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新婚旅行 番外編(後編):甘い、甘え


******


「マオさん、私今回の旅行すっごく楽しかったんですけども、どーーーしてもこれだけはっ! と思う事があるんですよ!」

「ほう? 荷物整理の途中だというのに、わざわざ布団の上で正座をして話さねばならぬようなことがあったとはな」



 食事から戻った時点で当然ながら布団が敷かれていて、テーブルやら座椅子なんかは端っこに寄せられていた。

 そして先程まで私が転がっていた窓際の長椅子には、お土産を旅行バッグに入れる為、荷物整理の途中の物が無造作に置かれている状態である。


 あれらをどれだけうまく旅行バッグに入れ込むことができるかで、明日の手持ち移動の負担の度合いが変わるだろう。



「マオさんは、とにかく今回すごく頑張ってくれたんだと思うの。普段はあまりしないような行動とか言動とかさ」

「特に無理などはしておらぬが、まだ不足であったか?」


「いえ、十分嬉しかったし、満足です!」

「では、他に何があるのだ?」


「そうじゃなくて、マオさんからの甘えが全くないじゃない!」

「甘え? ふぅむ……此度は十分希望も叶えてもらい、セーラの喜ぶ顔も見れて我も十分に満足しておるのだが。他でもないお主が言うのならば、そうなのかもしれぬな」


「そうです、マオさんが私を甘やかしてくれるのなら、マオさんを甘やかすのは私の役目です」

「では、我はもう少し甘えを強請っても良いのだな?」


「もちろん! 私にできる範囲でですけど、ドーンと甘えちゃって下さい!!」



 得意げに自分の胸を張り、誇らしげにトンと叩いて見せた。マオさんが私に頼っているのなんて、正直生活費くらい。それだってマオさんならきっと自分の食い扶持くらい余裕で稼げる能力はあると思う。


 それだけに、それ以外でもマオさんに甘えてもらえるようになりたいのだ。



「くく、ドーンと……か。では眠る時は、愛する妻の胸を借りるとしよう」

「え!? 私がマオさんを抱っこしたまま眠るってこと?」



 身体のサイズ感的にそれはちょっと厳しい気がするけど。どんと来い! アピールをしておきながら、一発目でお断りするのも情けない。



「≪()()≫」

「マオさん、私の名前……」


「……よもや、我が言えないとでも思っておったのか? 「聖」の字など漢検5級程度であると言うのに」

「5級なんだ……。それは知らなかったけど、発音の関係かと思ってた」


「我とお主は血と血で夫婦の契りを交わしておる。よって、互いを【真名】で呼び合うと共鳴してしまうのでな。それもあって普段は控えておるのだ」

「じゃあ、今は……?」



 大切なものに触れるように優しく私の頬を撫でたと思えば、そのまま指を顎に滑らせマオさんの視線と合わせるようにクイっと人差し指で顎を持ち上げられる。


 アメシストを思わせるような優しい薄紫の瞳には私だけが映っていた。



「そのまま、我から目を離すでないぞ?」

「……はい」



【真名】を呼ぶ時は目線を合わせた方がより深く共鳴できるのだという。キスの一歩手前のような状態で見つめ続けるのは、正直もの凄く恥ずかしい。

 だけど、ここから抜け出て彼の瞳が私を映さなくなるのはもっと嫌だと思った。



「≪聖良≫……今宵は我に囚われてはくれぬか?」

「マオさ……!」



『違う』と言い、そのまま言葉を封じるように唇が塞がれる。「その名ではないであろう?」そう、目が訴えていた。



「【真名】で呼べ、≪聖良≫」



 

 私はマオさんから捧げてもらった【真名】で彼を呼んだ――



***



 マオさんが黙って私を見下ろしている。


 ずっと視線を合わせたままで、これは一体どうしたらいいのだろうかと脳内会議では書類が散乱している状態だ。

 マオさんの目がゆっくりと細められ、唇は綺麗な弧を描き、口を開いた。



「愛いの……」

「う? え、あの……!」



 うい? 「初」の方? まさか「愛」!? なんか今さら~っと、TV見ながら『この曲いいよね』とか言ってるくらい自然に言ってなかった? といったことを早送りで考えていたら、いつの間にかマオさんの顔がすぐ近くにあって、気付けばもう一度キスをされていた。


 すると、私の身体から激流のように彼へと何かが流れていき、逆に彼からはさざ波のようにゆっくりと何かが流れてくるような、そんな不思議な感覚があった。

 

 唇が離れると、彼が何かに気付いたようで、思いがけず驚いたといった様子を見せていた。



「これは嬉しい誤算……お主の心に我がこんなにも住み着いておるとは。セーラの想い、我の身体に収まり切れるであろうか」

「え!? 【真名】って、私の心まで見えちゃうの?」


「いや、感覚のようなものだ。セーラは魔力がないが、我から受けた血で繋がっておる。【真名】に乗せたことで我のこともわかるであろう?」

「このポカポカとして、ふわぁっと心に沁み込んでいくように感じるもののこと? 不思議な感覚だけど、なんか安心する……これがマオさんのなんだ」



 うまく例えが思いつかないけど、コーンスープに浮いたクルトンの気持ちというか、ゆっくりスープを吸い込んで柔らかくなる感覚というか。


 そうとわかれば途端に安心感で一杯になるから現金なものだけど、これは温かくじんわりと愛が育っているってことなのだろうか? 

 マオさんは魔力があるからはっきりとわかるようだけど、私には「好意的な感情を持っているっぽい」程度にしかわからない。もちろんわからないより、わかる方が嬉しいけど。



「そう度々、想いを(つまび)らかにされるのではたまらぬが……たまにならば良かろう」

「そ、そうだよね! いつでもバレてる状態だなんて恥ずかしいし……あの、これってマオさんも以前より……増えた?」


「……ここまで晒してもお主は聞いてくるのだな。増しておるからこそ、【真名】を呼ばせているというのに」

「ごめんなさい! だって、今回が初めてだから比較ができないし……それに、マオさんから直接聞きたかったの。増えていてくれて嬉しい」



 また呆れられちゃったけど、それでもマオさんはいつもこういうことには答えてくれる、優しい人だ。


(そっか、マオさんも好き度が増してくれてるんだ……!)


 嬉しくてつい、顔がニヨニヨとしてしまう。



「わかったのならば良い。それと、今後ないことを願いたいが、もし我の気持ちに不安を覚えるようなことがあれば、【真名】を呼ぶと良い。少なくとも、これは嘘をつけぬからな。さすればすぐに憂いも晴れよう」

「……うん、【真名】ってすごいんだね」



「うむ……ではこれで互いの想いも無事、確認し合えたな?」

「かく…に……きゃっ!」



 決して強い力じゃないのに、マオさんに額をトンっと軽く押されただけで、コロンと後ろへ倒れてしまった。とはいえ、後ろに布団が敷かれているから痛くもないけど。


 起き上がろうかと思えば、マオさんが倒れた私の両手を封じるように、指を絡め取りそのまま布団に縫い付けた。

 

 マオさんに捕らわれたような状態で見下ろされるって一体どういう状況なのだろうか? 今日はやたらとマオさんの思考が読めない。ただ、変わらず流れてくる感情は暖かいものだから、怒っているとかではないことは確かなようだけど。


 あまりの恥ずかしさに、ずっと見つめているのは辛くなってギュッと目を閉じた。ここは一つ、心の目で見ればいいんじゃないか? との結論に至った。『考えるな、感じろ!!』理論だ。


「感じろ!」に全振りした結果、上からクスリと笑った声が聞こえた。



「フッ……そう言えば、新幹線の中で言っていたセーラの寝言には驚いたものだ」

「なっ!! 寝言!? あ、あの、私は一体なにを……?」



 ギュッと固く閉じていた瞼も「寝言」と聞いて、カッと見開いた。「感じろ」は終了! 考えさせて下さい!!



「確か、『ラブラブUP大作戦』と言ったか……」

「嫌ぁぁぁぁぁぁ!! 嘘だと言って!!」



 もうヤダ! 最悪!! 顔を隠したいのに、マオさんに両手を封じられてるじゃない! もう一生乗り物に乗っている時に居眠りなんてしない! 大体、なんで「ラブラブUP大作戦」なんて安直でダサい作戦名にしてしまったのか……今すぐ引き籠りたい。



「それが妻の願いと言うのであれば、夫が叶えるのみ。遠慮なく、存分に甘い夜を過ごそうぞ、のう? ≪聖良≫」

「その作戦はわすれ……!」



 言い終わる前に、またキスで塞がれてしまった――




 ゆっくりと唇が離れ、伏せていた睫毛を上げると熱の籠った瞳のマオさんと視線が絡み、思わず心臓が跳ねた。



 彼が何度も≪聖良≫、と甘く【真名】を囁き、口付けを落とす。


 彼の呼吸に合わせるように、感情が止めどなく押し寄せてくる……これが彼の「愛おしい」と思う感情の波なのだと知った。


 


【真名】によって共鳴し合う二つの想いが混ざり合い




 やがてそれらは一つに溶けた――





***




「月が随分高い位置まで来てしまっておるな」

「もう時間も遅いもの。私はいいけど、マオさんはもっといっぱい入りたかったんじゃないの?」



 遅ればせながら、ようやく部屋付の露天風呂に二人で入っている。


 恥ずかしいけど、照度を下げているし、深夜だし、眠いし、ということで効率的なことも相まって一緒に入ることになった。



「入ろうと思えば、朝餉(あさげ)前に浸かることもできる。それに、此度の旅行で一番大切なのは温泉ではなく「夫婦の愛を深めること」が目的なのであろう?」

「もう、バカ! 言い方変えたって私の「ラブラブUP」をいじってるってわかるんだからね!」



 それっぽく言っているけど、薄っすら笑っていることに気づかないとでも?



「くく、そう怒るな。温泉はいつでも浸かれるが、二人で過ごすこの穏やかな時間というものは、今この時だけのもの。実に良い時間とは思わぬか?」

「それは……そうだけど」



 マンションのお風呂では狭いし、浴槽は小さいしで、そもそも一緒に入ることはない。今回の旅行でもこれが初めてのことだ。

 

 温泉は良い……。だけど、ただ入っているだけでも体力が奪われるのはなぜなのか、不思議だ。深く眠れるようにってことなのかな?



「国籍も得て、旅もしやすくなった。まずは国内を制覇し、いつか世界も巡ってみたいものだ」

「う……ん、そうだね……」



 深夜脳のせいか『まずはこの国を制圧し、いつかは世界を牛耳ってみたいものだ』と言っているようにも聞こえる。ダメだ、これは相当眠いようだ。

 頭もこっくりこっくり船を漕ぎ出し、時折湯舟に顔がつく。



「セーラ、ここで眠っては溺れてしまう。先に上がって眠ると良い、荷物整理なら我がしておく」

「ううん……マオさんも一緒に寝ようよ。整理は明日一緒にしよう」



 露天風呂から見る部屋の中は薄暗く、一人で先に寝るのは少し心細い。



「フッ、お主が望むのならそうしよう……」



 そう答えたマオさんの目は優しく細められていて、心なしか嬉しそうにも見えた。


『やはり甘えるのはお主の方が得意なようだな』という呟きは私の耳には届いていなかったけれど、満たされた気持ちのまま幸せな眠りに落ちたのだった。





最後までありがとうございました!


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