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番外編02:これからの居場所

 


 長時間の馬車旅を経て、ようやくアデル村に到着した。

 広大な土地に整備しきれていない道が伸び、点々と家屋が建つ。長閑どころではない田舎村。その光景に、馬車から降り立ったユベールが見惚れるように「凄いな」と呟いた。

 今までは人が多く賑やかな王都の、それも一番華やかな王宮で過ごしていたのだ。真逆の景色に彼が圧倒されるのも仕方あるまい。

 もっともキャンディスやリアにとっては懐かしさこそあれども新鮮味はない。景色を見渡すまでもなく何一つ変わっていないと実感していた。


 そんな中「キャンディス! リア!」と声が聞こえてきた。

 見れば小さな女の子がこちらに駆け寄ってくる。


「おかえりなさい!!」


 走ってきた少女がその勢いのままキャンディスに抱き着いてくる。それを受け止め、キャンディスもまた「ただいま」と返した。

 次いで少女はリアに抱き着き、ユベールにも抱き着こうとし……、ピタと止まった。

 元より大きな目を更に大きくさせ、じっとユベールを見つめる。


「……ユベール、さま?」

「あ、あぁ、今日からアデル村で生活する事になったユベールだ。よろしく頼む」

「キャンディスが『顔が凄く良いユベール様を連れて帰ります』って手紙に書いてたユベール様!!」


 少女が声を荒らげ、かと思えばパッと駆け出してしまった。後ろから来ていた女性に抱き着く。


「お母さん! キャンディスが言ってた顔が凄く良いユベール様だよ!」


 母親に報告する少女の声は興奮していて楽しそうだ。

 そんな少女のやりとりをキャンディスが微笑ましく見守っていると、ユベールがゆっくりと顔を向けてきた。

 目を細めて眉根を寄せた、なにやら物言いたげな表情である。だがその顔もまた麗しいのは言うまでもない。

 怪訝な顔をしてもユベールの麗しさは揺らぐ事はない。むしろ怪訝な顔もまたそれはそれで麗しいのだ。


「その呆れと疑惑を綯交ぜにした顔も素晴らしいですね」

「呆れと疑惑を抱いていると分かってくれてるなら話は早い。キャンディス、いったい手紙に……」


 言いかけ、ユベールが話を途中で止めた。

 少女の声を聞いてか続々と人が家から出てくる。と言っても所詮は田舎村なので人数は限られているのだが。

 どれもキャンディスにとっては見慣れた顔だ。だがユベールからしたら初対面であり、これから生活を共にする者達である。そのうえ己の過去の言動――言わずもがな婚約破棄宣言からの王位継承権剥奪である――を誰もが把握済みともなれば胸中は複雑なのだろう、麗しい顔が緊張で強張り始めた。


「緊張する顔も素敵ですが、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私の手紙でユベール様の事はしっかりと伝わってるはずですから」

「そんなに簡単に言うなよ」


 キャンディスが宥めても緊張は解けないのか、ユベールはいまだ強張った表情のままだ。

 そんなユベールに集まった村の者達が声を掛ける。

 親ほどの年齢の者達は何かあれば頼ってくれと話し、同年代の者は今度ゆっくり話そうと握手を交わす。子供達は少し照れ臭そうにしつつも彼に笑いかけ、時に抱き着いている。

 穏やかで温かみのある歓迎。派手さはないが代わりにユベールを受け入れようという優しさが溢れている。


 ユベールも彼等の歓迎を受けて安堵したのか、強張っていた表情を柔らかなものに変えた。目を細めて微笑み「俺の方こそよろしく」と歓迎に感謝を示す。

 その笑みの麗しさと言ったらない。隣で彼等のやりとりを見守っていたキャンディスが思わずくらりと眩暈を覚えてしまうほどである。意識と記憶を失わなかったのが不思議なくらいだ。

 そうしてしばらくは挨拶や会話をし、ひとまずはと集まった者達が解散していく。みな口々に手伝いを申し出て、何かあれば呼んでくれと告げてくるあたりに優しさを感じさせる。

 ……そして誰もが口々にユベールの見目を褒めていた。


「あの筆不精のキャンディスが長々と書くだけあるわね」だの「『世界中の芸術品を集めても足元にも及ばない』っていうのは本当だったんだな」だの「『太陽よりも眩しい美しさ』って本当だったね、お母さん!」だのと話し合う声が聞こえてくる。

 そんな彼等が居なくなり周囲がシンと静まった頃、ユベールが静かにキャンディスを呼んだ。


「……どんな手紙を書いた」


 という彼の声は普段よりも低い。


「どんなって、村に戻るって連絡ぐらいですよ。手が空いてたら家の周りを整えておいて欲しいとか、荷解き出来る人が居れば手伝って欲しいとかを便箋に一枚ぐらい」

「で、俺については?」

「ユベール様についてもなんとか便箋一枚に留めておきました。本当は麗しさだけでも便箋三枚は優に超えるんですが、長々と書くよりも実際に見て貰った方が分かると思いまして。そもそも、ユベール様の美しさは言葉では表現しきれませんからね」


 言葉を選びに選び、それだけでは足りないと図書館で辞書を開き、ユベールの美しさの少しでも良いから伝わってくれと考えながら便箋に文字を綴ったのだ。

 その熱意を持ちながら、同時に「あの美しさを表せる言葉が世に存在するのか?」という疑問も抱いていた。

 ユベールの美しさは神の領域。ならば人間が使う言語で表現は不可能なのではないか。否、あの美しさを言葉にしようという考えは美への冒涜とさえ言える……。


 そんな葛藤の末、なんとか便箋一枚に留めたのだ。

 今までの人生で一番頭を使った時間だったかもしれない。


 そうキャンディスが説明すればユベールが溜息で返してきた。

 その溜息をもらす表情さえも麗しいし、分かりやすく肩を落とす様も絵になっている。ユベールは落胆しても麗しいのだ。さすが神の領域。


「色々と言いたい事はあるが、事前に俺の事を伝えておいてくれたのは感謝しておくか」

「便箋一枚で我慢した事も褒めてください」

「それは却下だ」


 キャンディスの希望をユベールがあっさりと一刀両断する。

 そうして馬車の中から荷物を取り出すとキャンディスに押し付けてきた。

 トランクを二つ、更に細かな鞄。次から次へと渡そうとしてくる。あっという間にキャンディスの両手は埋まってしまったが、それでも持たせようとしてくる。


「一度で運ばせるにはちょっと量が多くないですか?」

「気のせいだ。ほら、これも持て。あ、リアは何も持たなくて良いから、先に家に入って窓を開けて換気しておいてくれ」


 キャンディスには次から次へと荷物を持たせようとしているのに、一転してリアが荷物を取ろうとするとそれを制止する。

 そんなユベールにキャンディスが文句を言おうとし……、


「運んでくれるよな?」


 と、眩しい笑顔で問われ「はい!」と即答してしまった。


「あ、ずるい! 顔の良さで返事をさせるなんてずるいですよ!」

「俺の顔なんだから俺がどう使おうが勝手だろ。仕方ないから一つ持ってやる、行くぞ」


 押し付けた荷物から一つを取って――一番軽いものだが――、ユベールが歩き出す。

 それに対してキャンディスは文句を言おうとし……、止めた。大人しく従って彼の少し後ろを歩く。


「急に静かになってどうした?」

「いえ、なんだか……、アデル村を歩くユベール様は今までで一番綺麗だなって思えて」


 絢爛豪華な王宮と違いここは質朴な村だ。華やかな絵画も生け花も無い。彼の美しさを際立たせるものなど村中引っ繰り返して探したところで見つからないだろう。

 だというのに、そんな田舎村を歩くユベールの姿は今まで以上に美しく見える。

 それを伝えれば一瞬ユベールが驚いたように目を丸くさせ、次いで目を細めて笑った。


「これから毎日いつだって見られるだろ」


 嬉しそうにユベールが告げてくる。この言葉にキャンディスもまた表情を和らげ、彼と並んで歩き出した。



 …end…





「ユベール様、お知らせです!」

「あぁ、書籍化についてのお知らせか。それなら頼む」

「…………? ……??」

「しまった、俺の顔が良いばっかりにお知らせの内容まで記憶から消しさってしまったのか。分かった、他所を向いてるからその間に頼む」

「なんて美しい横顔!! ……じゃなかった、えぇっと、そうそう書籍化のお知らせですね。まったく、ユベール様の顔が良いせいで話が進みませんよ」

「あと2、3回意識と記憶を奪ってやろうか……」

「ついに己の顔の良さを武器に!? すみませんでした、ここは平和に進めましょう。ユベール様の素晴らしい顔が争いに使われるなんて許されるわけがありません。そんな悲劇、耐えられない!」

「はいはい、分かったからさっさとお知らせしてくれ」

「かしこまりました。ではさっそく、リア! BGMを!」


ぺぺぇ~♪


「3/7 SQEXノベルより『ざまぁ後の王子様もらいます~だって顔が良いから!~』が発売されます。イラストはNiKrome先生。ユベール様をそれはそれは麗しく描いて頂けました!」

「そういえば『画力の八割をユベール様に、私は棒人間どころか点で良いです』と言っていたが、キャンディスもちゃんと描いて貰えたな」


ぱぺぇぇぇ~♪


「はい。私も点じゃなくて綺麗に描いて貰いました。表紙から既にユベール様は麗しく、口絵でも、挿絵でも麗しいです。顔が良い男が描かれた、素晴らしい本!」

「本編の加筆改稿に加え、巻末には短編も収録されているのか」

「はい。そして一部には書籍特典SSも付きます。では下記をご覧ください! リア、ドラムロール!」


ドゥルルルルル


「フルートから見事なドラムロールが……」


書籍特典

・アニメイト各店:特典SS「顔は良いけれど難あり男達の友情」(数に限りがございます。ご了承ください)

・対象の電子書店:特典SS「キャンディスとユベールとシチューに潜むニンジン」


・公式サイト:発売記念SS「アデル村の演奏会」掲載


「お知らせは以上です。では、私もお知らせの最後を飾る素敵な演奏を」

「キャンディス、演奏の前にちょっと俺の顔を見ろ」

「ユベール様の美しい顔を……、顔を………、あれ、私なにをしていたんでしたっけ?」

「よし、これで演奏は回避できたな」

「そうだ。お知らせをしないと。リア、BGMを!」

「しまった、俺の顔が良いばっかりにループに突入してしまった」


・・・・・・・・・


3/7 SQEXノベルより本作品が発売される事になりました!

イラストはNiKrome先生、なんと言ってもユベールが麗しく、キャンディスと並ぶ姿がとても素敵です。他のキャラ達も魅力的に描いて頂きました。表紙からして素敵です!

本編改稿加筆、また巻末には本編後の二人のSSも掲載されております。

皆様どうぞよろしくお願いいたします!



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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化ありがとうございます!おめでとうございます! ほ、ほんとに顔が良い......! キャンディスが言ってたことは本当だった......!!!
[一言]   祝!!     書籍化おめでとうございます!! 番外編の更新があったら嬉しいな~と思っていたので、更新されてて嬉しいやら吃驚したやら・・・(^^;) アデル村に着いたばかりの三人と村人…
[一言] 書籍化おめでとうございます! 顔は良いけどちょっと情けないエプロン王子が大好きです。 SS楽しみです♪
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