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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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四十二話 終業式の日

待ちに待った終業式の日が来た。終業式が終わると、教室に戻って着席する。


そこへ中村先生がふろしき包みを持って現れた。


「みなさん、明日から冬休みですが、お休み中も松葉女子高生の名を汚さない行動を取ってください」


「はーい」と生徒たちが生返事をする。


「それでは、期末試験の成績表と通信簿を渡します。まず、赤池さん!」


「はい!」


先生が出席番号順に生徒に配り出した。受け取った生徒はちらっと中を見ると、それぞれ喜怒哀楽を表現する。


「藤野さん!」


「はい!」俺は立ち上がると、おずおずと先生の前に歩み出た。


先生がにっこり笑って手渡した。俺はしっかり握ると、すぐには見ずに、急いで自分の席に戻った。


まず、期末試験の成績表を見る。中間試験の席次は、クラスで十一位、学年で三十八位だった。今度は・・・と見ると、クラスで十一位は変わらず、学年では四十位に落ちていた。


・・・がっかりした。今回は前回よりも頑張ったつもりだった。しかし前回より良くはならなかった。


ひょっとして、このあたりが自分の上限なのかと思うと、悲しくなってきた。


次に通信簿を開く。


一学期はオール三だった。それに対し、今度はほとんどが四だった。うれしくて涙が出そうだ。


英語と美術はなんと五だった。生まれて初めて見る数字だ。


担任の自由記述欄を読むと、「面倒見がよく、友人たちから慕われている。勉学に励み、その成果が如実に現れた。絵画コンクールで特賞を取った」と、嬉しいことばかり書いてあった。


思わず通信簿を抱きしめる。涙がにじんで来た。先生のお世話をして良かった・・・。


恵子も淑子も四が増えたと喜んでいた。期末試験の順位も少し上がったらしい。伸びしろがあるのがうらやましい。


先生にあいさつして、二学期が終わった。


帰る準備をしていると委員長が鼻息荒く寄って来た。


「どうだった、美知子さん」


「通信簿の成績は上がったけど、期末試験の順位は少し下がっちゃった」


お世話になった委員長に成績表を見せる。委員長はあからさまにがっかりした顔を見せた。面目ない。


「でも、今日はうちに来てね。夕方五時くらいから始めるから」


「わかった。原稿用紙も持って行くから」


俺がそう言うと、委員長は準備があるからと、先にとぼとぼと下校していった。


「トシちゃんは実家に帰るの?」


「うん、二週間後までお別れだね」


「気をつけて帰ってね」雪があまり積もっていないことを願う。


「河野さんは部活があるの?」


「今日はあるけど、冬休み中には一週間の休みがある。この機会にのんびりするさ」


「そう、じゃあまたね」


そう言って俺は恵子と下校した。洗うために上履きも持って帰る。


「宿題はどうする?」と俺は恵子に聞いた。


冬休みの家庭科の宿題は、何か手編みの作品を提出するというものだった。もちろん、リリアン編みなど論外である。


「無難にマフラーか、指の分かれていない手袋でいいんじゃない?」と恵子。


「私は毛糸のパンツでも編もうかな。腰が冷えるから」


そう言うと、恵子がぷぷっと笑った。


「また、先生が着ているところを見せなさいと言ったらどうするの?」


「ほんとのパンツじゃないから、恥ずかしくないもんっ」


「きゃはは、毛糸のパンツだって恥ずかしいわよ」


俺たちは笑い合いながら家に帰った。


自宅で母親に通信簿を見せると、成績が上がったことは喜んでくれたが、家庭科が三のままだったことを残念がっていた。面目ない。


そのうち四時になったので、準備をして家を出た。委員長の家に着くと玄関ドアを開けて声をかける。すぐに委員長が迎えに出てきた。


「早かったわね」と委員長。


「何か手伝えることある?」


「気を遣わなくていいから」そう言って委員長は台所に顔を出した。


「お母さん、藤野さんが来られたわ」


「そう?じゃあ、あとの準備はしておくから、お部屋でおしゃべりしてなさい」と、委員長の母親が暖かい声をかけてくれた。


委員長の部屋で椅子に座ると、俺はさっそく委員長の原稿を手提げカバンから取り出した。


「どうだった?」感想を聞きたがる委員長。


「いきなりラブシーンだから、びっくりした」


「最初に二人の現在の関係を見せることで読者に印象づけて、それから出会った時点からの二人の軌跡を回想していこうという構想なの」


「じゃあ、前に読ませてもらった春の情景は、出会う前の入学時の描写じゃないのね」


「その一年後、または二年後の描写よ」


「考えているわね。・・・ただ、二人のラブシーンが濃厚すぎない?少女向けの小説にするなら、もう少し淡い関係がいいような気がするけど」


「・・・そうね。美知子さんとのキスは、さりげなく、あっという間だったけど、とてもときめいたわ」


そう言って委員長は頬を染めた。俺も顔が熱くなる。


「ただ、あれからキスのことを思い出すたびに、どんどん妄想が膨らんじゃって、・・・いざ文字に起こしたら、ああいう風になっちゃったの」


委員長はため息をついた。


「だから、もう一度美知子さんとのキスの感触を確かめたかったのに・・・」


「成績が上がらなくてごめんなさい」


「美知子さんは頑張っていたわよ。私の教え方が悪かっただけで・・・」


「そんなことはない。喜子さんのおかげで順位もキープできたから、感謝してるわ。・・・だから」


俺は委員長の顔に自分の顔を近づけた。


「え?」


委員長の頬に軽くキスをする。顔の赤みが増す委員長。


「感謝のキスだよ」


「私もっ!」委員長も俺の頬にキスをした。「仲良くしてくれた、感謝のキス」


「うふふ」「うふふふふ・・・」


俺たちは見つめ合って微笑んだ。このくらいのキスの方が、女子高生らしいかな?


そのとき、委員長の母親が呼んだので、俺たちはダイニング・キッチンに移った。すでにケーキやお料理の準備ができていた。


ケーキは、この時代では珍しくブッシュ・ド・ノエルだった。


「このケーキ、かわいいわね」と俺が言うと、


「つい最近、商店街に本格的なケーキ屋さんができたの。珍しいケーキがあるわよ」


「そうなんだ・・・」


さすがにブッシュ・ド・ノエルに十六本のろうそくは立てなかった。委員長の母親に注いでもらったバヤリース・オレンジで乾杯して、委員長の誕生日を祝した。


「誕生日おめでとう、喜子さん」


「ありがとう」


「これで喜子も結婚できる年になったわね」と母親がしみじみと言う。


みんな、同じことを言うんだな。


「やだ、お母さん。私はまだ結婚しないわよ。できれば勉強を続けたいわ」


「でもねえ、女の子に学歴があってもねえ、いい就職先が見つかるとは限らないし・・・」


男女格差ってやつだな。俺の時代でも問題だった。この時代ならもっと深刻だろう。


でも、結婚は相手によるからな。大酒飲み、博打打ち、女好き、甲斐性なし、DV野郎だったら大変だ。顔は二の次だよ。


「藤野さんはどう思うの?」


おっと、矛先がこっちに向いてきた。


「私も短大くらいは出たいと思ってるんです」委員長の母親に答える。


「今まで成績が少し問題でしたが、喜子さんに勉強を見てもらって、成績が少し上がりました。・・・喜子さんほど良くはありませんが」


委員長は学年一位を取ったかな、と思ったら、一色千代子の顔を思い出した。


「そう言えば、この間、四組の一色さんと会ったわ。喜子さんと同じくらい成績がいい人」


「そうなの?」と委員長が聞き返した。「私は名前以外、あまり知らない人だけど」


「何でも探偵小説が好きで、自分は探偵だって妙なことを言ってましたよ」


「まあ、おほほ・・・。勉強がよくできても、変わり者だと、親御さんも大変でしょうね」


委員長の母親が笑う。心なしか、委員長の口元がひくついていた。


「あ、忘れてた。喜子さん、改めて誕生日おめでとう」


俺は手元に置いていたブレスレットが入っている紙袋を委員長に手渡した。


「まあ、ありがとう、美知子さん!ミチンガね」


「まあ、かわいいブレスレット」と母親も喜んだ。


「粗末なものですみません」


「美知子さんが作るミチンガは、願いが本当に叶うって、学校じゃあ大人気なのよ」


「まあ、そうなの?」信じてなさそうな母親の口ぶり。そりゃそうだ。


「それじゃあ、どうぞ召し上がれ」話に乗らず、料理を勧めてくれた。


山際家の誕生日パーティーの料理は和風だった。だし巻き、紅白のかまぼこ、ブリの照り焼き、茶碗蒸し、えびしんじょのお椀などで、藤野家では、お正月でもなかなか食べられない料理が多かった。


目を丸くして、いくつかの料理を口に入れる。


「すごくおいしいわ。私もこんなお料理が作れたら・・・」


「ごめんなさいね、和食ばかりで。普通、パーティーと言ったら洋食風のお料理が定番なのに」委員長が謝る。


「いえ、高級感のあるお料理ばかりで、素敵だわ」


俺の言葉に委員長も委員長の母親も目を細めた。


ひととおり食べると、次はケーキだ。別腹のスペースは、たっぷり空いている。


委員長の母親に切り分けてもらう。コーヒークリームのロールケーキの表面に、チョコレートクリームで木の皮が表現されている。


一口食べるとなめらかで甘くて芳醇な香りが口の中いっぱいに広がった。


「とってもおいしい!」この時代にこんなケーキが食べられるなんて!


「あのお店で買って正解だったわね」


高かったんじゃないかと思ったが、値段は聞かなかった。機会があれば店をのぞいてみよう。


すっかり堪能して、委員長の家を出る頃には既に暗くなっていた。早く帰らなくては。


「じゃあ、よいお年を」


委員長はそう言うと、素早く近づいて俺の唇に自分の唇を重ねた。


一瞬だった。


不意打ちに動揺した俺は、ふらつきながら家路をたどった。


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