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 朝、八時に目覚まし時計の鳴る音で起きた。三個かけているので順番に止めていく。

 起きる三十分前に暖房がつくように設定しているので、寒い冬でも起きるのは辛くない。

 一気に立ち上がったものの、寝起きはさすがにふら付いた。

おっと。

 少しよろつく。

 朝飯の準備をする。食パンにマヨネーズを塗りオーブンで焼く。

 焼いてる間に、ポストに入っている新聞を取りに行く。それからコーヒーを入れ、冷蔵庫からヨーグルトを出す。

 少ししたら焼きあがった音がした。新聞を広げ、焼けたパンをそのままかじる。皿はいらない。熱くても手で十分だ。マヨネーズがこんがり焼けていい匂い、そしてウマイ。

 新聞を読むのは僕の朝の日課だ。オジサン臭いといわれるかもだけれど、というかお爺さんだけど、仕事でお客さんとの会話に多少は役立つ。

 政治や毎日の事故事件の動きを見るくらいだけど、見ないよりはマシだ。世間を知らないと何だか置いていかれた気持ちになる。

 九時から仕事なので八時四十分に出れば仕事には間に合う。四十分で飯を食って着替える。そして自転車で出勤。

 僕の住む中山手から三宮の職場の花屋まで、自転車で十分もかからない。

 昼飯の準備をし、と言ってもデカイおにぎりを作るだけだけどリュックに掘り込み、 両親たちの小さな仏壇に手を合わせ外に出る。

 寒いっ。早く夏になってくれ。

 毎回、冬になると思っていることだ。僕は冬が苦手だ。

 一年中、夏でいいのに。何回思ってきたことか。

 自転車置き場に行き、赤い自転車を目指す。

 鍵を外して乗り、しっかりマフラーを巻いてから漕ぐ足に力を込めた。       行きは坂道なので楽だ。

 途中、顔なじみのおばさんに会うと軽く挨拶をする。

 冷たい風で顔が痛い。

 いつもの裏口に自転車を止めて中へ入る。

 リュックを置いてすぐにポットの湯を沸かす。カフェオレを淹れて冷えた体を温める。仕事始めるまえの儀式みたいなモノだ。

 コレを飲むと今から頑張るぞって気になる。

 さあ、仕事するか。

 エプロンをつけて十時の開店準備を始める。

 まずは静まり返った店内に音楽を流す。

 最初に流れるのは、六十年代を代表するロックバンドのもの。誰もが一度は彼らの曲を耳にしたことはあると思う。七〇年には解散、八〇年には元メンバーの一人が射殺されるという悲劇が起こった。何年たっても彼らの曲は語り継がれ、崇められる。

 今日の来店客の伝票チェックをしてから、昨日閉店時に中へ入れられた植物を店頭に並べ出す。

 花、資材の補充。店頭に並べるミニブーケの製作。

「あ、かわいい、欲しい」という気持ちをくすぐる衝動買いを狙う作戦だ。

「おはよーさん」

「あ、おはよーございます。」

 オーナーの登場だ。

「今日も寒いなー。」

「寒いですねー。でもそれだけ着こんでたらオーナーは大丈夫でしょー。」

 ダウンジャッケトにガッツリ包まれたオーナーは店の奥へと入っていく。

 オーナーは僕がジュンネンと知っている。

 高校生の時からバイトで世話になり、卒業後そのまま働かないかと声をかけてもらい世話になっている。

 オーナーが言うには、

「年を取らんのやったら、疲れ知らずでいいやないかー。ずっとバリバリ働けるで。俺なんかすぐに腰痛―なるわ。店潰れん限り頑張ってや。」

とのことだ。

 ま、ありがたい。

 この日もいつもと変わらず、遅出で十一時出勤の清水さんと、オーナーの奥さん、香里さんも加わり営業した。

 誕生日プレゼントに、お見舞い用にと花束やアレンジメントの製作をこなしていく。

花の注文に電話予約をしてもらえると時間に余裕がもらえてありがたいけれど、今来て今すぐというお客さんもいるので、そういう人がくると参る。手品ではないのだから、言われてすぐに出せるものではない。

 腹の立つことも何度もあるけれど、何事も忍耐だ。どこの会社でもそうだろう。

 その分、喜んでもらえるとこちらもうれしくまたやりがいが出る。

 僕は手が空いたので、まだやれてない植物の水遣りをした。

 外のアイビーの苗に水をやっている時に、チラチラと目の端に映るのが気になりそちらを見ると、手を振りながら近づいてくる哲ちゃんだった。

「よー。」

「おー。」

 僕は水遣りをやめて、哲ちゃんに手を上げた。

 哲ちゃんと会うのは森井の葬式以来、一週間ぶりだ。

 葬式の三日後、哲ちゃんからこの花屋の場所を教えてくれとメールがきた。

 教えるとまた近々店に寄ると返事がきた。

 それが今日か。

「手ぇ振っとるのに気付かんのぉ。」

「こっち見とるのに気付くかい。」

 僕は水を遣っていたアイビーを指さしながら言った。

ん?

「こんにちは。」

 哲ちゃんは一人じゃなかった。

僕の目は、哲ちゃんの隣の着物姿の老婦人に移った。

 哲ちゃんと同年代くらいの、ふんわりした笑顔の感じの良さそうな人だ。

「こんにちは・・・哲ちゃん、こちらのご夫人はー?」

 僕はちょっとかしこまって聞いた。

「はは、わしのカ・ノ・ジョ。二三ちゃんじゃー。」

「は?」

 彼女ー? フミちゃん?

「二三子と言います。」

 二三子さんはペコリと頭を下げる。

「ども、奥井佑人です。」

 僕も倣って下げる。

 この年になって彼女・・・へー。

 哲ちゃんは二三子さんと肩を並べてニコニコしている。

 まー、哲ちゃんは奥さんを亡くしたと言っていたから彼女ありでも問題はないんだけど。

「この前会うた時は言うてへんかってんけどなー、一年前くらいからのー。」

 恥ずかしそうに頭を掻きながら、二三子さんと顔を見合わせてニコニコしながら言う。

「今から須磨離宮公園に行くんやけど、ちょっと寄ってみよー思てな。フミちゃんにも お前紹介したかったしよ。」

「そーなん、デートかー。今日は晴れとるからポカポカであんまり寒―ないしええやん。」

「そやろ。」

 哲ちゃんはずっと楽しそうな顔をしている。

「まー、またゆっくり話そうや。ほなフミちゃん、行こか。」

 二三子さんはニッコリ笑って「そうですね」と頷いた。

「奥井さん、ほなまた寄らしてもらいます。」

「また来るさかい。」

「うん、また来てな。ほな気ぃつけて。」

 僕は二人に手を振り店に入った。

 ジョウロに水を入れ外にまた出たとき、駅に向かってゆっくり歩いていく二人の後姿がまだ見えた。

 晴れた天気に輪をかけて、羨ましく思えた。

いいなー、あんな風に側にいてくれて共に歩いていける人がいるって。

 僕の様なジュンネンには叶わない事だ。


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