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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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九話 美知子の誕生日

「良かったね、仲直りできて」と恵子が顔をほころばせた。


「ええ」そう言って麗子はにやっと笑った。何かたくらんでいるような笑いで、俺は警戒することにした。


「それより具合は大丈夫なの?」


「ええ・・・保健室ではちょっとめまいがしたので、大事を取って早退したけど、今は落ち着いたわ」


また、にやりと笑う麗子。


「具合が悪くなったのって、みーちゃんがぶとうとしたのが怖かったの?」


恵子よ、その話をぶり返すのか。


「というより、藤野さんを怒らせてしまったことに自己嫌悪をしたの」


「自己嫌悪?」


「ちょっと、私の部屋に来て」


麗子が誘ったので、俺と恵子は立ち上がった。


「こっちよ」


応接間を出て、廊下にある階段を昇る麗子の後を追う。


「二階があるのか、すごいね」と感心する恵子。うちも恵子の家も、平屋だ。


階段を上がったところのドアを開けると、中が麗子の部屋だった。畳の上にカーペットが敷かれ、勉強机とベッドや本棚が置かれている。


「ベッドか、すごい!」と恵子。


「正直に言うわ」と麗子が振り返った。


「こっちを見て」


麗子が指した本棚を見ると、一角に今朝教室にあったあの芸能雑誌が何冊も立てられていた。


「あ、明星だ」


背表紙を見ると、先月号まで一年分近い雑誌が並んでいた。


「今朝の雑誌は私が持ってきたの」


「え、ええ?」驚く俺と恵子。


「やっぱりそうなの?」


「本当にごめんなさい。今朝の雑誌はあなたに見せるために家から持って来たの」


「私に?」俺は驚いた。


「本当はあなたにだけこっそり見せたかったけど、他の子に見つかっちゃって、囲まれるはめになったの」


「でも、藤野さんは遠目に見てるだけだったから、思い切って手渡したら、間が悪く先生が来ちゃった・・・」


「そうだったの。・・・でも、なんで私に?」


すると麗子がまたにやりと笑った。


「だって、今日はあなたの誕生日じゃなくって」


俺は絶句した。今までことあるごとに絡まれていた相手から、意外な言葉を聞かされたから。


麗子は顔を赤らめていた。どうやら、嘘ではなさそうだ。


そのとき俺は気づいた。悪だくみをしているような麗子の笑みは、単なる照れ笑いだということに。


「あ、ありがとう。・・・意外だったからちょっと驚いた」


「入学したときから、あなたと小柴さんが『みーちゃん』、『ケイちゃん』と呼び合っていて親しそうだったから、気になっていて。・・・時々声をかけたようとしたけれど、恥ずかしくなって自分の気持ちを伝えることができなかった。・・・それどころか、気を引こうとして、怒らせるようなことばかり言ってしまう自分が情けなくて・・・」


顔を真っ赤にして言う麗子。あれは絡んできたんじゃなかったのか・・・。


「そうだったんだー。私はみーちゃんのことが癇に障って、絡んでくるのかと思ってた」


恵子、正直すぎる!


顔を曇らせた麗子を見て、俺はすぐに言った。


「もう自分の気持ちを偽らなくていいから。・・・これからは仲良くしましょう」


すると麗子は目をうるうるさせて俺を見つめた。


いや、そんな、恋する乙女のように見られても・・・。


「ありがとう!・・・じゃあ、私も藤野さんのこと、みーちゃんって呼んでいい?」


「いやいやいや・・・」俺と恵子は同時に慌てふためいた。


「私とケイちゃん・・・恵子は、幼稚園に入る前からの友だちで、当時の呼び方が今も続いているけど、さすがに高校でできた友だちにそう呼ばれるのはちょっと・・・」


「そうだよ、『みーちゃん』と呼んでいいのはあたしだけだから」


張り合うなよ、恵子・・・。


「せめて、『美知子』でお願いします」


「わかったわ」しょんぼりしながら同意する麗子。


「じゃあ、私のことも『麗子』って呼んで」


「りょうかい、りょうかい」


「あっ、でも!」と声を上げる麗子。


「宮藤さんのことはトシちゃんって呼んでるじゃない。同級生になったばかりなのに・・・」


「あ〜、淑子は天然だからね。つい、トシちゃんって呼んじゃう」


「『てんねん』って?」言葉の意味がわからない麗子。


「えーと、幼い感じって意味かな」


「そういえば、美知子・・・さんへの誕生日プレゼントがなくなっちゃった」


まあ、いきなり呼び捨てはしにくいよね、


「それはいいわよ。友だちになったことがプレゼントだよ」


「うん」顔を輝かせる麗子。


その後しばらく雑談してから、麗子の家から帰ることにした。


ティーカップを既にかたづけていた麗子の母親に挨拶をして、俺と恵子は玄関で靴をはいた。


その様子を見ていた麗子は、恵子の目を盗んで、そっと俺の手を握り締めた。


「じゃ、じゃあ、さよなら。明日学校でね」


外へ出て、見送りをしている麗子の目が届かないところまで歩くと、俺は息を吐いた。


正直、美知子が麗子にこんなに好かれているとは思ってもみなかった。


俺が言うのもなんだが、美知子は美少女ってわけでも、ボーイッシュってわけでもない。平凡な女の子だ。


同性から好かれたとしても、あそこまでってことは考えにくい。


俺が気づかない魅力が美知子にあったのかな・・・。


「本当に良かったね、白沢さん・・・麗子さんと仲良くなれて。・・・でも、みーちゃんの一番の親友はあたしだよ」


その言葉を聞いて、俺は恵子の頭を撫でた。


「妬かなくていいわよ、わかってるから」


「や、妬いてなんかないもん」口を尖らせる恵子。




そんなこんなで、家に帰ったのはいつもより遅かった。と言っても、まだ六時過ぎだ。


「遅かったわね、美知子」


「うん、先生のお手伝いがあったの」


父親も珍しく早く帰っていて、既にお茶の間に座っていた。


「もうすぐ夕飯だから、着替えてきなさい」


自分の部屋に入ると、武が珍しく自分の机に向かっていた。しかし勉強をしているわけではなく、マンガ雑誌を呼んでいるようだった。


「武、もうすぐご飯だって」


「うん、わかった」雑誌を置くと、部屋を出て行く武。


俺もすぐに着替えると、お茶の間に入った。


ちゃぶ台の上には、大皿にちらし寿司が盛ってあった。黄色の錦糸卵の細切りが、目に鮮やかだった。


「あれ、どうしたの、今日は?」


「美知子の誕生日だからよ」


「あ、そうか・・・」


美知子の記憶を辿ると、美知子や武の誕生日にはちらし寿司を作るのが定番だった。バースデーケーキなどはない。ささやかな宴席だった。


「ありがとう、お母さん」美知子の気持ちになって礼を言う。


「早くよそって、よそって」小皿を突き出す武。


そのちらし寿司は、俺が想像してたよりもはるかにおいしく感じられた。多分、味覚は美知子のだろう。美知子にとって美知子の母親の手料理はどれもおいしく感じられた。


夕飯が終わると、母親が俺に、


「はい、私たちから誕生日プレゼント」


と言って、二冊の大学ノートをくれた。


「勉強がんばってね」


「ありがとう、お父さん、お母さん」


「なんだ、ノートか。つまんないの」と武。


父親はそれを聞いて武の頭を軽くこづいた。


その後、家族四人で銭湯に行った。今日は恵子と会わなかった。女湯の湯船につかりながら、麗子の家には内風呂があるんだろうなと考えていた。


銭湯から帰ると、武はテレビを見るためにお茶の間に残ったが、俺は宿題をすると言って部屋に入った。


美知子の体になってから、まだ二日目なのに、今日もいろいろあった。


そんなことを思っていると、眠くなってきたので、押し入れから自分のと武の布団を出して敷いた。


そしてパジャマに着替えてから布団にもぐりこむと、すぐに寝入ってしまった。




次の朝も、俺は美知子のままだった。


昨日と同じように武を起こし、顔を洗って、朝食の準備をして食べた。


家を出ると恵子に会う。昨日のことを話しながら登校して、教室に入る。


既に麗子は来ていて、俺と目が合った。


俺はつかつかと麗子のそばに寄って行った。


麗子の周りにいた女子生徒たちがはっとする。


教室中の生徒が、かたずを飲んで俺の動向を見守っている。


「おはよう、麗子さん」俺は微笑んで麗子に話しかけた。


「お、おはよう、美知子・・・さん・・・」


麗子はいつものようににやりと笑った。俺はそれを見てから自分の席に座る。


教室中に安堵の空気が広がるのが感じられた。


そのとき以降、麗子が俺に変に絡んでくることはなくなった。


麗子は麗子で親しい友人がいるので、普段はその友人たちのそばにいる。


俺はやっぱり恵子や淑子たちとつるんでいることが多かった。


だから俺と麗子があからさまに仲良くするということはなかったが、時おり近くをすれ違うときなどに、麗子がそっと俺の手を握ることがあった。


秘密の恋人かよ・・・。


それはともかく、もうすぐ中間試験が始まる。


恵子に消しゴムを、両親にノートをもらったことだし、美知子のためにも本腰を入れて試験勉強をするかと俺は思った。


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