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五十年前のJKに転生?しちゃった・・・  作者: 変形P
昭和四十一年度(高校一年生)
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三十三話 松葉祭の準備

ミチンガにご利益ありとの噂は少しずつ広がって行った。


翌日にはバレーボール部の一年生がほしいと言ってきたので、同じように刺繍糸を持ってくるよう頼んだ。


同じ部の先輩も何人かほしいと言ってきた。その人たちの友人にも話が伝わっているようだった。


俺はリリアン編みで簡単に自作できるよと答えたが、自分で作ってもご利益がないと反論される始末だった。


松葉祭で教室に展示する刺繍もしなければならず、ブレスレット作製にだけ時間を費やすわけにはいかない。


やむをえず、予約一か月待ちということにしたが、それでもほしいという人はいなくならなかった。


こりゃ本格的に宗教法人でも立ち上げるかな、と気の迷いが生じた頃、自宅にも変化が訪れた。


「姉ちゃん」夜、武が急に話しかけてきた。


「なによ」


「姉ちゃん、ミチンガンという変なものを作ってるんだって?」


「ミチンガンじゃないわ。刺繍糸で編んだただの腕輪よ」


「うちのクラスの女子が、姉ちゃんに作ってくれと言ってきてるんだけど・・・」


小学生にまで噂が広がっているのか?誰が話したんだよ?


「あんなの、リリアン編みで簡単に作れるって言いなさい」


予約分だけで手一杯だよ。これ以上商売を広げる気はない。


武自身はそれで引き下がったが、翌日また武が言いにきた。


「姉ちゃん。そのミチンガンってやつ、姉ちゃんが作らないと効果がないって女子たちが言ってくる。しつこいから何とかして」


武も板ばさみで迷惑そうだ。


「わかったわ。じゃあ、今度の土曜日の午後に、希望者にこれを持って家に来るよう伝えて。・・・あ、十人も来られても家に入れないから、せいぜい四、五人にしてもらってね」


俺は紙切れに、「好きな色の刺繍糸(短すぎるのはだめ)、リリアン編みの道具を持っている人はその道具も持ってくること」と書いて武に渡した。


これは忙しくなるな。土曜日までに展示用の刺繍と、ブレスレットをできるだけ作っておかないと・・・。




刺繍は、白いハンカチにすることが決められているので、安いハンカチを用意する。


刺繍の柄は何にしよう?展示用だから、あまりちまちましたものじゃだめだな。一点豪華主義というか、真ん中にどんと大きめの図柄を入れてごまかそう。


・・・やっぱり花が無難だな。派手な花を真ん中に置こう。


派手な花というと、まず思いつくのが薔薇だが、花びらが多くて面倒そうだ。それに薔薇というとなぜかBLを連想する。


薔薇でなければ百合だ!委員長の顔が脳裏をよぎったが、インスピレーションを大事にしたい。


正面から見た百合の花で、細長い花びらが四方に広がっている柄にすれば、遠目で見栄えがするだろう。


ここまで考えてあることに気づいた。百合と言えば白百合だが、白いハンカチに白い百合を刺繍してもよく見えない。


なら、赤味がかったオレンジ色の鬼百合にしよう、と俺は思いついた。


茶色い糸で斑点を入れ、真ん中におしべとめしべを縫えばそれらしく見えるだろう。


俺は母親に頼んで必要な色の刺繍糸を買うことにした。


・・・そして苦労の末に刺繍は完成した。百合の花びらは六枚だが、手間を減らすために五枚にしたのが良かった。


なかなかの出来だと自己満足し、松葉祭前日まで仕舞っておくことにした。




クラスの演し物の準備も平行して行われた。


俺が提案した賛美歌三曲の楽譜を取り寄せ、体育館の備品のピアノを麗子が弾くことになった。


歌うパートを二〜三に分けると、それなりにいい感じに仕上がってきた。特に「アメイジング・グレイス」は、まず第一パートの生徒がアカペラで歌い始め、第二パート、第三パートの生徒が徐々に合唱に加わり、一節を歌い上げた後から伴奏が入るようにすると、感情が高まって涙が出そうになった。


「で、指揮者は誰がする?」と委員長がみんなに尋ねた。


委員長か音楽の素養がある生徒に頼めば、と俺はぼんやり考えていたが、


「合唱を提案した美知子にやってもらおうよ」と、河野さんが言い出した。


「え、私?・・・無理です。指揮なんてしたことない!」


「大丈夫だよ、みーちゃん。指揮なんて誰も見ないよ」無責任な発言をする恵子。


俺の必死の抵抗に拘らず、あっさりと指揮者の役をまかされてしまった・・・。


「それから当日は、聖歌隊の雰囲気を出すために、夏服の白いセーラー服を着ましょう」


「寒くない?」


「歌っている間だけ我慢すればいいわ。登校時はカーディガンを羽織っておけば大丈夫よ」


夏服か・・・。母親に出しておいてもらわないと。


それから放課後に何回か練習が行われた。歌う人たちは、歌詞を書いた画用紙を半折りにしたものを楽譜に見立てて持つので、歌詞を記憶する必要はない。歌い出しのタイミングも書いてある。


英語の歌詞の発音は中村先生に見てもらう予定だ。


俺も歌う方だったら、みんなの声にまぎれて、音痴なことをごまかせたのに・・・。


指揮棒の基本的な振り方を教えてもらった後で、俺は麗子に言った。


「麗子さん」


「なんですの、美知子さん?」


「麗子さんの伴奏に合わせて指揮棒を振るから、よろしくねっ」


これでは指揮者の存在意義がないが、致し方ない。アメイジング・グレイスのアカペラ部分が心配だが、そこは練習するしかなかった。




土曜日の午後になると、武が手提げカバンを持った女子小学生五人を連れてきた。


俺と武の部屋に招き入れると、武は逃げるように出て行った。照れているのか?


彼女たちに畳の上に直に座るよう言う。


よく見るとほっそりしてかわいらしい子ばかりだ。いや、ロリコン的な意味じゃないぞ。


「藤野さんのお姉さん、今日はよろしくお願いします」


女子小学生五人が礼儀正しく俺にあいさつした。


「みんな、こんにちは。武の姉の美知子です」俺もあいさつを返す。


「今日はみなさん、願いが叶うブレスレットがほしいということで来られましたが、これがそのブレスレットです」


俺は自分が作った編み紐をひとつ、女子小学生の前に出した。


「こ、これがミチンガン・・・」


代わる代わる手に取って見つめる少女たち。俺はせき払いすると、


「見ての通り、それは何の変哲のない編み紐です。リリアン編みで誰にでも簡単に作れます」


俺の説明に腑に落ちない少女たち。


「でも、私たちが自分で作っても、願いは叶わないわ」


俺はもう一度せき払いをした。


「そう思うかもしれませんが、今日はみなさんに秘伝を教えます」


「ひでん?」


「秘伝とは、願いが叶うブレスレットを作る秘密のことです」


「秘密?」「それを知れば、私たちもミチンガンが作れるの?」ざわつく女子小学生たち。


「今日、みなさんはリリアン編みの道具と刺繍糸を持ってきましたか?」


「はい」と言って各自の手提げカバンからリリアン編みの道具と刺繍糸を取り出した。


「使い方はわかりますね?とりあえず自分で手首に巻ける長さの編み紐を編んでみましょう」


一心不乱にリリアン編みをする少女たち。みんなリリアン編みは慣れているようだった。


そのとき、美知子の母親が飲み物とお菓子を入れたお盆を持ってきたので、俺が受け取って机の上に置いた。飲み物はホットカルピスで、小鉢にはばらのキャラメルが盛られていた。


俺も武も、夏場でもカルピスはたまにしか飲ませてもらえない。今日は奮発したな。


しばらくすると五人とも紐を編み上げたので、みんなにカルピスを飲むよう勧めた。


おいしそうにカルピスを飲む少女たち。その間に、俺は引き出しから適当な布を取り出した。・・・適当な布かと思ったら、松葉祭で展示する予定の、鬼百合の刺繍をしたハンカチだった。


「あ、ヒトデの刺繍だ。かわいい」「ヒトデだ」「ヒトデだ」


口々に言う女子小学生の言葉に俺はめまいを起こしそうになった。・・・ヒトデじゃないよ、百合の花だよ。


俺は女子小学生たちとの間の畳の上に、ヒトデ、じゃない鬼百合のハンカチを広げた。


「何か適当な布を広げて、その上に編み紐を置くの」


俺の指示に従って、ヒトデ、じゃない鬼百合の刺繍の上に、少女たちが自分が編み上げた紐を置いた。


俺はハンカチの周りを取り囲むようにキャラメルを並べた。


「こうして、神様にお祈りするの。強くお祈りすると、それだけ願いが叶いやすくなるわ」


俺は両手を組んだ。女子小学生たちも俺のまねをする。


「こーのーうーでーわーをーすーるーもーのーのーねーがーいーをーかーなーえーたーまーえー」


抑揚のない声で即席の祝詞を唱える。少女たちも俺に合わせて唱え出した。


五回ほど祝詞を唱えると、手を離して、


「これで終わりよ」と言った。


「これでミチンガンは完成なんですか?」


「正確に言うと、これで半分ね。これを手首につける人が、自分の願いが叶いますようにと強く念じないと効果は出ないの」


こうでも言わないと、次から次へと作製依頼が来て対処しきれなくなる。


「それから、私の名前が美知子だからミチンガンって呼ぶ人がいるけど、作った人の名前に変えてもいいわよ。あなたの名前は?」


俺は一番近くにいた少女に声をかけた。


「み、美佐子です」


「じゃあ、ミサンガンね」こっちの方がオリジナルに近い名前だ。


ほかの女の子の名前も聞いたが、「さい子」という名前の子はいなかった。いれば「サイコガン」になったのに・・・。


まだ半信半疑な様子で自分の作った編み紐を取る少女たち。俺はハンカチの周りに並べてあったキャラメルを一個取り、包装をはがして口に入れた。


「お祈りに使ったお菓子は・・・キャラメルでなくてもいいけど・・・終わったら食べていいからね」


しばらくして女子小学生たちは帰って行った。帰り際、「これだけで本当に作れるかしら」とか、「まだ秘密があるんじゃない?」とか話していたが、俺は聞こえないふりをした。


後日、俺は武に美佐子たちの様子を聞いた。


「みんな、手首に何か巻いてた」


そうか、俺が作らなくてもよくなったな。


「それと、ヒトデの模様のハンカチを見せ合って、これがヒデン中のヒデンだって喜んでた。何だ、あれ?」


・・・ヒトデじゃないもん、鬼百合だもん(涙)。


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