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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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四十四話 十二月は忙しい(四)

十二月二十六日だ。冬休みだ。しかし、年末にかけては大掃除やおせち料理の準備をしなければならない。けっこう忙しい。


そしてお正月になれば、数日はだらだらと過ごすだろう。


それを考えると、早めに宿題の編み物にとりかからなければならない。麗子たちのクリスマスプレゼントの編み物の出来を見て、もう少し頑張らなければと焦ってきた。


何を作ろう?


まず思いつくのがマフラーだ。細長い布を毛糸で編めばいい。一見簡単そうに思えるが、その分作る生徒も多いだろう。そして編み物が得意な生徒は、途中で編み方を変えたり、模様を織り込んだりして、すごいのを作ってくるに違いない。


そうなると、毛糸の手ぬぐいのようなものしか作れない俺は、見劣りがしてかえって不利になる。


他人と比較されないオンリーワンな作品が望ましい。


恵子には毛糸のパンツを作ると冗談で言ったが、あれはあれでけっこう難しそうだ。みんなに笑われて、妙な注目を集めるのも避けたい。


ちなみに俺、つまり美知子は冷え性だ。特におしりと足が冷えると、痛くなってくるほどだ。毛糸のパンツを作ると言ったのも、半分は切実な理由があった。


せめて足に防寒具をつけたい。学校指定の黒タイツだけじゃ寒すぎる。


そこで俺は思いついた。ひざ下から足首までを覆う筒状の編み物があったはずだ。名前を何と言ったかな?


そして筒状の編み物なら、リリアン編みでも作ることが可能だ。リリアン編みなど論外と言ったが、背に腹は代えられない。もちろんおもちゃのリリアン編み機だと小さすぎて、編み紐を編むのが精いっぱいだが、あれの太いのを作れば、足に履けるような筒状の編み物ができるはずだ。


納屋の片隅に直径十五センチくらいの竹筒があるのに気づいていたので、それを母親にもらう。節のない、つまり底のないほんとうにただの竹の筒だ。


この竹筒の皮の部分が厚さ一センチくらいあったので、定規を使って十六等分する位置に鉛筆で印をつけた。そこにきりで浅い穴を開け、細い釘を半分くらいが埋まるまで金づちで打っていった。


これで大型リリアン編み機の完成である。


使う毛糸は何色にしようと思案し、靴下っぽく見せるために白い太めの毛糸を使うことにした。


買ってきた白い毛糸を竹筒の中に垂らし、一本目の釘に毛糸を二回巻いて、最初に巻いた毛糸をかぎ針を使って釘の内側に送った。この操作を残り十五本の釘で繰り返して一周すると、二周目からは毛糸を釘に一巻きし、先に巻いてあった毛糸を釘の内側に返した。


以上の操作を続けていくと、竹筒の中にできた白い毛糸の筒が少しずつ伸びていった。


半日かけて長さ四十センチくらいになったので、ここで編むのをやめ、毛糸を切って編み終わりの処理をした。試しに片足に履いてみる。・・・想像してたのより毛糸の伸縮性が乏しく、若干ずり落ちてたるんだが、ここまで作ったらもう引き返せない。


ゴムバンドでも通した方がいいかな?


そのとき母親から買い物について来てと言われたので、もう一本は明日編むことにした。


翌日になった。今日は俺と武の部屋の掃除をする予定だ。その前に、部屋を片付ける。


武に机の上を片付けろと言ったら、「えー」と不満そうな声を上げたが、しぶしぶ片付け始めたので、俺は押し入れの中の整理をした。


ふと、武の姿が見えないことに気づいた。部屋の外へ出ると、武がバットを持って玄関から出ようとしているのを見つけた。


「こらっ、武っ!どこへ行くの!?」


俺が怒鳴ると、武はあわてて家の外へ飛び出していった。


俺は玄関でつっかけを足にひっかけると、外へ出て武の後を追いかけた。


「待ちなさい、武!」


「今日は野球の約束があるんだー」そう叫びながら走り続ける武。


近所の人が何人も俺たちを見ていたので、俺は恥ずかしくなって追うのをやめた。これじゃあまるでサザエさんだ。


家に帰ると、一学期の家庭科で作った三角巾を頭にかぶり、ハンカチでマスク代わりに鼻と口を覆うと、部屋にはたきをかけ始めた。


次いで湿ったお茶の出し殻を少々畳の上にまき、ほうきでごみやほこりと一緒に掃き出す。机の上を雑巾がけしたら、俺たちの部屋はこのくらいでいいだろう。


昼食後には、もう片方の足の防寒具のリリアン編みを始めた。


途中、母親が部屋に入ってきて、


「何を編んでるの?」


と聞いたので、昨日編んだ片足分を履いて見せた。


「まあ、ゲートルなの?」


そうか、こういうのはゲートルと呼ぶのか。俺の頭の中になぜか陸軍兵のイメージが浮かんだが、気にせず、今編んでいるのを毛糸のゲートルと呼ぶことにした。


翌日はお茶の間と台所の大掃除だ。特に台所は隅々の掃除が大変だ。流しやガスレンジ周りを金だわしや雑巾で念入りにこする。床も洗剤のついた雑巾で拭く。細かいものが多いので時間がかかって大変だ。男だった頃はもちろんこんなに掃除をしたことはなかった。


夕方から毛糸のゲートル編みを再開し、何とかその日のうちに終えることができた。


翌二十九日からおせち料理作りの手伝いだ。


黒豆、田作り、たたきゴボウ、きんとん、昆布巻き、なます、酢レンコン、シイタケの煮しめなどは家で作るという。品数が多いので準備が大変だ。


黒豆は水につけて戻してから、砂糖を加えてことことと炊く。田作りは、ごまめをフライパンで炒った後、しょうゆや砂糖を煮詰めて作った煮汁を絡める。・・・と、それぞれがそれなりに手間と時間がかかるのだ。


買ってきたかまぼこや伊達巻は、切って並べるだけだが、それでも紅白のかまぼこは切って互い違いに並べたり、ひと手間加える必要がある。


おせち料理を作る理由の一つに、お正月の間、女性を家事から解放するというのがあるそうだが、普段の料理より準備に手間がかかりすぎてないか?正月にはどうせお雑煮を作ったりしなきゃならないんだし。


それでも、俺の時代と違って「おせちもいいけどカレーもね」などとは言わず、三が日はおせちとおもちで乗り切るので、しっかりと作らなくてはならない。


料亭のおせちをお重ごと購入、なんてもってのほかだった。


さらに、おせちの調理の合間に、三度の食事も用意しなければいけないから面倒だ。


今日から一月三日まで父親は仕事が休みなので、お茶の間でこたつにあたってテレビを見ていた。武も一緒にみかんを食べていた。男がうらやましい。


三十日もおせち料理づくりが続く。


この日、父親と武はしめ縄などの正月飾りを買いに出かけた。そっちの方がおもしろそうだったのに残念だ。


そんなとき、藤野家に来訪者があった。


「こんにちはー、藤野美知子さんいますか?」


台所に母親といるときに、聞いたことのある声が聞こえた。


「あなたを呼んでるわよ。お友だち?ちょっと出てきなさい」と母親が言った。


俺は誰の声かわかっていたので、しぶしぶ玄関に行った。


そこに立っていたのは、予想通り水上先輩だった。


「やあ、美知子くん。年末の忙しいときにお邪魔して悪いね」


まったくですよ。


「いえ。・・・何かご用でしょうか?それになぜ家の場所がわかりましたでしょうか?」


「家の場所は、君のクラスメイトから、クラスの連絡網に書いてあった住所と電話番号を教えてもらったのさ」


個人情報だだ漏れの時代ですか。


「そして用事は、これを渡すことさ」水上先輩は一枚の紙を差し出した。「招待状だよ」


「招待状?」俺はその紙を受け取った。


招待状と言っても印刷されたものでなく、手書きで「一月八日午前十時 水上杏子新年会」という文字に、どこかの住所と電話番号が書かれてあった。


「前にも言ったろ?僕の家で一月八日の日曜日に新年会を開くって」


そういえばそんなことを言ってたな。漫才原稿を渡されたときに。


「でも、漫才のお相手はお断りしたはずですが」


「それでもいいから、来てくれないか。君は気になる子だからね、仲良くしておきたくて」


「・・・ほかにはどなたが出席されるのですか?」


「いつも一緒にいる友人たち十人くらいかな。あ、妹も参加するよ」


針のむしろじゃないだろうか?


「どうだい、来てくれないか?」


「おこ・・・」


「今日決められないというのなら、毎日お誘いに来るから」


お断りしますと言おうと思ったのに、食い気味で脅迫されてしまった。ストーカー気質があるな、こいつ。


「わ、わかりました。出ますから、二度と家に来ないでください」


「そうかい、うれしいよ。ありがとう」俺の手を握る水上先輩。


「・・・それから手みやげは一切いらないからね。これは社交辞令でなく、ほんとのことだから」


そう言って水上先輩はさわやかに帰って行った。俺の方は、どんよりした空気に包まれていたが。


「どなた、お友だち?」台所に戻ると母親が聞いてきた。


「二年生の先輩。一月八日に先輩の家にお呼ばれしたの」


「そうなの?どんな方?」


「まだよくわからない人だけど、最近お話しするようになって・・・」


漫才の相方として勧誘されたことは口が裂けても言えない。


「でも、先輩のクラスメイトも大勢来られるようだから、心配することはないと思うわ」


口ではそう言ったが、心配することだらけだ。


そして大みそかになった。


おせち料理作りはまだ続いているが、昼過ぎには終わりそうだ。また、大量のお餅が配達されてきた。こんなに食えるのかと思ったが、正月は朝、昼とお雑煮か焼いた餅を食べるそうで、だいたい消費されるそうだ。


父親は昨日買ってきたしめ縄を玄関に飾り、かがみもちなどの準備をした。こういうのを見ると、正月が来るなって実感する。俺が男で一人暮らしをしていた頃は、こういう風習には無頓着だったが、季節感が味わえるのでいいもんだと思った。


昼過ぎに恵子が家にやってきた。


「みーちゃん、大掃除とか、お正月の準備とか終わった?」


「まあ、だいたいね」


「明日の朝、神社へ初もうでに行かない?」


「いいわよ」近所に小さい神社がある。そこのことだ。


ふと俺は、田舎の神社の娘の真紀子のことを思い出した。元気にしてるかな。正月は忙しくて大変だろうな。


恵子ともう少しおしゃべりしていたかったが、家の手伝いがまだあるということで、恵子はすぐに帰っていった。


この頃には、おせち料理はほとんど準備できていて、お重にきれいに盛りつけられていた。その次は今夜の料理だ。大みそかなので、いつもより少しはぜいたくになる。焼いた塩鮭、コロッケ、煮物、けんちん汁などを作った。


準備に時間がかかったので、銭湯に行ってからの、いつもより遅めの午後八時から夕飯が始まった。


武は腹が減って騒いでいたので、食事が始まるとあわててがつがつと食い始めた。父親が、今年は美知子が勉強を頑張ったなと、改めてほめてくれたので嬉しかった。母親も美知子がよく手伝ってくれるようになったとほめたので、俺は照れまくった。


午後九時を過ぎたので、紅白歌合戦を見るためにテレビをつける。この年は九時五分から始まるのだ。


あまりよく知らない歌をなじみのない歌手が歌っていくが、この時代の日本人のほとんどが今テレビの同じ番組を見ていると思うと不思議な気分がした。


武は年が変わるまで起きていると息巻いていたが、毎日九時頃に寝ているので、十時を過ぎるとうとうとしてきた。そこで俺が布団を敷いて、限界に近い武を部屋に連れていった。


食卓の上を片付けて、もうしばらくテレビを見ていたが、俺もだんだん眠くなってきたので、十一時頃に両親にお休みなさいと言って床に着いた。


今年は美知子に生まれ変わっていろいろな経験をした。来年はいい年になるかな、と考えつつ、深い眠りに落ちていった。


書誌情報

 長谷川町子/サザエさん(1巻:1947年1月1日初版〜68巻:1980年9月初版)


TVアニメ情報

 フジテレビ系列/サザエさん(1969年10月5日〜放映中)


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