赤い糸~リツへハルより~
「晴聞こえてる?今どこにいるの、俺はココだ。」
何を言いだすの?私はココだよ、隣にいるよ。
淡い雪のように振っては消えていくこの切ない感情。
届けたい、届かない、届けられない。
私の声はあなたに届く事なく私に帰ってくる。
指電話の先にいるのは私。
届かない、届けたい・・・でも無理だった。
背中合わせになって私はあなたから離れていく。
忘れてほしい、忘れてほしくない。
指に巻かれた赤い糸、いつ解けるかもわからない。
怖い・・・・・・。
すると君が振り返って私を追い掛けてきた。
まるで見えるかのように。
私は姿を消した。
彼は見知らぬ女の肩をつかみ、振り返らせた。
「え?」
その人はキョトンとして彼は困り顔になった。
「ああ、人違いでした、ごめんなさい。」
私はココよ、あなたたちの斜め上にいるよ。
その人と仲良くなっていく彼。
それはわざと私がそうなるように仕組んだのに、何故?
赤い糸を切ることができなければあなたからの指電話も嬉しいなんて・・・・・・。
どうして毎日かけてくれるの?私が出ても声は届かないと分かり切っているのに。
忘れてほしい、忘れてほしくない。
君からの指電話、嬉しいなんて。
君を困らせて不幸にするだけなのに切れないよ・・・・・・とまらないよ。
逢いたいよ・・・・・・会ってるのに・・・・・・逢いたいよ・・・・・・私を抱き締めてよ。
雨の中で私たちがよくいった公園のベンチに座り、眠っていたあなたに、あなたにとって使い物にならない傘を差し出して私と相合傘にしてみても、やっぱり意味はなかったね。
私はあなたから離れ、一人傘のなかに入る。
横にいるよ、あなたと知り合ってあなたに惹かれたあの女の人。
私をあなたが追い掛けたあの日からあなたは彼女と付き合いはじめる運命だったのかもしれないね。
彼女は私より大人っぽい性格で私よりスタイルが良くてあなたをきっと思ってくれてるよ。
ふっと立ち上がって消えようとした瞬間、あなたは目を覚ました。
一瞬私の方向を見たけど、私とは顔も性格も違う彼女を見て目を大きく見開いた。
ねぇ、ごめんね。
もっと素直になれば良かった。
あなたの誕生日にあげた指輪。
本当はね・・・・・・メチャクチャ悩んだの。
“婚約指輪が欲しい”なんて言えるはずもなかった。
だから指輪関連で気付いてくれるといいなって思ってたの。
あなたにどんな指輪があうかわからなくて何店舗も歩き回った。
でもしっくりくるのがなくてついに挫折してかっこいいのを一つだけ買った。
いざとなって、私は指輪の入った袋をあなたに投げ付けた。
だって悔しかった。
満面の笑みで「何を選んでくれたの?」なんて・・・・・・。
「別にたまたま入った店でかっこいいのがあったから買ってきただけ!」
「ふーん?」
すごく余裕で、なんでもお見通しみたいな顔して悔しくて、袋をあなたに投げ付けたら、あなたは慌てて座ってた椅子ごとひっくり返した。
今ココにある過去にあなたも以前の私もいない。
あの時はあっかんべーをして笑ってやったけど。
今ココにあるのは、引っ繰り返った椅子と私があげたプレゼントだけ。
私の記憶に残る、一番強い映像。
プレゼントを拾いながら一人涙が伝う。
本当はね嬉しかったよ。
お見通しになるくらい私のこと知ってくれてること・・・・・・。
今日も来た。
あなたからのメッセージ。
「晴、どこにいる?俺はココだ。晴を愛してる。」
人一倍優しいあなた。
「私も愛してるよ・・・・・・葎・・・・・・。」
届かないと知っても、好きだよ。
「素直に言えなくてごめんね。」
“生前”には言えなかった。
「愛してる・・・・・・愛してるよ・・・・・・ごめんね・・・・・・。」
事故にあって半分死にかけた葎の魂を私は元の世界へと戻した。
いきててほしいよ。
でも葎を苦しめるなら・・・・・・。
忘れてほしくない。
だけど、これが最善だよね・・・・・・?
私ははさみを持ち出し、小指に繋がれている赤い糸を切っていく・・・・・・。
手が震える。
少しずつ糸が解けていく。
カシャン・・・・・・。
はさみが手から落ちて、私は座り込んでしまった。
無理だよ、切れないよ!
切れるわけないよ!
「ごめんね。ごめんね・・・・・・愛してる・・・・・・。」
だから届かない言葉を君に送ろう。
愛してる・・・・・・。