1.敵国で目覚めて。
――ミクが王国を出て、間もなくのこと。
彼女との契約による加護が切れたことによって、王国には異変が起こり始めていた。降り始めた雨は次第に強さを増し、街の河川は氾濫。
人々は対応に追われ、勇者は国王に呼び出されていた。
「なに……? 精霊族の姫を追い出した、と」
「あ、あぁ……そうだけど?」
勇者の間抜けな発言に、国王は厳しい表情のまま頭を抱えた。
精霊族の加護は、この王国を繁栄に導く。ミクと勇者の婚姻はその証であり、この馬鹿もそのことは理解していたはずなのだが、いったい何を考えているのか。
いいや、考えていないのだろう。
考えていないからこそ、このように軽率な行動を取れるのだ。
「念の為だ。勇者よ、お前の事情を聴いておこう」
「だって、俺はアイシャに真実の愛を――」
そう思っていたが、彼の口から語られたのは言い訳ばかり。
遠回しな表現をしていたが、要約すると『アイシャと浮気をし、彼女に惚れ込んだ。そうなってくるとミクは邪魔なので、勝手に追い出した』ということであった。
そのことを把握した国王は、いよいよ我慢の限界に至る。
何故なら、そもそもミクとの婚姻を望んだのは――。
「――ええい、男の風上にも置けない奴め! そもそも精霊族の姫との婚姻を望み、生涯をかけて愛すると誓ったのは貴様ではないか!!」
そう、勇者だったのだ。
そのことを反故にしておいて、いけしゃあしゃあと美辞麗句で誤魔化そうとする。そこに誠実さなど欠片もない。そう判断した国王は、即座に処罰を下すのだった。
「貴様は本日付けで、国家反逆罪により国外追放とする!!」
「え、えええええええええええええええええ!?」
誰もが呆れる勇者の悲鳴は、王城全体に響き渡っていた。
◆
「こ、ここは……?」
ミクが目を覚ますと、そこには知らない天井があった。
ふかふかのベッドに身を横たえていたので、おもむろに起き上がると周囲には豪華な調度品の並んでいる。広い一室の只中で、少女は眠りに落ちる前の記憶を手繰っていた。
すると、それよりも先にドアがノックされる。
少女が短く返事をすると、中に入ってきたのはあの青年だった。
「やあ、目が覚めたかい?」
「はい。あの……ここは、どこですか?」
彼はベッドの横にある椅子に腰かけると、優しくミクの手を握る。
それに少しだけ安心感を抱いた彼女は、状況を知るためにそう訊ねた。すると青年は静かに首を左右に振って、こう言う。
「その前に、自己紹介しないかい?」
そういえば、互いに名乗っていなかったことを思い出した。
ミクはそれはいけないと思い、しっかり向き直って名を口にする。
「私はミク――精霊族の長、ガイアの娘、です」
「……驚いた。まさか、精霊族の姫君だった、とはね」
しかし青年は、また小さく首を左右に振ってこう続けた。
「いいや、関係ないか。僕は身分や生まれ、関係なくキミに惹かれたんだから」
「私に、惹かれた……?」
「あぁ、そうだよ。さて、改めて名乗ろうか」
そして、そのように一度言葉を切ってから。
彼は恭しく礼をしながら、こう名乗るのだった。
「僕の名前は、ミハエル・リュクス・ルクレツィア。このルクレツィア皇国の第一皇子。そして――」
優しく、ミクの手を撫でながら言うのだ。
「キミに恋し、心の底から愛したいと願う者だよ」――と。
ここまで短編と同じ内容。
オープニング終了して、次回から新規です。
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