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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十二年度(高校二年生)
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六十六話 恥ずかしい秘密

俺は石膏像を机の上に置くと、水上先輩に手を差し伸べて立たせた。


「漏れた」と言っていたけど、床に染みはなかったし、スカートの後ろも濡れてなかった。


「濡れてないわよ」と俺は水上先輩に報告した。


「ちょっと出ただけだから、・・・下着がちょっと湿っただけだよ」


情けない顔になる水上先輩。この人でもこんな顔をするんだと知って笑いそうになった。


「明日香には言うなよ」俺に口止めする水上先輩。


「それより、ごめんなさい。先輩から隠れちゃって」口外しないという約束はしない。


「そうだよ!何だい、その落書きした石膏像は!?」


「美術室の石膏像が笑うという謎を解こうと調べていたら、これを見つけたの」室田先輩が続けて言った。


今後は「美術室の石膏像が笑って、漫才好きの女子生徒が失禁した」という不思議になるんじゃないかと思ったが、さすがに口には出さなかった。


「さあ、先輩、家に帰って下着を履き替えましょう」俺が言うと、水上先輩は悔しそうな顔をした。


「家までついて行きましょうか?」


「いいよっ!」水上先輩は俺を突き放すと、廊下に走って出て行った。


「このくらい、走っていれば乾くさ!」


俺は、もし今後水上先輩が漫才の台本を作ろうと迫ってきたら、「おもらししちゃった」というギャグを入れようと思ってほくそ笑んだ。


「藤野さん、悪い顔をしているよ」と、一色が指摘した。


翌朝、さっそく黒田先輩が刺繍糸を持ってきた。つやのある真っ黒な糸だった。これは髪の色に合わせているのか、それとも苗字に合わせているのか?


黒糸を受け取りながら俺は昨日のことを謝罪した。


「黒田先輩、昨日は先に帰ってすみません。私、水上先輩が苦手なんです」


「事情は聞いてるから、謝らなくていいわよ」


事情を聞いてる?誰から?


「先輩は水上先輩と親しいんですか?」


「杏子と明日香は私の従妹いとこなの。私の母が杏子たちの母の姉なの」


「そうなんですか!?」美人はみんな水上一族なのかーっ!?


「だから藤野さんが杏子から迷惑をこうむっていることも知ってるの。従妹がごめんね」


「いいえ」今回、俺は水上先輩の恥ずかしい秘密をつかみましたから・・・。


「藤野さん、また悪い顔をしているよ」と、一色が指摘した。


「それより、このブレスレットのことは、ほかの人にあまり教えないでくださいね」


「わかったわ。依頼が多すぎると、藤野さんが大変だからね。・・・それから、私のは、明日香と同じ足首用に作ってもらえないかしら」


「わかりました」


「ミチンガが目立って、学校で禁止されたら元も子もないから」


生徒会長だから、特に服装には気を遣うだろうな。


「それから、私のことは先輩でなく、祥子って呼んでもらえないかしら?」


「いいんですか、そんなに気安く呼んで?」


「ええ、お願い」


「じゃあ、これからは祥子さんと呼びます」


「よろしくね、美知子さん」


そのとき、同級生が何人か寄って来た。


「あの、委員長」


「は、はい?」委員長と呼ばれるのにはどうも慣れない。


「私たちにもミチンガを作ってもらえないかしら?」


「い、いいけど、少し時間がかかるわよ」


「それはそうでしょうね。願いを叶える力があるんですもの」


「言っとくけど、願いを叶えようと自分で努力しないと、効き目はありませんから」


願いが叶わなければ、努力が足りないせいと言い訳できる。逆に、努力すれば、俺のブレスレットがなくても、願いが叶う可能性が高くなる。


「これからは足首につけるミチンガがはやりそうだよ」と黒田先輩が口をはさんだ。


「ほんとうですか?」それを聞いて同級生たちがこそこそ相談し出した。


生徒会長としては、手首にブレスレットをつけているのを教師に見つけさせたくないという考えもあるだろう。


しかし、「私は手首用で」「私も」「私も」と同級生たちが口々に言った。ただのアクセサリーとして考えるなら、目立ちにくいアンクレットよりもブレスレットの方がより好ましいようだ。


「わかったわ」アンクレットはブレスレットよりも長めに作る必要があるから、できれば遠慮したい。


「足首用は明日香ちゃんと祥子さん専用ということで」


黒田先輩にそう言うと、にっこり微笑んで自分の教室に帰って行った。


その日は恵子と一緒に帰宅した。


「久しぶりだね、みーちゃんと一緒に帰るの」


確かに、一緒に帰宅するのは三学期の終業式以来だが。


「でも、毎日一緒に登校してるじゃない」


「登校と下校は違うよ」・・・そうかな?


「ところで最近、私が作るブレスレットがまた急に話題になってきたみたいなんだけど、なぜかしら?」


「それはクラス替えのせいじゃない?」


「どういうこと?」


「前は、同じクラスの一部の人しか知らなかったけど、新学期にその人たちが別々のクラスになると、それぞれのクラスでミチンガに気づかれて『それは何?』って話になるのよ」


「なるほどー」それがプチブームの原因だったのか。


家に帰ると、武が寄って来た。


「姉ちゃん、委員長の仕事ってどんなことするの?」


「小学校の委員長と同じようなことだけどね、授業の前と後に『起立、礼』って号令をかけることでしょ、先生の授業の準備をお手伝いすることでしょ、体育祭、つまり運動会で、誰がどの競技に出るか決めるときの司会をすることでしょ、松葉祭っていう文化祭、つまり学芸会で、クラスの演し物を決めるときの司会をすることでしょ、それに生徒会のお手伝いをすること、・・・そんなところかな」


「姉ちゃんはクラスで偉い人?」


「ま、まあね。クラスのみんなのお世話係ってことだけどね」尊敬しろよ、武。


「ふ~ん、わかった」


「なんで、そんなことを聞くの」不安を覚えて尋ねる。


「別に。・・・遊びに行ってきまーす」そう言って武は家を出て行った。


「何なのかしら、急に?」俺が首をひねっていると、母親が出てきた。


「宿題で家族について作文を書くそうよ。最初は私のことを書くって言ってたんだけど、お姉ちゃんが委員長になったから、そのことを書いたらって言ったの」


俺の顔から血の気が引いた。


武のことだ。母親のことを書くにしても「いつもありがとう、お母さん」というような、母親が涙ぐむような作文は絶対に書かない。「鼻歌を歌っていた」とか「いびきをかいていた」とか「屁をこいた」とか、人に読まれて恥ずかしいことを書くに決まっている。だから、母親は俺のことを書くように仕向けたんだ・・・。


「お母さん、ひどいわよ。武がまともな作文を書くわけないじゃない」


「そうかしら?」母親は素知らぬ顔をして答えた。


夕飯の準備で、母親の許可を得て、卵焼きを焼いた。帰って来た武が夕飯のおかずを見ると、卵焼きを見つけて喜んでいた。


「武、お姉ちゃんの卵焼きをあげようか?」


「やったー!」喜びの声を上げる武。


「そこは『やったー』じゃなくて、ほかに言い方があるでしょ?」


「え?じゃあ、ラッキー?」


「ラッキーじゃなくて、『お姉ちゃん、いつも優しくてありがとう』でしょ」


「え~」不満そうな声を上げる武。


母親も「お姉ちゃんに感謝しなさい」と言ってくれた。


「じゃあ、サンキュー」


若干不満だが、まあいいか。作文にちゃんと書いておけよ。


その日の夜、銭湯から帰ってくると、武はテレビを見ずに「宿題する」と言って部屋にこもった。


俺はわざとそばに寄らず、しばらくして「もう寝る」と言ってきたので布団を敷いてやった。


そして武が寝静まったころ、俺は勉強机の電気スタンドをつけて、武のランドセルの中を調べた。


くしゃくしゃの原稿用紙が出てきた。何度も消しゴムをかけたらしく、原稿用紙の表面は灰色に汚れ、そのときむやみに力を入れたので、原稿用紙がくしゃくしゃになったようだ。


電気スタンドの下にそっと原稿用紙を広げて読み始める。


「家族    六年一組 藤野 武


 ぼくは家族の中でねえちゃんのことを書きます。


 ねえちゃんは、五さい年上で、いまは高校生です。まつば女子高にかよっています。


 ねえちゃんは、いつもかあちゃんの手つだいをしてごはんを作ったり、ふとんを出したりしまったりしてくれます。とてもやさしいねえちゃんです」


俺はうんうんとうなずいた。六年生なのに漢字が少なすぎる気がするが、書き出しは悪くない。続きを読む。


「ねえちゃんは、ことし高校のクラスの委員長になりました。号れいをかけたり、運動会や学げい会の準備をしたり、たいへんな仕事をしているといってました。家族のじまんです。」


いいこと書くじゃないか。俺はそう思って目じりの涙を拭いた。


「このまえ、朝早くにピーピーという音がして目をさましました。なんの音かと思ってよこを見ると、ねえちゃんのはなから音がしていました」


え?


「うるさくて寝むれないので、指でねえちゃんのはなをつまみました」


漢字を間違えているがどうでもいい。それより、そんなことをいつしたんだ?


「音はしなくなりましたが、ねえちゃんの顔がだんだん赤くなり、とうとう口からぶはっと息をはきました」


はあっ?


「同時に、ふとんの中からぶっとへをこく音が聞こえました。必死で笑いをこらえました」


くそっ、武め、書くことがなくなってまた嘘を書いたな。


布団を敷いていて椅子が出せないため、俺は鉛筆を持つと、前かがみになって原稿用紙に向かった。そのとき、おなかに力が入って、後の方でぷすっと空気が漏れる音がしたが、気のせいだろう。


俺は武の字をまねて原稿用紙に「ぜんぶうそです」と追記しておいた。


原稿を折りたたんで武のランドセルに戻しておく。これで安心して眠れる。


「嘘を書いてはいけません」と先生に注意され、武が怒って俺につかみかかってくるが、それは後日の話である。


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