があるか?」
事務所の客間で、マネージャーと打ち合わせが終わった私のもとにコーヒーを持って現れたセデュイールが何気なく尋ねる。
私は礼を言ってコーヒーを受け取りながらスケジュールを反芻し、
「何もないわ」
と答えた。
何か新しい仕事の話だろうか。マネージャーを介さず直接私に話しに来たってことは…。個人事務所の社長も兼ねているセデュイールは私の前のソファに座しテーブルに置かれたシュガーポットから4つほど角砂糖を取り出し自分のコーヒーに落として、脚を組んでカップを持ち上げる。
「改めて礼をしたいと言っただろう。君が良ければ、一緒に食事でもしないか」
「ごほっ」
何気なく爆弾発言を切りだされて、私は口に含んだブラックコーヒーに咽る。
「どうした、大丈夫か?」
「え、ええ…だいじょう…げほっ」
腰を浮かせたセデュイールがハンカチを差しだすのを断って口を拭いながら私は目を逸らす。こ、こ、これって、デートのお誘いかしら!? デートのお誘いよね!? 完全プライヴェートで、一緒に食事ってこと、ですものね!? あああどうしよう、諦めたとはいえ私はまだ貴方が好きなのよう!? これって受けていいものかしら!? ルーシュミネのバカの不貞腐れた顔が頭に浮かぶ。きっと奴は悔しがってぐちぐち文句を言うに違いない! でもでも、せっかくのセデュイールのお誘いを断るなんて、そんな勿体ないこと、私にはできない! もしかしたら最初で最後の機会かもしれないのよ!? ダイアナ、覚悟を決めなさい!
「ええ、ええ、構わないわ…今週末ね、空けておく…待ち合わせ時間は何時にしようかしら?」
「午後に一本取材が入っていてな。その後でも構わないか」
「いいわよ…え、午後?」
「5時半の待ち合わせでいいか。場所はここで」
「…それって、ディナーのお誘い、ってこと…?」
「ああ」
「……」
思わずごくりと生唾を飲みこむ。セデュイールは淡々としていて、自分の発言の破壊力の大きさにまったく気づいていないみたいだ。
…ディナー。ディナーのお誘い? そんな、そんな夢みたいなことが、本当に? セデュイールのことだから、かるーくランチでも一緒にどうかくらいのつもりでいたのかと…それでも全然私的には嬉しかったのだけれど! ディナーというと…あれかしら…夜景の綺麗なホテルのレストランとかそういう…? きゃああ、どうしよう、これってもう口説かれてるのと一緒じゃない!? 待って待って、急展開に心が追い付かないんですけど!?
「…いいわ。5時半にここで。ドレスコードとかはある?」
「ないよ。君の好きな格好で来ると良い」
何気ない風を装って(私も女優だ)確認すると、セデュイールはふわりと微笑む。私がハリウッドの事務所から移籍してパリに来て、セデュイールの事務所に厄介になってからようやく時折見せてくれるようになった、貴重な彼の笑顔だ。それまではどこか一線引いて決してプライヴェートな顔を見せてくれなかった鉄壁のセデュイールの、身内判定がなされたみたいな、無防備な笑顔。
それを見ると胸がぎゅうっと詰まって、何も言えなくなってしまうような、柔らかな笑み。
私はカバンから黒革のスケジュール帳を引っ張り出して予定を書き込む。何度も彼の笑顔を思い出してはのたうち回って今週末まで過ごすことになるであろう、自分を予感しながら。
当日は、ワンピースにするか、ツーピースにするか、いっそドレスにするか、悩みに悩んで、背中のぱっくり開いた濃紺のワンピースに決めた。ばっちりメイクしてディオールのコロンを振りかけて、長い髪はアップにして纏める。
ちょっと気合が入りすぎたかもしれない、けど、一世一代のセデュイールとのデートですものね! たとえあの人にとっては…一夜の気まぐれかもしれなくても…とびっきり美しい姿で、彼の隣に並び立ちたい。叶わない片恋の、惨めな思いなんて忘れるくらいに!
黒のコートを羽織って10センチはありそうなピンヒールに履き替え、こつこつと踵の音高く、私は部屋を出る。例のスキャンダル騒ぎがあってから引っ越したここは、11区の閑静な住宅街にある高級アパルトマンだ。広い部屋が全部で5つあって、住み込みの家政婦1人と一緒に暮らしている。運転手はまだいないから、表に出た私はタクシーを拾って、8区にある事務所を目指す。車の中で私は浮き立つ胸を抑えて深く息を吐いた。
待ち合わせ時間きっかりに、セデュイールは事務所の扉を押して入って来た。
「すまない、待たせたか?」
「いいえ、私もいま着いたばかりよ」
本当は30分も早く着いてしまってソワソワ待っていたのだけれど、何食わぬ顔で嘘を吐く私である。セデュイールは微塵も私を疑う素振りを見せず、エスコートするように私の手を取る。
「では、行こうか」
「ええ…」
落ち着いたダークグレーのスーツにワインレッドのハイネックセーターを着たセデュイールは艶やかな黒髪をセットして目元に縁なしの眼鏡をしている。落ち着いた大人の男って感じで、肌の露出は一切ないのに色気が物凄くて、美しい顔貌に微笑みを湛えているのが目に毒で、私はばくばく鳴る心音を彼に聞かれないよう祈りながら彼に手を取られたまま歩いた。
事務所の前で待っていた車のドアをセデュイールの専属運転手であるセラノが開けると、満開のガーベラの花束が私を迎えた。
「はいこれ、このたびはどうもありがとうございました~」
「………なんであんたがいるのよ」
「うん?」
ばさりと花束を渡して寄越すルーシュミネのにやにやとした人の悪い笑いに、引き攣りながら私は尋ねる。
「そりゃあ勿論、僕も君に感謝を伝えないとって思っていたからさ! 君に世話になったのは、セデュだけじゃないんだからねえ!」
「……」
ちらりと顧みたセデュイールは悪気なんてこれっぽっちもないような無邪気な様子でにこにこしている。本当に、ただ私が浮かれていただけで、全部予定調和ってことみたい、だ。
…いや、わかっていたけどね!? どうせそんなことだろうってことはね!? セデュイールが愛しているのはこの腹の立つにやついたバカ男だし、それをこっちも弁えていますからね!? セデュイールがこいつ以外を愛することなんてないって、もうわかっていますから! ええい、そのにやけ面を引っ込めなさい、このごみクズ男ー!
「今夜は飲むわよ、付き合いなさい、ルーシュミネ…」
「わお、目が座ってるぞお! こわいこわい、よっぽど楽しみにしてたんだねえ? セデュとのデー…」
「黙りなさいこのクズ! あんたが酔い潰れるまで帰さないからね、覚悟しておきなさい!」
「君ザルだからなア。君に付き合いきれる子なんて、そうそういないと思うよー?」
ルーシュミネがけらけら笑う声と、私のイライラした罵声が車内に響く。セデュイールは私たちの様子を微笑まし気に眺めて、口を出さない。まるで鷹揚な引率の先生みたい。
…ちょっとは手綱を握っていてほしいのだけど!? 幾つになっても悪戯癖の抜けない、貴方の恋人の、このクソガキの手綱をね!!
車が街灯の脇を横切る度に、車窓にオレンジの光が滑って眠るルーの頬を照らし出す。
酒の飲めない私に代わり、酒豪のダイアナに付き合っていい調子で杯を空けていたルーは十何杯目かで遂に完全に酔い潰れ、ぐたりとテーブルに伏したのだ。
ルーを抱え上げて車に乗り込み、セラノの運転でダイアナを家まで送り届けてから屋敷に向かう。ことりと私の肩に凭れたルーは硬く瞼を閉じて安らかな寝息を零している。静かな夜だ。車が揺れるたび反対側の窓に傾きかけるルーの頭を引き寄せ、いつになく熱をもった頬や無防備に投げ出された掌にふれる。普段氷像のように冷え切っていることの多いルーだが、酔った夜などはその限りではない。特に今晩は、何やらひどく上機嫌で杯を次々と空にしていたので猶更だ。発熱しているかのように全身をほんのりと朱に染め、触れる肌は汗ばんで温かい。…私の下でシーツに溺れるルーを思い出してしまって、車窓へと目を逸らす。建物に遮られて月は見えない。僅かな星がちかちかと瞬いている。
「んあ、…くしゅ、」
愛らしいくしゃみをひとつしたルーがゆっくりと顔を起こす。きょろきょろと車内を見回して、自分がどこにいるのか記憶を辿っているようだ。
「疲れただろう、もう少し寝ていていいよ」
「…ぁえ、いま、なんじ…?」
「11時45分だ」
腕時計を確認してそう伝えると、ぱちぱちと瞬いたルーはとろりとした目でこちらを見上げる。まだ酔いが醒めていないのだろう、どこか夢見るような表情はあどけなく、プレゼントを待ち侘びる稚い子供のようでひどく愛らしい。
「…気分が悪くはないか」
「だいじょーぶ。…きみ、きょうは、いつもと、ちがうね…」
「ん?」
「いつもより、なんていうか…大人っぽい、かんじがする…」
「……」
薄い唇から訥々とルーの中性的な声が漏れる。音楽のようなそれを心地よく聞きながら私は彼の発言の意図を考える。彼が唐突なのは今に始まったことではないが、いきなりこんなことを言い出すからには、何か理由があるのだろう。
「年相応の恰好をしたつもりだったが。お前の好みではなかったか?」
「…んーん。そんなこと…」
もじもじと視線を逸らし、ルーは座りなおす。くたりと凭れ掛かっていた背をきちんと起こして、私から少し離れ、こちらが距離を詰めるとまた同様に摺り下がる。それをつづけていたらどんと彼の背が車のドアにぶつかった。縮こまるように身を竦めたルーはおそるおそるといったふうにこちらを見上げ、すぐにまた逸らす。何やら、いつもと違うルーの様子に私は戸惑う。これも酔いのせいだろうか。潤んだその瞳に怯えの気配はなく、なにかを期待するような、貪られるのを待っているかのような、飢えた色が滲む。
…家に帰り付いたらルーをベッドに寝かせ、たっぷりと休ませよう。いつにない色香を放つその肢体に惹きつけられる自分を抑え、ルーの父親代わりのようなつもりで、私は彼のスケジュールを反芻する。明日は彼は一日オフだった筈だ。私のほうは午後から打ち合わせが一本だけ。…だが今夜は、ルーの身体をゆっくり休ませなければならない、丈夫でないルーのことだ、無理をさせればまた身体を壊してしまう。…
「そこは狭いだろう、こっちにおいで、ルー」
「ううう…」
なにやら獣のような唸り声が応える。ドアにへばりついたルーは唇を噛んでこちらを威嚇するかのようだ。物欲しげな瞳のままで。本当に珍しい。内面はともかく、いつでも表面上は胸襟を開いて誰でも受け入れるように見せかけるのが得意なルーであるのに――
「酔っているな。具合が悪いのか? 車を停めようか?」
「……」
ぶんぶんと無言で首を横に振る。心配になって手を伸ばし彼の唇にふれ、噛み締めた唇が解けるようになぞるとびくりとその背が大袈裟なほど震える。
酔っているせいもあるのだろうが、深い泉のように潤み切った瞳が切なげにこちらを見上げ、唇がぱかりと開かれる。
誘うような上目遣いに抵抗できるわけもなく、キスをしようと顔を傾けると「ひぎゃあ」と猫のような声が鳴いた。
「…どうした」
「ちょ、ちょっとまって、まって、こころのじゅんびが…」
「?」
わたわたと慌てた様子で飛び退いたルーは胸に手を当てて呼吸を落ち着かせようと深呼吸している。一体何がルーの琴線に触れたのかわからず唖然として見つめていると、今度はきっと彼は眦を鋭くして、睨みつけてきた。
「きみはずるい、はんそくだ」
「何がだ」
「だって、だって…ぼくばっかりドキドキして、ぼくばっかり、きみのことがすきみたいで…わわ」
我慢できずに抱き寄せるとその愛らしい悪態が途切れる。寄り添った胸からドクドクと互いの鼓動が脈打っている。仄かな汗の匂いが、ルーの花のような微かな体臭と合わさって私を酩酊させる。
「心臓の音が、聞こえるだろう? わたしはいつでも、おまえに狂わされているんだよ」
「――」
胸元に頬を寄せたルーが黙り込む。その身体は熾火を宿したかのように熱い。触れた掌から、僅かな震えが伝わる。身体をぴったりと添わせているので、ルーの下腹部が熱を持ち兆し始めているのもわかる。宥めるように背を撫でおろすと逆効果のようにビクンと震え、期待に満ちた涙目が必死な様子でこちらを見上げる。
口づけると今度は抵抗なく、すぐに脱力してしまったルーはくたりとこちらに身を凭せ掛ける。しがみついてきた震える手が私の手を取り己の下腹部に触れさせて、はあと熱いため息が漏れる。
「も、だめ、かも…だいて、ここで…」
「…こんなところで?」
「がまんできないよお、セデュう…」
「おまえのからだに負担がかかる、だめだ」
「だいじょおぶだよ、はじめてじゃないんだし…ねえ、」
人差し指でかりかりとこちらの胸元を引っ掻きながらルーが強請る。かぷりと襟元を咥えて首を露出され、母親に甘える獣の子のように素肌にすりすりと懐いてくる。
「こら、…っ、だめだと言っているだろう、聞きなさい…」
「やあだ」
「悪い子だな、ルー…」
「悪い子はきらい?」
「……わたしがおまえを、嫌えるわけがない…」
ルーは潤んだ瞳でこの世の至福をすべて集めたかのようににこりと微笑んで、瞼を閉じてまた口づけを強請った。
いつの間にか帰り着いていた車のドアを開け抱き上げたルーをベッドまで運び、裸になって愛し合う最中、酔ったルーはいつになく性急で切羽詰まった様子であった。
――裸になっても眼鏡はかけたままでいてほしいとルーに懇願され、私は複雑な思いであったが。
翌朝目覚めたルーは健康的で溌剌として、陽気に私を送り出した。
◇◇
オービットさんから僕の事務所宛に荷物が届いたのは、ショーが終了して数週間経った後のことだった。
マチウが運び込んだいくつものケースには、ショーで僕が着た…着せられた? 奇抜な衣装が入っていた。応接間でそれを開けた僕は思わず歓声を上げる。
「みて、セデュ! 僕が着たドレスだよお! これ着てウォーキングしたんだア、ちょっと面白いだろ?」
「ムッシュ・ランディからのお手紙付きです。ムッシュ・リーヴェには大変申し訳ないことをしたので、そのお詫びも兼ねてのプレゼントだそうで…」
「えー? オービットさんは別に悪くはないだろ…」
マチウに渡された手紙を開きながらあっけらかんと僕は言う。
あの時のことは、確かに散々だったけど。ほんとうに、死ぬような思いもしたけど。でもやらかしたのは名前も思い出したくない資本家の男であって、オービットさんには罪はない。彼はなんにも知らなかったんだから、責めるのはお門違いってやつだ。
…まあ、もうモデル仕事は受ける気ないけど!
「せっかくだからさ、きみだけのためにウォーキング、してあげようか? きみ、見られなかっただろ、僕の舞台…」
僕がケースを開けてからずうっと無言のセデュに笑いかける。
白のオーガンジーでできたドレスをじっと見つめていたセデュはやっと顔を上げる。
…あれ、なんかすごい不機嫌そうだ。眉間にふかーい皺が寄っている。若干躊躇ったような沈黙の後、セデュが唇を開いた。
「これを着たのか。大衆の前で」
「え? うん。仕事だしね」
「……下着は」
「え? パンツのこと? 女性ものが用意されてたんでそれ着たけど、それが何か?」
「……」
セデュにじとりと睨みつけられたマチウが怯えたように身体を縮める。
「い、い、衣裳に関しては、こちらに打診はなかったと言いますか…私どもも、どんなものが用意されているかは把握しておらず…はい…」
言い訳のように言い募るマチウにあからさまなため息を吐いたセデュは額を抑えて呻く。
「…予めチェックしておかなかった私にも非がある。今後、同様の話が来たら、まず私を通すように」
「は、はい…」
「ちょっとォ、僕の仕事なんだぞ、なーんでセデュを通さなきゃなのさ! 僕まだ君の事務所に移籍できてないんだけど!?」
「お前は隙がありすぎる…自分の身の危険を何もわかっていない…」
「た、たしかに、危険な目には遭ったけども…それとこれとは別だろ…?」
「いいや同じことだ」
「えええ…」
「ちなみに下着はどんなものだった。当日の写真はあるかマチウ」
「は。これらは手紙に同封されておりまして…」
なんだかバタバタしていてそれどころじゃなかったせいで有耶無耶になってたショー当日の僕の有様について急に心配になったらしいセデュに乞われ、マチウはすかさず写真を手渡す。冊子に収められたそれらをぱらぱら捲ったセデュの目がどんどん座っていく。ワア…怒ってるなこれ。どうしよう…。
「上半身が剝き出しだ。これが服だと? こちらは下着が見えている。これはなんだ、ほとんど紐ではないか…」
「げーじゅつって難しいよねえ。僕も畑違いのことはよくわかんないからさ…」
「畑違いどころの話ではない。コンセプトは何だ? 高身長女性のためのドレス? こんなものを着てパーティー会場に行くセレブがどこにいる。コールガールでももっとまともな恰好をしているぞ」
「それはホラ…女の子に着せるのはしのびないからって僕が選ばれたんじゃない? 一番際どいカッコしてたの僕だったような気がするし…」
「ムッシュ・リーヴェ!」
「え? あれ? これ言っちゃまずかった?」
「……」
パタンと冊子を閉じたセデュが身の毛のよだつような作り笑顔でマチウに振り返り、当のマチウは「ヒッ」と悪寒に震えながら背筋を正す。
「こんなものは送り返せ。二度と彼からの仕事は受けるんじゃない」
「ちょっとォ、それはおーぼーだぞう!? べつにかまわないじゃないか、僕男なんだし!」
「いいな? マチウ」
「…はい…」
「反対だ反対だ、断固反対する! 僕が決めたことなんだから、君に口出しする権利はないぞう!」
「お前も、拒否できるような状況だったのか? 嵌められて協力させられただけでは?」
「そうだとしても決めたのは僕だもん! もお、そんなうるさく言うなら事務所移籍も考えなきゃかなア!? 君がこんな支配欲に塗れてたなんてガッカリだよー! 僕は自由にさせてほしいんだからさあ!」
ついつい調子に乗って口を滑らす僕である。セデュが嫉妬してくれるのは正直嬉しい。私情もりもりで仕事を制限してこようとするのも、なんか、かわいすぎる。はー、わかっちゃいたけどそんなに僕のことが好きなんだなア。えへへ、独占欲ってヤツ? いい気分だなア!
「君の認めた仕事しかできなくなったら、僕の好奇心が死んじゃうなア。もーっといろんな世界を見たいのになア、あーああー残念だなー!」
「……」
わざとらしく大声で嘆く僕に胡乱な視線を注いだまま、セデュは黙り込む。あんまり健気でかわいいので僕の嗜虐心が疼く。もうちょっといじめてみようかな。セデュはどんな反応するだろう。
「僕は僕という一己の人格があるんだからね、君の所有物じゃないんだからね! そこのところを君はどう思っているのかな。まさか否定はしないよね? そうじゃなかったら幻滅しちゃうなアーどんなに顔と声と身体が良くても、我が物顔の傲慢野郎はなあー」
「……」
ピリつく僕とセデュの空気にマチウがおろおろ視線を彷徨わせる。どっちに味方するべきか迷っているみたいだ。いや、そこは迷わないでほしいんだけど。君は僕のマネージャーなのにな! 僕は何も間違ったことは言っていないんだけど。日頃の行いのせいかなア!?
「…悪かった。私が言い過ぎた…」
「お。認めてくれんの? それでそれで?」
「…お前の仕事は、お前が決めることだ…」
「ふんふん。それで?」
「…好きな仕事を、好きなように受けなさい。私に口を出す権利はないとも…」
「……」
勝っちゃった。完全勝利だ。まあセデュが僕を捻じ伏せることなんてできないんだけどね。最初からわかってたけどね。なんか、意に反して凌辱される乙女みたいな悔しそうな顔で言われて、ちょっとウズウズする。はあ、可愛いな。なんて可愛いんだろう、僕のセデュは…。
「わかればいいんだよ、わかってくれれば。そんな顔しないでよ、こっち向いて、…」
「ルー、…」
「今夜、ベッドでこれ着てあげようか? 着ながらできると思うんだ、ココ空いてるし…下着は付けないで、きみだけに見せてあげるから…ぼくたちだけのショーだよ、コーフンしない? …」
「……」
想像したのか、みるみるセデュの頬が朱に染まる。うふふ、堅物そーなカオして、案外スケベなセデュだから、これで有耶無耶にできちゃうってことも僕は知っているのだ。
「なんなら、今からでもいーよ? どうする? どれから着ようか…」
「…ルー、だめだ、服が汚れるだろう…」
「プレゼントされたんだから、送り返すのは失礼だよ。エッチな服が多いから、愉しめるとおもうなア。こっちがいいかな? それともこっち?」
「……」
「もうぼくの服なんだから、いっぱい汚していーよ。いーっぱい、かけて、べとべとにして、きみのにおいをたっぷり、沁み込ませて…」
「……」
セデュの身体が傾いて、僕の前に跪くのに僕は満足して、にっこり微笑む。
「では私はこれで! 確かにお渡ししましたからねエ!?」
素っ頓狂な声で叫んだマチウがバタバタ駆けだして行ってバタンと扉が閉まる。
あとは僕たちの、お愉しみの時間だ。




