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刹那の風景 第三章  作者: 緑青・薄浅黄
『 苺の花 : 尊重と愛情 』
54/130

『 黒の二つ名 』

【ウィルキス3の月23日:セツナ】


 孤児院の子供達が、幽霊が自分達の傍に居たという衝撃から立ち直り

今は黒達の背中にチラチラと視線を向けている。


黒達に向ける視線は、憧れそのものだ。

何時もよりも近い位置にいる英雄の姿を近くに見て

落ち着きなく会話している。


彼等が、黒達に視線を向ける理由もわかる気がする。

今のアギトさん達は、黒としての空気をその身に纏っているから

自然とその存在感に、視線が向いてしまうんだろう。


そろそろ解散になるかと思うのだけど

オウカさんは大先生達と会話中で

エレノアさんとバルタスさんは

ヤトさんと大会の事について話し合っている。


4年に1度の大会は、冒険者と冒険者希望の人間しか

観戦することができず、観客席は全ての魔道具が使えなくなっていて

映像としての記録を各国に持ちかえることができなくなっている。


ギルドでは、1年に1度大会を開催しており

4年に1度のこの大会以外は、冒険者以外も観戦できるようだ。

1対1の勝ち抜き戦。3位までは優勝賞金と武器と防具がもらえ

黒と戦う権利も与えられるらしいが、黒に勝ったとしても

ランクアップはしない。純粋に戦闘を楽しむための大会のようだ。


断然、そちらの方が楽しそうだなと思う。

できれば、大会に参加せずのんびりと観戦していたかった……。


2人の冒険者達につけている

鳥から入ってくる情報に、苛立ちを抑えながら

のんびりとは程遠い結果になることが決定している。


大会の場所は、海沿いにある巨大な闘技場らしく

その傍に、冒険者が宿泊する施設が沢山あるようだ。


大会参加者やそのチームそして観戦者は

闘技場の近くの宿泊施設を利用することになっている。


現在のハルには、冒険者が溢れかえっており

問題をおこす冒険者が多いのではないかと尋ねると

そうでもないと返って来る。ここで問題をおこすと

黒達が出てくる可能性が高く、最悪冒険者資格を剥奪されるので

街の人達に迷惑をかけるような行為をするのは

大会参加者とよほどの馬鹿しかないと話していた。


「一度大会参加者達が、ギルドの前で暴れたことがあってね

 それをアギトちゃんが1人で全員を半殺しにして沈めたから

 黒がいるところでは暴れるなって、未だに噂になってるのよ」


「なるほど」


サーラさんの説明に深く頷く。


「それでも、馬鹿をする奴はいるし

 暴れる奴もいるんだがな……。大会の目的が目的だから

 仕方がないといえば仕方がないが」


「観戦に来る冒険者は、向上心が高い冒険者も多いから

 そんな人達が、うまく仲裁に入ってくれることも多いけどね」


アギトさんとサーラさんがそう告げ

アルトに視線を向けてため息を落とした。


観戦者たちの目的は様々で、黒を見に来る人もいれば

冒険者のレベルを探りに来る人もいるし

各国の情報を求めてくる人もいる。

同盟を組むチームを探すチームもあれば

お祭り騒ぎが好きで来る人達もいる。


ギルドが在庫処分みたいな形で

安く魔道具や武器、防具を売り出すこともあり

魔道具と武器や防具を購入するために訪れる人達もいる。


大会のあと3日は、お祭りになるらしく

そのお祭り目的で、冒険者ではない人達も観光に来るらく

街の宿屋は予約でいっぱいらしい。


「大会のあとは、闘技場の中に屋台が組まれて

 所狭しと色々なものが並ぶのよ。闘技場だけではなく

 闘技場の周りにも屋台がひしめきあうの。

 闘技場と闘技場の周りは、大会の前後7日間だけ雪が積もらなくなってるし

 街の中の決まった場所に、大きな転移魔法陣も設置されるから

 簡単に行き来できるしね。とても楽しいわよ。

 きっと、アルトは帰ってこないんじゃないかしら?」


クスクスと楽しそうにサーラさんが笑い

アルトの姿を想像したのか、アギトさんも目元を緩め

エレノアさんとバルタスさんが、チラリとアルトに視線を向けていた。


「酒肴の屋台は出すことができなくなってしまったけど

 ギルドの屋台は、問題なく出すことができるようだし

 アルトの好きな唐揚げもちゃんと食べれるわ」


ギルドの唐揚げとサーラさんが言葉にした瞬間

酒肴の人達が殺気をまじえた視線をエリオさんに向けていたけど

エリオさんは必死に気がつかない振りをしていた。


「今、街の空気が重くなっているけど

 子供達もみな無事に家族の元へと帰れたし

 リオウちゃんも、そんな重たい空気を吹き飛ばすために

 頑張っているから、きっと大会のあとのお祭りは盛り上がると思うわ」


ミッシェルの両親が、そっと視線を伏せてから

僕を見て、もう一度頭を下げてくれた。


オウカさんと大先生の会話は

ロガンさんやミッシェルの両親にも聞こえているが

ヤトさんとエレノアさん達の会話は、ロガンさん達には関係ないので

聞こえないようになっている。アルト達にはどちらの会話も聞こえていないが

アルト達の会話はこちらへと届いていて、たまに笑いを提供してくれていた。


結界を張らなくても、自分達の会話に夢中で

こちらの話など、気にしない可能性の方が高いけど。



黒達を見て、セイルが感情を沈めるように息を吐き出し

アルトに話しかける。


「アルトは、ずっと黒と黒のチームと一緒にいるんだよな」


セイルの言葉に、アルトが頷く。


「大体、こんな感じで全員いる」


「緊張しないのか?」


「緊張?」


「そそ」


「普段はしない。

 何時もは、こんな感じじゃないし」


「そうなんだ」


普段はこんな感じじゃないと、アルトがいったところで

ミッシェルが、何かを思い出したのかそれを追い払おうと

首を横に振っていた。


「なな、セイル! あそこ見て見ろよ」


「なんだ?」


「アギトさんの、そばに立てかけてある剣!」


「おお! あれが有名な蒼星の凶剣か!」


アギトさんの武器を見つけて

ワイアットとセイルが目を輝かせた。


「蒼星の凶剣ってなに?」


アルトが不思議そうに、ワイアットとセイルの会話に口を挟み

ワイアット達が、武器の説明を熱心に始める。


「アギトさんが持ってる、両手剣の名前!」


「あの剣、そんな名前がついてたんだ」


「蒼星の凶剣は、月の光を浴びると蒼く光る魔法剣だって聞いた。

 剣が持ち主を選ぶって。アギトさん以外の人が剣を振るうと

 剣がすげぇ重くなるんだって。それでも、剣を手放さないと

 剣が暴れるって聞いた」


セイルの説明に、アギトさんに視線を向けると

苦笑しながら首を横に振る。サフィールさんがソファーに立てかけてある

剣を一瞥してから、詳しい説明をしてくれる。


その前にサーラさんが、アルト達に話が聞こえないように

結界を張っていたから、なにか隠さなければならない事でもあるのかと

サーラさんを見ると「子供の夢は壊さないほうがいいの」と真顔で告げた。


「あの剣は、月の光を浴びて光るのではなく

 持ち主の魔力を奪い取る剣なわけ。

 蒼色に光るのは、アギトの魔力の色なわけ」


「魔力によって、剣が強化されるんですか?」


「強化もだが、切れ味も増すわけ。

 剣の柄に、宝石が埋め込まれてあって

 その宝石に触れている時間で、魔力量を調節し

 違う宝石に触れると魔力が解放されるわけ」


「それを知らずに、剣の柄に触れ持ち上げようとすると

 際限なく魔力を奪い取られていくことになるな」


アギトさんがそういって楽しそうに笑う。

なるほど。剣が重くなるのではなく魔力を急激に奪われるから

体のほうが不調をきたすのか。


「元々この剣は、蒼星(そうせい)の大剣といって

 間違っても凶剣なんて禍々しい名前がつくような剣じゃなかったわけ」


サフィールさんがアギトさんを見てため息をつく。


「私が悪いわけではないだろう?

 私がこの剣を持つに相応しくないと、周りがうるさかったから

 なら、お前が持ってみろと言って渡したら

 持てずに、勝手に自分で足の指を落としただけだろ?」


「投げることはないわけ!」


「受け取れない奴が悪い」


「何人、医療院送りにしたと思っているわけ?」


「覚えているわけがないだろ?

 私が軽々と持っているから、自分達も持てると

 勘違いした奴らに、重いから気を付けろなんて注意を

 するわけがないだろう? そんな奴らは、潰れてしまえばいい」


「剣に押しつぶされていた奴らもいたわけ」


アギトさんとサフィールさんの会話に

サーラさんが、結界を張った理由が理解できた。

確かに。魔法剣に特別選ばれた剣士と思って

瞳を輝かせながら、話をしている子供達に聞かせたい話ではない。


サーラさんが僕を見て「聞かせないほうがいいでしょう?」と

微妙に笑いながら告げ、僕はそれに頷いた。


「だから、アギトさんの二つ名は

 【蒼星の凶剣士】っていうんだぜ」


「二つ名!!」


アルトが、二つ名という単語に目を輝かせ始めた。

凶剣士……。これは剣の名前だけじゃない気がするのは

僕の気のせいかな? 僕の考えを読んだかのように

サーラさんが僕を見て頷いた。どうやら、戦闘狂という意味も

含まれているようだ。


「かっこいいよな!」


「かっこいい!! 二つ名がついているのは

 アギトさんだけなの?」


アルトの問いに、クロージャが黒達の二つ名を

アルトに教えていく。アギトさん達は苦く笑いながら

アルト達の声を聞いていた。


「剣と盾のエレノアさんは

 【白麗の翼】と言われているな」


「白麗の翼?」


「そう。俺も詳しくは知らないけど

 エレノアさんが、剣を振るうと純白の翼が周りに舞うらしい」


「えー!? 俺は見た事ないよ!?」


「そうなのか?」


「うん。ない。

 きっと、必殺技なんだ!」


拳を握りしめながら、憧れを瞳に宿している

アルトからエレノアさんに視線を向けると

エレノアさんは、嘆息しながら首を横に振った。


「……戦いのさなかに、剣を振って羽が舞ったら

 邪魔でしかないだろう?」


エレノアさんの言葉に、周りにいる人達が同意するように

頷きながらも、肩を震わせ笑っている。


「どうして、白翼になったんですか?」


「エレノアの背に、翼があるかのような動きと

 私達が愛用していたマントが白色でね。

 マントのはためきを翼のように見えた人達が言いだしたんだと思うよ」


アラディスさんがそう説明してくれる。


「なるほど。

 エンブレムは、エレノアさんの二つ名から考案されたんですか?」


「その通り。エレノアにピッタリだろう?」


「そうですね。そう思います」


僕の言葉に、エレノアさんは珍しく項垂れ

アラディスさんのチームの人達は、どこか誇らしげに胸を張っていた。


「じゃぁ、邂逅と酒肴は?」


「酒肴のバルタスさんは【酒と肴の探求者】だよ。

 酒肴のリーダーは、必ずこの二つ名になるらしい」


「どうして?」


「酒肴のリーダーは、代々この二つ名を受け継いでいくと聞いた」


「へー」


バルタスさんと視線が合うと深く頷いて

クロージャの言葉を肯定した。


「あの二つ名は、わしの誇りであり責任でもあるな」


代々受け継がれていく、チームと二つ名。

受け取るには、それ相応の覚悟がいるんじゃないだろうか。


「邂逅の調べのサフィールさんは、【宵闇の道連れ】」


「どういう意味?」


「多分、サフィールさんと契約している精霊と

 共にある人、共に歩む人っていう意味だと思う」


クロージャが、自信なさげに答えているが

サフィールさんは「正解なわけ」と首を縦に振っていた。


「サフィちゃんには、もう1つ有名なのがあるのよ」


「そうなんですか?」


「うん。【夜姫の騎士】とも呼ばれることがあるわね」


「その呼ばれ方は好きじゃないわけ」


サフィールさんが、不機嫌そうにその2つ名を否定し

「フィーも【宵闇の道連れ】のほうが好きなの」と告げた。


「サフィは、私の相棒なのなの。

 従者ではないのなの~」


「そうなわけ」


「確かに。僕も、クッカと対等でいたいんだけどなぁ」


「それは諦めたほうがいいのなのなの~。

 お姉さまは、セツナを主として決めてしまったのなの」


「……」


「それだけ、セツナの魔力に心酔してしまったのなのなの」


「諦めるよ……」


「それがいいのなのなの~」


フィーが楽しそうに、僕からサフィールさんに視線を向け

本当に幸せそうな表情をサフィールさんへと見せた。


クッカも本当は、サフィールさんとフィーのような関係を

僕に望んでいるのかもしれないと思う事がある。

僕がクッカを、サフィールさんのように

受け入れることができていたら。僕とクッカの関係は

また別のものになっていたかもしれない……。



「なるほど。クロージャ達は物知りだね」


「兄貴達が、色々と教えてくれるからな。

 それに、リシアは冒険者の国だからいろんな噂が耳に入る」


「そっか。俺もいつか二つ名を持てるかな」


「アルトなら、持てるだろうな!」


「頑張らないと!」


アルトの目標がまた一つ増えたようだ。


「でも、俺より師匠のほうが先かもしれない!」


アルトが、キラキラと目を輝かせている。


「あー。師匠の二つ名!

 何になるのかな! すごく楽しみなんだけど!」


全然楽しみじゃないし

そんなものいらない。


アルトの言葉に、皆が僕を見てニヤリと笑っている。

その視線を無視して、紅茶を口の中に含んだ瞬間


「私は、白馬の王子様がいいと思うな~」


エミリアが、ありえない事を言いだし

それに続いて、ジャネットがさらに信じがたい言葉を口にした。


「えー。白バラの貴公子様のほうがいいよ」


「ゴボッ」


紅茶が……気管に入って息が一瞬詰まる。

ゴボゴボと咳き込んでいる僕にサーラさんが慌てて

背中をさすってくれている。


「そんな、軟弱そうな二つ名は師匠にはあわない!」


アルトがそう叫んでいるが、僕はそれどころではない。


「セツナ君大丈夫?」


「だ、だいじょうぶです」


はぁ……。疲れた……。


「えー。師匠にピッタリだと思うけどー」


全然。全くピッタリではない。

リオウさんが、僕を見て楽しそうに笑い口を開いた。


「私もピッタリだと思うけど。

 王子様とか貴公子とか……騎士とか!」


リオウさんに同意するように、酒肴の女性達が

頷き始めるけど、僕に恨みでもあるんですか?


「リオウさん。もし、将来僕に二つ名がついたとして

 王子様とか貴公子とかそういった類のものになれば

 僕は冒険者を引退して、二度とギルドに顔を出すことはないと

 思ってくださいね。契約もすべて打ち切らせてもらいます」


僕の言葉に、大先生と話を終えお茶を飲んでいた

オウカさんがお茶をのどに詰まらせる。


「え、え、え。私達が決めるわけじゃないし

 そんなの、わからないわよ!?」


「そこを何とかするのがギルドでしょう?」


「無理よ!」


「頑張ってください」


王子様とか、貴公子とか冗談じゃない。

リオウさんが、必死に何かを話しているが耳には入れない。

アルト達は、ジャネット達と意見が分かれているようだ。


まだ、アルト達の方の意見のほうが僕にとってはマシだといえる。

二つ名とか本当に要らないのだけど。


「俺は、師匠最強がいいと思う」


「アルト、それそのまんまじゃね?」


「えー。最強は外せないと思うんだ」


「なら、最強の勇者とかいいと思うぜ」


セイルに突っ込まれ、ワイアットが笑いながら

自分の考えを言葉にするが、その言葉に心臓が一度大きく鼓動する。


『セツナ』


セリアさんが心配そうに僕の傍に降りてくる。


『大丈夫です』


『……』


「ワイアット。勇者は駄目よ。

 勇者の称号は、ガーディルの勇者にしか使えない決まりがあるわ」


「あーそうなんだ。

 ガーディルの勇者って【勇者アシェリー】だっけ?」


「そうそう。勇者は駄目だけど、英雄ならいいと思う」


「英雄! 最強の英雄がいい!」


ミッシェルの言葉に、どうしても最強を入れたいアルトが

そう答えるのを、皆が笑ってみていた。

僕はその光景をどこか遠くに見ている。


アシェリー……。

瞳を輝かせながら、人魚姫の話を聞いていた

ガーディル69番目の勇者。


『風になって、この世界を彷徨うより……。

 僕は、泡となって……この世界から消えたいと願うな』


彼女の声が頭の中に響く。

その心はきっと僕と同じものを抱いている。


『お守り! 君の……セツナの旅が順調に進むように』


トゥーリ以外に、初めて心動かされた。

傍に居て心地いい空気を持っていた彼女。


『あの、あのさ、君の指輪を貰ってもいい?』


僕が一番会いたくなかった女性。

なのに、どこか心惹かれていた。


彼女と過ごした時間は、本当に楽しかったんだ……。


「セツナ。お家に帰りましょう」


隣りにいたセリアさんが、姿を見せ僕にそう声をかける。

セリアさんの姿を見つけた、アルト達がこちらを向いたことで

アルト達の会話が途切れ、サーラさんが結界を消す。


「そろそろ寝ないと駄目だワ」


心配そうに僕を見て、セリアさんがそう告げる。

黒達の視線が、僕を探るように見るけれど僕は首を横に振って

大丈夫だと声を出す。アルトが傍に来て心配そうに僕を見上げた。


「師匠、大丈夫?」


「大丈夫。でも、僕は家に戻るよ」


「俺も帰る」


「一緒に帰ろうか」


「うん」


アルトが僕と帰ることを決め

後ろを振り向き、セイル達に帰ることを告げる前に

彼等が真剣な顔をして、僕とアルトの傍に来る。


「あの!」


緊張した面持ちで、クロージャが代表で口を開いた。


「あの……。俺達、冒険者になると決めました。

 それで、いつか俺達はアルトと一緒に旅をしたい!

 だから、俺達が冒険者になったら暁の風に入れてください!」


クロージャ達が真直ぐ僕を見て、その覚悟を示す。

アルトは何も言わずに黙って彼等を見守っていた。


「この段階で決めることはできないかな」


僕の言葉に、クロージャ達の瞳が翳る。


「君達の本気を疑っているわけではなく

 君達が僕を認めることができるのか……」


「え?」


「チームは、命を預け支えあう存在だというのは

 アルトから聞いたでしょう?」


「はい」


「君達は、ビートやエリオさん達は認めているけれど

 僕を認めてはいないでしょう?」


「そんなことは!」


「アルトの師匠として。

 ミッシェルやリッツを助けた医師として認めてくれているだろうけど

 冒険者としては、認めていない」


それぞれが、目を見張り僕を凝視する。


「それが悪いといっているわけではないよ。

 君達の前で戦闘をした事もないし

 僕の噂を耳に入れているだろうしね……」


噂というところで

視線を彷徨わせるのを見たアルトの目つきが鋭くなっている。


「冒険者にとって、チームを決めるというのは

 本当に大切なことだと僕は思うんだ。

 切っ掛けは何でもいいと思うよ。黒のチームに入りたい。

 友人と同じチームに入りたい。アルトと旅をしたいでもね」


「……」


「だけど、僕のチームに入りたいというのであれば

 それだけの理由では、入れることはしない」


「どうしてですか?」


「チームは仲よしグループではないから。

 自分の命を左右する場所を、アルトの情報だけを鵜呑みにして

 決めてもいいの?」


「俺達はアルトを信じてる!」


セイルが、睨むように僕を見てはっきりと宣言するが

それは理由にはならない。


「自分の人生を

 アルトに任せないでくれるかな?」


「え?」


「誰かを信じるのは大切なことだと思う。

 だけど、自分の人生に関わることは最初から最後まで

 自分で責任を持ってくれるかな?」


「どういう意味ですか?」


黙り込んだセイルに変わって

クロージャが口を開く。


「冒険者になると決めたのは自分自身で

 アルトに言われたからではありません」


「俺達は、自分で暁の風に入りたいと決めた!」


クロージャに続き、ワイアットも自分の考えを口にする。


「なら、君達に質問するよ」


3人が勢い良く頷く。


「僕達がどこを拠点に動いているのか知っている?」


「……」


「一度国を離れれば、数年帰れないかもしれない事は?」


「……」


「暁の風は、結成してまだ数カ月にしかならない。

 メンバーは、僕とアルトだけ。そんなチームに入って

 君達は何をするのかな?」


「何を?」


「チームには色々と特徴がある。

 仲のいい友人達とチームを組んで成長していくチームもあれば

 黒のチームのように、同じ目的や目標を持っている人達が集まって

 腕を磨いたり。知識を追求するチームもあるし

 お金を稼ぐために、効率がいいからと集まっているチームもある」


「……」


「自分達で、チームを決めたというのならば

 暁の風が、どういったチームなのかを理解しているんだよね?」


「知りません……」


「俺も知らない」


「俺も」


「まだ何もない。

 それが暁の風だよ」


「え?」


「方針も目的も何もないチームに

 今から入ると決めていいのかな?

 将来自分達が、目指したいものができた時。

 今日のこの約束が、自分が望まない場所へと運んでいく可能性もある」


「だけど……」


まだ12歳。これからどんどん視野が広がっていく。

色々な人と出会い、心揺さぶられるような存在に出会うかもしれない。

もしかしたら、違う道を見つけるかもしれない。

何か目的を見つけて、違うチームに入りたくなるかもしれない。


その時に、ここで交わした約束に縛られることになるのは

その事で、悩み傷つく事になるのは

セイル達にとっても、アルトにとっても良い事ではないと感じた。


特に、アルトを目的とした計画の立て方はとても危うい。

アルトが別の道に進んだとき

彼等の人生計画が破綻することになりかねないから。


今、自分達の未来の片鱗を見つけて舞い上がっている状態で

未来を確定してしまうような選択は潰すべきだと思った。


彼等のためにも。

アルトのためにも。


アギトさんとサフィールさんが僕を見て

声を出さずに、そこまで気にしてやる必要はないと言い

エレノアさんは、そんな2人を無言で睨んでいた。


自己責任、甘やかすなといったところだろうか。

とりあえず、アギトさん達は見なかったことにして

話を続ける。


「それに、アルトが冒険者をやめたとしても

 君達は、暁の風に入るのかな?」


僕のこの言葉に、セイル達だけではなく

アルトも僕を凝視する。


「師匠!」


「アルト。例えばだよ。

 冒険者より、心惹かれるものができたら

 悩むんでしょう?」


「悩む!」


アルトの返事に、クロージャ達の瞳が不安げに揺れる。

自分達の計画の前提が崩れるかもしれないという事に

気がついたのだろう。


「自分自身で、暁の風に入ると決めたのなら

 アルトが居なくても、チームに入るという事になるけれど

 そう、受け取ってもいいの?」


「……」


「その時、冒険者としての力量を認めていない

 僕と君達は旅ができるだろうか? 依頼を共にできるだろうか?

 僕に命を預けることができるかな?」


「わかりません」


クロージャがそう呟く。


「俺も……」


その後に、セイルとワイアットがクロージャに同意するように

声を出した。


「君達は、冒険者を職業として選ぶのだから。

 自分達が命を懸ける場所は、しっかりと自分で考えて決めないとね」


「……」


「君達は今12歳で、冒険者として登録できるのは

 最低でも16歳になる。これからの4年間、君達は暁の風に入って

 自分の命を守ることができるのか。僕に命を預けることができるのか。

 僕と旅をすることができるのかを考えてほしい。

 友人と同じチームに入りたいだとか。アルトが居るからではなく。

 人生を他人に任せるのではなく。自分で情報を集め精査し

 自分達が目指す何かを掴むことができるのか

 生きていく事ができる場所なのかを吟味してほしい」


「……」


「君達が冒険者になって、暁の風に入りたいというのであれば

 その時の君達の実力を見てから、加入を認めるか認めないかを決める。

 だから、今は返事をすることはできないと告げるよ」


どこか、途方に暮れた様な

彼等の表情に、少し罪悪感がわくけれど

彼等の大切な未来。沢山悩んで見つけ出してほしい。


「俺は。俺は、アルトと一緒に世界を見て回りたい。

 アルトの背中を任せてもらえるように強くなりたい。

 これは俺の目標で、譲ることができないものです」


「うん」


「だけど……。

 アルトが冒険者をやめたとしても

 俺は、冒険者になろうと思います」


クロージャが真直ぐに僕を見て

考えながら、言葉を落としていく。


「数年後の事は、俺には想像がつかないけれど。

 もし、アルトが暁の風にいなくて違うチームにいたら

 俺は、暁の風ではなくアルトの居るチームを望むと思います。

 アルトが冒険者でなくなっているのなら

 俺は……自分達のチームを作る道を選ぶと思います。

 それでも、そんな考えでも、セツナさんは許してくれますか?」


クロージャの僕の呼び方が、師匠からセツナさんに変わる。


「もちろん。君が選んだ道を僕は応援しているよ。

 君が冒険者になって、アルトが居ても居なくても

 暁の風に入りたいと願うのであれば、君の実力次第で加入を考えるし

 その逆もまたありえる」


アルトが暁の風を出ていくようなことがあれば

僕は、チームを解散しているだろうけど……。

多分。他の夢を見つけない限りアルトは暁の風を抜けることはないだろう。


現に今、アルトはものすごく不機嫌だ。


「俺達は、冒険者になれるように努力します。

 そして、何処のチームに入るのかはその時に考えようと思います」


クロージャの言葉に、セイルとワイアットも頷いて意思を示す。


「そのために、暁の風がどういったチームなのかも

 情報を集めていこうと思います」


「僕もそれがいいと思うよ」


「はい」


「僕達も頑張らないとね。アルト」


アルトに視線を向けると

アルトは、眉間にしわを寄せ返事をしなかった。


「どうして、怒っているのかな?」


「俺は、絶対に他のチームにはいかない!」


「知ってるよ」


「それに、師匠は最強だって言ってるのに!

 どうしてみんな信じようとしないんだ!」


アルトがじっと、クロージャ達を見るが

クロージャ達は、気まずそうに視線を避けた。


アルトの視線は、クロージャ達から周りへとうつる。

どうやら、同盟を組んでいるチームの人達にも

不満を溜めていたらしい。解決したと思ったんだけどなぁ。


「ギルドに行っても。

 師匠を馬鹿にしたような噂が多いし……。

 本当に頭にくる!!」


「僕の戦闘を、見た事のある人は少ないしね」


「だけど! 黒の腰ぎんちゃくとか!

 師匠は黒達より強いのに!!」


黒達の前ではっきりと、僕の方が強いと言い切った

アルトをクロージャ達は驚いたような表情を作り見た。


苛々とした感情のまま、アルトはずっと不満に思っていただろうことを

吐き出している。どうやら相当ストレスが溜まっていたようだ。


僕の為に、怒ってくれているアルトが可愛らしくて

思わず肩を揺らして笑ってしまったのを目ざとく見つけ

アルトの眉間の皺がますます深くなった。


「師匠!」


「ごめん」


「どうして、師匠が怒らないんだよ!」


「怒るほどでもないから?」


「普通は怒るでしょう!?」


今度はアルトの怒りが僕へと向いた。


「師匠が、むかつく奴らを

 のさばらせているから! 師匠が弱いなんて噂が広がるんだ!!」


「確かに」


「俺は一度、コテンパンにやっつけるべきだと思う……」


アルトの目が完全に据わっている。

ここ最近、あの2人の冒険者のせいで

僕の噂は一段と酷いものになっている。


アルトがそれを耳に入れる前に

解決策を提示しておかないと、アルトが切れかねない。


「わかったよ。一度コテンパンにやっつける」


「本当!?」


アルトが嬉しそうに、耳を動かし尻尾を振った。


「どうやって? どうやってやっつけるの?

 俺も手伝っていい? 俺も戦いたい。

 何時実行する? 今から? 今から行く?」


「……」


アルトの言動に、黒と黒のチームの人達が苦笑を落とした。


「今からは行かないし

 僕の実力を見せないと駄目でしょう?」


「そうだけどー。

 じゃぁ、何時するの? 俺も傍に居たい」


「アルトも大会を見に来ればいいでしょう?」


「大会?」


「あれ、アルト……。

 机の上に置いておいた手紙を読んでないの?」


「手紙って何?」


「アルトが寝ている間に依頼に行く事になった事と

 家の外に出ない事。サーラさん達と留守番していて欲しい事。

 それから、大会に参加することになったから観戦するかしないかを

 考えておいてって手紙に書いたんだけど……。読んでいないんだね」


「知らない!!

 ずっと勉強してないから!」


「そう……」


「帰ったら勉強しないと」


「そうだね」


ちょっと落ち込んだように耳を寝かせたけれど

すぐに、耳を動かし思い出したのか「大会!?」と叫んだ。


「師匠、武闘大会に出るの!?」


「出る」


「どうして? 出ないって言ってたのに!」


「白になろうと思ったから?」


「え? 師匠、白になるの」


「うん。全員をやっつけて白になるよ」


そう言って笑うと、アルトが目を丸めて

それから、本当に嬉しそうに笑った。


「じゃぁ! じゃぁ! エンブレムを背負えるようになる?」


「なるね。どんなエンブレムがいいか考えないと」


「考える!! 家に帰ったら考える!」


勉強するんじゃなかったの?


うきうきと尻尾を振る様子に

周りの反応が二つに割れている。

黒と黒のチームのメンバーは、呆れながらも微笑ましそうにアルトを見て

大先生やオリエさん。ミッシェルの両親やロガンさんそしてクロージャ達は

困惑したように僕とアルトを見ていた。


「なぁ。師匠が勝ってから考えたほうがいいんじゃないのか?」


セイルが僕を見てから

心配そうにアルトを見る。


「なんで?」


「だって、本当に勝てるかわからないだろう?」


「勝つにきまっているでしょう?」


「えー……。勝負はやってみなきゃわからないだろ?

 それに、今度の大会は1対1じゃない。

 大勢で一気に叩かれたら……」


「雑魚が何人集まっても師匠には絶対に勝てない」


「……」


真直ぐ揺るぎなく僕を強いと言い切るアルトに

セイル達もオリエさん達も絶句した。


「俺には、アギトさん達の方が強く見える」


「俺にもそう見えるかな」


セイルの言葉に、クロージャが同意しワイアットも頷いたのを見て

アルトの機嫌がやっと浮上しかけたのに、急落下していく様を見た。


セイル達は、僕が負けた時にアルトが落ち込まないように

心配してくれているんだけど、アルトにはそれがわからない。


アルトが口を開く前に、僕が口を挟む。

このまま言葉を交わしあっても、平行線にしかならない。


「セイル達も僕の試合を見に来ればいいよ」


「え? 俺達は冒険者じゃないから行けないと思う」


「冒険者を希望している人間は観戦できたと思うけど」


オウカさんに視線を向けると

オウカさんが頷く。


クロージャ達が視線で会話し

大先生とオリエさんへと視線を向ける。


「冒険者の戦いを見てくるといい」


大先生の言葉にクロージャ達が頷いた。

大会が見れると嬉しそうに笑みを浮かべた3人に静かに声をかける。


「ただ。覚悟だけはしてきてね」


「覚悟?」


「そう。残酷なものを見る覚悟」


黒達の笑みが消え、リオウさんもオウカさんも

じっと僕を見る。どこか緊張をはらんだこの部屋の空気を感じたのか

セイル達が喉を鳴らす。


「僕は大会参加者全員を叩き潰すから」


「え?」


「殺す一歩手前までは行くと思うから」


「……」


「沢山の血が流れるかもしれないし

 腕や足を落とすかもしれない。

 そういった状況を見る覚悟を決めてきてね」


「師匠?」


僕は、あの冒険者達が関わっている一部の情報を開示する。

現在進行形で、おこなわれている密談の様子を映し出す。


その情報は、アルトにとってとても辛いものも含まれている。


とち狂った奴隷商人よりも

質の悪い計画犯罪。リオウさんとオウカさんが

アルトを見て何かを会話し何処かへと連絡を入れていた。


顔色を青くして震えるアルトをサーラさんが抱きしめる。

クロージャも顔色を悪くして俯き、セイルとワイアットが

クロージャを慰めるように背中に手を当てていた。


僕が皆の目の前に映し出している光景は、数人の冒険者と

奴隷商人の密談だ。タイミングが良いのか悪いのかわからないけれど

ギルドも含めて、皆がいる状態で情報を告げられたのは良い事だろう。


冒険者から、奴隷商人を紹介されて

頭を下げている2人の冒険者。アルトを連れてくることができたら

金貨10枚という大金が支払われるようだ。


『黒のチームと獣人のガキのチームは同盟を組んでいるから

 近づくのは容易だ。それに、暁の風の男を脅せば簡単にガキを

 手放すだろうさ』


奴隷商人と冒険者が繋がり

その冒険者が獣人族と接触し懇意になり

奴隷商人の元へと誘導する。そんな会話がされている。


その中に、3番隊の名前はなかったけれど

彼等の友人の名前がはいっていたようで

シルキナさんが、部屋を出ていこうとするのを

クローディオさんが止めていた。


「シルキナ」


「ディオ!」


「ハルにいる間は大丈夫だ」


「でも!」


「大丈夫だ」


「……」


3番隊の様子を、バルタスさんが注意深く見守っている。


『俺達が黒のチームにはいったら

 お前達もいれてもらえるように、口をきいてやるからさ

 今回は俺達の手伝いをしてくれよ』


『本当に入れるのか?』


『入れる』


2人の冒険者は楽しそうに

あの日あったことを、ペラペラと話していく。

その内容に、アルトが悲しそうに僕を見ている。


そんなアルトに笑いかけると、アルトは数度瞬きをしてから

ホッと息をついた。


「その情報をこちらに渡してもらっても?」


「大会のあとでよければ」


「今、手を打ちたいと思うのだけど」


リオウさんが僕との交渉に入ろうとするが

僕はそれに応じない。


「僕の邪魔をする気ですか?」


「……」


「僕はどちらでも構いませんが

 大会という檻の中で、僕と戦わせた方が

 ギルドにとっても楽だと思いますけどね」


「それはどういう意味?」


「リオウ。諦めなさい」


オウカさんが、リオウさんにそう告げる。


「だけど」


オウカさんがリオウさんの耳元で何かを囁くと

リオウさんが、一瞬息を止めてから僕を凝視した。


原則、大会では殺しは認められていない。

簡単に言ってしまえば、アルトに手を出そうとしたのだから

大会の外で決着をつけさせるような事になると

どうなっても知りませんよと遠まわしに言っただけだ。


「大会は、各国から冒険者が集まりますから

 観戦に来る人も多いでしょう?

 二度と僕の弟子に手を出そうなんて気をおこさせないように

 記憶に刻み込んで、国に帰ってもらいましょう。

 その為の生贄に、自ら志願してくれた人達が沢山いますし

 楽しい大会になりそうです」


「……」


「……」


「僕が白のランクになり

 彼等が国で噂をばら撒いてくれれば

 僕に絡んでくる人達も減ると思いますしね」


視線を、クロージャ達に戻すと

3人が一歩その場から後ろへと下がる。


「大会まではまだ時間があるから

 ゆっくり考えて決めるといい」


「は、い」


緊張した面持ちで3人が首を縦に振った。


「アルトはどうする?

 当日、嫌な思いをするかもしれないけれど」


「行く。師匠は俺の為に戦ってくれるんでしょう?」


「自分のためだよ」


「……嘘……だ」


「本当だよ。大切な弟子を守るために戦う」


「うん」


僕の言葉にアルトが嬉しそうに笑って頷き

そんなアルトを、クロージャ達が黙って見つめる。


「それから、シルキナさん。

 ハルにいる獣人族の人達に知らせるのは待ってもらっていいですか?」


「どうして!」


「今ここで知られると

 彼等が逃げてしまう可能性がある」


「だったら、今捕まえればいいでしょう?」


「そうすると、奴隷商人が組織ぐるみで計画している事なのか

 この奴隷商人が、個人で計画したことなのかがわからなくなります」


「どういう意味?」


「僕が、サガーナの奴隷商人の逃走経路を潰したことは

 ご存知ですよね?」


「ええ」


「私は知らないわよ!?」


リオウさんが、思わずといった感じで声をあげる。


「話していませんから」


「……」


「奴隷商人の手口も

 ほぼ曝して長達へとその情報を渡しました」


「それも知っているわ」


「その事から、奴隷商人がサガーナに入り込むのが

 困難になっていると思います」


それだけではなく、蒼露様が悪意のある人間を

いれないように守っているからだけど。それは言えない。


「だから、外にいる獣人族に的を絞り始めている?」


クローディオさんが低い声でそう告げる。


「多分。その可能性はあるかと」


「なら余計に知らせないと!」


「シルキナ。ハルにいる間は大丈夫だ」


「だけど」


「今は、奴隷商人の背後を調べるべきだろ?」


「……」


クローディオさんがシルキナさんを説得し

シルキナさんが、渋々ではあるけれど頷いた。


鞄から封筒を取り出し魔道具を入れ

シルキナさんへと渡す。


「これは?」


「今、シルキナさん達が見たものと

 全く同じものを映し出す魔道具を入れています」


「これをどうするの?」


「シルキナさん達から、長へと送ってもらえますか?

 僕だけの情報だと、長達も判断に困ることがあるかもしれません。

 ギルドも同じものを見たと報告して頂けたら信憑性が増すでしょう?」


「わかったわ。

 絶対に、長に送るから」


「よろしくお願いします」


「ええ。任せておいて」


シルキナさんに一度頷き

リオウさんとオウカさんへと視線を向ける。


「僕は大会で、この情報を大会参加者及び観戦者に

 ばら撒きます」


「ばら撒いてどうするの?」


「ギルドの規約に、冒険者が冒険者を陥れ

 その尊厳を踏みにじる行為に対し

 ギルドは、その冒険者と冒険者のチーム全員の冒険者資格を剥奪し

 ギルドの利用及びリシアへの立ち入りを禁じる、というのがありますよね」


「あるわね」


「それに適用されるでしょう?」


「確かに。奴隷制を肯定している国の冒険者に

 ギルドの規則を刻み込むのが目的ね。

 ガーディルの国の冒険者などは

 獣人族の冒険者を認めていないから知らないって人も多いわね」


「そうです。

 奴隷制を肯定している国に対して干渉はできませんが

 冒険者が冒険者を陥れる行為についての規則は適用されます」


「いい案だと思うけど。

 冒険者以外の人は守れないわよ」


「その辺りは、サガーナが何かしら対策を講じるでしょう」


「それもそうね」


「後ほど、奴隷商人と冒険者の密談についての会議を開く。

 リオウ。その準備を頼みます」


「承りました」


ヤトさんの言葉にリオウさんが頷き。

リオウさんが何かを思い出したように、セイル達に声をかける。


「冒険者が、チームに自分を売り込むのは規則違反なの。

 冒険者になって、入りたいチームができたら

 ギルドに依頼して、ギルドマスターがそのチームとの間を

 取り持つことになっているの。チームから勧誘されたら必要ないけれど。

 今回は、貴方達は冒険者ではないし規則も知らなかったから見逃すけれど

 次はないからね。しっかり覚えていて頂戴」


リオウさんが、ギルドの規則を子供達に教え

彼等はしっかりと頷いて返したのだった。



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